大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・053『ブラウニーの右手と左足・2』

2024-06-21 11:45:45 | カントリーロード
くもやかし物語 2
053『ブラウニーの右手と左足・2』 




 朝から二回も妖怪をやっつけたやくもは敵の動きに付いていけないよぉ。

 冬の体育で持久走ってやるじゃない。グラウンドを何周も走らされるやつ。たいてい十周以上だよね。
 その持久走で、やっとゴールと思ったら勘違いで「小泉、あと一周!」って先生に言われた時の――ええ(;'∀')――って時の感じ。
 数学の宿題やってて、終わったと思ったら、もう一ページあったときの感じ。

 いいや、ナザニエル卿は「入り込んでいる妖は七種類」と言っていたから、ブラウニーの義手義足を入れて、まだ五匹はいるわけ。
 夏休みの宿題を試しにやってみたら、けっこう大変で、一覧表見たら、まだまだあって尻餅付いた時の気分。

 つまり、ハナから気持ちが負けてるんで、ミチビキ鉛筆は奮闘してくれるんだけど、なかなか有効な攻撃ができない。

 ピシュ!

 義手が手刀になって頬を掠める。

 ブン!

 義足が回し蹴りをかけてくる。

 鉛筆のお蔭で、なんとかかわすけど、次は喰らってしまうかもしれない。

 なまじシュガートーストをひと齧りしたものだから、かえって腹ペコが増幅されて目が回りそう。

『やくも、耳を貸せ……ゴニョゴニョ……』

 鉛筆に耳を貸すと――そんなことをやったら敵の力が強くなるぅ!――と思ったけど、ミチビキ鉛筆というくらいだから効果があるのかも。

やくも:「ねえ、義手義足ぅ」

義手:『おれたちはそんな名前ではない』

やくも:「えぇ……じゃあ、なんて名前?」

義足:『プロセスティック、複数で言う時はプロセスティックスだ』

やくも;「うう……発音むつかしい……プロセス」

義手:『略すな』

義足:『まあ、愚かな東洋人には難しいんだろ』

義手:『そうだな、見ればまだ小学生のようだし』

義足:『子どもが、どうして王立魔法学校に入れるんだ?』

やくも:「小学生じゃないもん!」

義手:『じゃあ、チビだ』

義足:『そのチビが、なんの話だ?』

やくも:「チンタラ戦うのは面倒だから、まとまって向かって来なさいよ!」

義手・義足:『なんだとぉ?』

 ヤバ……なんかチョー本気で怒ってる感じだよ(;゚Д゚)

 グルングルン……二匹で回ったかと思うと、次に距離をとる。

 エイ! ガチコーーン!

 掛け声と共に合体して、そのまま旋回!

 グァラングァラン……

 ゆっくりした旋回は、少しずつ早くなっていく。助走をつけてる感じ。

 ヤバイ、あのまま勢いを増して飛んでこられたら一巻の終わり!

 ところが、ググァンと加速したとたん、空中を不規則に暴れるように飛ぶ義手義足の合体形!

義手:『ちょ、どこに行く!?』

義足:『お、お前こそ!?』

義手:『ちょ、停まれ!』

義足:『ちょ、お前こそ!』

 バチコーーーン!!

 義手義足、いやプロセス二匹は合体形のまま結界にぶつかって穴をあけ、そのはずみで下に落ちていく。

「すごい、言った通り自滅していったよぉ(゚д゚)!」

『そうだろ、あいつら質量が違うからな、合体したらバランスが取れなくて暴走するんだ』

「さすが、ミチビキ鉛筆!」

 開いた穴は、すぐに木の葉がいっぱい飛んできてワシャワシャと修復にかかる。

 森との連携はますますよくなってきている感じ。

 校舎に戻ると、二匹のプロセスはただの義手義足に戻って、ブラウニーの手足に戻った。

 でも、やっぱり扱いにくそうなので、ティターニアがオーベロンに命じて新しいのを作ってあげることになった。


 三匹も連続してやっつけた。森の住人たちも二匹やっつけて、残り二匹は逃げ出してしまったみたい(^_^;)。

 とりあえず、めでたしめでたし。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精)  プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖)
   
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)067・夏休み編 思い出のサンフランシスコ・5

2024-06-21 08:43:16 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
067・夏休み編 思い出のサンフランシスコ・5                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 世界高校生徒会会議というものがある。


 読んで字のごとく、世界中の高校生徒会の代表が集まって、あれこれ話し合う世界組織で、三年に一回世界各都市で世界大会が開かれる。

 で、いろいろの事情や成り行きで、わが大阪府立惣堀高校が日本代表に選ばれ、出不精の会長になり代わって、不肖瀬戸内美晴が今年度の開催地のサンフランシスコに出張っている。

 滞在中はサンフランシスコと、その周辺の高校生ボランティアの家にホームステイして、わたしはミッキー・ドナルドの家にお世話になっている。

 大会の半分は相互交流に時間が当てられて、ミッキーがあれこれホストになって世話をしてくれて、今日はチャイナタウンで食事の後のドライブでここに立ち寄っているわけ。

 地区代表でもあるミッキーは地元の生徒会のみんなに声をかけて、いろいろイベントを企画してくれている。単にスケジュールをこなすだけじゃなくて、相互理解を深めていくために、スケジュールはファジーにしている。相手の好みや親しみ具合で、最上のもてなしをしたいということなんだ。

 今日は、地元の高校生や生徒会のメンバーと交流の予定だったんだけど、アメリカの高校生の夏休みはメチャクチャ忙しい。
 なんたって夏が学年の変わり目で二か月の休み。二か月もの夏休み中に将来に向けてのスキルアップやボランティア活動やらの日程が目白押しなわけ。

 それに、11月に迫った大統領選挙も影響していると思う。共和党は追い上げてるし、民主党も必死だし、アメリカじゃ高校生も無関心じゃない。

 ま、異邦人のわたしが深入りする問題じゃないけどね。

「なんとか都合の付くメンバー集めるよ」

 ミッキーが胸を叩いてから三日がたった。で、その間、ミッキーがあれこれと観光案内をしてくれて、予定通りにいかないことに少し焦れてる?


 以上のことを一瞬の間に思いめぐらせた。


 なんでかというと、ゴールデンゲートブリッジが見渡せる丘の上で、いきなりミッキーがキスしてきたから!

 でもって、アメリカ人のくせに、とってもヘタクソ!

 なにかって? キスよキス!

 信じられる!?

 ミッキーの様子に「え?」と驚きの表情の口に、ミッキーの口が迫って来たのよ!
 ミッキーは20センチも背が高いので、まるで急降下爆撃みたいに迫ってくるわけよ。
 
 ガチって音がした!

 信じられる!? 

 歯と歯がぶつかって火花が出た!

 イッターーーーーー!!

 あたしは口を押えてしゃがみ込んだ。

 ミッキーに悪意が無いことは分かっていたし、歯をぶつけたあとは大きなドンガラでワタワタしている。

 とっさに考えた。

 逃げたり叫んだりしたら、ミッキーはきっと捕まってしまう。

 アメリカはバイオレンスとハラスメントにはめっちゃ厳しい。わたしが驚きのあまりパニクったりすると大ごとになる。

 だから、恋人同士のちょっとしたトラブル風にってか、ラブコメアニメのワンシーンみたいなリアクションをとったわけ。

 で、痛いし理不尽な状況で自分をなだめる為に、ここに至る流れを反芻しておったわけですよ。

 オ、オ、オ、ソーリーソーリー(;'∀')、ア、ア……イ、ベッグ ユア パードン(;>∀<)!

 ミッキーも、大きなドンガラでひたすらワタワタ。

 声を聞きつけたあちこちのアベックさんたちが不振の声を上げている。

 エーイ! もう一発ラブコメ的処理を!


 ポカポカポカポカポカポカポカポカ


 わたしは立ち上がるとミッキーの胸を叩きながら泣き笑いをしてやった。

 やりながら思い出した。

 このリアクションは、演劇部の部長がやってるエロゲのワンシーン!

 ちょっとおぞましいけど、これが功を奏して、不審に思っていたオーディエンスのみなさんは安堵の様子。


 でも、


 オーディエンスの中にミッキーの叔母さんが居合わせて、この様子を写真付でお父さんに送ったことには気づかなかった。


「ミッキー、テメーーブチ殺すぞ!」


 家に帰ると、ミッキーパパが拳銃を構えていたのには寿命が縮んでしまったのだった……。




☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)066・夏休み編 思い出のサンフランシスコ・4

2024-06-20 09:42:36 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
066・夏休み編 思い出のサンフランシスコ・4                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです




 高さ300メートルのあべのハルカスどころか、91メートルの通天閣の展望台からでも全域が見渡せるほどに狭い大阪。


 なのに、何年も会わない人間もいる。


 同じ中学出て、引っ越しもしないで同じ校区に居るのに卒業このかた会ってないなんてザラよね。同窓会とか無かったら、ほんと死ぬまで会わないのが大方よ。


 それが、サンフランシスコでふと入った中華飯店。


 その背中隣の賑やかなテーブルにいたのが、我が天敵の演劇部四人組なんて信じられる!?


 生徒会副会長の瀬戸内美晴ーーーーーーー!?


 そう叫んだ松井須磨の怖気だけは共感できた。

「あ、あたしたちね、オルブライト奨学金! 懸賞が当たっちゃって! で、で、アメリカ旅行! 否! 研修旅行中!」

「なんです!」

「せやねん!」

「Yes it is!」


 バラバラだけど、言ってる中身はいっしょ。テーブルの下の手でエンガチョやってやがんだもん!

 わたしもエンガチョしたいけど、相方のアメリカ人は意味わかってないからエンガチョ切ってくれる者もいない。


「日本人でも、あんなにアグレッシブな会話するんだね」

 ハンドルを握りながら相方のアメリカ人。

「アメリカ人も約一名いたけどね」

「あ、あのブロンド?」

「シカゴの高校生、交換留学でうちの学校に来てるの」

「物腰は日本人だったね、ハーフか日本生まれかと思ったよ。ミハルのオオサカって、なんだかラテン系だね」

 こつはミッキー・ドナルドって、ネズミなんだかアヒルだか分かんない名前の十八歳。

 地元の高校で生徒会長をやっている。

 こいつとどういう因縁かは、今んとこ勘弁願いたい。


「え、家に帰る道じゃないでしょ!?」


 ボンヤリしてて気づくのが遅れた。わたしの宿は二つ手前の道を曲がっていなければならない。


「今夜は霧が出ないんだ」

「あ、ああ」

 危うく納得。

 サンフランシスコに来てからずっと霧にたたられ、サイトシーングが出来ていない。

 特にゴールデンゲートブリッジを見てみたかった。スコーンと晴れ渡った青空の下か、暮れなずむシスコの街を背景に。

 それをミッキーは覚えていたんだ。

「ここは、百年前に砦が築かれてたとこで、GB(ゴールデンゲイトブリッジ)一押しのビュースポットなんだ」

 着いたところは丘の上で、見下ろすGBは絶景。背景になっている街が神戸や横浜の夜景みたいで、それよりもスケールが大きくって、わたしの憂さを晴らしてくれる。

「アメージング……」

 そう呟きながら涙がこぼれてしまったのは、やっぱ気が弱っていたせいかもしれない。

 だれかの胸に顔をうずめたくなった……しっかりしろ瀬戸内美晴!

 自分を叱った、その刹那。


 え!?


 ブチュ!


 ミッキーの顔が迫ってきて、17年の人生、初めて唇を奪われてしまった!



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・105『戻り橋で七夕を思いつく』

2024-06-20 08:59:47 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
105『戻り橋で七夕を思いつく』   




 いつものように川を渡って学校に行く。


 寿川

 普通の橋を渡る分には、普通の川だ。

 だけど、わたしが渡るのは戻り橋。

 魔法少女しか渡れない橋で、普通の人には渡るどころか見ることさえできない。

 川沿いにはフェンスというか子どもの背丈ほどの防護柵があって、魔法少女だけが見える柵の根元にMの標石がある。それを足でつつくと戻り橋が現れる。

 通行人とかに見られないようにして現れた橋を渡る。人には女子高生が忽然と消えたようにしか見えなくて、見られてしまうと騒ぎになるので要注意。

 一度だけ近所のお婆さんが付いて来てひと悶着あって(093『お婆さんが付いてきた』)それからは気を付けている。

 渡っているのは寿川と重なって流れている時空の川。この川を渡ると半世紀以上の時を跨いで昭和の世界に入る。

 最初に渡ったときは、ちょっとビビった。流れているのは水では無くて時間だからね。うっかり落ちたり水しぶきを浴びたりすると、どんな影響があるか分からない。それに、川はいつも轟々と音を立てているから、ちょっとおっかない。「そりゃあ、何千年の時間が流れているから、いろんなことがあるさ」とお祖母ちゃんは言う。

 だからね、近ごろは慣れてきたけど、やっぱり十秒そこそこで渡り切ってしまう。

 その時空の川が、今朝は穏やかだ。

 今までにも穏やかな時はあったのかもしれないけど、余裕のないわたしは気にも留めなかったのかもしれない。

 ……なにかキラキラしたものが流れていく。

 四月の中頃、例年になく長持ちした桜もようやく散りはじめ、リアルの寿川は花びらがいっぱい流れていた。そういう様を花筏とか言うらしくて、ちょっと見とれてしまった。

 橋に踏み込むと、あのころの花筏みたくキラキラしたのが川面を流れていく。

 あまり橋の上で立ち止まってはいけないんだけど、すこし見とれてしまった。


 そして、思いついた。

 
「ねえ、七夕やろうよ」


 いつものように駅前で出会ったロコを皮切りに、MITAKAのみんなに話した。

「みんなに短冊書いてもらってさ、笹に吊るすの。みんなの願いとか希望とか、思いやりとか吊るしたら、少し優しい気持ちになれるんじゃないかなあ」

 そういう意味のことを伝えると、昼休には話が広がった。

「うん、いいと思う。金原さんのこととかMITAKAで話しても、なんだか学校や誰かを糾弾するような雰囲気になるもんね。うん、いいよ、いいことだよ。静かに穏やかに胸に刻む、いい方法だと思う」

 真知子がモワっとしてただけのわたしの気持ちを代弁してくれる。

「うんうん、短冊に書くんだったら、そんなに気負わずに済むし、子どもの頃みたいに楽しんでできるよ」

「たみ子、いいこと言う!」

 そうだよ、みんなでお星さまに『お願い』とか『ここだけの話し的』にやれば、下手にエキサイトせずに済む。

「最後は、グラウンドとかで燃やせば雰囲気ですよ!」

「でも、許可出るかなあ」

 ロコが盛り上げて、女バレでセッターの佳奈子は、話の要にボールを戻す。

「まあ、それは後で考えるとして、まずは生徒会に話を通そうか」

 そう、全校的な盛り上がりにするなら、まずは生徒会。

「あれ、生徒会室は向こうですよぉ」

「フィクサーが先よ」

「「「あ、ああ」」」

 真知子を先頭に向かったのは職員室の倉田先生、生徒会の顧問だ。


「ううん……趣旨は悪くないが、短冊は事前にチェック。最後に焼くのはダメだからな」

 文化祭のファイヤーストームもアウトだったから、釘を刺されてしまう。

「それに、まずは執行部に言うのが先だろ」

「アハハ、ですね。途中に職員室があるので、まあ、ご挨拶と思いまして。まあ、MITAKAのサークル行事でやろうと思うんですけど、一応は話を通しておこうということです」

 アハハハ

 みんなで愛想笑いして、あらためて生徒会室に向かう。

 そうなんだ、事前に倉田先生に言っておくことで話を通りやすくしとくんだ。二年生になるといろいろ知恵が付いてくる。

 まあ、ひそかに期待していたファイアーストームは初手から詰んでしまったけどね。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)065・夏休み編 思い出のサンフランシスコ・3

2024-06-19 07:20:51 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
065・夏休み編 思い出のサンフランシスコ・3                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 日本から来られたんですか?


 テーブルに案内してくれたオネエサンがにこやかに聞く。日本語だし。

「はい、今日から三日ほど」

 我ながら愛想よく答える。

 学校では不愛想とかツンデレのデレ抜きとか言われるわたしだけど、この旅行に来てからは違うんだ。

「それはそれは、その最初のディナーに当店を選んでいただいてありがとうございます」

 笑顔には笑顔が返ってくる。

 ま、いいことなんだけど。日本に帰ってやろうとは思わない。
 
 そんなわたしは松井須磨。六回目の三年生をやっている二十四歳の女子高生。


 なんか文句ある?


 ジェファソンホテルのフロントさんの勧めでチャイナタウンの中華飯店に来ている。

 手違いでディナーが間に合わないので「お箸の使えるところ」と注文を付けた。

 とにかくホテルから歩いて三分。

 坂道の多いサンフランシスコだけど、この飯店には等高線をたどるような水平移動で済むのでありがたい。

 千歳には悪いけど、車いす押しての坂道移動はちょっと無理。ホテルまではグリーンエンジェルスのボランティアに出会えてラッキーだったけど、それはただの幸運だろう。

 チャイナタウンとはいえアメリカ、大雑把で愛想悪いと思っていたけど、わりにちゃんとしている。

 メニューが漢字なのはありがたい。字面を見ればどんな料理か見当が付く。

 中華風お刺し身、スープ、チャーハン、五目麺、酢豚、海老のなんちゃら揚げ、と続いたところで変なのが出てきた。

「なんですか?」

「フォーチュンクッキーになります」

 オネエサンがにこやかに出してくれたのは、どら焼きを半分にしてひしゃげさせて乾燥させたみたいなの。 

「わたしが注文しました!」

 千歳が小学生みたいに手を上げる。

 グリーンエンジェルスにお礼のストラップを渡したのといい、このフォーチュンクッキーといい、千歳はこっそりの名人なのかもしれない。

 そう言えば、部室でお茶を出してくれるタイミングには絶妙なものがある。

 わたしの八年間の高校生活はロクでもないが、千歳にとっての四カ月余りの高校生活は宝物なのかもしれない。

「これだけやったら、辞めても問題ないんじゃない?」

 部室棟取り壊しでゴタゴタしていたころに千歳に聞いたことがある。千歳は学校を辞めるための口実を得るために名ばかりの演劇部に入って来たんだ。だから、これは意地悪な質問ではない。

「え、え、えーーー、そ、それはですねーー」

 顔を真っ赤にしてアワアワしていた。常日頃口出しなんかしない啓介が「先輩」と一言わたしをたしなめた。

 ちょっと面白いので、いすを並べてのお昼寝で微妙に足を崩してやる。啓介の位置からだと……たぶん見える。

 パソコン相手に二次元にしか興味の無い奴だけど、これにはさすがに視線を感じた。

 ヌフフ……部室じゃ啓介、鼻血を流して、千歳は甲斐甲斐しくティッシュを取り出したんだよな。

 ミリーも最初はひいジイサンだったかのデザインの部室棟の解体修理が一番よく見えるということで入部したんだけどね。今じゃ達者な大阪弁で愉快に話の輪の中に入ってくる。
 今度の旅行だって、友だちが多い中で我々演劇部を選んでくれたのも、ミリーなりに楽しいからだと思う。

 だいいち人間嫌いなわたしがね、こんな感想をいだくってのも凄いことなんだと思うのよ。

 あ、フォーチュンクッキーてのは、中が空洞になっててお御籤みたいなのが入ってる。そういやAKBのヒット曲の中にあったなあ……思っても言わない。

「キャ-、旅先で良いことがあるでしょうだって!」

 ミリーがくじを見て喜んでいる。

「旅先って、アメリカはミリーの故郷やろが?」

 啓介がつっこむ。

「それはやねぇ、大阪の人間が青森あたりで『おまえの故郷やろがー』って言われるようなもんよ」

 そりゃそうだな、シカゴとサンフランシスコとじゃ青森どころの距離じゃない。

 千歳と啓介は揃って『近々良いことがあるでしょう』

 で、わたしは『思いがけぬ出会いがあるでしょう』

 どんな出会いだ?


 思ったとたんに声が掛かった。


「ちょ、松井先輩じゃないですか!?」

 え(゚д゚)!?

 ビックリして振り返ると、後ろのテーブルに居たではないか!


 生徒会副会長の瀬戸内美晴が!?



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

勇者乙の天路歴程 026『始まりの村風の広場にて』

2024-06-18 10:52:11 | 自己紹介
勇者路歴程

026『始まりの村風の広場にて』 
 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者




 画像生成AIに―― 始まりの村 国籍不明 ――と打ち込んだら出てきそうな村だ。

 
 村の入り口には焼き肉屋の前にありそうな道祖神風の石像があって、ビギナーの冒険者に「覚悟はいいか」と脅している。
 家々の屋根は切妻か入母屋の和風だが、棟や軒端が微妙に反っていて、軒端にランタンが吊ってあるところなど中国風。いくつかの家は白壁にオレンジ色の瓦が載って南フランスを思わせるが、あちこちに立っている幟やランタンの文字は漢字風やらチベット文字風でFFⅩの門前町と見紛う。
 
 村の中央あたりには教会の尖塔と五重塔が並んでいるが、よく見ると、尖塔の先には九輪と水煙、五重塔には十字架とチグハグ。

 道祖神風の脇を通ると、なぜか穴が掘ってある。

「落とし穴かなあ?」

 スクナが首をかしげると、少佐のビクニが向こうの広場の方に目を向ける。

「なにか揉めているようだ」

「え、なんかお祭り!?」

 初めての村でうかつに動くのは憚られ、広場の入り口で様子を見る。

『やっぱり、鳥居が無いと締まりがねえ』

『だから、村の入り口に』

『あそこには、もう道祖神があるべ』

『入口なら、広場の方がよかんべ』

『村の入り口なら、もう穴掘ってあるべ』

『穴なんか埋めちまえばいいべ』

『したども、五人がかりで丸二日かけて掘った穴だぞ』

『先走って掘っちゃダメだべや』

『したども……』

 どうやら、鳥居をどこに立てようかと相談している様子だ。十人余りの男たちが数本の角材やら丸材、おそらくは組み立て前の鳥居を前にして深刻そうに話をしている。真ん中で村長風が腕組みして困っている。

「あまり見ない方がいい、我々はよそ者だ。それより情報を収集しよう」

 ビクニが指差して、向こうのギルド風の二階建てを目指す。

「あ、だんご屋!」

「あとだ」

「テイクアウトすればいいだろぉ!」

 ナース服の腕をブンブン振って抗議するスクナ。赤十字の腕章がグルグル回って可愛い。

「食い意地ばっかりの奴は置いていくぞ」

「じゃ、あっちのクレープ屋! タコ焼き屋でもいい!」

「引っ張るな」

 ペシ

 手を払いのけるビクニ。少佐になると容赦がない。

「ム~、可愛くないよ、お宮に連れてきてたJKの方が可愛かった」

「アハハ、同一人物なんですよ」

「え、ほんとか( ゚Д゚)!?」

「フフ、ガキナースに見透かされるほど安くは無い。いくぞ」


 ビクニが言い切ると、男たちの中から村長風が駆け寄ってきた。


「あのぉ、もし、あなた方は薩摩守(さつまのかみ)さまの御先駆けの方々でしょうか!?」

 え?

 我々を見る村長風の目は困惑と畏れに満ちていた……。

 
☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
  • ヤガミヒメ      大国主の最初の妻 白兎のボス
  • ヒコナ        ヤガミヒメの新米侍女
  • 因幡の白兎課長代理   あやしいウサギ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)064・夏休み編 思い出のサンフランシスコ・2

2024-06-18 07:26:19 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
064・夏休み編 思い出のサンフランシスコ・2                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです




 見かけで判断したらあかん。


 とはいうものの、身長190は有ろうかというような黒人のニイチャン二人。こっちは一番背高い俺でも、やっと170。生物的にビビッてしまう。

 以前、散歩途中のチワワが大型犬に出くわして、恐怖のあまり腰を抜かしてオシッコちびってるとこに出くわした。

 あの時のチワワの心境。

 え あ う……

 母音が三つほどの返事とも言えん声を上げていると、ニイチャンらは荷物をふんだくり、千歳の車いすを押し出した。


 あ(;'∀')!  えと(;'〇')!  ちょ(;'△')!  ヘイ(;'▽')! 

 四人が四つの単音節を発して後を追う。

 最悪の展開がアレコレ頭をよぎるが、情けないことに走って後に続くことしかでけへん。千歳はアワアワするばっかりで、咄嗟に声も出えへん様子。これはエマージェンシーやと、ミリーはスマホを出して警察に電話しようとするんやけど、走りながらで手間取ってる。

 で、結局は無事にジェファソンホテルの前まで連れて行ってくれた。

 ホテルは次の角を曲がってすぐのとこで、ほんの20秒ほどで着いてしもた。これはお礼を言わならあかんと思たけど、とっさには言葉が出てけえへん。ニイチャンらの言葉は訛があって、ミリーもとっさには分からんみたいやった。


「ああ、それは高校生のボランティアでしょう」


 ジェファソンホテルのフロントのおばちゃんが言う。

 アメリカの学校も夏休みやけど、日本と違って二か月もあって、ボランティアに勤しんでる者も多いとのこと。

「こういう恰好していませんでしたか?」

 おばちゃんは壁に幾つもかかってるパンフの一つを指さした。

 緑色のTシャツの胸に英語でなんや書いてある。

「あーグリーンエンジェルス」

 ミリーが思い当たったように安堵のため息をもらす。で、おばちゃんと意気投合して英語でやりとり。
 どうやら、観光客や困ってる人らを助ける高校生のボランティアであるらしい。

 やっぱりキチンとお礼言うべきやった。

「わたし、お礼渡しといたよ」

 表情を読んだのか千歳がドヤ顔。

「え、いつの間に?」

「何を渡したの?」

「キャリーに付けてたビリケンさんのストラップ」

「いつのまに、そんなコミニケーションを」

「うん、車いすを押してる感触に悪意が無かった」

「でも、場所によっては……」

 おばちゃんはハザードマップのようなものをくれた。

「なるほど、用心に越したことはないわけね」

 須磨先輩が真面目な顔で、もう三枚もらってみんなに分けてくれる。


「それから……」


 キーをもらって部屋に行こうとすると、おばちゃんが声をかけてきた。

「時間が遅いので、夕飯が用意できません……」

「「「「えーーー( ゚Д゚)!?」」」」

 四人揃って声をあげる。

 驚いたというよりも、おばちゃんの一言でお腹が空きまくってたことに気が付いてしまった。

 とたんに体中の力が抜ける。


 サンフランシスコの初日はレストラン探しから始まった。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)063・夏休み編 思い出のサンフランシスコ・1

2024-06-17 06:20:05 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
063・夏休み編 思い出のサンフランシスコ・1                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです




 クチュン!


 千歳がかわいいクシャミをしたのは、空港からのシャトルバスを下りてジェファソンホテルに向かう途中やった。


「ごめんね千歳(-_-;)」


 ミリーがアメリカを代表するように謝る。

「ううん、初めて来たんだから仕方ないわよ」

 そう言って千歳は首に巻いたカットソーを締め直した。

「えと、この坂を上るんだよ……」

 須磨先輩がスマホのナビを見ながらあたりを付ける。

「オーマイゴッド( ゚Д゚)」

 ミリーが英語で驚く、ミリーの英語は新鮮や。


 俺らは無言のままやったけど驚いてないわけやない。驚きすぎて声が出えへん。


 ハワイの次にサンフランシスコに来てる。

 特に決めてたわけやないけど、四人でそれぞれスマホに入力したら決まってしもた。このムルブライトの懸賞旅行は思いついた条件やらキーワードを入力することで行き先が決まる。


 認識不足が二つあった。


 夏やと言うのにサンフランシスコは暑くない。というか寒い。

 四人とも予備のTシャツやらカットソーを取り出して重ね着したり、千歳みたいに首に巻いたり。

 ネイティブアメリカンのミリーは責任感じて小さくなってる。

 ネイティブいうてもミリーはシカゴ。千キロ以上離れた行ったこともないサンフランシスコのことに詳しなくても仕方ない。
 
 もう一つ困ったのが坂道。

 千歳はいつもの電動車いすとは違って、スペアの人力車いす。

 重量が嵩むのとバッテリーの心配から人力にしてる。

 それが、この坂道では介助で押すにしても大変そうや。

「交代で押して行こう、ワンブロックずつ交代したらいけると思う」

「すびばせ~ん、クチュン!」

「謝るなって、みんなで選んだコースなんやから」
 
 2ブロック行ったところでバテてしもた(_ ´⚰︎` ) 。

 惣堀のあたりにも緩い坂道はあるけど、こことは比べ物になれへん。

 一筋横の通りには電車が走ってるけど、検索したらケーブルカーとあった。

 並の電車ではこの坂道は登られへんねやろなあ。

 千歳のお姉さんが頭に浮かぶ。搭乗手続きやら飛行機の中では、ずいぶん助けてもろた。ひょっとしたら、この旅行中サポートしてもらえるか……と空想したけど、あれは、ハワイまでのルートがいっしょやったからや。イノウエ空港の柱の陰から見てくれてたのは、やっぱり仕事が重なったからやねんやろなあ。


 途方に暮れてると後ろから声が掛かった。


 振り返ると……バスケットの選手かいうくらいごっつい黒人のニイチャンが二人いた。

「どこまで行くのかって……よかったら手助けするよって言ってる」

 ありがたい申し出やねんけど、通訳してるミリーの表情は硬い……むっちゃ硬い。


 ニイチャン二人の笑顔が、ものごっつい不気味に思われてきた……。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀河太平記・227『緊急ちゃぶ台会議』

2024-06-16 18:11:37 | 小説4
・227

『緊急ちゃぶ台会議』メグミ 




 サイズにも寄るだろうけど、ちゃぶ台の定員は四人だと思う。

 むろん円形だから三人でも二人でもおかしくは無い。ちょっと詰め合えば五人くらいで卓を囲むこともできる。円形だから上座も下座もないしね。

 その気になれば、いくらでも大きなちゃぶ台は作れる。じっさい国際会議などでは、直径5メートルのちゃぶ台(円卓)が使われることもある。直径5メートルもあれば二十人ぐらいは楽に座ることができる。

 三十年も前に漢明で国際会議が開かれた時には直径8メートルの円卓が使われた。卓の高さも40センチに抑えられ、当時の大統領は「中華式のちゃぶ台です」と互恵・平等の発露だと自慢していたが、8メートルもあってはちゃぶ台とは言えない。

 お岩さんは言う。

「茶碗を差し出せば直接受け取ってお替わりを渡せる大きさ」

 シゲ爺は言う。

「ちゃぶ台返しもできねえのはちゃぶ台じゃねえ」

 
 そのちゃぶ台を二つ並べ、島のくせ者たちが寛いでいる。
  

 ついさっきまでは、ちゃぶ台をもう三つ並べ、この三倍の人数で非公式の緊急会議を開いていたんだ。

殿下:「いや、大事にならなくてよかった……最初にあの映像を見た時には、どうしようかと思ったけど」

サブ:「抜かりはないつもりだったけど、こんなに早くコピーされて、正直ビビっちまったけどな」

ハナ:「ウンコもらしそうな顔してたもんな」

サブ:「うっせえ!」

マヌエリト:「朱元尚大佐、生きて返したの後悔した」

お岩さん:「もう、ナイフは仕舞っとくれよ、村長(^_^;)」

及川市長:「しかし、あの写真から劣化版とはいえ概念的に同一のものを作ってしまうとはビックリでした」

 実は、漢明がうちのそれにソックリな選鉱機を作ったと漢明技術研究所が動画を発表したんだ。

 こないだやってきた朱元尚大佐が秘密に写真を撮っていて、そこから概念設計をやり、ソックリなものを作った。

 スペック的にも、うちの90%の能力を持っていて、漢明が採掘するパルス鉱は20%増しの力を発揮すると言われた。特に、パルスギについては、その選鉱途中の状態から精錬法まで類推できると思われた。

シゲ爺:「なあに、なぞっただけでは何もできん」

 現役の技師だったころに選鉱機の概念設計をやったシゲ爺が、映像のあちこちを指摘し、その性能が島のそれに匹敵しないことを指摘。

シゲ爺:「それに、ここじゃ、選鉱速度が早いように見えとるが、早回しにしとおる。脇に写っとるパルスガの振動が理論値の二割増し、あり得ん。それと……」

 ヨレた神主姿からは思いもつかない明晰さで、他にも三点の矛盾を説明してくれて、ほとんどフェイクと言っていいしろものだということを説明してくれた。

ハナ:「なんか、見かけはメグの方がえらいように見えてるけどなあ。ポンコツでも、うちの神主は大したものだったんだなあ」

シゲ爺:「誰がポンコツじゃ」

メグ:「いや、ほんとにシゲ爺はすごいよ」

 じっさい、そう思う。わたしは十年以上前に失った自分本来の姿を未だに取りもどせてはいないんだからな。

お岩さん:「さあ、一安心できたんなら一杯やろうか、夜は長いんだからね。ハナ、取りあえず熱燗十本」

ハナ:「ヘイヘイ~……え?」

お岩さん:「どうしたぁ?」

 ハナが開けたままの障子の向こうに人影。

ハナ:「どうした、フーちゃん?」

 明かりを落としたフロアーに立っているのはフーちゃんだ。フーちゃんらしからぬ沈黙に、座敷のみんなが身を乗り出す。

フーちゃん:「転属を命ぜられました……」

 ええ!?

     
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)062・夏休み編 アリゾナミュージアム

2024-06-16 07:14:47 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
062・夏休み編 アリゾナミュージアム                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです




 そうなの……  ま いいけどね……  え あ うん……


 三人三様やけども、気乗りがしないという点では一致している。


 すべては俺が悪い。

 ワイキキビーチでクタクタになるまで遊んで、飛行機の疲れもあったんで晩飯もそこそこに寝てしもた。

「一応、明日のスケジュール決めなくっちゃ」

 須磨先輩の一言でスマホを取り出す。

 この旅行の行先は、ダウンロードしたアプリに条件というか、その時の思い付きを書くと相応しいコースをセッティングしてくれる。

 初日はシステムがよく分からなかったんで、ミリーのスマホだけでやってたんやけど、四人それぞれ別々に打ち込めると分かった。


 俺は『日米親善』と入力してしもた。


 なんやムルブライト奨学金とか銘打ったったし、ちょっとはムルブライトさんの顔たてなあかんのとちゃうやろか、そんな気分。

 それが、なんや上位のキーワードやったみたいで、そこに決まってしもた。


 アリゾナ記念館!


 オアフ島にある沈没戦艦アリゾナの上と隣接する陸地にあるミュージアム。


 アリゾナはただの沈没船とは違う。

 1941年の真珠湾攻撃で日本海軍がボコボコにして撃沈した戦艦で、二千人以上の犠牲者を船内に閉じ込めたまま水深20メートルそこそこの浅瀬に沈んでる。

 女子らはもとから興味ないし、なんちゅうてもリメンバーパールハーバーの総本山みたいなとこや。

 日本人としては、いささか気が滅入る。

――沈んだアリゾナからは、いまだに油が浮いてきて、それが日本のスネークアタックをいまだに非難しているように感じられる――

 中学の公民で先生がスライド見せながら言うてたとこや。

「ほんとに油が浮いてきてる……」

 アリゾナを跨ぐドーム型桟橋は巨大な牛乳パックという感じ。その中央、桝形に切られた床の下にアリゾナの中央部分が臨める。須磨先輩が覗き込んでいる。

 興味のなかった女性陣も海の上の墓標のような記念館にシンミリ。海面からわずかに覗く赤さびた上部構造、近寄ればエメラルドグリーンの海、手を伸ばせば届きそうなところに横たわる船体。おのずと厳粛な気持ちになる。

「わたしも見たい」

 千歳が言うので、須磨先輩と二人で介添えして立たせてやる。

 ……これが重い。

 なんせ腰から下が完全に不自由な千歳。完全に全体重を支えてやらんと立ってることもでけへん。

 それに、立たせてやるためには腰と腋の下を支える。なんちゅうか、女の子のこんな場所を触ることなんてありえへん。

 ミリーがおったらよかったんやけど、一つ向こうの犠牲者銘板を見に行っておらへんし。

「船が泣いてる……」

 感動した千歳は、しっかり見ようとして俺の方に体重を寄せてきた。

「ちょ、危な……」

「キャーーー」

 支えきれずに共倒れになりかかる。


 ガシ!


 大きな手が俺と千歳を同時に支えた。

「オー ダイジョブデスカ」

 片言の日本語に振り返ると身の丈190くらいの白人のオッサンがニコニコしている。

「「あ、あいがとうございます」」

 千歳と須磨先輩がハモってお礼を言う。

 オッサンの後ろには同じようにニコニコした黒人のオッサン。

「オー センキュウー フォー ユア……」

 事態に気づいたミリーが戻ってきてオッサン二人に礼を言ってくれる。

 なんや意気投合して四五分喋って大笑い。わけ分からんうちにオッサン二人がグローブみたいな手ぇで握手してきてバイバイになった。

「海軍のオフィサーなんやて、アリゾナの上で日本の若者を助けられて嬉しかったって言うてた」

「オフィサー?」

「海軍の将校さん、ま、若いから中尉さんくらいかなあ」

「え、若いのん?」

「うん、二人とも二十代前半だよ」

「「「へーーー」」」

 心の中でオッサンをオニイサンと訂正する。須磨先輩は同年配と分かって複雑な顔。

「陸のミュージアムもぜひ見てくれって」

 陸のミュージアムは展示とシアター。正直気はすすまへん、ふだんは意識せえへんけど、リメンバーパールハーバー、日本のことをクソミソに書いてる展示物なんか見たくない。

 真ん中に在りし日のアリゾナの模型、首を巡らせると意外なことに空母赤城、甲板には出撃間近の攻撃機や雷撃機やゼロ戦がビッシリ並んでる。

 俺は『艦これ』とか『はいふり』のオタクやないけど、アリゾナ以上にていねいに作られてる赤城が意外。

 説明はどれも英語なんで、ちょと安心。

「なにが書いてあるの?」

 聞かんでもええのに、須磨先輩がミリーに聞く。

「えと……ま、いろいろ」

 やっぱり俺らには聞かせたない内容があるようで口ごもる。

「うわ!」

 千歳がビックリするんで見上げたら、実物大の艦攻が今まさに魚雷を放っているのがぶら下がってた。その前には停泊する太平洋艦隊。いやはやド迫力の展示ではある。

 このコーナーでもミリーはあいまいな説明しかしてくれへん。ま、いたしかたない。

 日本人のだまし討ち!

 低いけど鮮烈な言葉が聞こえてきた。声の方向から俺らに言われたような気がした。

 振り返ると、アジア系の数人が俺らにきつい目ぇを向けてくさる。

「関わらない方がいい」

 ミリーに言われて外に出る。


「誤解がないように言っとくね」


 外に出るとミリーが真面目な顔で言う。

「展示も説明も、とっても公平やったよ。日本軍の攻撃が非常に高度に訓練されていて優秀やったことや、攻撃が軍事目標に限られてて、市民には被害が無かったことなんかを冷静に書いてあった」

「「「え?」」」

 なんとも意外やった。

 それやねんやったら、その場で説明してくれたらよかったのにと思た。

「わたしらの後ろにアジア系が居たでしょ」

 あー、あいつらか。

「なんか、とっても挑戦的でさ、まんま訳して、三人が反応したら刺激するんやないかと思ってねぇ」

 なるほど……

 ちょっとシンミリして「美味しいもの食べにいこ!」須磨先輩の一言で気持ちを切り替える四人であったのだ!
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鳴かぬなら 信長転生記 187『魔王曹操』

2024-06-15 11:30:44 | ノベル2
ら 信長転生記
187『魔王曹操』信長 




 シャラン!

 三蔵法師姿の一言主が高々と数珠持つ手を振り上げた!

 同時に弟曹素の骸をかき抱く曹操の姿がブレて見え始める。機を見るに敏な俺には武漢城頭にとてつもない危機が迫って来ているのが分かったぞ!

 ゾワッ!!

 武漢城内の空気が騒めいたかと思うと、ブレた曹操は一つになって腕をクロス。表情を隠し横浜の動くガンダムほどの大きさになった!

 ガオーーー!!

 雄たけびと共にクロスした腕を解くと、その首は悪魔のように青黒く、双眼は炯炯として天下った魔王そのものだ!

 グガアアアア!!

 ガシュイィィィーーン!

 再び吼えたかと思うと、跳躍しながら佩剣を一閃! 背後の城壁上三分の一を切り込んでAMAZONのニヤリマークの如き傷をつけた!

 グゴオオオオ!!

 三度吼えると、城壁のニヤリマークはのたうつ蛇のように苦し気に歪み、思う間もなく、グワァラと音を立てて崩れた!

 キャアアアアアア!! 

 並外れた驚愕は、ようやく極大の恐れになって爆発する!

「四方に逃げよ!」

 諸葛茶孔明が蠅タタキを振りながら叫ぶ。

 万余の避難者と兵たちだが一方向に逃げれば、またたくうちに薙ぎ払われ踏み潰されるだろう。四方に逃げれば、一方は間に合わずとも、半ば以上は逃げられるかもしれない。さすがは孔明、当を得ている。

 関羽と張飛は軍師の声と共に左右に散って群衆たちを四方に走らせる。備忘録と検品長も二手に分かれて零れた群衆を励まし逃がしていき、大橋の部下たちもそれに倣う。

 キャアアアアアア ウワアアアアアアアア

 広場には驚愕と恐れの悲鳴が満ちる。

 それに感応したのか、黒雲が沸き起こり空気までがささくれ立ってくる。

 なんということだ!

 何の呪いか因果の果てか、今や曹操は魔王に変じてしまった!

 時に英雄の中には複数の人格が存在する。中には信玄・謙信のように一枚看板という者もいるがな、それは一時代前の英雄だ。だからこそ、この異世界に転生し、学院で磨きをかけている。

 この信長も、転生の始めこそは戸惑い、妹の市にばい菌のような目で見られたが、今では三国志に足を延ばし人を助け身を修めている。大橋や孔明とも誼を通じ連帯して事に臨んでいる。

 荒ぶる曹操は、おそらくは転生などは考えたことも無く、この三国志で野望を膨らまし続けてきたんだ。

 個別の人格は統合もされず昇華もされず、野放図に膨らんで、とうとう融合して化け物になった!

「信長! 我々で食い止めるぞッパ!」

 茶姫は一言叫ぶと、沙悟浄に身を変えて曹操に挑みかかる。

 人の姿であるよりはフェイクとは言え沙悟浄の方が身体能力が高い。

「わたしも! ブヒ!」

 市も猪八戒になって飛んでいく。

「よし、俺も、ウキ!」

 俺も孫悟空になってジャンプする、すかさず筋斗雲が俺を載せて魔王曹操の直上に位置を占める。

 一言主の三蔵は残った城壁に佇立して、ひたすら念仏を唱える。

「おお、三蔵法師さまが!」「主従共々に立ち向かって」「守ってくださるぞ!」

 群衆たちも、逃げまどいながらも、魔王に立ち向かう我々に勇気づけられている。

 腹の底から湧いてくる高揚感!

 桶狭間の奇襲、姉川の戦い、長篠の戦、比叡山の焼き討ち、伊勢長嶋の一向一揆征伐……全ての戦いの高揚感がない交ぜになり、太々と力を収斂してくれる!

 キエーーーーーー!!

 ルイス・フロイスをして怪鳥の如くと言わしめた叫びをあげ、筋斗雲もろとも魔王曹操の脳天に打ちかかった!



☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
   
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)061・夏休み編 まずはワイキキビーチなのだ!

2024-06-15 07:10:11 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
061・夏休み編 まずはワイキキビーチなのだ!                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです




 自分で当選していながらよく分かっていないミリーだ。


 飛行機の中で千歳のお姉さんから聞かれてもパンフレットを差し出すだけのミリー。

 ムルブライト奨学金の交換留学生優待のアメリカ旅行。お姉さんの後でパンフを見たけど、アメリカらしく免責事項に関する記述がビッシリ。

 主体は個人旅行で旅行中の責任は本人に帰属しバナナの皮を踏んで怪我してもムルブライトは関知しないことまで書いてある。

 行き先は、アメリカ国内であれば原則自由。3Dバーコードを写メれば行き先に着いてのオプションが無数と言っていいほど現れる。
 わたしたちが「これだ!」と思ってチョイスすればたちどころに予定が組まれ、必要な予約がなされる。


 ハワイと言えばワイキキビーチ!


 なんともミーハーだけど健康的なチョイス。

「ねえねえ、水着とかどーする?」「ざっくりと条件付けといたら用意してくれるみたいやし」「わたしでもいけるのかなあ?」「介助者がいればいいみたいだぞ」「スキューバダイビング!」「さすがにライセンス必要やし」「買い物にもいきたい……」「せやねえ……」「それからぁ……」

 入国ゲートを出たところのベンチでスマホを囲んでウキウキの惣堀四人組。

「う~ん、やっぱワンピね、わたしは」

 高校生といっても、もう24歳だし、運動不足だし、露出の多い水着はNGだし。

「う~ん、セパレート……ワンピ……競泳用はありえないっと」

「そういう括りじゃなくて、千歳は萌ちゅう感じでええんちゃう?」

「そ? じゃ、ミリー先輩はアグレッシブなアメリカン?」

 女の子たちは特定の水着ではなく条件で絞り込んでいく。その方が、どんなのが出てくるか楽しみなんだ。

「ね、啓介は?」

 タブレットには水着女子の写真が一杯なので、啓介は一歩引いてしまっている。

「あ、俺は日本男子!」

 オーダーなのか照れ隠しの一言か分からないまま、スマホに打ち込んでいく。

「水着はムルブライトから届いています、こちらになります、お召し替えは地下一階の更衣室をお使いください」

 ホテルに着くと、カウンターで一切合切を渡される。

「チトセ・サワムラ様にはビーチ用の車いすをご用意しておりますので、お召し替えのあと、このカウンターにお立ち寄りください」

 懇切なブリーフィングを受け、エレベーターで更衣室へ。


「え!?」「うそ!」「やだ!」「なんで!」


 四つの声が個室からして、着替え終わってビックリした。

「「「「わ!」」」」

 互いの姿を見て、揃って声を上げた。

 わたしのワンピはあちこち穴が開いている。胸元、わき腹、お尻の上とかに。

 ミリーのはハイレグのワンピだけど、ミスアメリカ!ちゅう感じでキラキラの星条旗になっている。

「こ、これは……」と頬染める千歳は紺のスク水で、ご丁寧に『ちとせ』の名札が胸に付いている。

 で、三人がそれぞれの水着にあっけにとられたあと爆笑したのが啓介。

「「「わ、赤フンだ( ゚Д゚)!!!」」」

 たしかに日本男子で、わたしたちも設定条件通りって言えばそうなんで、旅先のノリで浜辺にくり出した。

 えと、特筆すべきなのがホテルで用意してくれた車いす。

 なんとキャタピラ付電動車いす!

「わーい、なんだか戦車みたい(^▽^)!」

 駆け足くらいのスピードが出るので、千歳は先頭に立って浜辺を駆けまわった。

 生活防水になっていて、そのまま海にも入れる。

「水には浸からないつもりだったんだけど……」

 そういう千歳だったけど、水の中で手をとってやると自然に浮いて少し泳いだりプカプカ浮いて水の感触を楽しんだりしている。

「ウォ! 引っぱるなあ!」

 啓介が叫んだかと思うと、千歳の手にはグダーっと長い赤フンが握られていた。

 腰まで水に浸かってビーチトスバレー。わたしたちには程よい負荷がかかり、千歳は水に浸かることで自由になって楽しめた。

 ミリーがイルカ型のウキを借りてきて交代で乗ってみる。

 楽しいんだけど、大股開いて乗るのがね……。

「わたし乗ってみる」

 千歳は恥ずかしいよりは好奇心が勝った。スク水なので大股開いても、わたしたちほどには気にならないようだ。

「バナナボートにしよう!」

 啓介のアイデアで、三人で横と後ろに付いて千歳を乗せたままのウキを押して泳ぐ。

 時々お互いの体が触れる。

 日ごろだったら「この変態があ!」と叫ぶようなことでもヘッチャラ。

 その後は水に浸かったままでトスバレーをやったり、千歳にタイムをとってもらってブイのところまで三人で競泳したり、ビーチパラソルの下で昼寝をしたり、昼寝の最中に日焼け止め塗るの忘れてて、ちょっとした騒ぎになったり。楽しく過ごした。

 演劇部の仲間になって四カ月。

 なんだか一気にスキンシップになって、お互いの距離が縮まったワイキキのビーチではあった。
 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語2・052『ブラウニーの右手と左足』

2024-06-14 11:47:25 | カントリーロード
くもやかし物語 2
052『ブラウニーの右手と左足』 




 いい匂いは食堂への途中、いつもは閉めきりのドアからだよ。

 観音開きの片方が小さく開いていて、鼻歌といっしょに匂いが漏れてくるんだ。

『おや、食いっぱぐれたのかい?』

 人の良さそうなオバサンの声がして、足を止めるとすき間の向こうのオバサンと目が合う。

 目が合うと、こんどはお玉を持ったままの手でオイデオイデする。

「ちょうどできたところだから食べておいきよ」

「えと、ここは?」

「元々の食堂さ。いまの食堂ができてからは使われなくなったんだけどね、くわせもののお蔭で、食堂はあんな状態だろ。それで、急きょこっちを使えるようにしてるわけ」

「あ、そうなんだ」

「あたしは、家事妖精のブラウニー。この学校や宮殿ができたころから住み着いて、いろいろお手伝いしてるのさ」

「あ、わたし一年生のやくもです」

「やくも、いい名前だ。よろしくね」

 握手……すると違和感。

「あ、ごめん。右手は義手なんだよ、左足も義足でね。むかし、侵入してきた魔ものにやられてね、オーディンが森の木を削って作ってくれたのさ。あのころのオーディンは不器用で完全というわけにはいかないんだけど、まあ、なんとか台所仕事をこなすぶんにはね……さ、できたてのスープとシュガートースト。味は濃いめだけど、あれだけ戦ったあとなんだから、これくらいのがいいさ」

「ありがとう、ブラウニー。いただきます」

「スープ熱いから、冷ましながらね……あ、そうだ、レシピを書き留めておかなきゃ。鉛筆貸してくれる?」

「え、あ、どうぞ」

「ありがとう、すぐに返すからね……」

 スープに気を取られ、わたしは違う方を渡してしまった。

 ビシ!

 ウギャアア!!

 なにか電気みたいなのが走ったかと思うと、ブラウニーは尻餅をついて、鉛筆を持っていた右手をプルプルと痙攣させている。

 ブラウニーの足元に落ちているのはおもいやりの方だ!

「ごめん、間違えた!」

「お、お逃げ、これは右手が悪さをして……るんだから……」

 ビシビシ!

 ブラウニーの肘と膝のところがスパークしたかと思うと、右手と左足が体から分離して窓を突き破って出て行ってしまう!

『アップ、お、追うぞ!』

 ミチビキ鉛筆が、やっと水から上がってきた人みたいに息を継ぐと、くわせものの時と同じように、わたしを引っ張っていく!

 窓から飛び出す時にチラッと見たら、ブラウニーは口の形だけで『ごめんね』と言った。

 悪いのは、義手と義足、あるいは、そこに取りついた何者かだ!

『右手の奴、オレを受け取ったら握りつぶすつもりだったんだ。やくも、よくぞ間違えてくれた!』

「あ、あ、そうなんだ(;'∀')」

 くわせものをやっつけてホッとしたばかり。本日三回目の戦闘モードに、すぐには切り替えられないわたしだった。

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精)
  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)060・夏休み編 イノウエ空港

2024-06-14 07:27:33 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
060・夏休み編 イノウエ空港                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 で……どうしてアメリカに行くんだっけ?


 日付変更線を超えて、それがスイッチだったみたいに目を覚ましたお姉ちゃんが聞いてきた。

「え、分かってなかったの!?」

「だって、たった三日でパスポートとったりの準備に追われてさ、うっかり聞き逃しちゃって」

「もー、しっかりしてるようで抜けてるんだから」

「アハハ、で、どうして?」

「当たったからよ、懸賞に」

「それは知ってるけど、なんの懸賞だっけ?」

「それは……(^_^;)」


 実は、ミリー先輩から「アメリカ行きの懸賞に当たったから、みんなで行こう!」としか聞いていない。


 いろいろ説明は有ったと思うんだけど、みんな舞い上がってしまって、覚えていない。

 隣に座っている本人に聞いてみる。

「言うたでしょ、部室棟のことで領事館に行ったら入館何人目かの交換留学生だったとかで、日本の友だちと一緒の……なんとかっちゅうのが当たったんよ」

「と、ゆーことよ」

「え、あ、うん……てか」

 ミリーの説明も怪しい。

「はい、これに書いたあるよって」

 ミリーが書類一式をドカッと差し出す。わたしは中継だけしてお姉ちゃんに渡す。

「……なるほど……ムルブライト奨学金のスカラ……」

 さすがは大人というか、仕事で慣れているというか、ブツブツと英語の書類を読んで納得したようだ。

「でさ、お姉ちゃんは、なんで付いて来てるの?」

「あ、ついでだったから」

「つ、ついで?」
 
 わたしのことが心配で、つい照れ隠しに言ったんだろう……鼻の奥がツンとした。


「じゃね、途中で一緒になれるようなら顔出すから~」

「え?」

 イノウエ空港に着いたかと思うと、入国ゲートでお姉ちゃんはサッサと行ってしまう。感動して損した。

 えと、イノウエ空港って分かるかなあ?

 亡くなった日系上院議員のダニエル・K・イノウエさんにちなんで、何年か前に名前が変わったの。

「空港に人の名前がついてるってすごいよなあ!」

 啓介先輩が感動する。

「あ、そう? 世界にはいっぱいあるでぇ」

「そうね、ジョン・F・ケネディー空港とかドゴール空港とか、ジョン・レノン空港っていうのもあったんじゃないかなあ」

 須磨先輩も例を挙げる。

「ああ、そういうと日本にもコナン空港とかあるし」

 わたしもがんばって例を挙げる。

「え、見かけはこども中身は大人のか?」

「ああ、鳥取の空港やぁ。下宿の子ぉと鳥取砂丘いくときに下りたんやけど、あちこちにコナンのキャラとか居てておもしろかったよ。千歳も行ったんかぁ?」

「ああ、お姉ちゃんがググって喜んでたから(^_^;)」

「しかし、いいお姉さんだよな」

「え、あ、仕事のついでって、空港に着いたらサッサと行っちゃうし」

「そうかしら……」

 須磨先輩がスマホを見せてくれると、向こうの柱の陰で様子を見ているお姉ちゃんが映っていた。

 カシャ

 その場でシャッターを押して写真を転送してくれる須磨先輩。

「ムフ……何かの時に使うといいわ」

 なんか、悪党の証拠写真のノリ(^_^;)


 そして、イノウエ空港の元の名前はホノルル空港。


 そう、わたしたちのアメリカ旅行の第一歩はハワイからはじまった……。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・104『今度のMITAKAは教室で』

2024-06-13 14:07:27 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
104『今度のMITAKAは教室で』   




 いつもの応接室の使用許可が出なくて、うちの教室でやっている。


「え、ダメなんですか?」

 いつものように使用許可を取りに行くと、生指の若杉先生はこっちの顔も見ないで「今日はダメだ」と書類書きの仕事を続ける。こんなにツッケンドンな先生は初めてだ。

 しばらく開けなかったMITAKA(みんなで楽しく語る会)をやるために、応接室の使用許可をもらいに生活指導室に行った。

「……分かりました」

 数秒遅れて返事すると、真知子はわたしとロコを促して廊下に出た。

 事務室の前まで来ると、ちょうど二階からたみ子が下りてくるところ。

「そっちは?」

 真知子の問いかけにたみ子は首を横に振る。

「ダメだった」

 たみ子は、この春からできた相談室の使用許可を伺ってきたんだ。

 前回使った作法室は月に一回お茶の先生の出稽古の日でつかえない。夏休みでもないので図書室も使えないし、万事休す。

 それで、仕方なく自分たちの2年3組の教室でやることになったわけ。

 机の半分を両端に片して、残り半分をサークルにする。

 途中から入って来る者もいて、その都度、片した机を持ってきてガタゴト移動する。その度に机を小さく移動させて話が中断するのでやりにくい。

 折から、梅雨の真っ最中。窓を開けてもジメジメとうっとうしい。応接室ならエアコン使えるのにね。

ロコ:「これは、学校の陰謀ですね」

一組女子:「うん、学校はMITAKA嫌がってると思う」

五組男子:「うん、金原さんのことが話題になるのを警戒してるんだ」

七組女子:「え、そうなのぉ?」

高峰君:「自傷行為だからね、噂になるのを嫌がってるんだと思う」

たみ子:「でも、その……学年は一つ上だけど、同じ宮之森の生徒が自……えと……なにしたんだから、きちんと受け止めておかなきゃいけないと思う」

巡(わたし):「うん、去年の栗原さんは病気でだったけど、いろいろ考えなきゃってことあったもんね」

 人の死、それも自分たちと同じ生徒が亡くなるというのは、ちょっと衝撃。学校からは全校集会で話があっただけで、それ以上にはなにもない。

 令和だったら『命の大切さ』とかで、あらためて集会があると思う。少なくともスクールカウンセラーとか来て、カウンセリングはやると思うよ。

たみ子:「真知子、進め方とか、ある程度決めた方がよくない?」

真知子:「ああ……うん、でも、ごめん……わたしにもよく分からないのよ……なんとなくね、このままじゃいけないって気持ちだけで」

ロコ:「去年は市ヶ谷の件もありましたからねえ」

 市ヶ谷……そうだ、去年は三島由紀夫が劇的な割腹自殺をやったんだった(064『三島事件とわたしたち』)。

 ビックリはしたけど、令和から通っているわたしにはVRで観ているようなバーチャル感があって、この時代の人たちほどには深刻な感じはしていない。

真知子:「まあ、ヒートアップしすぎたら、みんな注意しよ。どうかな?」

 うんうん、みんなが頷くと10円男の加藤高明が女子を連れて入ってきた。

10円男:「金原さんのクラスの子に来てもらった」

 おお……( ゚Д゚)

 軽いどよめきが起こる。

 落第坊主の10円男は三年生にも人脈があるんだ。

 いつもは冷やかしたりイジったりされている10円男……いや加藤君だけど、このへんの判断力とかは評価していい。

三年女子:「加藤君から言われて、ちょっと戸惑いはあったんだけど、美奈が可哀そうで。でもね、興味半分には聞かないでね。いいかな……」

 みんな、静かに頷いた。

三年女子:「それと、どうせ外には知れてしまうだろうけど、他の人に話す時は美奈の名前は伏せて。週刊誌的な興味で広められるのは絶対いやだから」

 みんなは居住まいを正して、もう一度頷いた。

三年女子:「実は……」

 三年女子さんは、何度もためらいながら、ためらう度にハンカチで目と鼻を押えて話してくれた。

 要約すると、こんな感じ。

 密かにというわけではないんだけど、他校の男子と付き合っていたことがお父さんに知られてしまった。最初はやんわりと、二度目ははっきりと、三度目はこっぴどく叱られたらしい。

 とうとう家から出ることを禁止された金原さんは家の人が出はらうのを待って命を絶った。どんな風に自分を終わりにしたのかは聞けなかった。
 いずれは知れてしまうんだろうけど、自分が話したことから、その部分だけが取り出されて話題にされるのを恐れたんだそうだ。

 MITAKAの誰も詮索はしなかったし、その三年女子さんが、言いたかったのは、そこじゃなかったから。

「なんで、聞いてあげられなかったんだろう……なんで気づいてあげられなかったんだろう……」

 彼女の話のテーマは、そこにあった。

「いいわねえ、こういう集まりって……加藤君、キミは落第して正解だったわね、うちの学年だったらこうは行ってないわよ。じゃ、わたしはこれで」

 ペコリと頭を下げて教室を出ていく三年女子さん。

10円男:「あ、ちょっと見送って来る」

真知子:「あ、うん。もう、戻ってこなくていいから」

10円男:「え、あ……」

たみ子:「その言い方は」

真知子:「ああ、ごめん、そういう意味じゃ(;'∀')」

10円男:「あはは、分かってる分かってる(^〇^;)」


 それでも心配で、窓から覗いたら、10円男も振り返って手を振って水たまりを飛び越える。

 水しぶきが眩しいと思ったら、雲の切れ目からお日さま。

 梅雨明けはまだまだだけど、梅雨の中休みぐらいにはなりそうだ。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

 

 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする