大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:098『伍長一人』

2023-05-15 06:43:01 | 時かける少女

RE・

98『伍長一人』タングリス 

 

 

 

 その場は笑って済ませた。

 
 なんと言っても船出だ、不吉なことや不審なことは口すべきではない。

 それに、わたし以外のメンバーもヤコブ伍長に気を許している。ロキとケイトには良い遊び相手、姫も三人が遊んでいるのを冷やかしたりチョッカイを出したりしている。お気に召している証拠だ。テルは渋い顔をしていたが、わたしの目配せで感じてくれたのだろう、いまは四人が遊んでいるのを黙って見てくれている。

 伍長というのは下士官の最下級で実務に長けた者が多い。常に兵たちと日常を共にする兄貴分という感じだ。

 今も、自分で作った知恵の輪やルービックキューブで盛り上げている。船の移動で最初に克服しなければならないのは船酔いだ。

 船酔いは船と海の揺れに三半規管が追い付かないことから起こる。防ぐには、その揺れを超えるものに意識を集中させることだ。昔から戦闘配置になると酔いが収まるのは知られたことだ。

 まさか、船酔い対策に戦争をすることもできない。知恵の輪やルービックキューブに集中させるのは効果的だと思う。それも船酔いが発症する前に集中させなければ効果が無い。巧みに惹きつけているヤコブは部隊においても有用な存在になっているだろう。

 そうなのだ、わたしが笑って済ませたのは、軍人としての信頼感こそが基礎になっているからだ。

「今のうちに船内を把握しておこう」

 テルに声をかけて上甲板に下りた。ちなみに普通に言う露天の甲板は最上甲板と呼ばれ最上甲板のすぐ下のところを上甲板と言う。上甲板に下りたところには船内の見取り図があって、船内の配置と乗船者の部屋割りが分かる。

 テルも同じ思いだと見えて、船内配置図の前で立ち止まった。

「……これではよく分からんなあ」

「キャビンなら左舷の中甲板だが……ひょっとして、ヤコブの部隊か?」

「ああ、世話になっているからな、部隊長に挨拶はしておかなければならんだろう」

「……見あたらんなあ、歩兵部隊がほとんどで……衛生部隊が一個分隊……機甲科も乗っていないぞ」

 

 整備部隊の下士官が単独で行動することなどあり得ない話なのだ……任務によっては機甲科の移動に随伴させられることもあるが、その場合でも四五人の編成にはなるはずで、伍長一人がポツンと乗っていることなどあり得ない。

 

 数秒、船内配置図を眺めて見交わしたテルの目は――今は触れないでおこう――と言っている。

 わたしも黙って頷いておいた。

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:100 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・027『中間テスト前日 思わず喋り込んでしまう』

2023-05-14 10:54:33 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

027『中間テスト前日 思わず喋り込んでしまう』   

 

 

 明日から中間テスト。

 

 中学でも定期考査はあったから、とくに新鮮というわけじゃないんだけど、日に二時間しかないというのは嬉しい。

 それに、高校の教科は細かく分かれてる。

 あ、こんな感じ。

 現国  漢文  古文  数Ⅰ一A  数Ⅰ一B  リーダ  グラマー  地理  地学  生物  

 他にも、保健体育 家庭科 芸術 なんてのがあるけど、とりあえず中間考査をやるのは上の教科から漢文を除いた9教科。

 日に二時間しかやらないから、五日間ずっと中間考査。

 中学じゃ三日間で、日に三教科とかあったからちょっと余裕。

 

「というのが落とし穴なのよ」

 

 と、指を立てるのは真知子さん。

「一学期の中間テストってむつかしいわよね」

 マナジリを上げるたみ子さん。

「うん、最初はカマシテくるわよ、どの教科も」

「ええ、そうなんですか?」

 ロコは早くもビビってる。

「先週、二年生の追認テストやってたでしょ」

「ああ、見た見た! 数学と英語なんて、教室二つ使ってたよ!」

「たみ子も見たんだ」

「うん、帰ろうと思ったら二年のフロアーが賑やかなんで、見に行ったら『追認考査中につき静粛に』って張り紙がしてあった」

「笑っちゃうわよね、静粛にって貼ってあるけど、受けてる二年生の方が騒がしいんだもんね」

「真面目に受けてないんですかぁ!?」

「いや、さすがにテスト始まったら静かになったけどね」

「あはは、分かるなあ……赤信号みんなで渡れば怖くないって、あたしも、その口だもんね(^_^;)」

 ピシャピシャとオデコを叩く佳奈子。

「え、なにそれ、面白~い」

「あ、駅前の交差点、ギリの時間だったら赤信号でも渡っちゃうし」

「ああ、またギリギリで来てるんだ佳奈子」

「なんか、二三年はゆっくり来てるしぃ」

「佳奈子、やっぱり部活に入った方がいいわよ。あんた堕落したのはバレー引退してからだったし」

「あ、いや、それはね(^△^;)」

「ふたり、同じ中学だったの?」

「はい、お二人は同じ谷口(やとぐち)中学です」

「ロコは情報早いねえ!」

「あはは、学級日誌持っていったら先生の机に住所録のゲラが置いてあって」

「え、そんなの見ちゃったの!?」

 ちょっとぶったまげた! 個人情報を盗み見るなんてヤバすぎ!

 見る方も見る方だけど、生徒の目に留まるとこに置いておく先生も常識ない!

 

 え?

 

 わたしの剣幕に、他の四人は、ちょっと意外な反応。

「メグリ、事情があるんだったら言いに行った方がいいわよ。たぶん、テスト明けには配られるから」

「配るって?」

「住所録、中学でも配られなかった?」

 え、個人情報配っちゃうの!?

「え、あ……ああ、そうだった、かな?」

「でも、隠しちゃうと余計目立つと思う」

「いやいや、ド忘れしてただけだし(^_^;)」

「ですよね、緊急連絡するのに必要ですもんねえ」

 ロコが指を立て、みんなが頷く。

 そうか、スマホが無いから、一斉連絡とかできないんだ。

 恐るべし、昭和の常識(;'∀')。

「あ、そろそろ帰らなくっちゃ! もう一時間も喋ってるよ、わたしたち!」

 真知子さんが気づいて、やっと学校をあとにした。

 定期考査前日は午前中授業でおしまい。で、思わず五人で喋り込んでしまった。真知子さんが言ってくれなかったら、夕方まで喋っていたかもしれない。

 

 帰り道、スマホで検索。

『赤信号みんなで渡れば怖くない』は80年代にツービートで漫才やってた頃にビートたけしさんが流行らせたギャグらしい。佳奈子は生活実感から思わず出てしまったんだろうけど、案外、漫才師に成ったら大成するかもと思った。

 1970年5月と打ち込む。

 1日、米軍がカンボジアに侵攻。

 そうか、この時代ってベトナム戦争の真っ最中、それが拡大の様子なんだ。令和の現代ではウクライナで戦争の真っ最中。五十年たっても世界はあんまり変わっていない。

 スクロールすると、先月の24日には中国が初の人工衛星の打ち上げに成功していた。

 ふと見たガスタンクは目いっぱい高くなって、奥宮駅に着くまでにレット・イット・ビーをワンコーラス聞けた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明             留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

   

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RE・かの世界この世界:097『白雪姫と七人の小人』

2023-05-14 06:08:46 | 時かける少女

RE・

97『白雪姫と七人の小人』テル 

 

 

 

 旅の目的はグラズヘイムに着くことだ。

 

 グラズヘイムにはブリュンヒルデの父である主神オーディンの居城ヴァルハラがある。

 ブリュンヒルデをムヘンの牢獄に繋いだのは、その父である主神オーディン。

 主神オーディンとブリュンヒルデには確執があって、それを解くのが目的のようなのだが、詳しくは分からない。

 もう一つの目的がある。シュタインドルフのヴァイゼンハオス(孤児院)で預かったロキを、その母の元に送り届けることだ。ロキの故郷はユグドラシル(世界樹)の根元にある。この世界の地理には詳しくないが、グラズヘイムとユグドラシルでは方角が違う。

 本来なら夕べのうちにノルデングランドホテルで決めるべきだった。

 だが、ヒルデの子どもっぽい寛ぎかたやタングリスの落ち着きぶりを見ていると「どっちにする?」とは聞けなかった。わたしもケイトも別の世界の人間なのだからな。

 
「ロキを送り届ける」

 
 いっしょに顔を洗いながらタングリスが一言言ってくれたのは好意なのだと思う。

「安心した」

 一言返事すると、わたしとタングリスは並んで歯を磨いた。洗面の前で横に並んでもタングリスの美しさが匂いたつ。

 同じ朝の光を浴びているのに、タングリスの方が10ルックスほど明るく感じてしまう。

「なにか?」

「すまん、見とれてしまった」

 正直に言った、どんな状況でも、タングリスは言葉を濁すことは好まないだろうと思ったからだ。

「そうか、テルが男であればなあ……いや、わたしが男であってもよかったか。テルもなかなかの女っぷりだぞ」

「「アハハハ」」

 二人で笑ってお仕舞にした。

 二人で軍服に着替えて、みんなを起こす。さすがに軍人で、軍服に着替えると、いつものタングリスに戻った。

 

 大きい分だけボロだった。

 

 乗船Schneewittchen(シュネーヴィットヘン)は艦齢五十年はあろうかというポンコツ輸送船だ。

 西部戦線が落ち着いて最初にヴァルハラに戻る便で、千人ほどの帰還兵と物資が積み込まれている。

「おっきい割には乗ってないねえ」

 ケイトが安心したように船を見上げる。

「あちこち痛んで、人が乗りこめるのは半分ほどしかないそうだ」

「シュネーヴィットヘンって、どういう意味?」

「白雪姫」

 一言で済ますと、タングリスはタラップを上っていく。笑ったり呆れたりしながら後に続く。

「毒リンゴ喰らって沈みそう……」

「沈むゆーな(;`O´)!」

「もう一人いたら、あたしら七人の小人だ!」

「ポチは0.1くらいだな」

「おっきさで判断しないで(`^´)!」

 アハハと笑って、一同でデッキに上がる。ちょうどデリックで四号が釣り上げられるところだ。

 シュルツェンを付けられたので一回り大きく見える。

「かぼちゃの馬車にしては武骨だなあ」

 ロキが知ったかぶりを言う。

「かぼちゃの馬車はシンデレラだろう」

 

 ボオオオオオオオオ!

 

 次の便船が迫っているシュネーヴィットヘンは盛大に汽笛を鳴らすと早々に出港した。

 

 ん、おまえは!?

 

 出港して間もなく、四号のハッチから顔を出したのは整備兵のヤコブだ。

「アハハ、わたしが付いて行けば七人の小人になるでしょ!」

 みんなが笑うなか、わたしとタングリスは渋い顔をしたままだった。

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:100 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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せやさかい・408『ヨリコ王女、無名の島で初めての国事行為に臨まれる』

2023-05-13 17:04:06 | ノベル

・408

『ヨリコ王女、無名の島で初めての国事行為に臨まれる』ソフィー   

 

 

 詳しく言っている余裕はない。

 

 すでに、バンシーとリャナンシーが憑りついている。

 放置していれば、詩(ことは)さんの容態は悪化する。バンシーはそのものズバリ死を予告する妖精。リャナンシーは人に才能を約束するけれども、その代わりに命の灯を削って短命にさせてしまう。

 今はまだシルエットだけだけの、いわば予兆だけれど、はっきり姿を現してしまえば手の施しようがなくなる。

 

 ギーコ ガチャ  ギーコ ガチャガチャ  ギーコ ガチャガチャ

 

「ちょ、ちょっときついわね……」

「辛抱してください、帰りはエンジンを掛けられますから」

「りょ、了解……でも、こんなコスプレしなくちゃいけないの」

「言い伝えですから……」

 

 やっと夜が明けたヤマセン湖を主従甲冑に身を固めてボートを漕ぐ。

 

 甲冑は王家伝来のもので、殿下はプリンスアーマー、わたしはウィザードアーマー。

 伝説では、立国戦争の時に国王となるヤマセン公と魔法使いのヒギン・ヒギンズが魔王を打ち倒し、その時に魔王から降伏のしるしにもらった魔石が無名の島に隠されている。

 魔石の封印を解くには国王または王位継承者が鍵に手をかざさなければならない。

 それも、立国戦争の時のコスでなければならず、王室には、キング、クィーン、プリンス、プリンセスの甲冑が用意されている。わたしのは先祖伝来のウィザードアーマー。

 

「見えてきました」

 

 朝もやの湖面に浮かび上がったシルエットは、子どもの頃、父に「憶えておくんだよ」と100メートルの距離で目に焼き付けさせられて以来。

 父も祖父から「憶えておくんだぞ」と一度見ただけで、上陸したことはない。

 日ごろは靄に包まれることが多く、たまに晴れても湖面の照り返しでまともに見ることができないと言われている。

 グーグルアースに写ってしまった時は、即刻女王の名前で削除が依頼された。

 魔王は、その魔石を譲るにあたり「島を人の目に晒してはならない、王室の者以外に教えてはならない。また、その利用は十年に一度とし、王の在位期間に三度の使用を超えてはならない。そして、魔石の効能はヤマセンブルグの国内においてのみ有効である」と約束させた。

 世界各地で起こる戦争や災害に胸を痛める歴代国王は魔石の力を使って収めようとしたが、その約束の為に果たすことはできなかった。

 陛下も、エリザベス女王がお倒れになった時に魔石の力を使おうとされたが、病床のエリザベス女王を移すためには魔石の事を伝えなければならず、見送られたばかり。

 そして、今回、下半身マヒになった詩さんを救うために魔石の使用を決意された。

 

 ただ、陛下自身ご高齢であり、また、詩さんに救われたとはいえ、転落で陛下もお体を痛められているので、ヨリコ殿下がお役目を務められる。

 

 ガチャ ギー ガチャ ガチャリ……ガチャ ガチャリ……ギー……

 

 二人分で50キロを超える甲冑を軋ませながら島の奥を目指す。

「ウゥ……こんなの着てる意味あるのぉ……」

「殿下はお気づきにならないでしょうが、この島の瘴気は大変なものです、この甲冑を着ていなければ10分ももちません」

「そ、そうなの?」

「三代フェルディナンド王が早逝されたのは、キングスアーマーをお召しにならなかったからだと言われています」

「ああ、イタリアから養子で来たっていう」

「はい、甲冑はフリーサイズだったのですが、それでも合わないほどにお太りになられ。実家から送られた甲冑で間に合わせたからだと言われています」

「そ、そうなの(^_^;)」

「あ、あそこです」

 言い伝え通り、三つ目の目印を過ぎたところで魔窟の入り口が見えた。三メートルほどの間隔をあけて結界の石が据えられ、その向こうに石の扉がある。

「なんか書いてある……」

「解呪の所作です」

「手をかざすだけじゃないの?」

「それは最後です……ムムム……」

 魔王は、丁寧に解呪の所作を図解で描いてくれている。足の運びと、身のこなしが上下に分けて描いてある。

「これって、散策部で玉串川を歩いた時、川岸にあったのに似てる」

「あれは、河内音頭の踊り方でしたね」

「魔王は、ひょっとして民族舞踊かなんかにして残しておきたかったのかもね……」

「最後の所が隠れて……」

 絡まった蔦や葉っぱを取り除くと、とんでもないことが描かれていた!

 

「では、参ります!」

「おお!」

 

 一連の所作というかステップをガチャガチャ踏んだあと、問題の最後の部分に取り掛かる。

 

 セイ!

 

 入り口の左右の石に上り、剣を抜き放って同時にジャンプし、前転しながら交差する。

 シャキン!!

 あいた(>△<)!

 最後に尻餅をついた殿下ではあったが、なんとか一発で決めることができた。

「殿下、扉が感応しました!」

「おお!」

 扉がエメラルド色に輝き、正面のくぼんだ所には――put your hand here――の文字が浮かんだ。

「ここからは殿下です」

「うん!」

 殿下が手を当てる……なんの変化も無い。 

「殿下、手袋は外した方が良いと思います(-_-;)」

「あ、生体認証ってやったことなかったから(^_^;)」

「では、もう一度」

「うん!」

 殿下の手にはいささか大きいガイドライン。

 それに、少しでもピッタリ合うように指を伸ばし手を広げる殿下。

 お口もキリリと引き締め、額に汗を浮かべられ、思えば、これが殿下初めての国事行為!

 その一途さ、賢明さに扉が開き始めた。

 

 ゴゴ ゴゴゴゴ…………

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

 

 

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:096『ノルデングランドホテル』

2023-05-13 05:43:49 | 時かける少女

RE・

96『ノルデングランドホテル』テル 

 

 

 名は体を表さない宿だ。

 
 ノルデングランドホテルはいわゆるラブホテルだ。お城風の三階建ては三流映画のセットのようにチャッチイ。一見味のある石造りで、風雪によって風化しかけた趣があるが、手で触れると発泡スチロールに泥絵の具を塗りたくっただけのものだ。

「なんだか遊園地のお化け屋敷のようだな」

「マーケットで出た発泡スチロールを砕いて貼り付けてあるんです、剥がれたら、その都度貼り付けて塗装をしています。こういうところにお金を掛けない分、料金は安いんですね、アハハ(^_^;)」

 頭を掻きながらヤコブが言い訳をする。

「こういうホテルってフロントが無くて、自販機みたいなところからキーが出てくるんだぞ……無機質なところが闇に通じる」

 ヒルデは意外にツボにはまっているようだ。タングリスは憮然とし、ケイトとロキはワクワク、ポチはロキの肩に掴まったまま動かない。

 
 いらっしゃいませぇ。

 え!?


 自販機めいたのが喋った!?

 なんと、機械が故障しているようで、パネルの横に鍵束を持ったオヤジが立っているではないか。

「申し訳ありません、二名様と三名様に分かれてのお泊りになります」

「なんでだよ、連絡した時は全員個室だって!」

「すまん、ヤコブ。西部戦線が片付いたんで、うちみたいなところにも予約が一杯になってなあ。あ、もしヤコブも泊まることになったら布団部屋に入ってもらうしかないぞ」

「オレは四号の修理がある、みなさん、一晩の事なんで、どうかご辛抱ください。では、鍵をどうぞ」

 二つのキーを渡すとオヤジはスタッフオンリーの部屋に戻っていった。

 
 ロキとケイトにポチで一部屋、もう一部屋をタングリスとヒルデとわたしで使うことになった。

 
「ふ、風呂がガラス張りだぞ……」

 ヒルデがたじろいだ。

 女同士、気を使わなくていいじゃないかと慰めるが、元来が姫君、首を縦に振らない。ヒルデを先に入れて、その間部屋を出ているという選択肢もあるのだが、タングリスは斟酌しようとはしない。

「女同士です、いっしょに入りましょう」

 なるほど、これなら外から見られて恥じらうこともない。

 入ってみると、この種のホテルの仕掛けが気に入るヒルデだ。

 風呂からテレビが見れるぞ! オー、泡のジェット噴射で気持ちいい! なんで風呂に滑り台がある!? 水鉄砲があるぞ! 子どものようで見ていて飽きない(^_^;)。

 タングリスの裸には驚いた。美人でプロポーション抜群なのは分かっていたが、軍人らしく引き締まった身体にきめの細かい肌が微妙にアンバランス。いや、アンバランスと言っても美しさのアンバランス。なんだろう、この見とれてしまう感覚は? そうだ、形容すると「おいしそう」というのがピッタリして、ドキドキしてくる。

「おいしそうという感覚は間違ってないぞ、ハハハ、そんなにうろたえるな」

「殿下」

 ヒルデが混ぜっ返し、タングリスがたしなめる。

「先にあがります」

 タングリスがあがると、ガラスの向こうに所在なげなケイトが見えた。肩にポチを載せている。

「あっちでは入りにくいので、こちらの風呂を使わせて欲しいそうです」

 タングリスの解説でケイトが入って来る。なるほど、ロキがいっしょでは入りにくいだろう。

「おー、水鉄砲も滑り台もあるし、遊んでいけ(^▽^)/」

 ヒルデはすっかり寛いでいる。

 
 明日はいよいよムヘンともお別れだ。海を渡って、行くべき進路は二通り……ま、それは明日考えよう、タングリスもブリュンヒルデも口にはしないのだから……。

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:100 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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RE・かの世界この世界:095『うちの四号はトップナンバー』

2023-05-12 06:22:48 | 時かける少女

RE・

95『うちの四号はトップナンバー』テル 

 

 

 

 整備隊のヤードは故障車両で一杯だ。

 砲身が膅中爆発(とうちゅうばくはつ)したもの、転輪の欠損したもの、ハッチが吹き飛んでエンジンが剥き出しのもの、不発の命中弾を食い込ませたままのもの、装甲にヒビを走らせたもの、トーションバーがいかれて傾いたもの……いろいろあるが、一応は自力走行が可能な故障車両だ。

 戦車や自走砲は頑丈に見えて、案外脆い。部品点数が自動車より桁違いに多いことや、要求性能が高すぎて、無理な設計になっていることに由来している。

 それにしても多い、あと十両も来れば満杯になるだろう。

 無理もない。西部戦線での戦いをピークとして、ようやく小康状態を取り戻したのだ、修理を要する戦車や戦闘車両が大量に戻ってくる。明日になれば、ベルゲパンターに曳かれて自走不能な車両も戻ってきて、この倍ほどの混雑になるだろう。

 ヒルデはオーディンの姫だし、タングリスはトール元帥の副官だ。少し無理を言えば健康な戦車に交換してもらえるだろう。整備エリアに着くまでにも、撤退してきた戦車が何両も並んでいた。しかし、クルーのだれからも車両交換の声は上がらなかった。シュタインドルフからここまで乗ってきて、みんな、この四号に愛着があるのだ。

「仕方がない、便船を一本遅らせますか?」

 タングリスは、一番不満を言いそうなヒルデに振った。

「四号を交換するのも便船を遅らせるのも嫌だ」

 お姫さまは無理を言う。

「この状況なのです。急ぐならば四号を交換するか便船を遅らせるかしか手がありません」

「だってぇ!」

 大尉の軍服のまま口を尖らせると、コスプレの中坊が我儘を言っているようにしか見えない。

「船便を遅らせます」

 口調は丁寧だが、子どもの我儘を断ち切るように言って回れ右をするタングリス。

 

「ま、待ってください!」

 

 引き留めたのは整備隊のテントから飛び出してきたヤコブだ。

「あと一時間ほどで整備に掛かってもらえるように手配しました。便船には間に合いますから!」

「そんなことができるのか?」

「はい、履帯の交換をやって、主砲を75ミリの長砲身に換装、あらたにシュルツェン(車体と砲塔の周りに付ける衝立のような補助装甲)を付けます」

「そこまでやって間に合うのか?」

「はい、あの四号はD型のトップナンバーであります」

「トップナンバー?」

 タングリスが不審な顔になる。

「書類をちょいといじったのです、ご承知おきを……出発までの宿も確保しておきました、地図をどうぞ。自分は作業に立ち会いますので、これで」

 それだけ言うと、ヤコブはウィンクして行ってしまった。

「なかなか気の利くやつだなあ、働きによっては我がリトルデーモンにしてやってもよいぞ(^▽^)」

 ヒルデは中二病丸出しの喜びようだが、我々には、いささか怪しげに見えないでもないヤコブだ。

「では、宿に向かいますか」

「宿は、どんなところなのだ?」

「ノルデングランドホテルとあります」

「お、なんか豪華そう!」「久々にベッドで休める!」「お風呂に入りたい!」「ご飯も食べたい!」「ご飯会しよー!」

 四号は良い戦車だが、きちんとしたホテルに泊まれるのは嬉しい限りだ、堅物のタングリスでさえ足どりが軽くなっている。

 
 ボーーーーーーーーーーーーーー

 
 港の汽船も、いっしょに喜んでいるように汽笛を鳴らす。

 ムヘン最北の港町に夕闇が訪れようとしていた。

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:100 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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くノ一その一今のうち・55『帝国キネマ撮影所 杵間所長・2』

2023-05-11 15:39:56 | 小説3

くノ一その一今のうち

55『帝国キネマ撮影所 杵間所長・2』 

 

 

 さあ、あちらに。

 

 杵間所長は、いくつもあるセットの一つを指さした。

 セットたちは撮影に都合がいいように立てられているので、てんでんばらばらの方角を向いている。大方は、横向きや後ろ向きで、なんのセットか分からない。

 そのセットも後ろ向きで、ベニヤ板に寸角の骨組みが剝き出しになって、ケーブルやコードが床を這い支木の人形立てにまとわりついている。

「あら」

 思わず声が出てしまう。

 表に周ると、そのセットは二間続きの洋間。広さの割に写るところだけ作られた天井は低く、大小四つのテーブルの上には本やら地図やら、怪しげな、意味ありげなアイテムが乱雑に置いてある。

「ベイカー街221Bのセットです」

「ベイカー街……シャーロックホームズですね」

「ええ、ワトソンといっしょに住み始めたころの、シリーズ初期のホームズのアパートです」

「ホームズをお撮りになるんですか?」

「いつか撮りたいと、セットを組んでみたんです。将来的には『怪人二十面相』や『少年探偵団』なんかも撮りたいんですけど、そのためには本家本元のホームズをと思いましてね。いやはや、まだ脚本も上がっていないし、役者も目途が立っていません」

「でも、なんか本格的……あ……なんかいい匂いがしますね」

「ホームズはヘビースモーカーでして、一説では大麻やコカインとかもやっていたようなので、まさか本物は使えませんが、調合してそれらしい匂いをさせています……ちょっとくどいですね、窓を開けましょう」

 窓を開ける杵間所長。

 ガチャリと窓が開くと、とたんに街の喧騒が飛び込んでくる。ドアの外ではアパートの住人が階段を上り下りする気配がして、空気までが生き生きしてくる。

 振り返ると、入ってきた方も完全に壁ができていて、照明器具がいっぱいぶら下がっていた頭上も、アパートの天井になっている。もうセットではなく完全にシャーロックホームズの世界になっている。

 ええ?

 窓の外も書割ではなくて、本当に倫敦の街と空が広がって、まるでVR、いや現実の世界だ。

「これがキネマの世界なんです。観たいもの観せたいものに渾身の力を注げば、こうなります」

 すごい、これは忍術に通じるところがあるかもしれない。

「そのいちさん、こちらに来ると、すぐに撮影所の周囲を走って様子を探られたでしょ」

 う、見透かされている。

「どうでしたか、撮影所のことはつぶさにご覧になられたでしょう?」

「はい、役目の一つですから」

「でも、どうですか、撮影所の周囲の様子はご覧になれましたか?」

 あ?

 そう言えば、撮影所の中を調べるのに夢中で、その外側と言われると、道が傾斜していたことと崖があったことぐらいしか思い出せない。

「……どうやら、外の風景はお目に留まらなかったようですね」

「はい、忍者としてはお恥ずかしい限りです(-_-;)」

「いいえいいえ、それがわたしの狙いですから。そのいちさんには申し訳ありませんが、ちょっと嬉しいです」

 ちょっと癪だけど、面白くなってきた。

「それで、木下家とのことではご協力願えるんでしょうか?」

「むろんです」

「えと……」

「なぜ、鈴木家に肩入れするか……ですね?」

「あ、はい」

「ワクワクするじゃないですか。この大阪で忍び同士の戦いが繰り広げられるというのは」

「え?」

「活動屋は、ワクワクするのが好きなんですよ。ワクワク、ハラハラ、ドキドキというのは原動力です。そのために、この撮影所は外部とは完全に切り離されています。ここから出撃して、勝っても負けても、ここに戻ってきてください。敵は、キネマ橋からこっちには入れません」

「はい」

「この東洋一のスタジオには想像力の翼があります。想像力があれば、敵の正面を突くことも裏をかくこともできます。そのいちさんや、そのお仲間のワクワク、ハラハラ、ドキドキは、傍で見ているだけで我々活動屋の活力になっていくんです」

「はい」

「フフ、まだ腑に落ちないというお顔ですね」

「あ、いえ」

「そのいちさんを目の前にしていると、なんだか、有能な新人女優さんを見つけたような気がします。期待しています」

「ありがとうございます」

「お部屋は本館の二階に用意しています。『に』の字の縦棒の真ん中のあたりです。食事は一階に食堂があります。突き当りに購買がありますからご利用ください」

「はい」

 それから、撮影所のあれこれや、近隣のお話を楽しく聞かせてもらった。

 パッと見は、そこらへんのおじさんという感じなのに、喋らせるととても面白い。これも、映画という創造の世界に居るからだろう。

「では、そろそろご案内しましょう」

「はい」

 立ち上がったとたんに、ベーカー街のアパートは、セットに戻ってしまった。

 天井なんか無くって、照明器具がいっぱいだし、後ろは壁が消えて薄暗いスタジオに続いている。

 

 途中、さっきの受付の前に出ると、来た時には気付かなかった『新人女優募集』のポスターが目についた。

 いかにも女優……という感じではなく、女学校を出たばかり、緊張しながらも笑顔を見せているオカッパ頭の女の子。

 胸に願書を抱きしめて、ちょっと笑えるぐらいに初々しい。名前のところは長瀬映子と分かりやすい。

 長瀬撮影所の映画の子だものね。

「最初は、こういう真っ新な子がいいんです。女優としての色は、本人とわたしたちの化学反応で着いてきますから」

 化学反応をバケ学反応と発音、ちょっと笑ってしまう。

「むろん、そのいちさんのような、しっかり自分の色を持った中堅どころも大歓迎ではあります」

 ギシギシと木製の階段を上がる。

 油びきの匂いがして、油びきの階段や廊下なんて初めてなのに、とても懐かしい感じがした。 

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長

 

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RE・かの世界この世界:094『ベルゲパンター』

2023-05-11 06:30:56 | 時かける少女

RE・

94『ベルゲパンター』テル 

 

 

 ポチはホバリングして峠の向こうを指さしている。      

 キュロキュロと履帯の音がしてくる、四号よりも重厚な音……五号戦車パンター。

 しかし、峠の鞍部に姿を現したものは、ポチの言う通り変だ。

 車体こそは精悍なパンターだが、その上にあるはずの砲塔は無く、木の箱のようなものとクレーンが載っていて、傾斜した前面装甲の上には二号戦車の主砲である20ミリ機関砲だけが付いている。

「おーーい!」

 タングリスがホッとした表情で道の真ん中に出て手を振る。

 グシューー

 変なパンターは鞍部に乗り上げたところでため息をつくような音をさせて停車した。

「……どうかしましたか?」

 ハッチを開けて操縦手席から眼鏡の兵隊が首を出した。

「すまん、プラグがヘタって動けないんだ、予備があったら分けてくれないか。できれば、ノルデンハーフェンの整備隊まで牽引してくれると嬉しいんだが」

「ハ……はい、喜んで!」

 一瞬の間があって、眼鏡は変なパンターを四号の近くまで寄せると、状況確認のために下りてきた。眼鏡は小柄な奴で襟には伍長の階級章が付いている。

「わたしは遊撃偵察隊のタングリスだ、船の時間に間に合わせたいので急いでくれるとありがたい。ん? そっちは貴様一人か?」

「はい、西部戦線の戦闘が終了したので、急いでベルゲパンターで向かうところであります。回収作業には現場の戦車兵が協力してくれますので、急いで車だけでもと先行しておるのです」

 こいつは、ベルゲパンターという戦車回収車のようだ。

「伍長、おまえの名前は?」

 ヒルデが偉そうに聞く。

 伍長は多彩な乗員にたじろいだようだが、姿勢を正して答えてくれる。

「第七機甲師団、第一戦車回収隊のヤコブ伍長であります」

「ごくろう、なんとかなるか?」

「はい、路上の作業では時間もかかりますし、プラグの予備も数が揃いません。整備隊まで牽引させていただきます」

「そうか、では、みんなで手伝おう」

 タングリスが目配せするとヒルデが下りてきて偉そうに指図する。

 

 戦車の牽引と言うのは自動車のように簡単にはいかない。

 

 車載のワイヤーロープを下ろすだけでも四人がかり。そいつをベルゲパンターのお尻と四号の前にあるフックに掛けるのだが、車体のフックとワイヤーロープを繋げるS型金具一個だけでも12キロの重量がある。フックに掛け終ると二本のワイヤーロープのテンションを均一にするために回収車の方を動かして微調整。無事に終わるのに三十分近くかかってしまった。

「ベルゲパンターの方が空いているので、何人か向こうに乗らないか」

 タングリスが提案すると――仕方がないなあ――という顔。で……なんと、タングリスを除く全員が移動した。

 みんな子どものようにベルゲパンターが珍しいのだ。

 四号をけん引しながら鞍部を超えると、前方から護衛のパンターに引き連れられた別のベルゲパンターとトラックがやってきた。

「ラッキーだなヤコブ!」「オー、早々と」などと言いながらヤコブの仲間たちが追い越していく。

 元来が真面目な照れ屋なのか、少年のように頬を染めるヤコブが可愛く思える。

 

「やっぱ、オープントップは気持ちいいなあ!」

「空気おいしい!」

「なんか、いろいろ積んでるねえ!?」

「あんまりはしゃぐな」

 ケイトやロキに注意しながらも、いちばん面白がっているのはヒルデだ。

「お、プラグの予備が四ダースもあるぞ」

 目ざとく発見したのもヒルデだ。

「あー、そんなところにありましたか!」

 ヤコブの顔がいっそう赤くなった……。

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:100 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・026『レット・イット・ビー』

2023-05-10 14:45:32 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

026『レット・イット・ビー』   

 

 

 二か月ぶりに寿橋を渡る。

 

 ここんとこ、学校に通うために戻り橋しか渡ったことが無いので、リアルというか現実の橋を渡るのは久々。

 橋を渡っても21世紀の令和だというのは、かえって新鮮。

 

 しばらく歩いて銀行の角を曲がったビルの一階が志忠屋。

 

「いらっしゃいませぇ……いやあ、久しぶり(^▽^)」

 ペコさんが不二家のマスコットそっくりの笑顔でカウンターを指さす。

 ランチタイムもそろそろ終わりなんだけど、空いてるのはカウンターの席二つだけ。

 他の四人掛けとかは、尻尾を出したり耳を出したりの妖さんたちがランチを掻っ込んだり、アフターのコーヒーを楽しんだりしている。

「たまごスパ大盛りで、アフターはレモンティーお願いします。で、あとでこれ」

 レコードのジャケットを見せると「おお」ってマスターが横目で了解。

「あ、お嬢さま!」

 声がかかったかと思うと、四人掛けのOLさんたちが気をつけした。

「あ、ああ、こないだの?」

「はい、応さまにはたいへんお世話になりました!」

「わたし、MS銀行のアイです!」

「つくも屋のマイです!」

「寿書房のミーでございます!」

「あ、どうも(^_^;)」

 三人とも猫又さんで、お祖母ちゃんと縁の有りそうな感じだけど、一回会っただけだから返事のしように困る。

 ヒソヒソヒソ……三人で、また話し始めるし。

「巡お嬢さま……」

 一番落ち着いた感じのミーさんが、音もたてずに横に来る。

「は、はい」

「不躾ではございますが、応さまにお手紙をお預けしてよろしいでしょうか」

「あ、は、はい」

「では、これをお願いいたします」

 ミーさんが差し出したのは、時代劇に出てきそうな紙で包んだ手紙で『上』とだけ書かれている。

「では、失礼いたします」

 ピューー!

「へい、おまち」

 呆気に取られて、三人が消えていったドアを見ていると、お目当てのたまごパスタがカウンターに置かれた。

 ドアの方ではペコさんが札を準備中に変えている。

「ペコもテーブル片づけたらお昼にしい」

「はい、ありがとうございまーす」

「で、なんのレコード買うたんや?」

「あ、これです」

「ほほう……ビートルズか」

 そう、今日のお目当てはレコードプレーヤー。お祖母ちゃんが電話してくれて、マスターのお店でかけてくれることになった。

 ごっついマスターが意外な優しさでレコードを扱うのがおもしろい。

「レコードっちゅうのは、ちょっと傷ついただけでオジャンやからなあ……レット・イット・ビー……B面はユー・ノウ・マイネーム……これは知らんかったなあ……」

 

 プチ…………

 

 マスターが、これまた、すごく繊細な手つきで針を下ろすと、温もりのある、なんか湯気がホワホワたつような音が続く。

 十秒ほどピアノの前奏……レット・イット・ビーなんて聞いたことなかったけど、この前奏を聞いただけで――あ、知ってる!――頭の中で電気が灯る。

「いいですねえ、ビートルズ……とくに、レット・イット・ビーが最高です……」

 ペコさんもまかないのパスタを食べながらシミジミ。

「オレ、これ聞きながら万博の工事現場で働いとった……」

「わたし、幼稚園に入って、自分が魔法少女だって分かって、ショックだった年です……」

 え……二人とも幾つなんだ(^_^;)?

「いい曲だとは分かるんですけど『レット・イット・ビー』って、それはBでいいよ? ですか?」

「せや、世の中Aなんて高望みせんとBくらいのとこでええんや、いや、Bこそ真実……ちゅう意味やなあ……」

「なるほど……」

「だめですよ、高校生にウソ教えちゃア」

「ええ、違うんですかぁ!?」

「ウソちゃう! オレ的にはこういう意味なんや」

「ほんとはね『そのままでいい』とか『なんとかなるさ』とかって意味なのよ」

「え、ああ……」

「しかし、レコードの音てええもんやなあ……」

「はい、なんか温もりがありますねえ……あ、ちょっと生意気でした」

「ううん、そう思う人多くなってきたわよ。アメリカじゃあ、レコードの売り上げがCDを追い越したって」

「え、そうなんだ!」

 ちょっと、自分の感性に自信を持った。

 

 それから、1970年の学校やらの話をして、お店のアイドルタイムをぜんぶ使わせてしまった。

 タキさんもペコさんも楽しかったって言ってくれたけど、これからは気を付けよう。

 

 家に帰って、預かった手紙を渡す。

 お祖母ちゃんは――あ~あ~――って感じで天井を仰いだ。

 直感でレット・イット・ビーの精神が浮かんで、なにも聞かずに自分の部屋に戻ったよ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明             留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

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せやさかい・407『バンシーとリャナンシー』

2023-05-10 10:16:16 | ノベル

・407

『バンシーとリャナンシー』ソフィー   

 

 

 愛用のホンダで宮殿を目指している。

 

 ついさっきまで、王室病院で詩(ことは)さんを見舞っていた。

「……あの子の枕もとに何かいるみたいなんです」

 詩さんのお母さんが、そっと教えてくれた。

 ハッとして、詩さんの枕もとに目を向けると、バンシーとリャナンシーのシルエットが見えた。

 バンシーは人の死を予告する妖精、リャナンシーは愛を囁く妖精。

 二人とも道路標識の妖精のシルエットで、まだ本性を現していない。

 霊感の無い人には見えない。勘の鋭い人には気配が、魔法使いには気配を消していても分かってしまう。

 そして、わたしは王女のガードであると同時に王室魔法使。

「カーテンが揺れて、日差しが揺れたんでしょう……ほら」

「あ、ほんと、レースの影がそう見えたんだ。ごめんなさい、変なこと言って(^_^;)」

 軽い暗示をかけてごまかした。二人の妖精も気づいていない様子だ。

 

 なにも無ければ、お見舞いで済まそうと思ったが、そうはいかなくなった。

 その足で病室を出て王宮を目指した。

 

 王宮も王室病院もヤマセン湖の畔に立っていて、厳密に言うとヤマセン湖とその周囲は王宮の敷地。

 今は、大半が国立公園に指定されている。通行や立ち入り制限が王室領と国立公園のそれと似ているので、そういうことにしてある。

 公用車以外の自動車の乗り入れは、一部を除いて禁止されている。

 わたしが乗っているホンダは660CCのアクティー、つまり軽トラックだ。

 ミッドシップで安定性は抜群、リッター18キロの燃費で、なによりも小回りがきいて可愛い。

 ボスのジョン・スミスはケッテンクラートというキャタピラ式のバイクを使っていたが、ナチスドイツの軽車両。

 本国任務になって、ボスはシュビムワーゲンを勧めたが、王宮に二台もナチの車両があるのは問題だ。

 

 トントン

 

 ノックすると「お入りなさい」と陛下のお声。

「失礼します」

「来ると思ったわ」

「陛下も?」

 これだけで通じた。

 陛下もご存知なのだ、詩さんの枕もとにバンシーとリャナンシーが来ているのを。

「事は急を要します」

「そうね、バンシーが居たんじゃ放ってはおけない……それもこれも、わたしが……」

「陛下のせいではありません、詩さんを病院に搬送するときに、魔法で信号を青にしてしまいました。その魔法の痕が呼びこんでしまったんだと思います」

「そうなの、でも思い詰めないでね。そのお蔭で初期治療がうまくいったんだし。コトハ自身もそういう感覚が鋭いようだし……鋭くさせてしまったのはわたしかもしれない……」

「陛下」

「あ、ごめんなさい。用件は、あれかしら?」

「はい、国王と国家の一大事にしか使ってはいけないものですが」

「いいわよ、十分、国王と国家の一大事です」

 そうおっしゃると、陛下は「よっこらしょ」と腰をお上げになる。

「陛下、今回は王女殿下にお願いしようと思います」

「え、でもヨリコは初めてよ、レクチャーもしていないし」

 コンコン

「お入りなさい」

「失礼します」

 入ってきたのは、メイド長にして女王秘書であるサリバンさんと付き従うメイド。メイドは王家の紋章の入った車付きの箱を押している。

 ガチャガチャ……箱の中で音がする。

「クィーンズアーマー!?」

 思わず口走ってしまった。

「そうよ、デーモンズホールに入るには、これくらいの武装が必要でしょう」

「バトルになるとは限りませんし、バトルにはしません」

「あらそう……」

「殿下には扉を開けていただくだけです、魔法石はわたしが一人で取りに行きます」

「でもね……」

「ありがとう、ソフィー」

 サリバンさんにお礼を言われて、わたしと王女殿下の冒険が決まってしまった。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

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RE・かの世界この世界:093『ノルデンハーフェンを目前に』

2023-05-10 06:04:16 | 時かける少女

RE・

93『ノルデンハーフェンを目前に』テル 

 

 

 

 世界そのものが巨大な生き物なんじゃないかと思うようなニオイがしてきた。

 
 これまでも、街道には街道の草原には草原のニオイがした。

 でも、それは土のニオイであったり、草いきれや花の香りという、世界の中に存在しているあれこれのニオイが混ざったものにすぎない。

 しかし、海のニオイというのは圧倒的で、もう世界そのものの体臭のように迫って来る。

 かと言って目の前に海が広がっているわけではない。

 ムヘン最大の港町であるノルデンハーフェンは眼前のささやかな峠を超えたところで見えてくるらしい。

 この世界に来て海を見るのは初めてだ。

 ムヘン川にもエスナルの泉にも水はあったが、こんなに圧倒されるようなものではなかった。

 
 ガクンガクン

 
 咬み合わせが悪くなった歯車のような音をさせたかと思うと、つんのめるように四号は停まってしまった。

 ブルンブルン……ブルンブルン……

 タングリスがイグニッションを掛け直すが、一瞬身震いするだけで四号のエンジンはストップしてしまう。

「エンジンの具合が悪いのか?」

「どうも、この四号は海が嫌いなのか、潮の香りがしてきたとたんに故障のようです」

 そう言うと、タングリスは操縦手ハッチを開けて車外に飛び出した。車体をめぐる音で後ろのエンジンハッチに向かったことが分かる。

「ロキ、操縦席にまわれ、ケイトとテルは手伝ってくれ」

 ヒルデは車長らしく指示するとキューポラから飛び出した。

「ムー、わたしは?」

 指示のなかったポチが一人前にむくれる。

「ポチは上空で警戒に当たれ、それでいいよね、タングリス?」

 ロキが咽頭マイクを喉に押し付けて聞くと――ああ、それでいい――とレシーバーからタングリスの声。ポチは「わかった!」の一声を残して、四号の上空へ飛び上がっていった。

「キャブレターか点火プラグか……」

 タングリスはトラブルの原因を絞り込んで調べ始める。

「我が魔力をもってすれば一瞬で直せるであろうが、安直な解決は先々への禍根になるやもしれず、残念だが見守っておることにするぞ」

「残念がらなくてもけっこうです、二人一組になって足回りのチェックをお願いします。ゲペックカステンの中に点検用のハンマーが入っていますから」

「そ、そうか、しかたあるまい」

「ヒルデ、休む気満々だっただろ」

「うっさい!」

 ケイトに指摘されると、手にした野戦用レーションをハンマーに持ち替えて目配せする。

「はいはい」

 その成り行きで、わたしはヒルデと、ロキはケイトと組んで四号の左右に分かれて点検にかかる。

 
 戦車の点検はSLのそれに似ている。目視で異常がないかを見ながら柄の長いハンマーであちこちを叩いていくのだ。

 
 カンカン カンカン

 四号の左右で小気味いい音が響く。

 しかし、四号の足回りは音の割には良くなかった。

「履帯のピンがヘタって切れそうなのがあるなあ」「転輪のボルトが欠損してるのがある」「履帯も新旧取り混ぜ……限界のがある……」

 真剣に見ると、あちこち心もとない箇所が発見される。その間にタングリスは十二個のプラグを全部外し、半分以上が寿命であるとため息をついた。

「この路上では修理しきれんなあ……」

 タングリスを囲んで、みんなが腕を組む。タングリスというのは、こんな苦境にあっても美しい奴だ。眉間に刻まれた皴でさえチャームポイントに見えてしまう。

 

 へんなのが来るよーーーー!

 

 上空でポチが叫んだ。

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:100 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・025『ヤミの自習だって』

2023-05-09 12:55:57 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

025『ヤミの自習だって』   

 

 

 小中学校では毎朝の朝礼があった。

 

 登校して、時間になると担任の先生がやってきて、日直の確認やら諸連絡。

 小学校では、そのまま一時間目の授業になって、中学では担任が帰った後一時間目の先生がやってきて授業になる。

 

 ところが、1970年の宮之森高校は、その朝礼が無い(^0^;)。

 

 みんな真面目だから、五分前には自分の席に座ってる。当然机の上には一時間目の用意。

 ときどき予鈴が鳴ってから教室に入って来る子もいるけど――遅れたあ!――という感じでサッサと用意する。

 人生斜めに生きてるような10円男でも、授業そのものに遅刻することは(いまのところ)無い。

 そして本鈴が鳴って、平均すると1~2分で先生がやってきて、目出度くその日の授業が始まる。

 

 国語の杉野先生は遅く来て早く終わる。

 

 高校の授業って50分なんだけど、杉野先生の授業は40分あるかないか。

 まあ、いいけど。

 

 今日の一時間目は、その杉野先生の現国だ。

 そろそろ5分というところで、廊下で気配。

 杉野先生が、後ろのドアからオイデオイデをしている。

 後ろの子が気づいて――なんですか?――すると、その子にゴニョゴニョ言って、その子が委員長の高峰君に声をかける。

 高峰君が廊下に出ると、なんだかヒソヒソ話。

 十秒くらいで話が終わって、戻ってきたのは高峰君一人。

「一時間目は杉野先生の御都合で自習になりました、各自静かに自習しておくようにとのことです」

 え? ええ? という空気が広がる。

 いきなり自習と言われてもどうしていいか分からない。なんせ、入学以来初めての自習。

 現国でなきゃだめなのかなあ……他の教科でもいいよね……本読んじゃだめなのかなあ……そういう真面目な戸惑いが、微笑ましく広がる。

 自習って言えばスマホでしょ! この時代じゃ手鏡にしか見えないんだし!

 でも、さすがに教室では憚られる。

 ロコや佳奈子のとこに行っておしゃべりしたいけど、席を変わるどころか立ち歩く人もいないしねえ……と、思ったら10円男が居ない。

 どこに行ったんだ?

 で、三分ほどで帰ってくると、なにやら高野君に話している。

 なにか説得してるみたいなんだけど、高野君はにこやかに首を振って、10円男も自分の席に戻った。

 

「ねえ、高野君になに言って……ていうか、抜けてどこに行ってたのよ?」

 

 休み時間に聞いてみる。

「杉野の自習はヤミだ」

「イヤミ?」

「ヤミ」

「闇?」

「モグリだ」

「なんで?」

 たしかに杉野先生は度のきつい眼鏡で、笑う時に前の歯が二本目立つとこなんかモグリ⇒モグラってのを連想する。

「正規の自習は教務の黒板に書かれるんだ。全クラスの授業時程が升目になってて、教務が把握してるものは、ちゃんと書かれる」

「そうなんだ」

「で、他の教科の先生が空き時間だったら、交渉して授業をやってもらう」

「え、どうゆうこと?」

「つまり、六時間目の地理、高橋だろ。だから高橋に一時間目に来てもらったら、五時間目が終わった時点で帰れる」

「ええ、そうなの!」

 わたしの声が大きかったのか、お仲間が集まってきた。

「それで、高橋、高橋先生に交渉に行ったんだ」

「どうだったんですか!?」

 ロコが身を乗り出してきた。

「『ほう、加藤、今年は委員長か』ってイヤミ言われた」

「そうか、それで、高峰君に言ってたんですね」

「いやあ、委員長も知っててね、そもそも正規の自習じゃないから入れ替えは不可だって。もう一時間目に食い込んでたし、まあ、御節ごもっともではある」

「じゃあ、朝、職員室の前で確認した方がいいわねぇ」

 たみ子さんが腕組みする。副委員長として期するところがあるようだ。

「お、頼もしいなあ」

「さ、次は芸術だから移動しよう」

 真知子さんが理性を取り戻して、二時間目の美術教室に向かった。

 

 間抜けなお話を一つ。

 

 映画の帰りにレコードを買ったんだけど、うちにはレコードプレーヤーが無かった!

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明             留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館
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鳴かぬなら 信長転生記 122『600人6交代にしてやる』

2023-05-09 10:06:30 | ノベル2

ら 信長転生記

122『600人6交代にしてやる信長 

 

 

 数え直すと、船内には600人の浦島太郎がいる。

 艪口は両舷合わせて100なので、6交代制にした。

 予定では3交代のつもりだったので、漕ぎ手の浦島太郎たちも櫂を漕ぐ手に力が入る。

 

 そーーれ! よいやっさ!!  そーーれ! よいやっさ!!

 

 一人の時は、さんざんプータレていた浦島太郎だが、人数が増えて俄然、意気軒高になってきた。

 長篠の戦を思い出す。

 信玄はくたばったものの、武田騎馬隊は力も強く意気盛ん。その軍団は、五里の彼方からでも半端ではない圧を感じさせ、歯向かう者は、その圧に気おされて武田軍の姿を見る前に膝が笑って立てなくなったという。

 家康なんか、三方ヶ原でさんざんに打ち負かされ、僅かな家来たちに守られ、ウンコ漏らしながら逃げ帰った。

「殿! あまりの恐ろしさにクソを漏らされましたな!?」

 三河武士は遠慮が無い、鞍壺のウンコを指さし、のどちんこ剝き出しにしてカラカラと笑う。

「バ、バカを申せ! それは、腰の味噌が鞍にこすれて付いただけじゃ(#`O´#)o!」

 三河の田舎者は塩分補給の為に腰に味噌袋を下げて戦にいく。それに掛け、ギリ、ギャグにして面目を保ちおった。

 大河ドラマでもやってるから、よく知られた家康のエピソードだ。

 

 あのエピソードには裏がある。

 

 子どもの頃、家康はうちに人質になっていた時期がある。子どもの頃は神経質なやつで、一緒に遊んでいて、よく腹を壊していた。

「お兄ちゃんがイジメるからだよ!」

 市が口を尖らせて文句を言ったのも懐かしいがな。

「竹千代、そんなことでは、元服して戦に行くようになったら戦場でウンコ漏らすぞぉ」

「え、え、どうしよう(;゚Д゚)」

 マジにビビる家康は情けなかったが、あいつ、家庭環境も相当だったから、将来のことを思って知恵を付けてやった。

「そういう時はな『腰に付けた味噌が鞍に付いただけじゃ!』と言っておけ」

「でも、味噌とウンコじゃニオイが違う」

「ウンコと言うからじゃ。クソと言っておけばミソとは一時違いであろうが」

「さ、さすがは信長君!」

「俺のことは『信長様』と呼べ」

「で、でも信秀様が『兄弟と思って付き合え』と……」

「親父は、いまの俺しか見ておらん。いずれは天下を取って竹千代も家来の一人じゃ、主君に『信長君』はありえないだろうが」

「な、なるほど」

 すると、市が前歯の抜けた顔でケラケラ笑いおって……え、なにを思い出に浸っているんだ?

 どうも、浦島太郎の女々しさが伝染ってしまったか(-_-;)。

 そうだ、その浦島太郎。

 長篠の戦の我が軍団と同じだ。武田と聞くだけで震えの来るやつらだったが、鉄砲三千丁の三段構えを教えてやると、ウンコも漏らさずに立派に戦いおった。

 人は使いようとモチベーションの持たせ方で変わる。

 

 そーーれ! よいやっさ!!  そーーれ! よいやっさ!!

 

 600人の掛け声は迫力がある。600人……こいつ、かなりの引きこもりであるとは思っていたが、600人=600年とはな。

 

 そんな調子で二昼夜、まだ二日は掛かるだろうと晩ご飯のメニューを考えていた。

 あ、船中での飯は美味いぞ。

 なんといっても、浦島太郎は漁師だ。漕ぎ手の当番が当たっていない時は、甲板で調練をやるんだが、それでも一度にはできないので、手空きの浦島太郎たちに魚を獲らせてご飯を作らせる。

 都合四日となると、4×4=16、16回のご飯だ、楽しみだろうが!

 それがだ、海の上に居るとめっぽう腹の空くものでな、夜食とお八つもあるんだぞ!

 鬼ヶ島では激戦が予想される。しっかり食っておかなければな。しっかり食うためには美味いものを食わなくてはならん(^▽^)。

『酒も飲みたいなあ(^_^;)』『わたしは食べ過ぎたから鯛茶漬けがいい』

 思金神もアッチャンも、ご飯の時は実体化する。

 勾玉や剣に変態していても食べられるらしいが、それでは味気ないらしい。

「よし、三人で献立を考えよう!」

『『考えよう!』』

 その気になったところで見張りの浦島太郎がメガホンで叫んだ。

 

「鬼ヶ島が見えるぞおおおおお!」

 

 予定よりも二日早く鬼ヶ島決戦が始まろうとしていた!

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

 

 

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RE・かの世界この世界:092『ポチの帰還』

2023-05-09 05:52:52 | 時かける少女

RE・

92『ポチの帰還』ポチ 

 

 

 

 気がついたらヨタヨタと飛んでいる……たぶん……東にむかって。

 
 バシュっとからめとられて、いっしゅんふり返ったら、エスナルの泉ほどの口を開けたイソギンチャクみたいなのに呑みこまれそうになっていた。くさい息がモワモワからめとるようにおそいかかってきて、もうダメだああ!

 そして、どのくらいか意識がなくなって、気がついたらヨタヨタと飛んでいるんだ……。

 右手にムヘン川が見えているから東にむかっていることはまちがいないと思う。

 はいきょとやけ野原の間をいくつかの曲がりくねった道が走っている、おおかたは、平和であったころの町や村、あるいは畑の道であったんだろうけど、こう荒れはててはよく分からない。その中の一本がムヘンかいどうで、そのかいどうのどこかに四号が身をひそめているはず……さがすと、ほかの道とゴッチャになってこんらんする。

 えと……えと……えと……また気がとおくなってきた。

 なつかしい鉄と油のにおい……ハッとわれに返ってとびおきる!

 

 ゴチン!

 

 まっ白い天じょうに頭を打つと、なじんだ手がつつむようにして助け上げてくれる。

「あ、気がついたか!?」

 四号の車内、わたしは通しんきの上のベッドに寝かされていた。ロキがウエスの布団でつつむようにして介ほうしてくれている。

 助かったんだ……

「おっと、もう気絶すんなよ」

「ロキ! ロキ! こわかったよー!」

「もう大じょうぶだ、よくやったな。ヨタヨタ飛んできたかと思うと四号のまうえでピタッととまって落っこちてきたんだぞ」

「ロキが受けとめてくれたのぉ?」

「ああ、だいぶ前から、ポチが帰ってくる気がしてさ。ほうとうの上で待ってたら、ちょうど広げたオレの手の中に落ちてきたんだ」

「そ、そーだったんだ……ロキ、なんで上半身はだかなの?」

「ああ、受けとめた時、ポチのにおいが移っちまってな」

 見ると、開けはなったハッチから、アンテナにくくり付けてはためいてるロキの上着が見えた……上着の下には見おぼえのある小さい服が……あ、わたしの服だ!?

「犬の口の中みたいにドロドロで臭かったから洗ったんだ」

 タングリスが横顔のまま言う。わ、わたしってばすっぱだかだ!?

「新しい服もぬってるから、元気になったら着てみなさいよ」

 ケイトとテルが狭い車内でなにかぬってる。

「あ、ロキ、見るなあああ!」

 あわてて、ウエスの布団を身にまとう。

「おまえ、そんな人間の女の子みたいな反のうすんなよ」

「そうだぞ~、気ぜつしてるおまえを、ロキはかいがいしく洗ってくれたんだぞ~」

 自分でも分かるくらいに真っ赤になる。

「うそだよ、男はあっち向いてろって、女子のみんながやってくれたんだ」

「しかし、だんだん人間らしくなっていくなあ……ところで、西のほうはどうだった?」

「あ、そ-だ」

 まだ生々しい感かくが残る西ぶせんせんの情ほうを伝える。みんな、それまでのオフザケをやめて真けんに聞いてくれる。

「人とクリーチャーのゆうごうか……」

「新しいきょく面ですね」

 ヒルデとタングリスが顔を見かわす。

「トール軍とレジスタンスとクリーチャー……それに、人とクリーチャーのゆうごう体か」

「四つどもえだな」

「しかし、そのおかげで、かい道は平おんなんだ。一気にノルデンハーフェンを目ざすぞ!」

 ヒルデがこぶしを上げて、四号は動きだしたよ。

 

☆ ステータス

 HP:9000 MP:100 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・60 マップ:5 金の針:0 所持金:1500ギル(リポ払い残高34400ギル)
 装備:剣士の装備レベル25(トールソード) 弓兵の装備レベル25(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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銀河太平記・160『主席代理』

2023-05-08 15:54:26 | 小説4

・160

『主席代理』メグミ 

 

 

 ヨイチ准尉の機動車がニッパチを乗せてブンカ―を出るのと入れ違いに、中型小型のパルスボートが数十機入ってきた。

 

 パルスボートには、世界中のボランティア……というと穏やかに聞こえるけど、要は志願兵や傭兵が乗っている。

「うまく考えたな」

 サブが「胡同首領」のヘルメットを阿弥陀にして、口を尖らせる。

 その横のマヌエリトは戦闘服でありながら、全身からナバホインディアンのオーラを出しまくって腕を組んでいる。

「え、なにがぁ?」

 呟いたのがマヌエリトだったら、きちんと顔を向けて「なにがですか?」と丁寧に聞いている。

「だって、ボランティアたちの入港に合わせて潜航させて気配を消したんだろう。北回りで島の西の海に出れば軽石がいっぱい浮いてるから、それに紛らせてしまう。時間はかかるけど、黒潮反流が本土の近海まで連れて行ってくれる」

 ウ……さすがは周温雷が主席代理に任命しただけのことはある。

「さあ、たまたまよ。それより、中華系はあんたが任されてるんだから、ちゃんとやらなきゃダメよ、胡同首領の肩書はダテじゃないんだから」

「うっせー、オレは出迎えと連絡専門、ほら、旗のドラゴンだって指は四本だ」

 周主席のドラゴンは五本指。

「え、あ、ほんと( ´艸`)」

「笑うな! オレも詳しくは分かんねえけど、主席代理の権威はよっく伝わるんだ」

「ごめんごめん」

「サブ、ここに立て」

 マヌエリトが腕を組んだまま、手前の岩を示す。

「え、ここ?」

「背が高く見える」

「え、あ、ああ」

 マヌエリトの指示は一発で聞く。

 支持の中身が適切だし、たいてい主席代理の自分を立ててもくれるからだ。それに、ナバホインディアン大戦士の押し出しはハンパではない。

 岩の上に立ってわたしよりは高くなったサブだけど、マヌエリトには首一つ分足りない。

 それでも、背後にフートン主席代理の旗、後ろにわたしとマヌエリトが控えると偉いように見える。

 

 フートン主席の周温雷は、パルスギ鉱が発見されるとサブを主席代理に任命して島を出た。

 

 販路の開拓という名目だけど、本心は違う。

 狙いは、わたしがココちゃんを火星に避難させたことに似ている。

 主席という立場を利用されないためだ。

 フートンは漢明系の者が多い、漢明が島に目を付けると、最初に働きかけてくるのがフートン。

 フートンは周主席がよく治めていて、良きにつけ悪きにつけ周の提案や指示が無ければ動かない。

 フートンの中には、わたしから見ても漢明の息のかかった者が入り込んでいる。でも、周は露骨な妨害工作でなければ放置していた。そういうファジーというか大ようなところが信頼を得るポイントになっていた。

 しかし、漢明が真正面から島に目を向け始めると、あの手この手でフートンを抱き込みにかかる。あらぬ噂も立つ。

 フートンを動かしたい漢明は周を、あるいは周の名前を利用する。

 そのために、周は姿をくらませた。噂では、月の裏側で金の鉱脈を掘り当てたとか、アメリカでトラックの運ちゃんをやりながら次の手を考えているとか。

「すみませんでした、メグミさん!」

 汗を拭きながら及川市長がやってくる。

 かくいうわたしは、市長が間に合わない場合、代わって歓迎の挨拶をすることになっていた。

 マヌエリトは口下手だし、サブは調子に乗ってなにを言い出すか分からないからね。

 ボランティア=志願兵の受け入れは、毎回増えてくる。

 この分では、次回からはうちの社長……いや、睦仁王にやってもらわなくてはならないだろうね。 

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  •  

 

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