大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:107『25トン対5000トン・4・捨て身のポチ』

2023-05-24 06:17:02 | 時かける少女

RE・

107『25トン対5000トン・4・捨て身のポチ』テル 

 

 

 ペリスコープを覗く!

 

 二十倍の倍率なので敵艦の全容はスコープ収まり切れないが、主砲の砲口が確認できるほどではない。

 ググググ……奥歯を噛みしめて倍率を上げる。

 ペリスコープの倍率では無くて、わたしの目の倍率だ。

 わたしの属性は剣士だが四号の砲手をやっているうちに目の倍率をあげられるようになった。

 もう少し攻撃目標の座標を正確につかみたいと思っているうちに付いたアビリティーだ。戦闘後にインタフェイスを開くとMPのゲージが減っているので、剣士に似合わぬ魔法の力が付いたようなのだ。

 ただ、めちゃくちゃ疲れるので、並の戦闘では使わない。

 

 ギギギギギ……奥歯が折れるんじゃないかと思った時にピントが合った。

 敵巡洋艦の二番砲塔、右の砲口で――ここを狙え!――ポチが叫んでいる。むろん声が聞こえるわけではないが、目いっぱい開けた口の形で読み取れる。

「どうする、ヒルデ?」

「テル、照準はできたか」

「1200パーセントだ」

「やめてよ……ポチが死んじゃう」

「敵の主砲は、この貨物デッキに指向しているぞ」

「テーーー!!」

 脊髄反射でトリガーを引く、衝撃! 

 ドン!

「ポチイイイイイイ!((⊙▃⊙))」

 ロキが悲鳴を上げる。

 弾着まで二秒、砲手の脳内で0.1秒刻みでカウントされる。0・18秒のところでポチが砲口を飛び出す! 砲口の直前で四号の徹甲弾とポチが交差した!

 

 ドドドドドッガーーーーーーーーーンンンン!!!

 

 今まさに発射されようとしていた敵の砲弾とこちらの徹甲弾が砲身の中で激突し瞬時に大爆発した!

 砲身は爆竹を仕込まれた竹輪のように爆砕され、爆圧は尾栓を吹き飛ばし揚弾されていた主砲弾を炸裂させ、揚弾機を通じて火薬庫に駆け下り、三百発以上の主砲弾を一気に誘爆させた。そればかりか、隣接する一番砲塔を百メートルの高さに吹き飛ばして、艦体を前から1/3のところで断裂させた!

 艦首部分は瞬時に沈没、後ろ2/3は艦首と二基の主砲が無くなって、いったん艦底が海面に露出するほど持ち上がった後、右舷を下にして横倒しになった。数秒後煙突から流入した海水が二基の缶に流入、水蒸気爆発を起こさせた。

 ドッゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

 シュネーヴィットヘンの全乗員が息をのんだ。

 今の今まで、撃沈される側と観念していたところ、逆に敵艦が大爆発を起こして沈んでいった。

 しばらくは言葉も出なかった。

 

 ポ、ポチ……。

 

 ポチの名を呟いただけで、ロキは言葉も発せられなかった。

 常人であるロキには、ポチが敵艦といっしょに沈んでしまったとしか思えなかったのだ。

 

「やれやれ、またお裁縫だな……」

 

 爆風で着ているものを全部吹き飛ばされた姿でポチは戻ってきた。

「み、見るなあ! 寄るなあ!」

 差し伸べたロキの手をパチンと叩き、通信機の上のベッドにもぐりこんでしまった。

 安堵と達成感で、ロキには悪いが明るい笑い声が車内に満ちた。

 
 めでたしめでたしではあるのだが……シュネーヴィットヘンの損傷もひどく、このままでは目的地グラズヘイムまではもたなくなってしまった……。

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:150 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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RE・かの世界この世界:106『25トン対5000トン・3・ポチの決断』

2023-05-23 06:20:22 | 時かける少女

 RE・

106『25トン対5000トン・3・ポチの決断』ブリュンヒルデ 

 

 

 わた……が……って!

 
 小さいけれど凛とした声が車内に響いた。

「なんか言ったか、ポチ?」

 飼い主のロキでも砲撃音で意味までは分からない。

「んっもーーー!」

 ロキの耳の中に首を突っ込むようにしてポチが怒鳴る。ロキの耳たぶからお尻を出してプリプリ振るのが可愛い……が、邪魔だ!

「次発装填急げえ!」

「ラジャー!」

 ガキコーン!

 キャ!

 ロキが尾栓を閉じた勢いでポチは振りとばされ、砲塔の壁にぶち当たってわたしのレシーバーに絡まった。

「テーーー!」

 ドッゴーーン!

 75ミリ徹甲弾発射の衝撃! 

「ムグ!」

 ポチはヘッドセットのマイクとわたしの口の間に挟まってしまう。

「わたしが飛んでくから、わたしに照準してええ!!」

 みんなのヘッドセットにポチのボリュームアップした声が鳴り響く!

「や、やめい! 耳がキーーーンとする!」

「わたしが敵の弱点に張り付くから、狙って!」

 ポチはシリンダーの変異体で、どういうわけか小さな妖精のような姿をしている。攻撃力はしれているがポインターの能力があって人の注意力や向かってくるものを引き付ける力がある。これは、構って欲しい気持ちが増幅されたようなのだが、要は我がままな気持ちの発露なので日ごろは禁止させている。

「当たったら死ぬぞ」

「直前に逃げるもん!」

「ポ、ポチ……」

「ロキ、泣いてないで次発装填急げ!」

「ラ、ラジャー」

 ガキコーン!

「テーーー!」

 ドッゴーーン!

 発射の衝撃が収まるとポチの姿は無かった。

 ドッガーーーーン!! ドッガーーーーン!! ドッガーーーーン!!

 立て続けに三発喰らって、船も四号も大揺れに揺れる。

 目に見えて船足が落ちてきた。

 敵船との距離は4000を切ろうとしている。次を食らったら持たないだろう。

「敵船上にポチの反応!」

 ロキが震える声で告げる。

「敵船のどこだ!?」

 ロキが神経を集中させるが、動転していて正確に把握できない。

「敵艦主砲の砲口……」

 砲手のテルにも分かったようだ。

「当たれば、大打撃を与えられる……」

「ダメ! ポチも死んでしまう!」

 
―― わたしを信じて撃って! ――

 
 ポチの想念が、わたしの頭にも響いた。

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:100 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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くノ一その一今のうち・56『付き人長瀬映子と松花堂弁当と……』

2023-05-22 12:53:38 | 小説3

くノ一その一今のうち

56『付き人長瀬映子と松花堂弁当と……』 

 

 

 八畳ほどの控室は品のいい鶯色を基調とした洋室で、区別できるほどの知識は無いんだけど調度類はアールデコとかアールヌーボーとかの感じで、仏蘭西の、それこそ漢字で書きたくなる巴里の高級アパルトメント。

「外国の俳優に来てもらうことも考えていますから」

 鍵を手渡してくれながら、杵間所長は言っていた。

 わたしも、事務所の道具帳や嫁持ちさんたちがネットでチェックしてるのを横目で見る程度の勉強なんだけど、作り込みに夢と志の高さを感じて敬服する。

 細い猫脚のソファーに腰を下ろすと、優しくドアがノックされる。

「はい、どうぞ」

『失礼します』

 きちんと断わりを入れて入ってきたのは……驚いた、さっきの募集ポスターの女の子。

「長瀬映子さん?」

「はい、ありがとうございます。さっそく名前を憶えていただいて(^▽^)」

「実在の人物だったのね!」

「あ、いえ、そのいちさんのお目に留まりましたので実体化することができました。所長から付き人を言いつかりました」

「え?」

「まだ、ほんの駆け出しというのもおこがましい身ですが、よろしくお引き回しくださいませ」

「いえ、そんな。わたしもリアルじゃ、鈴木まあやの付き人だし(^_^;)」

「まあやさま……?」

「令和じゃ、人気女優なのよ、わたしの主筋のお姫さまでもあるんだけどね」

「はい、情報は登録されています。いつか、こちらでも女優をしていただけたら嬉しいです」

「そうね、その時は付き人にまわらせてもらうわ」

「あ、それはご勘弁ください。そのいちさんが付き人になられたら、わたし失業ですから」

「あ、そうね、ごめんなさい」

「撮影所の案内を仰せつかりました。よろしければ、今からでも……」

「そうね、お願いするわ」

「はい、承りました!」

 

 で、ビックリした!

 

 なんと映子さんは閉じたままのドアの隙間から出ていった。

「え、映子さん( ゚Д゚)!?」

「え、あ、ああ……実体化が不十分なんで、体に厚みが無いようです(^0^;)」

 たしかに、彼女の横に回ると体が薄くなり、真横に立つと完全に奥行きがなくなって見えなくなってしまう。

 改めてドアを開けてくれる。

「それではご案内いたします」

 採用されたばかりだというのに、映子さんは、撮影所のことはノラネコの通り道まで知っていて、一時間余り楽しく案内してもらった。

 撮影所のあれこれは、これからの展開で触れることになると思うんだけど、一つだけ言っておくわ。

 撮影所のどこへ行っても所長の他に人は見えない。

 でも、ちゃんと気配はある。

 運ばれる途中の道具や配線途中の照明や音響のケーブルたち、塗りかけでペンキの匂いがきつい書割の背景、蓋の開いたドーランが置きっぱなしの化粧前、スタジオの外には長椅子がコの字に並んで、読みかけの台本や仕込帳、小道具なのか個人の持ち物か分からない煙管の載った煙草盆……そのどれもが、ちょっと席を外しました的に息づいている。

 それらの一つ一つに映子さんは楽しそうに説明を付け加えてくれて、その説明だけでも動画にアップすれば、すぐに数千件のアクセスは獲得できそう。

「あ、すみません、つい夢中で、わたしばっかり喋ってしまいました(^△^;)。ちょうど時分時です、お昼にしましょう!」

 

 食堂は、にの字の縦棒の上。本館の一階の西の端にある。

 

 観音開きのドアを入ると、学食ほどの広さの大食堂。

 八人掛け、四人掛け、二人掛けの他にも南側の窓に面したところには個食用のカウンターもあって、効率的な食事が出来るようになっている。

「奥の四人掛け、ちょうど空いてます」

 ちょうども何も食堂に居るのは、わたしたちだけなんだけど「ちょうど」ということでラッキーという気になる。映子さんが案内してくれたのは、西の大きな窓辺の四人掛け。食堂は一階なんだけど、土地に傾斜があって、塀の向こう側の景色がよく見える。

「杵間所長のこだわりなんです、ここから綺麗な夕陽が拝めるんですよ。茅渟(チヌ)の海って、古事記や日本書紀にも出ていて、日本でも有数の夕陽の名所で、もう少し南西に行ったところには夕陽丘って、ここよりスゴイ名所があるんです。あ、お昼は所長のお勧めで松花堂弁当なんですが、いいですか?」

「あ、うん。いつもロケ弁だから」

「ロケ弁じゃないんですよ、松花堂弁当というのは……ま、見てのお楽しみです♪」

 映子さんがイソイソと向かったのは厨房のカウンター。

 厨房は、これから忙しくなると見え、仕込みや調理の為に湯気が立ち込め、お昼前の活気に満ちている。

 湯気の中から重箱が二つ差し出され、映子さんが重ねてテーブルに持ってきてくれる。

「わあ、可愛いけど充実してる!」

 蓋を開けると、箱の中は十字に仕切られていて、ご飯で一つ、あとの三つが天ぷらと焼き魚をメインにしたおかずのブロックになっている。

「元々はお茶席で出されたもので、量も程よく中身も充実。撮影前は、これくらいがいいんだそうです。撮影後は、これに二つ三つ多い幕内もありますし、各種ランチや定食、麺類や一品ものとかが取り揃えてあるらしいですよ」

「では、いただきまーす」

 おいしくいただいて、お茶を淹れながら映子さんが、すこし畏まる。

「あのう……わたしの呼び方なんですが」

「あ、苗字の方が良かった?」

「あ、それはどちらでもいいんですけど、わたしは付き人ですから、呼び捨てにしてください」

「ええ、そんな」

「中には『先生』って自分のことを呼ばせている俳優さんもおられるんです。さん付けでは……ちょっと、申しわけないです」

 ああ、でも、まあやもわたしのことを呼び捨てにはしないし……っていうか、わたしこそ、まあやのことを呼び捨てにしてるし。

「あ、それじゃ、えいちゃんって呼ぶのはどうかな。映子だから『えいちゃん』」

「あ、はい、それならいいと思います」

 

 プルルル プルルル

 

 納得して、九分通り食べたところで電話の呼び出し音。

 いつの間にか、テーブルの上に黒電話が載っている。

「はい、風魔組、付き人の長瀬です……」

 間髪を置かずにえいちゃんが受話器を取る、受話器から漏れてくるのは男の人の声だ。

「はい、少々お待ちください……そのいちさん、ホームズさんです」

「え、ホームズ?」

「はい、ベイカー街のシャーロック・ホームズさんからです」

「え……?」

 戸惑いながらも、えいちゃんが両手で差し出す受話器を受け取る。

「はい、お電話替わりました、風魔です」

『すぐに事務所にきてくれたまえ』

「えと、撮影所のですか?」

『事務所と言えばベイカー街221Bに決まっているじゃないか。わたしは仕事で留守にする。詳細はテーブルの上に置いておくので、確認したらただちに現場に向かいたまえ(『ホームズ時間が……』の声がする、ワトソンだろうか)。あ、それからミス・エイコは優秀な助手だ、必ず同行させたまえ。それでは幸運を祈る』

「あ、もしもし……」

「参りましょう!」

 えいちゃんはマナジリを上げ、松花堂弁当の空き箱を重ねて返却口に向かう。わたしも、急いでお茶を飲んで席を立った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長

 

 

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:105『25トン対5000トン・2・海の上では魔法は衰える』

2023-05-22 07:12:59 | 時かける少女

RE・

105『25トン対5000トン・2・海の上では魔法は衰える』テル 

 

 

 ケイトが遅れた。

 

「届くと思ったんだもん!」

 プリプリしながら装填手のシートに着く。

「海の上では魔法は届かん」

「そうなの!?」

「水に吸われて威力も射程距離も落ちてしまうのだ」

 タングリスとヒルデが優しく説明してくれる。

 ケイトは、ブロンズアローを巡洋艦に射掛けたのだ。陸ならばケイトの弓には魔力が籠っていて、数キロ先の敵でも届く。威力は無いが、それでも運よく射撃管制機にでも当たれば手りゅう弾を投げたほどの効果はあっただろう。ケイトの矢は海面に水しぶきをあげることもなくロストした。

 もっとも、四号の徹甲弾でも巡洋艦の装甲はぶち抜けない。レーダーや射撃管制機を破壊して命中精度を落としてやるか、ブリッジの戦闘指揮所を破壊するくらいしか手が無い。

 敵も同様で、クリーチャーを使うわけにはいかない。シリンダーもプレパラートも潮風と海水の上では存在できない。敵もこちらもアナログな射撃戦をやるしか手が無いのだ。

「榴弾でいきましょう」

 タングリスが予想外の意見具申。

「機銃の装甲も貫けないぞ」

「見かけは派手ですから」

「ケイト、榴弾だ!」

「ラジャー!」

 弓の無念さを晴らすような勢いで榴弾を装填するケイト。

「距離7000 方位角60 時差を5シュトリヒとして……照準完了!」

「テーーー!」

 ズシンと振動があって、初弾が撃ち出された。

 距離7000と言えば、戦車の有効射程距離を大きく超えている。的が巨大な巡洋艦であるとはいえ命中は期しがたい……数発撃って命中弾が出ればいいと思っている。

 ピカ 

 敵艦の中央に閃光。

「敵艦の煙突基部に命中! 次弾装填急げ!」

「装填よし!」

「発射角を二度右に修正」

「修正よし!」

「テーーー!」

 ……ドーーン

 タングリスの射撃命令の二秒後に弾着音。

「今のは、初弾の弾着音だ」

 音声のズレた動画を見ているようだ、7000というのは、それほどに遠い。

 初弾で命中というのは運以外の何物でもないが、味方には励みになる。シュネーヴィットヘンの艦内から歓声が巻き起こった。

 二撃目で敵の艦載艇を破壊、木造艇なので良く燃える。

 なによりの効果は敵が狼狽えたことだ。

 非武装の輸送船が砲撃してくるとは思っていなかったのだ。敵艦は速度を落とし様子をうかがう。Mの字の谷に当たる貨物デッキから発砲しているので我が四号の位置を掴めないでいる。

 船長も心得ていて、射撃直後に船体を捻って貨物デッキを見えづらくしてくれ、之字運動と相まって巧みに射撃を躱していった。

 

 ……しかし優位に立てたのは、ほんの五分ほどだ。

 

 船足が倍ほどに違う敵艦は距離五千まで詰めてきて、左舷の船腹を中心に命中弾が出始めた。

「徹甲弾に切り替え、ブリッジを狙え!」

 我ながら的確な指示を出し、我が方の射撃制度はいやましに高まったが、いかんせん75ミリの威力は知れている。

 
 ドッガーーーーン!!

 
 貨物デッキに命中弾を食らって25トンの四号が一瞬宙に浮いた。

 敵弾は150ミリだ、超重戦車マウスの主砲と同じで当たればひとたまりもない……。

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:100 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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せやさかい・410『詩ちゃんからのメール』

2023-05-21 20:05:46 | ノベル

・410

『詩ちゃんからのメール』さくら   

 

 

 詩(ことは)ちゃんが怪我をして三週間、おばちゃんがヤマセンブルグに飛んで二週間。

 

 うちも留美ちゃんもヤキモキしてる。してるねんけど、おいそれとは行かれへん。

 往復で4日はかかるし、お金はもっとかかるし。テイ兄ちゃんは「飛行機代くらい出したるで」と言うてくれるんやけど、やっぱり、以前ほど簡単にはいかれへん。

 今までは、頼子さんの付き添い的な名目でアゴアシは向こう持ちやったけど、頼子さんが正式に向こうに行ってしもてからは、そういう裏技も使いにくい。ちょうど中間テストの時期でもあったしね。

 まあ、阿弥陀さんにお願いしといたら、どこかでええ目も出てくるやろ。

 

 ヤキモキしてたら、詩ちゃんからメール。

 

――やっと、メールを打てるようになったよ。動かないのは腰から下だけなんだけど、上半身もあまり動かさないようにってドクターから言われてたしね。PS5でゲームとか動画を見るのは一回一時間の許可が出てるんだけど、メールは気持ちが入るというか、血圧とかに影響もあるので許可が出なかった。「やってしまった(^_^;)!」という気持ちはあるんだけど、それほど悲観もしてません。お母さんが、いろいろ世話をしてくれて、ちょっと子供時代に戻ったみたい。また連絡するね。KOTOHA――

 最初はいっぱい書こうと思って、でも、しんどなってやめたいう感じのメール。

――一日も早い回復を祈ってます(^▽^)、行けるようになったら飛んで行くよ!――

 半端な返事を打って、留美ちゃんとのツーショット(間にブタネコダミア)を付けて送った。

 めちゃ短いメールやねんけど、打っては消して、消しては打ってで一時間もかかってしもた。

 

 ニュースで、ゼレンスキー大統領が広島にやってきたニュースをやってた。

 

 ゼレンスキーはうちなんかよりも、ずっと国を離れにくいに違いない。

 せやけど、はるばる日本まで飛んできた。

 服装は、いつもの、オッサンがちょっとコンビニに買い物行くようなかっこ。

 ゼレンスキー……微妙に長いからゼレスケ。

 え、ちょっと失礼? なんて呼んだらええ?

「……ゼレさん……かな?」

 留美ちゃんがコタツの向こうで言うので、ゼレさんに決定。

 ゼレさんはエライ!

「あ、市長選挙始まるんだ」

 留美ちゃんがスマホを触る手ぇを停める。

「選挙か……」

 もひとつピンとこーへん。

「あ、新人さんが二人出てるけど、二人とも四十代だよ!」

「あ、そう……」

「来年からは投票できるんだよ、あたしら」

「え……ああ!」

 選挙権は18歳からや。

 ちょっと狼狽えた。

 

 ピンポンパーン♪

 

 パソコンに着信音。

 画面に飛びつくと、頼子さん!

 頼子さんとの交信記録と内容は、ちょっとライブではお知らせできません。

 王女としての頼子さんのOKが出たら、またお知らせしますね。

 

 今日も昼間は暑かったけど、明日も蒸しそう。

 コタツの前の相棒を見ると、生徒手帳を開いて制服の運用を調べてる。

 合服とか着れるとええねんけど。 

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

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鳴かぬなら 信長転生記 123『オニカシマ?』

2023-05-21 15:53:11 | ノベル2

ら 信長転生記

123『オニカシマ?信長 

 

 

 そーーれ! よいやっさ!!  そーーれ! よいやっさ!!

 

 鬼ヶ島も目前に迫り、100人の浦島太郎が漕ぐ櫂は小気味よくスクロールし、船そのものが生き物であるかのように揃っている。竜宮城で六百年もダラダラ過ごしていても、根は漁師。上手いものだ。

 残り500人の浦島太郎は、織田家の木瓜紋のついた足軽具足を身に着け、鉄砲隊200、弓隊200、長槍100に分かれ、こちらは即席で鍛錬をしたとは言え緊張の面持ち。

 漕ぎ手の100人は島に到着後70は長槍隊、残り30は本陣の馬周り役として俺が率いていく。

「じゃあ、そろそろ元の姿に戻るわね」

 胸のところでギュっと握りこぶしを作ったかと思うと、アッチャンは草薙の剣になって腰にぶら下がった。

「それでは、わしも……」

「あ、おまえはいい」

 勾玉に戻ろうとしたオモイカネを引き留める。

「ん? なぜ止める?」

「おまえは、胸のところでブラブラしすぎる。なんか不自然に乳首に当ったりするしな、気持ち悪いぞ」

「し、仕方がないじゃろ、ペンダントの設えになっておるのじゃからな(#'∀'#)」

「なにか別のものに変身しろ」

「ならば、別のものをイメージしろ。無理のないものなら聞き届けてやる」

「そうか……ならば、これだ」

 ドロン!

 半分意地悪で想像してやると、身の丈5メートルほどの大魔神になった。

 おお!!

 浦島太郎たちが恐れながらも感心する。

「待て、これでは目立ちすぎてわしが格好の的になってしまう(;'∀')」

「その分、俺は自由に動ける。なに、矢玉を避けながら走り回っていればいい。その間に鬼の首領を見つけて首を獲ってやる。いくぞ、者ども!!」

 

 オオ!

 

 櫂を逆漕ぎにして勢いを殺し、やんわりと浅瀬に乗り上げさせ、一気呵成に鬼ヶ島の浜に上陸する。

 ガオー! ドンドンドン!

 オモイカネの大魔神もゴジラのように吠え、キングコングのように胸を叩いてドラミング!

 その勢いに圧されたのか、鬼ヶ島の城は寂として静まり返って、あっという間に、大手門の前まで来てしまった。

 城が立派な割には手ごたえが無い、無さ過ぎる。

 どうしようかと思っていると、俄かに頭上が明るくなった!

「やや、なにごと!?」

 一斉に槍衾を作り、鉄砲を構え、弓をつがえる。

 キラ キラ キラ

 城門の上に大きな『オニカシマ』のネオンサインが現れる。

『古い仮名遣いねえ( ゚Д゚)!』

 アッチャンが感心する。

「いや、旧仮名遣いにしても間違ってはおらぬか?」

 オモイカネの大魔神は顎に手をやって訝る。

「そうだ、旧仮名遣いなら『オニケシマ』ではないのか?」

 ブァリニャーニに片仮名を教えてやった時のことを思い出す。

 600人の浦島太郎たちと首をひねっていると、ネオンサインの文字が電光掲示板のように文字を動かした。

 

 オニカシマ…………鬼貸間…………各種貸間をご用意しております……権敷不要、見学随時、即入居可、委細面談……

 

 なんだか昔の貸間広告、今で言えば貸しビルの広告のようで――さあ、どうぞ――という具合に開いた門の中に足を踏み入れる鬼ヶ島遠征軍の我々だった。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

 

 

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RE・かの世界この世界:104『25トン対5000トン・1』

2023-05-21 07:01:21 | 時かける少女

RE・

104『25トン対5000トン・1』ブリュンヒルデ 

 

 

 

 敵襲! 敵襲! ボーーーー! ボーーーー!

 

 帰還船シュネービットヘンの船内各所で警戒の声が上がり、狼に出くわした白雪姫の悲鳴のように、警報の汽笛が鳴り響く。

 しかし、ここはレーゲ海の大海原。助けにやって来る王子さまも七人の小人も現れなければ、戦闘配置を告げる指令も出てこない。シュネーヴィットヘンはロートルの輸送船であり、且つ休戦中なのだ、しかも、乗員は所属部隊を離れ、しゃばっ気が出始めた復員兵たちだ、有効で統制だった反撃などできるわけがない。まさにパニックに陥った洋上の白雪姫!

 船は面舵一杯をかけ、左に傾きながら進路を変えていく。

 振り落とされないように手摺に掴まり、左舷前方を窺うと五千トンクラスの軽巡が相対速度三十ノットほどの猛スピードで急速接近して来る。

「パラノキアの軽巡です」

 いつのまにかタングリスが斜め後ろから覆いかぶさるように立っている。忠実にわたしを護ろうとしてくれているのだが、ヤコブと偉そうに話した後でもあり、子ども扱いされたような気がする。

―― 本船は、攻撃をかわすために高速の之の字運動に入る、各員は振り落とされぬよう安全を確保せよ! ――

 船長は逃げることと乗員の安全確保に専念するようだ。乗員の復員兵たちに戦闘力としての期待はしていない。

 しかし、寄り合い所帯の復員兵とはいえ軍人だ、頭を抱えて手すりにつかまっているだけでは気が済まない。携帯している機関銃や携帯ロケット砲に小銃まで舷側に並べて敵わぬ抵抗をし始めた。

「ねえ、戦争は終わったんじゃないの?」

 ケイトが不安そうに聞いてくる。そのケイトの上着の裾を掴んでロキが震えている。

「停戦命令に従わないやつもいるようだな」

 

 ズズッボーーーーーン!

 

 第二撃が飛んできた、六発分の水柱が船を挟んで立ちあがる。

「夾叉された、次は命中弾が出る」

「四号で反撃しよう!」

 テルが無茶を言う。

 戦車が相手ではないのだ、五千トン150ミリ砲六門、魚雷発射管二基八門の巡洋艦相手に勝てるものではない。

「ヒルデを捕虜にされるわけにはいかないだろ」

「わたしを狙っているというのか?」

「拿捕して正体を知れば敵は大喜びだろうな」

 くそ、わたし一人の為に千を超える兵士を道連れにしようというのか。

「貨物デッキに戦車が居るとは、やつらも思わないだろ、意外に混乱させることができる」

「やりましょう、姫は右舷中甲板のオフィサールームに、あそこは船内で一番安全です」

「タングリス、指揮官はわたしだろ」

 ギュっとまなじりをあげる。タングリスはため息一つついてOKを出した。

「みんな、四号に乗れ! 戦闘配置だ!」

 
 25トンの四号戦車と5000トンの巡洋艦の一騎打ちが始まった。

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:100 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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銀河太平記・161『作戦会議』

2023-05-20 16:54:00 | 小説4

・161

『作戦会議』越萌マイ(児玉元帥) 

 

 

 まさか!? そんな!? ゲゲ!? ええ!? なんと!?

 

 あげた声はさまざまだが、その驚きぶりと恐怖は一様だった。

「敵の指揮官は、実質的に劉宏大統領だということなんですねぇ……では、その事実を基にこれからの作戦計画を練りましょうか。議長、どうぞ」

 及川市長が官僚出身らしく、現状を確認し、議論を対策の方向に向けて、わたしに回してくれる。

「これが、わたしが戦ったときの劉宏大統領です」

 戦闘時に記録した王春華の3D映像をテーブルの上に展開した。

「無駄のない動き。だが、スピードは並のレンジャー並、インディアンの戦士なら互角に戦える」

 マヌエリトが目を細め、抑揚のない声で感想を述べる。

 目を細めるのも声に抑揚が無くなるのもナバホインディアンが本気になった証拠だ。

 それを知っている島の古参達は、さらに息を潜め声を失ってしまう。及川市長などは、国交省の役人として島にやってきて、こういう表情のマヌエリトに追いかけまわされたので顔色が青い(099『追う』)。

「これは再生スピードを1/2倍にしてあります。実際の速度では、こうです……」

 今度はマヌエリトも声が無い。

「通常の動体視力では視認することも難しいでしょう」

「しかし、それは戦闘員としてのスキル、戦闘術に優れているということに過ぎないのでは?」

 元海兵隊の猛者だというボランティアが冷静に言う。

「これを見てください」

 南部橋頭保での戦いを図式化した俯瞰図で示す。

 おお……

 静かなどよめきが起こる。中隊以上の指揮経験のある者なら、その動線が秀逸であることが一目瞭然。

「みなさん、戦術規模の指揮には卓越しておられることが偲ばれます、心強い限りです」

 寄せ集めの組織だ、程よく持ち上げておくことも必要だ。

「そして、これが四半世紀前、満州戦争における劉宏将軍の部隊指揮の記録です」

 満州の野で二日に渡って繰り広げられた日漢双方の師団規模のアニメ化した戦闘概況を映す。

 ムム……

 唸ったのは米英と独の師団長経験者。遅れて、十数人のベテランが顔を赤くしたり腕を組みなおしたりしている。

 すごいと思わせただけでなく、彼らの軍人としてのハートに火をつけたようだ。

「この王春華が劉宏大統領をpiしたというんですね」

 氷室、いや睦仁王が冷静に話を次のステップに持って行ってくれる。

「しかし、小文字のpiなら、限界があるでしょう、本人のスキルとアビリティを情報として、つまりはコピーしているだけなんだから」

 イギリスの軍事AIの専門家がジョンブルらしい楽観論を述べる。

「一つ付け加えさせてください、あ、発言いいでしょうか?」

 いいタイミングでメグミが手を上げてくれる。

「劉宏将軍は、その指揮能力を十分に発揮する前に軍を追われ、戦後まもなく政治家に転身して、現在の大統領職にあります」

 何を今さらという目でメグミを見る者が多く、メグミも瞬間、話が中断する。

「続けてください」

 睦仁王が水を向ける。

「つまり、彼の軍人としての才能は、かなりの部分埋もれたままと言えるでしょう……劉宏将軍が、まだ発揮していなかった才能やアビリティーが王春華の中には移植されている。それが、どんなカタチで軍事行動として発揮されるかは、予測が難しいと思われます。小文字のpiと言って油断はできません」

 さすがに、即座に反論する者はいない。

「いいかのう、越萌マリさん」

「どうぞ、シゲさん」

「よいしょ」

「でも、マリじゃありません、マイですから」

「あ、そうじゃったかい?」

『マリは愛想つかして出てった嫁さんじゃろがあ!』

「うるさいわ!」

『あ、ムキになったぁ!』

「静かに。続けてください、シゲさん」

「うむ、人の思考パターンは職業を変えても形を変えて現れるもんじゃ、やつの政治活動を洗ってみれば、ある程度のことは予測がつくんではないかなあ。それと、劉宏が自ら乗り出すと言いだして、隠密行動とはいえ、すぐに王春華の義体で島に現れおった。これの意味は大きくはないか?」

「シゲ正しい」

 マヌエリトが顔を上げた。

「劉宏、おそらく体悪い。長時間、戦争指揮耐えられない。自分で出てくるもできない。勝負を急いでる」

「あ、なるほど」

『シゲも、むだに愛想つかされてねえか』

 ワハハハハ

「お、おもて出ろい!」

「まあまあ、みなさん。話が佳境に入りかけていますが、ひとつ念を押しておきます。劉宏将軍と王春華のことが話題に上ったことは秘密にしておいてください。こちらの注目点が分かってしまっては敵に対策の機会を与えてしまいます。とりあえずは、敵の奇襲に備えての警備計画、前線の整頓、反攻計画の規模と問題点について……」

 作戦室の空気は、まだ劉宏と王春華にあるが、これぐらいが潮時だ。

 この程度に秘密と言っておけば、二日もすれば敵に伝わる。

 無理を言って、わたしが作戦会議の議長をかって出たことも含めてな……。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  •  

 

 

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RE・かの世界この世界:103『ヤコブの秘密』

2023-05-20 06:17:54 | 時かける少女

RE・

103『ヤコブの秘密』ブリュンヒルデ 

 

 

 

 自分はヘルム島の出身であります……

 

 舷側を並んで飛んでいたカモメが餌ももらえぬと羽を翻し、ようやく沈黙を破るヤコブ伍長だ。

「ヘルム島……」

 ヘルム島と言えばレーゲ海の宝石と言われるほどに美しい島で、昔から観光で栄えた豊かな島だ。

 観光以外にも海産物やレアメタル、真珠の養殖などが有名で、神の覚え目出度い安心安全の島だ。今次の大戦においても戦場になったことは一度もなく、父オーディンの知ろしめす地上において最優秀の土地と言われている。

 その優秀さは、島に父オーディンの部隊がただの一人も駐留していないことでも知れる。兵を駐留させないしヘルムから徴兵することもない。だからヘルム島出身の兵というのは技術畑の軍属か少数の志願兵に限られている。ヘルムの志願兵は軍属と共に高い技量を誇っており、実直で軍の内外から重宝がられている……のだが。

 そのヘルム軍人の有りようからはズレている。

「ヘルムの平和と繁栄には秘密があるのです、この秘密を知るのは島民以外には、主神オーディンのほかは、ごく少数の神々だけなのです」

「オーディンの姫たるわたしでも知らぬことなのだな……」

「意外ですが……」

 なんだ、こやつの目に一瞬浮かんだ憐れむような光は? 問いただすかどうか腕組みしている間にヤコブが語り始めた。

「島にはヤマタという主とも神ともつかぬものがおるのです……そのヤマタが四年に一度生贄を要求してくるのです」

「生贄?」

「はい、十七歳の処女を要求してきます。三年に一度奥つ城の神殿に供えるのです」

「食べられてしまうのか、生贄は?」

「分かりません、あくる日に行ってみると生贄の姿は無く、戻ってきた生贄もおりませんから……今年、その生贄に妹が選ばれてしまったのです。父は早くに亡くなって、母親一人で切り盛りしておりますので……」

 あとは言葉にならなかった。

 ヤコブは手摺に載せた手を祈るように握りしめた。

「それで島に戻ろうと……」

「はい、ゲペックカステンの中にゴムボートを忍ばせてあります。島に一番近くなったところで抜け出るつもりです」

「ゴムボートでか?」

「四号のエアークリーナーの一つがマイクロ船外機になっています」

「なるほど、そういうわけで四号を強化したのか」

「いいえ、整備に掛けては手抜きは有りません、北辺のグラズヘイムに耐えられる改装に手抜きはありません」

「キッパリ言うなあ」

「はい、戦車の整備は我が天職でありますから」

「そうか……この件は、わたし一人の胸に収めておくぞ」

「は、はあ……」

「ガッカリするな、わたしは、この部隊の隊長だぞ。決定権はわたしにある」

「はい」

「目を見ろ、わたしはブリュンヒルデだぞ」

 おずおずとヤコブが目を向け、小さく頷こうとしたとき、異変が起こった。

 船を挟んで水柱が二本立ったのだ!

 

 ズズッボーーーーーン!!


 な、なんだ!?

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:100 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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せやさかい・409『寝返りうって……』

2023-05-19 07:45:30 | ノベル

・409

『寝返りうって……』詩(ことは)   

 

 

 

 寝返りを打っても下半身がついてこない。

 

 ゆるく絞った雑巾のようにグニャリ。

 上半身は右を下にしているのに腰は斜め上を向き、脚はねじれて交差してしまう。

 神経がやられて感覚は無いんだけど、内臓がよじれるような感じがお腹から上に伝わってきて気持ちが悪い。

 フレデリック先生も「面倒でも手を使って動かした方がいい」とおっしゃる。褥瘡(じょくそう)と言って、ベッドに接したままのところの血流が悪くなって良くないそうだ。

 よっこらしょ……

 体を曲げ、やっと膝のところまで手を伸ばして交差した脚を戻す。

 普段は意識もしないでやってる寝返り、こんなに大変だとは思わなかった。

「あ、ごめん、気づかなかった」

 お母さんがとんできて介助してくれる。

「大丈夫、そろそろ自分でもできるようにしなくっちゃ」

「そうね」

 そうねと言いながら介助はやめない。

「きょうは大使館にいくんでしょ?」

「うん、でも午後には帰って来るから」

 長期滞在になりそうなので、ビザを申請するために日本大使館で相談するんだ。ビザを出すのはヤマセンブルグなんだけど、大使館が間に入ってくれる。というか、イッチョカミしておきたい外務省だとかの思惑らしい。

「あ……」

「どうかした?」

「もう一回触ってくれる?」

「え……こんな感じ?」

「やっぱり……」

「やっぱり?」

「微かにだけど、お母さんの手の感触……あるかも」

「ほんと!?」

「ちょっと爪を立ててくれる?」

「あ、うん……」

「……錯覚かもしれないけど、感じるような気がする」

「ちょっと、先生呼んでくる!」

 

 先生がやってきて、触診をしてくださる。

 

「奇跡だ! 感覚が戻って来るかもしれない。ちょっと様子を見て、大学病院で精密検査をやろう、ちょっと連絡してくるよ」

 スマホを出しかけ、院内では使えないことを思い出して部屋を出て行った。

『ドクター……』『あ、すまん……』

 廊下で走りかけた先生が看護婦さんに叱られてる。

 ガチャリ

 その看護婦さんが入ってきた……と思ったら、ヨリコさんとソフィー。

「え、二人とも、なんかくたびれてないですか?」

「あ、うん、ちょっと、ソフィーといっしょに運動してたから(^_^;)」

「先生、走ってたけど、なんかあった?」

「それが、頼子さん……」

「「え!?」」

 お母さんがバラシて、二人は息を呑んで向き合った。

 ドタドタドタ 『殿下!』『あ、ごめ……』

 廊下に飛び出して、また看護婦さんに叱れれてる。

 

 お母さんに起こしてもらって外を見ると、テラスに出た三人が、それぞれスマホを構えて電話の最中。

 ひょっとしたら希望を持っていいかも……いやいや、もっと様子を見なきゃ。

 でも、今日は、ちょっと早めに車いすで日に当ろうと思った。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

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RE・かの世界この世界:102『我が名はブリュンヒルデなるぞ!』

2023-05-19 05:42:54 | 時かける少女

RE・

102『我が名はブリュンヒルデなるぞ!』ブリュンヒルデ 

 

 

 パープリンの電波女と思われているであろう。

 

 主神オーディンの娘にして堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士、我が名はブリュンヒルデなるぞ!

 されど剥き出しではならない、この現世(うつしよ)には現世の定めがあるのだ。

 闇の世界の理(ことわり)に比すれば取るに足らない戯言同然の愚か極まるローカルルールではあるが、それが定めであるのならば、カタストロフィに至る我が使命を果たすまでは従わねばならぬであろう。それこそが、父であり尊き世界の主神であるオーディンの戒めをさえ破り、このレーゲの海に船を進める我が闇のデスティニーであるのだから。

 

「ず~る~い~! そっちの方が二十グラム多いぞ!」

「そんなことはない、目測でも五ミリはヒルデの方が大きいじゃん!」

「見た目ではない、質量が違うのだ! 立法センチあたり八以上のものでなければ我が霊性は保てぬのだ、四の五の言わずに、そっちをよこせ!」

「もーーーー仕方ないなあ、仮にも隊長なんだからさ、そういうデレ方しないでくれる」

「デレてなどおらぬわ!」

「それに、王女様なんだから、威厳とか慎みとか感じさせてくれなきゃガックリよ」

「バカかケイトは! わたしが、あるがままに振る舞えば、おまえたちは息も出来ぬであろーが! それゆえ精神年齢を、おまえたちに相応しくして付き合ってやっておるのではないか! それをデレとかガックリとかは心外じゃ! 我が意をくみ取り、さっさと我が霊性に相応しき方をよこせ!」

「かわいくな~い」

「うっさい! シリンダーの変異体ごときが高貴なる霊性に文句を言うでない!」

「あ、殿下。こちらの方が製造日が新しいですよ」

「そ、そうか、新しい方が霊性は高く保てるであろうからな……」

「ようは、美味しそうで大きいのを食べたいんだ」

「なんか言ったか?」

「いえいえ……」

 ようは、船内配食で配られたばかりのパンの取り合いをやっているのだ。

 

 タングリスはテルといっしょにブリッジに調べものに行っている。

 口うるさいタングリスが居ないのだ、こんな時くらいはハッチャけてやらねば息が詰まる。ロキは幼いし、ケイトは大人しすぎるし、わたしがやらねばどーしようもない。な、そうであろうが!

「ヤコブ、ちょっと顔を貸せ、糧食の霊的配給方法について言って聞かせよう」

「え、自分がでありますかあ!?」

 

 もうワンクッション置いてからと思ったが、ラッタルを貨物デッキに下りてくるタングリスが視界に入ってきた。タングリスにやらせれば、事が必要以上にこじれてしまう。トール元帥の有能な副官であるが、委員長タイプで、こういう裏ワザには向いていないのだ。

 手摺の所まで呼んで、核心を突いてやった。

「ヤコブ、おまえは脱走兵であろう……」

 実直が軍服を着たような四角い顔の丸い口が酸素不足の金魚のようにパクパクしはじめ、パンくずの餌でもくれるのかと数羽のカモメが舷側に並んで飛び始めた。

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:100 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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RE・かの世界この世界:101『乗船名簿』

2023-05-18 05:40:03 | 時かける少女

RE・

101『乗船名簿』タングリス 

 

 

 シュネーヴィットヘンの状況を掴んでおきたくて船長に申し出た。

 なんせ、休戦後初の連絡船なので混乱があるのだ。とりあえず後方に移送しなければならない傷病兵や、戦争のため満期除隊が遅れていた兵士、様々な部隊から送られてきた連絡将校たち、度重なる戦闘で部隊が壊滅しノルデンハーフェンに集合した雑多な兵士たち。とりあえず船に乗せて送り出さなければ、あとから続々と移送されてくる復員兵が溜まって動きが取れなくなるのだ。雑多な寄り合い所帯なので、船長に確認しなければ船の状況が掴めない。

 ところが、その乗船名簿にヤコブ伍長の名前が無いのだ。混乱の中、稀に漏れることがある。

 我々は、遊撃偵察隊五名の登録で指揮官はブリュンヒルデで登録されていた。登録自体は手回しのいいヤコブがやってくれていて、ポチの事も軍用妖精と記されている。


 しかし、肝心のヤコブの名が無いのだ。


「休戦直後なので、稀に漏れることがあります。お気づきのことがあったらお知らせください」

 乗船名簿を管理している二等航海士が付け加えた。

「ありがとう、きちんと書かれているよ」

 ポーカーフェイスで応えておく。

「船はまっすぐグラズヘイムに向かうのだろうか?」

「その予定ですが、状況次第では立ち寄る島があるかもしれません」

 言っていることは分かる。最大の紛争地帯はムヘンだが、レーゲ海には多くの島々があって、中には問題を抱えた島もある。今度の休戦で急な移動を迫られているものもあるだろう。

「ヘルム島はどうだろう?」

「無いと思います。守備隊がいますが、今次の戦いでは戦場になっていませんので、緊急な移動も無いと思います」

「そうか、ありがとう」

 そこで質問は打ち切った。他に数名の将校たちが乗船名簿確認の順番を待っていたからだ。

「なんでヘルム島だったのだ?」

 ブリッジ横のウィングへ出た時にテルが尋ねてきた。

「かすかにヘルム訛があるのでな」

「ヤコブのことか?」

 さすがに鋭い。

 

 ノルデンハーフェンに着く直前に、ベルゲパンターにただ一人乗って現れたヤコブ伍長。

 休戦が成立し、戦場に残された故障車両の修理と搬送に整備部隊の移動があってもおかしくはない。

 しかし、単独というのは考えにくい。戦車は修理するにせよ移動させるにしろ一人で出来るものではない。最低でも四五人のクルーが居なければ仕事にならない。

 ヤコブは機嫌よく四号の修理をやってくれたが、修理中に後続の修理部隊が通過していった。ヤコブ一人が部隊から離れてフライングする必要は……というよりも不自然だ。シュネーヴィットヘンに乗り込むときも、ヤコブは修理作業中ということで四号に乗ったままデリックに吊り下げられて現れた。

 黙って頷くと、テルと二人で貨物デッキに戻っていった。

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:100 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・028『臨時の全校集会』

2023-05-17 20:15:11 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

028『臨時の全校集会』   

 

 

 え、自殺……?

 

 悪気はないんだろうけど聞こえてしまった、ロコが呟くのを。

 聞こえたからには気になる。

「なに、自殺って?」

「あ、二年前に……その時も緊急全校集会……」

 それ以上聞くのも言うのも憚られ、ちょっと速足で階段を降りて体育館を目指す。

 みんな無言だけど、微妙に不服そう。

 中間テストの中日、二時間目の試験が終わって監督の先生が教室を出ようとしたら入れ違いに担任の藤田先生が入って来て「緊急の全校集会があるから、ただちに体育館に集合しなさい」と言った。

 

 シャーーガラガラガラ シャーーガラガラガラ シャーーガラガラガラ

 

 先生たちが分担して、体育館のカーテンと窓を開けていく。

 五月も半ばを過ぎて初夏、1200人の全校生が体育館に入ると、体感的には真夏に近いよ。

「ちょっと蒸します。上着は脱いでもいいです。短時間で済みますから静かに聞いてください……では、若杉先生」

 司会の先生が若杉先生に替わる。

 替わって初めて、名前と顔が一致。

 たしか生活指導部長の先生だ。いつでもネクタイをしているので憶えていた。

「試験の最中に集まってもらって申し訳ない。緊急に、君たちに伝えておかなければならない事案があって集まってもらいました、よおく聞きなさい」

 そういうと、先生は一枚のハガキを掲げた。

 生徒の中には「ああ」とか「あ」とかの声がチラホラ上がる。

「これは、本校の生徒に届けられた、差出人不明のハガキです。内容は、以下の通り『このハガキを読んだら、同じ内容を書いて、あなたの知り合い5人に送りなさい。五日以内に5人に出さなければ、あなたに不幸が訪れます』です。昨年あたりから全国的に流行り出した、ふざけたハガキです。世間では『不幸の手紙』などと呼ばれています。もし、こういうハガキや手紙が届いたら、けして人に送ったりせずに学校に知らせてください。学校の生活指導室まで届けてください。差出人は不明ですが、消印や筆跡である程度のことは分かります。けして犯人捜しをするわけではありませんが、注意喚起や抑止には効果があると思います。いいですか、三年生は受験を控えた大事な時期です、こういうものに惑わされずに、勉学に励むように。一二年生も、いたずらに噂などせずに、部活や勉強に励むように。ええと、次は……」

 若杉先生が間を置くと、花園先生(4組担任)がおずおずと手を上げて舞台に上がって行く。「かわいい」とか「おお」とかの声がチラホラ。ちょっと不謹慎。

「えと、生活指導の服装係りからお知らせです。えと……」

 そう言うと、花園先生、左の手の平を見ながら日直みたいに話し始めた。先生、手のひらにメモってるんだ(^_^;)。

「五月も半ばになって、ちょっと汗ばむような気候になってきました。あ、いまもムシムシしますけどね。例年、中間テスト明けから合服になっていますが、明日から合服でも良いことにします。男子は上着無しのカッターシャツ、女子は上着なしのボレロ、えと、ジャンパースカートみたいになる格好ですね。それでも良いことになります。でも、合服なので半袖はダメですよ。暑い時は袖をまくってください。それから、女子はボータイを忘れないように。胸には校章を必ず付けてくださいね。以上です(^_^;)」

 必要なことを伝えると、ハンカチでオデコを拭いて、かるく口元も拭った。

 おお、ハンカチになりてー!

 ワハハハハ((´∀`))

 三年のブロックから男子の声がして、笑い声が起こる。

 体育の長瀬先生が階段の途中まで上がって、三年生を睨む。

 さすがに女傑、水を打ったように静かになって、臨時の全校集会が終わった。

 

「二年前に、当時二年の生徒が自殺して、いちおう病死ってことになってますけど、自殺らしくて、不幸の手紙も絡んでたってうわさで……」

 

 昇降口を出ると、いつもの五人で自然発生的におしゃべりになって、ロコが、さっきの続きを説明してくれた。

「お姉ちゃんに聞いてみよう」

「お姉さん?」

「うん、宮の森の卒業生なんだけどね……」

 あとは言葉を濁す満智子。

「失礼しまーす!」

 キャ!

 突然、佳奈子が大声で挨拶してビックリ。

 見ると、上級生の女子が三人、佳奈子に手を振って正門に向かってる。

「アハハ、おどかしてごめん(^_^;)」

「あれ、バレーの二年生でしょ、佳奈子入ったの?」

 ちょっと咎める感じでたみ子。

「あ、まあ、誘われてて……」

「またセッターでしょ、苦労するよ」

 真知子も上から目線。

「いや、まだまだ、アハハハ……」

「さ、テストはまだ続くんだから、解散、解散!」

 たみ子が踏ん切りをつけてくれて、30分無駄にしただけで家路についた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

 

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RE・かの世界この世界:100『貨物デッキ』

2023-05-17 05:26:24 | 時かける少女

RE・

100『貨物デッキ』ロキ 

 

 

 

 横から見たシュネーヴィットヘンは『W』の形をしているんだぞ。

 
 船首と船尾が高くて、ブリッジのあるとこが『W』の真ん中で一番高くなっている。

 むろん、煙突やらマストやら色々くっ付いていて、実際は『W』ほどに単純じゃないけどな。

 でも、大ざっぱと言うか、ものごとは簡単にするとほんとうのところが見えてくる……ヤコブ伍長が教えてくれたんだ。

「で、あたしたちが居るのはどこなのよ?」

 肩に乗ったポチが身を乗り出して伍長に聞く。ポチもヤコブが好きになったみたいだ。

「『W』の右っかわの窪みだ。四号を船尾のデリック……ああ、クレーンのことな。デリックで積み込んで、下ろす時もデリックを使うから、この貨物デッキが一番いいんだ」

「ウウ……キャビンのベッドでゆっくり寝たいよお」

 体育座りの膝小僧の上に顎を載せてグチっているのはケイト。オレよりは年上なんだろうけどさ、どうも子どもっぽい。

「キャビンは兵隊で一杯だからね、近寄らない方がいいよ」

「なにかヤバイの?」

「えと……陸軍の兵隊ばかりだから船に弱いんだ」

「船に弱いって?」

「あそこ見てごらん」

 ヤコブが指さしたのは手すりの方だ。手すりの向こうは海で、波しぶきが踊っている。

「虫? 花びら?」

 ケイトが不思議がった。波しぶきに水ではないものが混じっているんだ。ムヘン川で遊んでいても魚が跳ねたりすると、いっしょに泥やら小魚やらが跳ね上げられるので、そういうものかと思っていたんだけど、ちょっと様子がちがう。

「あ、虹が掛かった!」

 波しぶきに虹がかかってきれいだ。

「わーー、きれい!」

 ポチが感動して虹の所まで飛んで行こうとする。つられてケイトも、オレも腰を浮かしてしまった。

「いくんじゃないよ(^_^;)」

 ヤコブが声を掛けた時は遅かった。

「ヤ、なにこれ!? 臭いよおおお!」

 ポチが虹の原因になったものを被ってホバリングしている。

「だから言ったろ、それは、上のデッキで兵隊たちが船酔いして吐き出したゲロなんだよ」

 

 ゲーーーーーーーーーーー!?

 

 ポチの犠牲で済んでよかった。直ぐに海水で洗い、仕上げに400CCだけ真水で洗って済んだから。オレとかケイトだったらお風呂に入らなきゃならないところだ。ちなみに、シュネービットヘンにはお風呂は無い。簡単なシャワーはあるらしいけど、定員の倍も乗せているので使用は禁止されてるし。

「もう少ししたら、兵隊たちも慣れて吐かなくなるよ」

「オレたちはどうして酔わないの?」

「酔う前に慣れたからさ」

 あとでタングリスが教えてくれた。知恵の輪やら戦車の説明とかで興味を引いて船酔いしないようにヤコブが気をつかってくれたんだって。

 ああ 気持ち悪い~(×o×;)

 荷物の陰から死にそうな声があがった。

 覗いてみると、ヒルデが青くなってうずくまっている。

「ウップ」

 ヤバイ、ヒルデがもどしそうだ!

 ポチが真っ先に、続いてオレとケイトも逃げ出した。

「ゴックン……だいじょうぶ、呑み込んだからな」

 しばらくヒルデの息が臭いので近寄らなかった。

 まあ、とにかく船出して早々は愉快に過ごせてラッキーだ。

 しばらくすると、タングリスとテルが戻ってきてヤコブと真剣な話をし始めた……。

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:100 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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RE・かの世界この世界:099『外洋へ』

2023-05-16 06:15:19 | 時かける少女

RE・

99『外洋へ』タングリス 

 

 

 ロキもケイトも症状が出る前に船酔いを克服した。

 
 ヤコブのお手柄だ。

 知恵の輪やルービックキューブに飽きる前にバージョンアップした四号の調整に付き合わせたのだ。

 シュタインドルフ以来慣れ親しんできた四号なので、ロキやケイトならずとも自分の分身のように愛着がある。

「へえ、変速機を換装したんだ」

「ローが二段になって、泥濘や雪上での粘りが出て、シフトチェンジもスムーズになったんだ。前面装甲を叩いてごらん」

 コンコン コンコン

「微妙に音が違う」

「80ミリの一枚装甲になってる、75ミリを500メートルで喰らっても耐えられるぞ」

「そうなんだ!」

「フェンダーの上に見慣れない物があるよ」

「エアーフィルターだ、空気のろ過効果があるからエンジン性能が僅かに上がっている」

「これはなに?」 

 ひとり退屈していたポチが、付属して積載された木箱に気づいた。

「あ、ああ、それはブィンターケッテンだ」

「「「ブィンターケッテン?」」」

「見せてあげよう」

 ゲペックカステンからバールを取り出すと、ズングリの体に似合わぬ敏捷さで下りて、木箱の蓋を開けた。

 鉄製の瓦のようなものがいっぱい入っている。わたしもグラズヘイム以来のそれを見て懐かしくなった。

「四号は履帯の幅が狭いので、雪中戦や泥濘戦では埋まってしまって動けないことがある。それを防ぐために一枚一枚の履帯にこいつをかますんだ。履帯の幅が1.5倍になって立ち往生しなくなるんだ」

「でも……これを着けたらせっかくのシュルツェンの邪魔にはならないか?」

 姫も、見るべきところを見るようになってこられた。

「グラズヘイムは北方です、万一必要になったときの用心に持ち込みました。いずれラグナロクが起こるやもしれませんし」

 ラグナロク……最終戦争のことだ。姫の顔が一瞬曇る……お分かりになっているのだ、ご自分の役割が。しかし、そのことは臣下であるわたしごときが斟酌することではない、急いで意識の外にやると、目配せしてテルを誘った。

 

 輸送船シュネーヴィットヘンに乗っているのは所属もまちまちの歩兵ばかりだ。統一した部隊行動などできるはずもなく、乗船中の指揮権は船長が握っている。これからの航行計画とヤコブの処遇確認のためブリッジを目指した。

 おっと……。

 ラッタルを上がると、グイッと左に体を持っていかれそうになる。

 岬を迂回するために船が面舵を切ったのだ。

 岬を周ると、いよいよ外洋だ。

 希望と絶望が同居する鈍色の神の海、レーゲ海が視界いっぱいに広がり始めていた。

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:100 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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