大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)059・夏休み編 初めての飛行機

2024-06-13 06:34:14 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
059・夏休み編 初めての飛行機                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 ちょっと心配だった。


 だって、車いすで飛行機に乗るんだよ。生まれて初めての飛行機なんだよ。

 あらかじめググっておいたけど、実際にやってみると、とっても新鮮。

 搭乗前にいろいろあるので二時間前に関空のサービスカウンターに行く。

 関空まではお姉ちゃんのウェルキャブ、この日の見送りのためにお姉ちゃんは休暇をとってくれている。


「あれ、みんなも?」


 車を降りてビックリ。

 啓介先輩、須磨先輩、ミリー先輩の三人も揃って待っていてくれたからだ。

「や、やさしい人たちね(´;ω;`)ウッ…」

 さっそくお姉ちゃんは感動する。ちょっと恥ずかしい。

「早く目が覚めて」

「俺は時間間違えて」

「えと、なんとなくね」

 三人それぞれだけど、わたしのことに気を使ってくれているのはバレバレ。お姉ちゃんも分かっていて、さらにウルウルになってる。

「いつもの車いすじゃないのね?」

「万一故障とかバッテリー切れになったら大変だし、使い慣れてるしね」
 
 いつもの電動車いすではなく、予備の車いす、ジュラルミン製で取り扱いが簡単。電動になる前は、ずっとこれに乗っていたんだよ。

 サービスカウンターに行くと、生まれてからずっと笑顔だったような女性スタッフが搭乗までの流れを教えてくれる。

「まずは、これにご記入ください」

 歩行状況チェックシートを手渡される。

「これを基に、到着までのお世話をさせていただきます。カウンターの中におりますので不明な点がございましたらお申し付けください」

 どれどれ……(((¯(¯ー¯)¯ー¯(¯ー¯)¯ー¯)¯)))) 

 みんなが覗き込む。簡単なチェックシートなんだけど、やっぱ空の旅ということで、みんなの好奇心は高まっている。

「へー、機内は専用の車いすに乗り換えるんや!」

 みんなジュラルミンにしたのは飛行機に乗るためだと思っていたようね。

 車いす用のトイレの近くの座席、座席の肘掛が可動式なのを確認すると、空港内用の車いすに乗り換える。

「千歳のお尻収まるかなあ……」

 お姉ちゃんが無用な心配するくらい幅が狭い。座席の幅は30センチちょっとしかない。

 無事にお尻を収めて保安検査場に。あらかじめ所持品は分けてあるのでスイスイとチェックしてもらう。

 まあ海外出張なんかに慣れているお姉ちゃんが付いているので問題はない。

「それでは、お体に触れさせていただきます」

「え?」

 係員のお姉さんに言われてビックリ。

 当たり前なんだけどボディーチェックだ。ググってはいたけど抜けていた。

 事故した時にお医者さんに触診されたとき以外、他人に体を触られるのは初めてなのよ。

 十秒足らず、ササッと触られる。

 なんか緊張、顔が赤くなっているのが自分でも分かる。

 こんな緊張してたら、爆弾とか隠し持ってるんじゃないかと疑われるんじゃ……心配になるけど、あっさりOK。


「さ、あとは乗るだけやなあ!」


 ベンチに座ってミリー先輩。ちょっとウェットな気合いが入ってる。

「どうかしました?」

「ハーーーーなんか日本離れるのって寂しい……」

 この言葉にみんなが笑う。だってアメリカ人がアメリカに行くのにおセンチになっているのは、やっぱ笑える。

「三年も居ると、もうほとんど日本人なんよね……」

「年に二回は里帰りしとるやないか」

「ハハ、せやけどね」

 今度の旅行は、ミリー先輩にとっても特別のようだ。


 飛行機に乗ってビックリ!


 なんと車いすの車輪が外されてしまった。

 ストッパーを掛けられる時の衝撃があったかと思うと、キャビンアテンダントのオネエサンが車輪を外したのだ。

 それでも、車いすはコロコロと押されて行く。

 ひょいと足許を見ると、オモチャみたいな車輪でスムーズに転がっている。

 いつの間に付けた? え、最初から付いてた?

 慣れたアシストで座席まで連れて行ってもらえる。

「あ、えと、えと、おトイレ行っておきたいんですけど(^_^;)」

 ググった時の一番のポイント。あらかじめ行っておかないと、離陸して水平飛行になるまで行けない。

 それに飛行中に手を上げて「トイレに行きたいんです」の意思表示をするのは恥ずかしい。


 トイレから戻ってきてビックリした。


「え、なんで( ゚Д゚)?」


 横の席にはお姉ちゃんが座っている……。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

勇者乙の天路歴程 025『スクナとガマンメンタム』

2024-06-12 11:51:15 | 自己紹介
勇者路歴程

025『スクナとガマンメンタム』 
 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者




「悪気が無いのは分かっているよ」


 最初に、そう言ってやると、不貞腐れた表情に少しだけ緩みが出てくる。

 相手に少しだけ逃げ道を残しておくのが生徒指導の要諦だ。

 見るからにメンドクサソウな顔をしたスクナは、通り一遍のお願いでは協力してくれないような気がしている。
 さりとて、力技で従わせるのも面倒だし、教師人生の半分を生活指導でやってきた勘が――まずは穏やかに――と言っている。

 それに、スクナを捕まえてきたビクニは気弱な静岡あやねの姿では無く強気の少佐の姿だ。二人ともがプレッシャーをかけては頑なになるばかりだろう。

「あそこはさ、裏口だけど、開けたら自動で閉まるようにできてたのよ。ドアの上にシリンダーみたいなの付いてるっしょ。それが、八十神たち……大国主の兄貴どもが帰っていくときに乱暴に開け閉めしたんでバカになっちゃってさ。フラれた腹いせなんだろうけど、いい迷惑よ。ソロっと開けたら閉まるんだけどさ、目いっぱい開けたら閉まらなくて。ソロっとやったつもりなんだよ、いや、ソロっとだったよ」

「あれが、ソロっとか!」

「こ、怖えなあ」

「ビクニ、取りあえず東に向かおうと思うんだけど、ちょっとあの岩の上から様子を見ておいてくれませんか」

「あ、ああ、そうだな」

 ビクニも状況は掴んでくれたようだ。

「ところで、スクナは少彦名さんのお身内じゃないのかい?」

「か、関係ねえよ……」

「そうですか、名前とかが似てるもので。いや、違っていてもいいんだ。見たところ地元の人という感じでしょ。バイトというのはどこかの医院で看護助手とかかな?」

「あ、これは違くて、軟膏の販売員」

「ああ、メンソ〇ータム」

「じゃなくて、課長代理が作ったのを……」

「あ、そうか。皮を剥かれて治した時の……」

「うん、あのガマの穂の成分で作った軟膏……ほら」

 カバンから出して見せてくれたパッケージには『ガマンメンタム』とある。

「そうか……でも、一人で売るのは大変でしょう」

「え、あ、まあ……」

「じゃあ決まりだ。この旅が成就すれば……」

「成就すればぁ?」

「きっといいことがある」

「……なんかあやしい」

「じゃあ、やめとく?」

「ううん……姫さまが宮殿の中まで招き入れた人だしなあ……」


『中村ぁ、東南の方角に村が見えてきたぞー!』


 ビクニが呼ばわって、旅の続きは三人になった。


☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
  • ヤガミヒメ      大国主の最初の妻 白兎のボス
  • ヒコナ        ヤガミヒメの新米侍女
  • 因幡の白兎課長代理   あやしいウサギ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)058・夏休み編 千歳のお姉ちゃん

2024-06-12 07:10:28 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
058・夏休み編 千歳のお姉ちゃん                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 変な演劇部ぅ~~~~(^3^)!


 ひょっとこみたくお姉ちゃんは口を尖がらせて面白がる。

 妹のわたしが言うのもなんだけど、うちのお姉ちゃんはイケてる。

 イケてるという伝法な言い方は、イケてるという言葉がいろんな意味を含んでいるからなんだよ。

 伝法なんて、古典的過ぎる言い回しなんだけど、お祖父ちゃんのころまでは江戸情緒いっぱいの神田に住んでいた名残り。お姉ちゃんの小さいころはお祖父ちゃん、まだ生きていて、お祭りやらお芝居とかによく連れて行ってくれたらしい。

「ねえ、大阪に『伝法』って地名があるのよ!」

 学校の帰りにわざわざ車を回して面白がったりする。伝法では鴻池組旧本店なんてレトロな文化財をめっけて、姉妹で喜んだりした。

 あ、そうそう「大阪にもトシマがあるよ!」と見に行ったこともある。車で飛ばして地下鉄の表記を見た時に大感激した。

「おおお……大阪のトシマの方が雅でいいねえ……( ゚Д゚)」

 わざわざ、車を降りて感激した。

 通行の人たちがクス( ´艸`)って笑って、よく見たら。

 都島(みやこじま)

 美人でスタイルもよく、頭の回転がいいのに偉ぶったところがなくて、どちらかというと普段は抜けた顔をしている。
 もの喜びする性質で、面白いことや素敵なことに出会うとアニメのキャラのように分かりやすいリアクションをする。

 そして、面白いとか素敵だと思う神経が人の十倍くらいに敏感。
 
 事故で足が動かなくなったとき、一番分かりやすく悲しんでくれたのはお姉ちゃん。

 お医者さんが宣告すると「どういうことなのよーーーー!!」と叫んでお医者さんの首を絞めた。
 看護師さんたちに引きはがされると、ベッドのわたしに覆いかぶさって泣き叫んだ。

 ウガアアアアアアアアアア(#`Д´゚#)!!!

 涙と涎でグチャグチャになりながら、怪獣みたいな泣き方だった。

「そうだ、わたしの脚を片方移植してやってください! 片方動けばなんとかなります! 千歳、そうしよう! でもって、お姉ちゃんと一緒にリハビリしよう!」

 愛情がなせる業なんだろうけで、その瞬間は本気で脚の移植を考えてしまうほどのオッチョコチョイ。

 本格的な車いすの生活に向けてのリハビリが始まると、脚の不自由な人の生活が面白くなってくる。

「へーー車いすって、こんなに種類があるんだ!」

 車いすを決めるのに丸二日かかったのは、お姉ちゃんがいちいち試乗してチェックをしたからだ。

 サポーターや業者の人は「熱意と愛情のお姉さんですねぇ( ノД`)」と目を潤ませていたけど、わたしは分かってる。お姉ちゃんは単に面白がってるだけなんだ(^_^;)。

 惣堀高校に入るにあたって大阪のお姉ちゃんのマンションに越して来たんだけど、お姉ちゃんはリカちゃん人形のドールハウスをコーディネートするように熱中していた。

 送迎用のウェルキャブも最新式で、初めて学校に乗り入れた時には校長先生やバリアフリー担当の先生や事務所の人たちまで見物にやって来た。

 わたしは恥ずかしかったけど「いいお姉さんを持ったわねえ!」と感心される。本当はお姉ちゃんが一人面白がってるだけなんだけどね。

 そのお姉ちゃんが「変な演劇部ぅ~~~~~~~~~(^3^)!」と面白がるんだから、よっぽど変な演劇部。


 理由は、第一に演劇をやらない演劇部だから。

 第二は、演劇をやらなくても、充実してて面白そうだから。

 演劇をやらなくても解散にはならずに続いているのは四人の部員のユニークさ。これは、わたしも同意。

 演劇はやらないけど、それぞれ学校生活に目的があって退屈するということが無い。
 でも、一人一人語っていると夏休みが終わってしまいそうになるので、一つに絞ってお話するわね。
 

 なんと、演劇部が四人揃ってアメリカ旅行に行くことになってしまったのよ! いよいよ惣堀高校演劇部は夏休み編突入!! 


お姉ちゃん:「乞うご期待ですよぉ(^▽^)/」

千歳:「ちょ、ジャマなんですけど!」
 



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀河太平記・226『朱元尚大佐・4』

2024-06-11 09:39:28 | 小説4
・226

『朱元尚大佐・4』メグミ 




 フーちゃん(胡盛媛中尉)の父、胡盛徳大佐に止めを刺したのはわたしだ(147『待ち伏せ』)。

 待ち伏せのプランを考え、崖を爆破したのはハナ、部隊の指揮を執ったのはお岩さんだ。島の交戦記録にも、そう記載されている。
 フーちゃんには、彼女が連絡所の隊員としてやってきたときに、お岩さんを含め三人で打ち明けた。

「あ、いえ、あれは戦闘行為ですから(^_^;)」

 両手をワイーパーみたいに振って屈託のないことを示してくれた。

 それどころか、有志で作った慰霊碑があると聞くと、数秒絶句し、ポロポロと涙を流しながら「ありがとうございます」と頭を下げた。

 それからは、お岩食堂の常連になって、もうほとんど島の住人のようになっている。

 氷室神社の近くに設置された連絡所は漢明軍の末端施設だが、駐在員も温厚な者ばかりで、軍服を着ているけど武装はしていない。

 劉宏大統領の陰謀……と言ってしまえば身もふたもないことなんだけど、深慮遠謀。漢明と日本が将来どのような関係になっても、最もストレスと犠牲が少なくて済むように布石を打っている。

 平和には友好的な態度が基本――庇を貸りて母屋を取る――ためにね。

 戦うにしても相手と友好的なチャンネルを残しておくのがセオリー。

 始めた戦争はいつか止めなければならない、有利な条件で矛を収める土台は人間関係だからね。

 そのどちらにしても西之島は受け止められる。直に接する相手が人の心をしていれば、人の心で受け止める。たとえ、それが朱元尚大佐のように外交的ポーズであってもね。

 フーちゃんは軍人にしておくにはもったいないほどに優しい子だ。いつか除隊することがあるなら、そのまま本当に島の住人になってくれたらと思う。ココちゃん(須磨宮心子内親王)が抜けてガラッパチになった島の空気を柔らかくしてくれると思う。できたら、うちのラボの助手に……


 と思ったら、朱元尚のクソッタレが先を越そうとしている。


 選鉱機のアクシデントのあと、朱元尚は花束を抱えて、胡盛徳大佐の慰霊碑に向かっている。こちらは、わたし(メグミ)と巫女服のハナ、それに食堂のお岩さん。

「ほう、崖の上なんですか」

 慰霊碑のある崖を見上げる朱元尚。

「はい、戦死したのは崖の下なんですけど、落石が絶えないし、日陰なので、見晴らしのいい崖の上に設置していただいています。あちらの階段から上がれます」

「そうか、島の方々の心づくしなんだね」

「上は五人も並べないし、まずはお二人で」

 お岩さんが提案し、漢明の二人は花束を持って階段を上がる。

 朱元尚大佐が花束を、フーちゃんが水桶と中華式の長い線香を持っている。

 潮騒とウミネコの鳴き声、わたしたち三人は崖の下で手を合わせる。

 中華式なら、線香をあげながら祭文を唱えるはずなんだけど、波の音とウミネコにかき消されて聞こえない。
 しかし、空気の流れで線香の煙はその匂いと共に降りてくる。
 和式の線香とちがって、どこか横浜あたりの中華街を偲ばせる陽気な匂いだ。

 そうだ、これからは中華式に換えようかと思った。

 やがて、お参りが終わって、降りてきた二人と交代で崖を上る。

「日本式のもあげとくかぁ?」

 ハナが、持ってきた線香を持て余して提案する。巫女服で線香をあげるのは微妙にミスマッチなんだけど、西之島は明治以前の日本のように神仏習合だ。

 三人手を合わせていると、崖の下から声が上がってくる。

 気流の関係で、煙は下におりてくるが声は逆に上って来る。たぶん、岩に反射するからだろう、トンネルの中の音が外に漏れるのと同じ理屈だ。

『……かつての部下として、宿願のお参りも済ますことができた。今度は、わたしが大佐の恩に報いる時だ。どうだね、こんな敵の小島で燻っていないで、本土の部隊に復帰してみては』

『は、はい……それは……』

『実は、今度、現役に復帰して中央軍の配置になりそうなんだ』

『それは、おめでとうございます(^_^;)』

『早手回しにカミさんは新調の軍服をよこしてきた』

『あ、それが、いまお召しの……』

『こんなものは、どうでもいい、ただのラッピングに過ぎない。それよりも、必要なのは人材だ。復帰すれば、たぶん少将、悪くても准将。有能な副官が必要だ。お父上の恩に報いることにもなる、どうかね、わたしといっしょに本土に戻ってみては』

『は、はあ……』

『君にも立場とメンツがあるだろう、今すぐにという話ではない。考えておいてくれ』

『は、はい……』

『ま、特別のことだからね、連絡所の同僚にも島の人間にも内密にね』

『はい……(-_-;)』


「「「あいつぅ……」」」


 三人の声が揃った。


 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)057・そんなこと考えてたんだ

2024-06-10 07:19:36 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
057・そんなこと考えてたんだ                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです






 創立百年を超える府立高校は、我らが惣堀高校だけではない。


 そして、それら百年越えの高校の多くに戦前からの建物が残っている。

 百余年前というと、日露戦争の勝利から十年を経過し、折からの欧州大戦の好景気に沸いた大正時代。
 日本は一等国の仲間入りをしたという晴れがましい空気が横溢しており、今の時代からは想像がつかないが、世界的に軍縮が叫ばれ、軍人の肩身が狭くなった時期で。国民の軍事への関心が教育投資に向かった時代でもある。

 府内のナンバースクールにも続々と新機軸の校舎や施設が作られ、あらかたは戦時中の空襲で失われたり、戦後の府立高校拡充期に取り壊されたりしたが、一部には忘れられながらも残っていた。
 老朽施設としか思われていなかったそれらの校舎が、惣堀高校のことが刺激になって見直され始めてきたのだ。

 北浜高校のA号校舎、下寺町高校芸術棟などがそれで、卒業生には大臣経験者など有力者や著名人も多く。中には、ノーベル賞作家が生徒の頃に残した落書きが発見されたりして、保存改修運動が起こって来た。
 そのいくつかは、惣堀の工事よりも優先度が高くなって、惣堀の工事は置いてけぼりの形になりつつある。

 それに加えて、惣堀の旧校舎は木造であるために入手がむつかしい材料があったり、工法上の問題が出てきたりで、事実上工事が頓挫している。


「ま、中止いうわけやないから見守ってならしゃーないなあ」

 ミリーの二度目のご注進にため息をつく啓介である。

 ミリーは中止になると思い、この二日あまり走り回っていたのだ。

「しかし、ミリーの行動力ってすごいわね」

 須磨もめずらしく起きて話を聞いている。

「アメリカ領事館までいくんだもんね」

 千歳はミリーが領事館でもらってきた新茶を淹れながらホワホワと感心している。

「でも、ちょっと複雑なんよねぇ……」

 頭の後ろで手を組んで椅子ごと上半身をそらせる。

「ミリーさんの胸カッコいいですね……」

「え、あ、そっかな……」

「どーして、あたしの胸と見比べるんかね(-_-;)」

 須磨は、胸をつぼめてしまう。

「あ、そういうんじゃなくて、気に触ったらごめんなさい」

「思いふける時に、しょぼくれへんいうのはええことちゃうか」

「へへ、そーかな(^_^;)」

「乗せられちゃだめよ。啓介はそうやってミリーのオッパイ鑑賞しようって腹だから」

「ち、ちゃいますよ!」

「見物料とったろかなー」

「ゲホゲホ」

「複雑ってなんですか?」

「んーーー年内には終わると思てた工事が伸びるわけでしょ……まあ、工事が終わったらどーしよーかなーって思ってたんやけど、年を跨ぐとなるとボサーっと見てるのんもねえ……」

「え」「ほう」「そんなこと考えてたんだ」

 意外に先を考えているミリーに感心する三人である。


 ミーーンミンミンミン ミーーンミンミンミン


 中庭の蝉が思い出したように鳴きだした。冷房の効いた四階の図書室なので、窓は締め切りのはずなのだが、思わず窓が開いているのではと目を向けるほどだ。

 そう言えば、夏休みが目前、夏の盛りではあった……。


 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鳴かぬなら 信長転生記 186『一言主恐れる』

2024-06-09 12:08:39 | ノベル2
ら 信長転生記
186『一言主恐れる』一言主 




 少し喋り過ぎた。


 元々は八百万の神々の中でも寡黙で通してきた儂だ。

 その名も一言居士の一言主(ひとことぬし)じゃ。

 良きことも悪きことも一言で言い放つ。八幡や稲荷ほどではないが、各地に一言主神社があって――一言の願いならば聞き届けてやる――そういうコンセプトで神代の昔からやってきて、みんなからは一言さん(いちごんさん)と親しまれてきた。

 実のところはコミュ障ぎみでなぁ、多くを語ると自分でも訳が分からなくなって破綻してしまう。一時は役小角(えんのおずね)に打ち負かされて家来同然にされてしまったこともある。

 だから、御山の天照に引っ張り出された時には、正直ヤバイと思ったぞ。

「でもでも、コスプレに関しては右に出る者いないじゃん(^▽^)!」

 天照は人の弱いところをよう知っとる(-_-;)。

 そう、儂はコスプレの神でもあるんじゃ。

 雄略天皇が行列組んで葛城山にやってきたときは、雄略天皇に化けて出てやった。すると、さすがに天皇、畏れてコスを全部おいていきおった。儂の完ぺきなコスプレに脱帽っちゅうわけじゃ。

「すごいよ一言主! 仮装大明神の称号あげちゃう!」

 天照も喜んで、以来コスプレの神と祭り上げられたんじゃが、なかなか活躍の機会が無い。

 イベント一つもねえ日本死ね! 

 不穏なキャッチコピーも浮かんできたけど、さすがに止めた。

「喜べ一言主! イベント見つけてきてやったわよ!」

 なんか、吉本のマネージャーみたいにウキウキと話しかけてきおった。

「思金神(おもいかね)が、ちょうど契約切れた仕事があるんだけどね、なんかコスプレっぽいから向いてると思う、あんまりベシャリは無いみたいだしぃ(^〇^;)」

 天照は弟の素戔嗚に手を焼いてから、人あしらいが上手くなって要警戒だとは思っていたんだが「コスプレ!」「ベシャリ無し!」のキャッチフレーズに踊らされ……まあいい、最終的には自分で決めたんじゃからな。

 最初こそは木偶人形の三蔵法師で通していたが、信長たちが苦労している姿を見ていると、ついなあ……豊盃では三蔵法師として説法会っちゅう大イベントをやることになって、今度は三合の河原で豊盃のはハナクソかと思えるような超大説法会。

 折悪しく百年に一度あるかないかの大洪水に見舞われて、やっと武漢の街まで避難した。

 年甲斐もなくイベントで浮き立ってしまったが、これでも神、八百万グループの古株、知らず知らずのうちに影響を与えてしまう。

 水死したばかりの曹素が、その残留思念でおのが一生を振り返っているのは、その現れだろう。

 しかし……儂にも見えるぞ……曹操の姿がダブって……何人にも見える!

 親思いの息子  兄妹思いの兄  非情な王者  優れたデベロッパー  勇敢な将軍  権謀術数のサイコパス  孤独な為政者  キケロの如き弁論家

 ……アルターエゴ(別人格)か?

 だとしたら、こいつの主人格は?

 いくつものアルターエゴに目をやっているうちに、ゲームのキャラクリのように、それらが円を描き始める。

 素戔嗚が高天原にやってきた時のように、強く、深く、曹操を見てしまう。

 いや、儂だけではない、信長も、市も、茶姫も、大橋も、孔明も、ここにいる全ての者が曹操に目を奪われている。

――見てはならぬ!――

 天照の声が頭に響いた。

 天照は、キャピキャピギャルに自己韜晦されるのが常だが、この言葉には余裕が無い。

――逃げよおおおおお(˃̶͈̀ ロ ˂̶͈́)!!―― 

 続く言葉は、ほとんど悲鳴!

 だが、ここに居るのは神ならざる者たちばかり、聞こえた様子は無い。

 御山の天照とはいえ、この三国志では外国(とつくに)の神、神ならざる者に聞こえぬのはあたりまえか!?

 仕方がない、この不器用者の一言主が……

 数珠を持つ手を高々と挙げて、一言主一世一代のアラートを叫ぼうとしたとき、事態は飛躍した。

 ゾワッ!!

 一陣の突風がしたかと思うと、曹操のアルターエゴたちは一気に収れんされて魔人の姿に変貌した!


 
☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
   
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)056・初めて聞くミリーの英語

2024-06-09 06:40:31 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
056・初めて聞くミリーの英語                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです




 ラーソンばっかりやねえ。


 忘れ物を取りに来たミリーに言われる。

「え?」

 一瞬何のことか分からない。

「冷やし中華」

「あ、ああ……」

 そう言われて、食っている冷やし中華がラーソンのだと気づく。

「いろいろ食べ比べたんやけど、酸味・喉ごし・麺の触感で、ラーソンのが一番やなあ」

「へー、けっこうこだわりがあるんやぁ」

 本当はこだわりなんかじゃない、ラーソンの冷やし中華は460円で、他のコンビニより20円安い。

 しょっちゅう食べているので20円の差は大きい。

「あたしはシャーペン」

 そう言うと、テーブルの菓子箱から一本のシャーペンを取り出すミリー。

 忘れ物はシャーペンのようだ。

 菓子箱は千歳が中身入りで持ってきたクッキーの空き箱で、空になってからは共用の筆箱になっている。

 しかし、数十本は入ってるシャーペンやらボールペンの中から、迷わずに見つけられるもんだ。

「グリップの形が独特でね、握り具合が全然ちゃうんよ。沢山あっても微妙な違いは直ぐに分かるし、ほら」

 目の前に、ズイっとシャーペンが刺し出される(差し出すの間違いじゃない)。

 中学の頃から、この調子なんで、いまさら驚かない。下手に驚くと、さらに間合いを詰められてチキンレースになってしまう。

「ほー、グリップがちょっとくびれてるんや」

「これが生産中止でね、手持ちは三本しか残ってない。失くしたら確実に成績落ちてしまうし。分かってたらまとめ買いしたのにね~」

 そう言うと、大事そうに自分のペンケースに仕舞うミリー。

「シャーペン収納よーし!」

「指さし確認かい(^_^;)」

「車掌さんとかやってるでしょ、こうやっとくと忘れへん」


 そう言うと、ミリーは窓から見える部室棟のあちこちを指さし始めた。


「……やっぱ、工事停まってるぅ、チェックポイントが全然変化してないし」

「そうなんか?」

 確かに作業員の数は減っているけど、毎日人が動いているのはボンヤリしていても分かる。

 人が動いていれば作業しているもんだと思うんだけど、ミリーのように気合い入れて観察していると違うのかもしれない。

「あの窓枠、昨日は外しかけてたのに、また戻ってる」

「そうなんか?」

 やっぱりひいひい祖父ちゃんの設計とあって思い入れが違うようだ。

「気になるなあ……」

 工事現場の方を向いて腕組みし始めた。

「ちょっと調べてみよか……」

 スマホを出して検索してみる。

 最初に『空堀高校部室棟・マシュー・オーエン』と打ち込む。出てくるのは解体修理が決まったときの内容と変わらない。

 次に『作業中止』を足してみる……やっぱ変わらない。

「うちもやってみたけど、特には出てこーへんし」

「うん……せやなあ……」


「よし!」


 そう言うと、ミリーは気合いを入れてタコ部屋を出て行った。
 
 直ぐに工事現場でミリーの声がした。

 今まで聞いたことのないミリーだ。

 ミリーが英語で現場監督らしいオッサンに話しかけている。

――そういや、あいつはアメリカ人やってんなあ――

 知り合ってこのかた、ミリーの英語を聞くのは初めてだ。青い目の金髪だけど、俺たちの中ではとっくに気のいい友だちにカテゴライズされている。俺たちの友だちってのは例外なく英語は喋れない。だから、とっても新鮮な感じがする。

 映画で外人がよくやる「わっかりませーーん」のポーズをカマシて戻って来た。

「一大事やあーーーーー( ‘ᾥ’ ) !」

 ミリーの眉間には見たこともない縦ジワが刻まれていた。

「工事は無期限停止やってえ!!」

「え、どういうこっちゃ!?」

 日本語が分からないフリして訊ねて、現場監督と府の役人らしい人とのやり取りの中で分かってしまったようだ。

 夏休みを目前にして、なんだか得体のしれないものが動き始めているような気がしてきた。
 
 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語2・051『保健室のフロ-レンス先生』

2024-06-08 10:24:22 | カントリーロード
くもやかし物語 2
051『保健室のフロ-レンス先生』 




 朝飯前のラビリンスとくわせもの、二匹やっつけたので、それからは、まあ平和。

 ただね、くわせものが食堂のみんなにいっぱい食べさせたので、みんなお腹の調子が悪くて保健室の前に長い列をつくった。

「やくも、あなたは大丈夫なの?」
 
 最後の一人を廊下まで見送って、養護教諭のフローレンス先生が声をかけてくれる。

「あ、わたしは食べる前だったから(^_^;)」

「あ、そうか、あの妖怪やっつけてくれたのよね」

「はい、なんとか。みんな大丈夫なんですか?」

「ああ、ほんとうに食べたわけじゃないからね」

「え、そうなんですか?」

「ああ、妖怪といっても中の下という感じだから、本物を食べさせる力は無い、そんな気がしてるだけよ。ただ、食べたって感触は本物だから、ほんとうに具合が悪くなる」

「じゃあ、治療とかは?」

「胃薬と整腸剤よ」

「え、実際には食べてないのにですか?」

「気は心よ。いわば、食べ過ぎたって暗示が掛かってるわけだから、ていねいに話を聞いてお腹も診てやって、ていねいに調剤する。わたしは魔法使いじゃないから、チチンプイプイってわけにはいかないのよ」

「そ、そうなんだ、ご苦労さまでしたぁ(^_^;)」

 お~~い やくもぉ~

 情けない声がカーテンで仕切られたベッドからする。

「え、その声はハイジ?」

「ああ、あの子は魔法がかかる前に、けっこう食べてたからねえ(^△^;)」

「あはは、そうなんだ」

「「アハハハ」」

 アハハハ……

 先生と二人で笑うと、ベッドのハイジも笑う。まあ、だいじょうぶだろう。

 ピンポンパ~ン

『教頭のメグ・キャリバーンから生徒諸君に連絡です。妖怪くわせもののために、体調を崩す生徒が多いため、御前の授業を中止します。行動は自由ですが、学校の敷地からは出ないように。午後の授業については後ほど連絡します。くりかえします……』

 まあ、そうなるよね。

 グウウウウウ……

 納得すると、急にお腹が空いてきた。妖怪騒ぎで、まだ朝ご飯を食べていないことを思い出す。

 食堂に行ってみよう、まだなにかあるかもしれない。

 保健室の廊下を突き当りまでいくと、食堂にはまだだいぶあるのに美味しそうな匂いがしてきたよ。

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)055・夏の部活は図書室で(*^-^*)

2024-06-08 06:01:29 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
055・夏の部活は図書室で(*^-^*)                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 部活を図書室でやるようになった。

 文芸部でもないのに、なんで図書室かというと、二つ理由がある。


 一つは、部室に使っているタコ部屋にエアコンがあれへんから。


 以前使ってた部室棟は戦前からの木造建築で、大阪の酷暑にも耐えられる……とまではいかへんけど、暑気払いの工夫があちこちにしてあったらしい。さすがは、ひいひい祖父ちゃんのマシュー・オーエンの設計ではあるよ。

「ぜんぜんちゃうでーー」

 唯一、部室棟での夏を知っている啓介が言う。なんせ、演劇部は、この春までは啓介一人っきりの演劇部やったもんねぇ。

 それで、放課後も冷房が効いている部屋で、なおかつ生徒が自由に使える場所ということで図書室が選ばれた。

 二つ目の理由は、演劇部がめちゃ静かな部活やから。

 うちの演劇部は、演劇部とは看板だけで、放課後をマッタリとかグータラ過ごしたいというのがコンセプト。人には言えへんけどね。

 そやから、図書室に居てても他人様に迷惑をかけるようなことはない。

 須磨先輩は六回目の三年生の貫録、ひたすらエアコンの冷気を浴びて寝てる。


 器用なことに目ぇ開けて寝てる。


「すごいねえ、須磨先輩( ´艸`)」

 千歳に言うと、クスっと笑う。

「傍によって見てみるといいです」

 どれどれ……

 お言葉に従って、隣の席に移動して様子を見る。

「あ…………( ゜艸゜)」

 声を押えて驚いた。

 なんと、目蓋の上に目のシールが貼ってある。

 多分、自分の目を写真に撮ってプリントアウトしたやつ。ちょっと離れると見分けがつかへん。

 でも、こんなことやるんやったら、サッサと家に帰って寝たらええと思うんやけど、こうまでしても人の中に居たいという気持ちは天晴やと思う。

「いつもという訳じゃないんですよ」

 千歳の解説が続く。

「司書室にいるでしょ……」

 手鏡を出して司書室を映して見せる。直接見ては差し障りがあるみたい……


「あ、八重桜……!」


 国語の先生で、たしか図書部長をやってるオバハン先生。

 敷島という苗字があるのに『八重桜』と呼ばれているのには理由がある。

 明石家さんまみたいな反っ歯で、鼻よりも歯の方が前に出てるので『八重桜』。

 分かるわよね、八重桜っていうのは花が咲く前に葉が先に芽吹く……鼻より前に歯が出る……それで、いつのころからか『八重桜』というニックネームが付いた。八重桜先生は、図書室で喋ったり居ねむったりということにやかましい先生らしい。

「あ、え?」

 気づくと机に伏せて本格的に寝ている。

 そっと司書室を見ると八重桜の姿が無い。須磨先輩は居ねむりながらもレーダー波を発しているのか、人知れずGPSを仕掛けたのか、八重桜の出入りを把握しているらしい。

 須磨先輩は、三年生を六回もやっているというツワモノ。なにか八重桜に含むところがあるんやろうなあ。

 千歳は機嫌よく本を読んだり、器用に車いすを操作してパソコンに向かったりして知的好奇心を満たしている。

「千歳って、学校辞めるためのアリバイ入部やったんよね?」

「エヘヘ、そうですよ」

 イタズラっぽく笑う。

「ん?」

「辞めるまでは、まあ……」

 呟きながらラノベを読んでいる。

 タイトルを覗くと『エロまんが先生』とある。机の上には『冴えない彼女の育て方』『中古でも恋がしたい』なんかも積んである。

 この三つのラノベの共通項は『エロゲ』やったよね?


 エロゲと言えば啓介。


 さすがにノーパソ持ち込んでエロゲをやるわけにはいかへんので、一人部室に残ってやっている。

 区切りがいいところまでやっては図書室にやってきて涼んでる。なんや、小さいノートに書きこんで……チラ見すると、メイド服の女の子にいろいろ説明がついてて、それを書いたり消したり……せや、こいつのエロゲはクラブ経営のシュレーションやった。

 須磨先輩が誤ってゲームをクラッシュさせて(026・GAME OVER!)、啓介は一からクラブを立て直してるんや(^_^;)。

 こいつも家で心置きなくやればいいと思うんやけど、この環境でやることが、やっぱり醍醐味みたい。

「いやいや、もう一つ醍醐味があるねんで」

 こっそり理由を聞くとニンマリして言う。

「暑さにバテかけのときにコンビニの冷やし中華を食べる、この美味さは、この環境でないと味わわれへん!」

 そうや、こいつは冷やし中華フェチやった。

「せやけどねえ、うちの髪の毛見ながらヨダレ垂らすのは止めてくれへん?」

 こいつは、わたしのブロンドの髪を見て食欲がわくという変態さんでもある。

 髪をブラウンとかに染めたら焼きそばフェチに転向するかなあとか思ってしまう。

 わたしは……というと、部室棟が解体修理されるのを観察してる。

 入部したのも、ひいひい祖父さんが設計した部室棟が生まれ変わるのを、一番のロケーションで見てたいから。

 図書室からやと、部室ほどには見えへんねんけど、冷房の恩恵を考えるとやむなし。


 その解体作業が、この一週間停まったままなんやけど……。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・103『朝から全校集会』

2024-06-07 16:02:32 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
103『朝から全校集会』   




 そのあくる日、朝から全校集会。


「みなさんに、悲しいお知らせがあります……」

 教頭先生の声が校舎に設置されているスピーカーから聞こえる。

 教頭先生は朝礼台の下のマイクで喋っているので、姿が見えるのは最前列だけ。姿が見えない分、ちょっと普通ではない印象。じっさい、朝礼台の横では先生たちがヒソヒソ話しているというか調整しているのが列の隙間から見えるし。

 やがて、校長先生が朝礼台に上がって、スタンドマイクに向かう。

 ピィーーーーーーーーーーーーン!

 とたんにJアラートみたいなハウリングが起こって、不穏な感じがいや増しになる。

 放送部が調整して、もう一度校長先生がマイクの前に戻る。

「朝から集合してもらったのは、みんなに悲しい知らせがあるからです」

 あ、同じだと思った。

 去年、栗原さんが亡くなった時(056『ジュリエットの秘密とわたしの不思議』)と同じ重い空気がグラウンドにたちこめる。

 いや、ちょっと違う。

 栗原さんの時は、まず教頭先生があらましを語って、そのあと校長先生の言葉だった。今日はヒソヒソの後、すぐに校長先生だ。

「昨日の午後、3年2組の金原美奈さんが不慮の死を遂げられました……」

 え……

 瞬間で空気が凍り付いた。

 高校生にもなれば『不慮の死』の意味は分かる。

 昭和の時代は交通事故がよく起こる。去年も二件ほど事故に遭った子がいて、生指の先生が注意してたし。

 だから、交通事故かなと思った。

 とたんに、三年生の方から嗚咽を堪えるうめき声みたいなのが起こる。中には堪えきれずに泣き出す女子もいる。

 やっぱり違う。

「詳細については、まだ伝えるわけにはいきませんが、まずは、黙祷したいと思います。みんな、前を向いてください……」

 すすり泣く声が止むことはなかったけれど、私語はピタリと止んで全校生徒が前を向く。こういうところ、昭和の高校生は大人だと思うよ。

「黙祷」

 黙祷の後、生指の伊藤先生が「金原さんのことについて疑問や質問のある人もいるだろうが、しばらく待ってください。どうしてもという人は、わたしのところまで来るように」と付け加えた。

 その後は、この場を借りてということで、生徒会や先生たちから諸連絡。

 どうしても、今でなければならない連絡は一つも無かったけど、日常的な連絡や話をすることで、沈鬱で動揺した空気を収めようという狙いなのが分かった。

 魔法少女の力で情報をとろうとしたら取れたんだけど、やめた。

 進んで首を突っ込むとろくなことが無いし、なんだか憚られた。


 四時間目まで5分短縮の授業。


 仲間でテーブルを囲む食堂の窓際席。

 ロコが、Bランチのトレーを置くなり、声を潜めた。

「金原さん、実は……自殺だったようです」

「やっぱり……」

「それで……」

「まずは、食べてからにしよう」

 取りあえずは食事に集中。

 MITAKA(みんなで楽しく語る会)のメンバーは、軽々しく胸に沸いたことを口にすることはしない。いったん呑み込んで整理してからというところがある、聞いてしまったら食事どころじゃない気もしたしね。

 その後の話で、金原さんの家は大浜市民会館の近所で、発見した家の人が消防に電話したのが『星の牧場』が終わったころ。その後、救急車や警察が来て大変だったらしいことが分かった。

 そうか、あの時のサイレン……

 それ以上は話すことも控え、平常時間に戻った午後の授業を受けた。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 

 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)054・地区総会・6

2024-06-07 06:45:44 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
054・地区総会・6                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 啓介の気配は彼に似ていた。


 八年前の地区総会で同じような気配の男子が居た。

 北浜高校のN

 あの時もコンクールに臨む各学校の抱負や近況を述べることになったんだ。

 硬い事務的な話ばかりになったので、〇女学院の議長が気を利かせたんだ。

「北浜高校のNです、いい芝居を創りたいと思いますが、やっぱり『意あって言葉足らず』みたいな作品になることが多いと思います。高校生なんだからという言い訳はしたくないんですけど、言葉足らずの底にある『伝えたいもの』『表現したかったもの』に着目して、お互い前向きな気持ちで、お互いの芝居を観ていきましょう!」

 というようなことを言った。要は『お互い長い目で観ていこう』ということで、来るべきコンクールの詰まらなさを前もって言い訳したようなものだった。
 
 時に言葉は『何を言ったか』ではなくて『どんな風に言ったか』が大事な時がある。

 Nは見てくれも発言も歯磨きのコマーシャルのように爽やかだった。

 あまりに爽やかな印象に『この人は正しいんじゃないかしら』と思ってしまった。

 ルックスも、オタクっぽい男子が多い中で、程良い文武両道的なたくましさと歯磨きのCM的な爽やかさ。


「空堀高校の松井さんですね」


 地区総会が終わって帰り道、環状線に乗る先輩たちとも別れて、二つ目の角を曲がったところで声を掛けられた。

 後を付けてきたと言うんじゃなくて、一本向こうの道から来たら、たまたま出くわしたという感じ。

 そのまま地下鉄に乗って、堺筋本町で別れるまでに携帯番号の交換までやった。

 意気投合した。

 そんなNと付き合いが始まって、よその地区コンクールや本選の芝居をいっしょに観に行ったりした。

 どの学校の芝居を観ても、例の『長い目で観て行こう』の精神で、わたしでは気づかないような見どころや長所を言ってくれる。

 優しい前向きな人だなあと、それを包容力のように思って、十六歳のわたしは時めいてしまった。


「合評会があるから観ていこう」


 本選のプログラムが終わると、彼は、わたしを誘った。予選でも合評会はあるんだけど、Nが誘ってきたのは初めてだ。

 正式には『生徒交流会』という合評会、審査結果が出るまでの時間つぶし的なものなんだけど、半分以上の観客や出場校が残っていて、高校生らしい熱気が溢れていた。

 興味深いってか――オヤ?――っと思ったのは、本番の芝居より合評会が面白いこと。

「お疲れさまでした」という挨拶で始まる評はどれも暖かかった。

 四校目で――あれ?――っと思った。

 正直、箸にも棒にも掛からない芝居で、客席は真冬の朝のように冷え切っていた。
 でも、合評会は暖かいままだ。間延びした芝居を「緩やかなテンポ」、言葉足らずで伝わらない台詞を「無駄が無く含みのある台詞」、姿勢の悪い演技を「等身大のリアルさ」と称賛している。正直気持ちが悪い。

 雰囲気に乗れないまま審査終了の知らせが入って合評会は終わった。

「芝居というのは一期一会なんだということを頭に置いて作らなきゃいけない」

 審査員の一人が苦言を呈した。

 柔らかい苦言だったと思う。要は「詰まらない芝居ばかりだった」ということだ。

「創作劇ばっかりというのはどうなんだろ。戯曲というのは軽音やブラバンの演奏曲にあたるよね、軽音やブラバンが創作曲でコンクールに出るってことは有りえません。ちょっと考えていいんじゃないかな」

 同感と思ったら、Nが手を上げた。

「北浜高校のNです、いい芝居を創りたいと思いますが、やっぱり『意あって言葉足らず』みたいな作品になることが多いと思います。高校生なんだからという言い訳はしたくないんですけど、言葉足らずの底にある『伝えたいもの』『表現したかったもの』に着目して、お互い前向きな気持ちで、お互いの芝居を観ることが大事なんじゃないでしょうか」

 健康補助食品のCMを思わせる喋り方に観客席から拍手が湧いて、Nは拍手の方角に軽く会釈して座った。

 地区総会での彼をグレードアップしたような感じに、わたしは思ってしまった。

 Nは、爽やかに発言して、暖かく受け入れられるのが嬉しいんだ。

 そんなNを残念に思った。

 それからいろいろ分かった。

 分かったから、その後の近畿大会のお誘いは断った。

 そして携帯を機種変するのに合わせて番号を変えた。

 それっきりNとは会っていない。

 そのNと啓介が被った。


 なんで?


 ああ、喋る前に髪をかきあげる癖がいっしょなんだ。

 ただ、啓介は緊張のあまりからで、Nのはポーズなんだと、八年後の、この一瞬で理解した。

 なんだか小さな可笑しみが沸き上がってくる。

 同じ仕草のあと、啓介は言った。

「コンクールには上演校としては参加できませんけど、分担された仕事はやらせてもらいますので、よろしくお願いします」

 正直な発言に、我知らずコクコクと頷いてしまった。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

勇者乙の天路歴程 024『また飛ばされる』

2024-06-06 11:17:15 | 自己紹介
勇者路歴程

024『また飛ばされる』 
 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者




 高床式の裏口から吸い出されると、巨木の森の内側をルーレットの球のようにグルグル回る!

「め、目が回る~(๑﹏๑)」

 ビクニが目を回してしがみついてくる。

「結界が張ってあるんでぇ~₍ᐢ>𖥦<ᐢ₎!」

「外へ出るのもブロックするのかぁ(≧▢≦)!?」

「突然なことで、結界もビックリしたんですぅ! ちょっと待ってくださ~い₍ᐡ > ·̫ <ᐡ₎!」

 エイ!

 掛け声とともに、白兎は右の耳を間近の巨木にひっかける!

「「「ウワアアアアアアア!!」」」

 衝撃で結界にほころびができて、三人は明後日の方向に飛び出してしまう。

 ピューーーーーーーーーーーーーン


 ドサ


 ………………………………………あれ?

 わりに穏やかに着地できたかと思うと、ビクニも白兎の姿も見えない。

 途中で振り落とされたか……見渡すと起伏の多い草原で彼方に山並みが霞んで、その上はマーブル模様に空が歪んでいる。

 ウルトラQのタイトルみたいだ……古希らしい感想が浮かんでくる。

――あれは、ヤガミヒメとスセリヒメの矛盾で歪んでいるんです――

「え、白兎、どこにいるんだ?」

――ここです、ここ――

「え、どこ?」

――ここです!――

 目の前にプルンと震えるものがあると思ったら、横に伸びた兎の耳の片方だ。付け根の方は霞んで空間に溶けている。

――巨木の梢に引っかかって、片方の耳しかそっちに行けてないんです――

「え、大丈夫?」

――アハハ、なんとか。とうぶん動けそうにないんで、こっちの耳だけそっちに伸ばしておきます――

「千切れないようにな。ところで、ビクニの姿も見えないんだけど」

――こっちにはいませんよ、あ……そっち、だれか来ますよ――

 え?

 振り返ると、少佐の姿のビクニとビクニに掴まえられたナース服の少女がいた。

「捕まえてきた」

「え?」

「あのスクナとかいう侍女だ」

 そうだ、こいつが裏口を閉め忘れて、こんなところまで飛ばされたんだった!



 
☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
  • ヤガミヒメ      大国主の最初の妻 白兎のボス
  • スクナ        ヤガミヒメの新米侍女
  • 因幡の白兎課長代理   あやしいウサギ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)053・地区総会・5

2024-06-06 07:15:59 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
053・地区総会・5                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 八年前の地区予選は〇女学院で行われた。


 地下鉄〇駅の階段を上がると四車線を挟んで緩やかに上る坂道、坂道の向こうにチャペルの尖塔が覗いている。

 坂を上りはじめると、ディンド~ンディンド~ンとタイミングよく鐘が鳴る。
 見え始めた学院は年季の入った緑の中に校舎が静もっていて、その校舎群を従えるようにチャペル。

「あ、会場はこっちのチャペルですよぉ」

 先輩がよそ行きの言葉で指さしたのは小学校の講堂くらいのチャペル。

 鐘が鳴っていたのは大きい方のチャペルで、スマホの地図で確認したら大阪でも指折りのカトリック教会。隣りあっていて、たぶん明治の昔に教会の付属でできた学校なんだろう。ミッションスクールのロケーションとしては最高で、なんだか映画の中の登場人物になったような気がした。

 それだけで胸がときめく十五歳の女子高生だった。

 チャペルに行きつくまでに「お早うございます」の挨拶を十回はした。

 学院の生徒さんたちも、ジャージのロゴで分かる他校の部員さんたちもハキハキと挨拶を返してくれる。

「すみません、みなさんのお名前書いていただけると嬉しいです。お友だちになりたいですから」

 受付の生徒さんに奉加帳みたいなノートを示される。中一の天皇誕生日にお祖母ちゃんに連れられて皇居で記帳したのを思い出す。

 惣堀高校演劇部の下に、一年生 松井須磨。

「わ、素敵なお名前ですね」

「え、そですか?」

「下に子の字が付けば新劇の女王ね(^▽^)」

 顧問と思しき先生がパンフを渡してくれながらニッコリ笑う。

 松井須磨子どころか新劇という言葉も知らなかったわたしは、でも、言葉とロケーションの雰囲気でポーっとしてしまった。

 チャペルに入ると一学年四百人くらいは優に入る大きさでビックリ。

 着くのが早かったのか、緞帳は開いたままで、一本目の学校の仕込みが行われていた。

 キビキビ働く部員さんたち、トントン組み上がっていくシンプルな舞台装置。

 あーー、わたしは演劇の中にいるんだ!

 頬っぺたと目頭が熱くなってきて狼狽える。

 惣堀高校も、ちゃんと加盟が間に合って参加できていたらどんなによかっただろーと悔しくなる。


 え、これで始まるの?


 開会を伝えるアナウンスがあって――あれ?――と思った。

 四百人は入ろうかという会場は……二十人ほどしかお客さんが居ない。

 地区代表の先生と生徒代表の挨拶、審査員の先生の紹介があって、最初の学校が始まった。


 え………………………………うそ?

 びっくりするほどつまらない。


 声は聞こえない、表情は見えない、ストーリーも見えない、観客の反応はない……。

 一週間前にあった文化祭のクラス劇の方がよっぽど面白かった。

 まぁ、こんな学校もあるわね。

 気を取り直して、残りの五校も観たんだけど、ことごとくつまらない。

 比較しちゃいけないんだろうけど、ネットで観たダンス部や軽音、ブラバンの方がパフォーマンスとして格段に面白い。

 オレンジ色のユニホームで有名な京都のブラバンを観たのは、ディズニーランドの動画を観ているところだった。
 パレードしながらのステップがいかにもディズニーテイストで、最初はディズニーランドのキャストかと思った。

 それが、現役の高校ブラバンと分かってビックリしたのは中三の秋だった。

 それからダンス部や軽音なんかを見まくって、高校生の凄さを認識して憧れると同時に――わたしには無理――そう思っていた。
 
 だから、駅からここまでのロケーションと、高校の部活へのリスペクトで、期待値はマックスになっていた。

 だから、置いてけぼりになったようにショックは大きかった。


 もう一つ「あれ?」があった。

 出場校全てが創作劇だ。


 ああ、そいいう地区なんだと納得して、二週間後に府大会を観にいった。

 ちゃんとした市民ホールだった。

 でも、キャパ八百余りの客席が埋まることはなかったし、出場校の作品に感動することもなかった。
 観客席は時々反応していたけど、ついていけない、この子たちはオタクなんだと思った。
 
 それからの六年間、演劇部に籍はあるけど、一回も部活には行ってない。


 ……地区総会は『今年度のコンクール』の話になって来た。

 議長は、一校ずつ指名して、今年の抱負を言わせている。

 え?

 昔のことに意識が飛んでいたわたしは、順番が回ってきて立ち上がった啓介の雰囲気にビックリした。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀河太平記・225『朱元尚大佐・3』

2024-06-05 15:08:16 | 小説4
・225

『朱元尚大佐・3』朱元尚 




 フォルムだけだが選鉱機の概要が分かった。

 フォルムが分かれば、内部の動力や制御機器の大きさや配置の見当がつく。まったくのゼロよりはスペックの推測がしやすく、コピーを作る手間と時間の二割ぐらいは省けるだろう。

 母国に送るパルス鉱石などはどうでもいい、都合よく台風が接近してきたので、それをネタに西之島の先端技術を盗むのが目的なんだからな。

 選鉱機そのものもパルス関連の周辺技術に過ぎないが、こういうことの積み重ねが出世の糸口になる。いつまでも、ホトケノザにいるつもりはない。予備役の身分とはいえ資源開発公司の管理職の端くれになったんだ、目指すは公司の社長かCEO……いや、それも手段だ。俺の欲は日本海溝よりも深く、志は泰山よりも大きく須弥山よりも高いのだからな。

「大佐、お怪我はありませんでしたか?」

 胡中尉といっしょに地上に引き上げられた時、氷室社長は坑口まで来ていて、心から心配そうに訊ねてくれる。
 社交辞令に過ぎないのだろうが、こういう機敏さは敵ながら見事だ。

「いや、お騒がせしました。中尉が注意してくれた時に踏みとどまればよかったのですが、新しいものにはつい前のめりになってしまって、もうしわけありません」

「医務室で少し休まれませんか、あちこち打っておられるようですし、一応の検査もなさった方が……」

「大丈夫、ハンベの簡易検査で異常ありません」

 ハンベの仮想インタフェイスを拡大して見せると、眉を寄せながらも笑顔を見せる氷室社長。

「なるほど(^_^;)」

「それに、胡盛徳大佐の慰霊碑にはお参りしたいですから」

「そうですか、では、こちらからも人を付けましょう。ええと……」

「わたしが行きます、社長」

「ああ、メグミさん」

 坑口に集まっている関係者の中から、ドクターともメカニックともつかない女性が手を上げる。

「彼女はラボのチーフですが、戦時中は緊急にドクターもやっていましたので適任です。じゃあ、よろしくお願いします、戻られましたら歓迎会というほどではありませんが、昼食会をやりますので、食堂の方へお越しください」

「そうでしたね、一時間で戻れるだろうか中尉?」

「間に合うとは思いますが、90分ということで、お岩さん、いいかしら?」

「ああ、9秒後でも90分後でも間に合わせてあげるよ。でもまあ、ご馳走を前に待たしとくと暴動が起きかねないから、連絡してもらうと嬉しいかな」

「はい、承知しました。では、参りましょうか、大佐」

「ああ、頼む」

 選鉱機の概要も確認し、島の様子もある程度は掴めた、あとはオマケだ。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
 

 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)052・地区総会・4

2024-06-05 07:08:24 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
052・地区総会・4                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです




 八年前のことを思い出していた。


 天皇陛下、今の上皇陛下が退位したいとテレビでおっしゃって、アメリカでは泡沫候補と言われたトランプが大統領になって、番狂わせで波乱の年だった。
 熊本地震で熊本城があちこち壊れてびっくりした。お祖母ちゃんは「清正公(せいしょうこう)の石垣は日本一だ」と言っていた、それがあっさり崩れて怖かった。でも、なんだ、そんなものかとも思った。
 
 個人的には、初めて携帯電話を持つことを許されて、わたしは大阪府立空堀高校に入学した年でもある。

 十五歳の女の子には目まぐるしくも、ドキドキする新時代の幕開けだった。


 そんなわたしは演劇部に入ったんだ。


 それまで人前で喋るなんてもってのほかで、中三の春に担任の気まぐれでHR一時間丸々使って自己紹介を強要した時は、あと三人で自分の番という時にお昼御飯がリバースしてきた。

 口を押えて、幸いにも教室の隣にあったトイレにダッシュ。

 いつも大人しいわたしが突然飛び出したので、担任もクラスメートもチョービックリしていた。
 胃の中のものを全部吐き出して教室に戻ると「大丈夫か松井?」と担任がクラス全員の前で聞く。

 そっとしといてよ。

 担任の無神経さに腹が立ったので、思わずこう返した。

「大丈夫です、ほんの悪阻(つわり)ですから」

 教室が凍り付いた。

 愛読書のラノベを真似して、ほんの冗談のつもりで言ったんだけど、それまで冗談なんか行ったことのないわたしは、その足で早退させられ、あくる日には保護者共々呼び出された。

 お父さんは変な人で「きわめて個人的なことなのでお話しできません、しばらく休ませます」と突っぱねた。

 半月たって復帰すると、みんな腫れ物に触るような扱いになった。

 おかげで苦手な体育は見学になったし、ウザイだけの修学旅行にも行かずに済んだ。

 この件でボッチが確定してしまったけど、もともと群れることを良しとしない私には苦ではなかった。

 こんなわたしだったけども、2016年というのは輝かしい。

 きっかけは入学式後のオリエンテーションだった。

 人権なんとか委員長の肩書で演壇に立ったのは八重桜こと敷島だ。なんだか与党を追及する女野党党首のように見えたのは白のスーツ姿だけではなかった。

 このオバサンが「外国籍の人は、ぜひ本名宣言を!」とぶち始めた。

 クラスには中学で一緒だったHさんが居た。Hさんは八重桜の演説に酔ってしまい、それまで使っていた通名を捨ててしまいそうになった。

「だめだよ、そんな簡単に決めちゃ!」

 中学での数少ない知り合いだったので、わたしは真剣に止めた。わたし学校は嫌いじゃなかったけど信用はしていない。学校や教師の言うことは、都合よく解釈や利用するものだと思っている。まして入学したばかりの高校、どこまで信用出来て利用できるか見届けるのには時間がかかる。

 Hさんは、中一の時の薄い付き合いにも関わらず真剣に説得するわたしに好感を持ってくれて「せやね、もうちょっと考えてからでも遅ないわね」と思いとどまってくれた。よそのクラスでは後悔した人もいたとか聞いた。

 こんなわたしだけど、拙い説得で思いとどまってくれたことが嬉しくて、2016年の後押し気分もあって演劇部に入ってしまった。

 あの年も地区総会にやってきて、コンクールやら講習会のあれこれが議題に上がっていたのを思い出した。


 コンクールに出たいと、演劇部に関しては初心なわたしは熱望した。


 でも、連盟加盟が遅れた惣堀はコンクールへの参加資格が無かったんだよね……。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする