大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)051・地区総会・3

2024-06-04 11:07:18 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
051・地区総会・3                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 ブームは過ぎてると思ってた。

 部室棟がひいお祖父ちゃんのマシュー・オーエンの設計やと分かったときは大騒ぎやった。
 なんせマシュー・オーエンはアメリカ建築史に燦然とその名を輝かす歴史的な建築家や。
 でもって、偶然にも、わたし、ミリー・オーエンがひ孫で、惣堀高校二年に在学中の交換留学生やったもんで、SNSでハジケてマスコミにも取り上げられた。


 しばらくは、サイン攻めとかの大騒ぎ。


 他の三人の演劇部員も騒がれた。

 野球部崩れの啓介は、中学ではエースで、エースに相応しいルックスとボディー。外見的にはラブコメの主役級。

 須磨先輩は、非公開やけど6回目の三年生。もともと美人なんやけど、23歳という完成された女のボディーを制服で包んでいると、なんともクール。これに対抗できるキャラは『冴えない彼女の育て方』の霞ヶ丘詩羽くらいしか思い浮かばへん。

 千歳も『涼宮ハルヒ』シリーズの朝比奈ミクル並の可愛さ。最初に見かけた時は車いすの薄幸の美少女って感じやったけど、そのイメージから脱却しようと、見かけからは及びもつかん闘志を秘めてるし。

 わたしは100%混じりけ無しのアメリカ人。幾分入っているゲルマンの血で絵に描いたような金髪碧眼。ホームステイ先の千代子からは『僕は友だちが少ない』の柏崎 星奈みたいやと言われる(あんな高飛車やないし人相も悪くないけどグラマーでもない)

 4人揃うと、ビジュアル的にはラノベが何冊も書けるくらいに特徴的ではあるんやけど、狭い学校の中やら惣堀界隈では意識せえへん。部室棟ブームのころこそは写真とか撮られまくりやったけど、ブームが過ぎてしまえば、変なクラブの変な4人組。

 その証拠に、演劇部の部員はぜんぜん増えへん。 
 
 それが、この地区総会では様子が違う。

 遅れてる学校があるので開始を遅らせますと言われたとたんに、会場の他校生たちが殺到してきた。「サインしてください」「写真撮っていいですか」には慣れてたけど、飲み終わってテーブルに置いていたペットボトルが消えた時には「え!?」やった。

「ちょ」「え」「あ、痛い!」

 惜しくらまんじゅうみたいになって、北浜高校の女の子がこけた。

「あ、大丈夫!?」

 手を貸すと、その子の膝に血が滲んでる。

「啓介、ペットボトル!」

 まだ略奪されていない啓介からミネラルウォーターを受け取って、その子の傷を洗ってハンカチで縛ってあげる。

「あ、ありがとうございます!」

「ううん、気ぃ付けてねえ……」

 足許に目をやると、再びペットボトルが消えてるし(^_^;)。


「定足数に達しましたので、地区総会を始めまーす!」


 議長の声がして、やっと始まった。

 黒板に書かれた議題は『夏休み地区講習会』と『今年度の状況報告とコンクール役割分担』や。

 あ、これはうちには関係ないなと思った。

 うちは看板だけのナンチャッテ演劇部やからね。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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鳴かぬなら 信長転生記 185『兄ちゃんが泣いている』

2024-06-04 09:42:57 | ノベル2
ら 信長転生記
185『兄ちゃんが泣いている』曹素 




 兄ちゃんが泣いている、腹の底から泣いている。

 え……え……それって、俺のためなのか?

 荒れ狂う長江の水から引き上げられて、やっと意識が戻ったら、家来や兵隊、それに川で助けてやった者たちが泣いていた「こんな年寄捨ておかれればよろしかったのに!」とか「おいらなんか助けて、将軍様があ!」とか「曹素さまあ!」とか。

 泣くなみんな、ちょっと頑張り過ぎて体が動かないが、なに、ちょっとひと眠りしたら元気になるから……大丈夫だ……から……な……気が遠くなって、気が付いたら、今度は兄ちゃんが泣いてる。

 こんな風に兄ちゃんが泣くのは父ちゃんが亡くなった時以来だ。

 主筋の人や身近な家来、親類のおいちゃんやおばちゃん、大事な人が死んだときも泣いてたけど、こんな風に泣いたのは父ちゃんの時だけだ。

「曹素よ、俺が真に泣けるのは親父と、曹素、おまえに対してだけだ」

「え、なんでだ兄ちゃん?」

「親父は、世界で一番偉いから、曹素は一番愚かだからだ」

「な、なんだよ、それ(`Д´)」

「親父は俺以上の英雄だが、俺が生まれた時に星を失った」

「星?」

「天下人の星だ、いくら力があっても星を持っていなければ災いになるだけだ。そういうものだ」

「そうなのか?」

「曹素、お前には星も無ければ知恵もない。いっそ百姓にでも生まれていれば、普通に妻を迎え子をなし田畑を守って幸せに暮らせただろうに。なまじ俺の弟に生まれたばかりに破滅していく。許せ、弟よ」

「でも、兄ちゃん、兄妹なら他にも……茶姫なんか、にくたらしいけど、力があるじゃないか。だから、兄ちゃんの邪魔にならないように、時どき『余計なことを!』って兄ちゃん怒ったけど、懲らしめてやったし。兄ちゃんが必要だと思ったら、助けにいったし」

「曹素、おまえは愚かだが見る目はある……小動物が生きていくために災いを避けるような目だがな」

「災いなのか茶姫は?」

「茶姫は俺に並ぶほどの力があって星も背負っている。人の助けを得て大業を成す星を。しかし、茶姫の星は、残念なことに三国志の星ではない。そういう星を持った者は我が曹の家だけではなく天下の毒になる」

「茶姫も滅ぼすのか?」

「毒は使いようで薬にもなる」

「え、そ、そうか」

「俺にも愚かなところがある。ほとんどは母の腹の中に置いてきたがな。おまえは、この曹操が母の腹の中に残してきた、その愚かさ、曹家の愚かさを全て担って生まれてきたのだ、いわば曹家の人身御供、兄として涙せずにおられるものか」

 そうか、兄ちゃんが泣いているのはそういうことなんだ。

 俺は、ほんとうに死んでしまったんだ。

 愚かだから、俺は死んでから反省してるのか……また眠くなってきた……え……あ……兄ちゃんの姿がダブってくる……え、兄ちゃんが何人もいる。

 
☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
  
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)050・地区総会・2

2024-06-03 06:40:21 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
050・地区総会・2                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 世の中がわたしを見る目は障がい者だ。


 小六の事故で車いすの生活になってしまった。

 それまでは、当たり前だけど健常者だった。

 でも、健常者沢村千歳とは呼ばれなかった。


 今は身体障がい者とか脚の不自由な沢村千歳さんだ。


 障がいとか足の不自由なとかの枕詞が先行してというかアクセントが付いて、沢村千歳という中身は影が薄くなってしまった。

 小六までは健常者だったので、この影の薄さはしっかり感じる。

 高校に入ったら、少しは変わるかなあと期待した。
 
 惣堀高校は施設的にも整っていて、その方面でもモデル校だったので期待があった。

 惣堀高校なら枕詞抜きの沢村千歳として扱ってもらえるんじゃないかと。

 実際は中学以上に失望した。

 モデル校だけあって、設備も対応も隙が無い。でも、肝心の沢村千歳はどっかにいっちゃうんだよね。


 連休明けには辞めようと思った。


 辞めるために演劇部に入った。部活がんばったけど、やっぱダメだったということにするためにね。

 演劇部とは名ばかりで、放課後部室に集まってはウダウダしている、グータラ部活。

 アリバイ部活だからうってつけだと思った。これで学期末には退学できると思った。


 でも、違ったんだよね。


 正直、三人の先輩はグータラだ。予想通り演劇部らしいことは何もやらない。わたしもほとんどホッタラカシにされている。さすがに移動の時なんかには手を貸してくれるけど、どこかゾンザイ。

 ゾンザイどころか、部室棟の解体修理に伴って仮部室に引っ越してからは、お茶くみの係りはわたしになった。

 一見不人情に見える。

 だって、健常な先輩たちはテーブル囲んで好きなことをやっている。啓介先輩はエロゲだし、須磨先輩は寝っ転がってるし、ミリー先輩は解体される部室棟ばかり見ている。

 そこをウンショウンショとお茶を淹れるわたしは絵的にはイジメられてる的に見えるかもしれない。


 でも、違うんだよね。


 わたしが淹れるお茶とかコーヒーは美味しいんだ。

 たぶんお姉ちゃんの影響。お姉ちゃんはお茶とかコーヒーを扱う会社に勤めているから、知らず知らず影響を受けたみたい。

 先輩たちは「美味しい」と言って飲んでくれる。

 厳密には「美味しい」じゃなくて「美味い」とか「え?」とか「お?」とか「あ?」とか。時には言葉でさえ無くて、一口すすったあとカップの中を見たり、ホッと息を吐いたり。
 このごろはそれさえ無くて、お茶屋コーヒーの後で、より深くというかリラックスして、エロゲやったり、お昼寝したり、部室等眺めたり。

 グータラするのにはお茶とかコーヒーとかは必須アイテムなんだ。

 この仮部室も狭いんだけど、車いすを取り回すのにはちょうどいいんだ。クルンと回転させるだけでテーブルと流しと本棚に手が届く。
 階段下という構造も天井が低くて、高いところにも手が届いて便利。むろん天井近くは無理なんだけど、部室にオモチャのマジックハンドがあって、車いすのわたしでも、手が届きやすいように啓介先輩が壁とかにフックを付けてくれて、部室内の日常のものは不便にならないようになっている。

 たとえ身障者でも、使えるところは使って楽してやろうという魂胆でもあるんだけど。こういう無精というか無神経なほったらかしは心地い。


 でもね……赤いリボンの女子高の一団は違うんだよね。


「空堀高校の沢村千歳さんですね! サインしてください!」

 ここ二日続いている猛暑日のせいでなくホッペを赤くして手帳を出している。

「「動画観て感動しました!」」二人が声を揃える。

 横を見ると、三人の先輩のところにも人が集まっている。


 あーーちょっと……ね……(^_^;)。
 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


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やくもあやかし物語2・050『妖怪くわせもの・2』

2024-06-02 11:31:14 | カントリーロード
くもやかし物語 2
050『妖怪くわせもの・2』 




 くわせものが飛び出してしまうと、食堂のドアも窓も開くようになった。

――しっかり掴まれ!――

 ミチビキ鉛筆が叫ぶ!

 わたしは右手で鉛筆を、左手で、その鉛筆を握る右手を掴んで前に突き出す。

 ピューーン!

 甲高い音をさせて、鉛筆は自動的に開いた窓からわたしを引っ張ったまま飛び出していく。

 やくもぉ!!

 別の窓から、ハイジとネルが顔を出してわたしを呼ぶ。くわせものの影響は長続きはしないようだ。

 ゴオオオオ!

 くわせものが旋回して食堂の窓を舐めるように低空飛行、食堂のみんなは悲鳴を上げて頭を引っ込める。やつは、渋谷の3D広告、サイネージっていうんだっけ。あそこの定番の三毛猫の首くらいの大きさになって飛んでいる。

 そんなに大きいと三毛猫でもおっかないのにピエロの顔だよ、あんなのが傍に来たらおしっこチビルくらいに怖いよ。

 グゴオオオ!

 こんなのどうやってやっつけるんだ……と、思ったら、鉛筆が勝手に動き出す。

「ウワア、あ、ちょ、ちょっとぉ!」

 鉛筆は、わたしを引っ張ったまま空中に字を書き始めた。

 鉛筆のくせに、太くておっきい字!

――ティターニアに手伝ってもらって!――

 鉛筆も自分一人じゃ苦しいんだ。

 え、え、どうするどうする(;'∀')

 空から見てても分かるくらい、地上のみんなも焦ってる感じ。

 みんな森の住人たちを敬遠してきたからね、自信が無いんだ。

 思い余って、ネルとハイジが窓枠に足を掛ける。あの二人は森の住人とも多少は近い。

 ムギュ!

 飛び出すかと思ったら、だれかに踏みつけられたようにペシャンコになる二人。みんなは妖に一発喰らったのかとのけ反るけど、やくもには分かったよ。

 デラシネが二人を踏み越えて森へ駆けていく!

 だいじょうぶかな、森のみんなとは、まだ和解できてないよぉ。

――かまうな、行くぞ!――

「鉛筆のクセにえらそー」

――おもいやりを構えろ――

「え、あ、うん」

 おもいやりは樺太旅行に行ったお礼にデラシネがくれたフィギュアのパーツみたいに小さな槍。これは破魔矢みたいな縁起物だと思ってた。あるいは――人にはおもいやりを持って――的ないましめ、あるいは、デラシネなりの感謝の気持ち的な。

――分析してる場合ではない、構えて!――

「うん!」

 うんとは言ったけど、鉛筆に掴まりながらはやりにくい。

――しかたがない……えい!――

 ガクン

 衝撃があったかと思うと、鉛筆は魔法使いのホウキほどになってわたしを乗せていく。

 ガツガツガツ! ムシャムシャムシャ! ハグハグハグ!

 くわせものは結界に食らいついて食べ始めている。

「あいつ、自分でも食べるんだ!?」

――感心してる場合じゃない!――

「う、うん!」
 
 ビューーン

 鉛筆は旋回しながら速度を上げ、わたしは、アニメの勇者みたいに姿勢を低くして、くわせもののコメカミ目がけて突きかかる。

 プチュ

 少しは手ごたえがあるんだけど、やつが逃げる方が早い!

 くそ!

 やつが齧ったところはほころびが出ている。

 結界は外からの攻撃には強いけど、中から蝕まれると弱いんだ。

 ザザザザザーー

 下の方から音がしたかと思うと、無数の葉っぱが森の方から飛んできて、結界の傷口を覆って修復にかかる。

 そうか、これがティターニアたち森の住人たちの協力か。

 でも、補修だけでいっしょに戦ってくれるわけではないようだ。

 仕方がない!

「いくよ!」

――おお!――

 鉛筆といっしょに人馬一体という感じで追いかける!

 えい! とー! それ! そこだ! ウリャー! キエエエ!

 いろんな掛け声で、くわせものに襲いかかる!

 プチュ プチ プツ プシュ プチュ

 確実に手ごたえはあるんだけど、決定打にならない。

 小さな傷はすぐになおしてしまうくわせもの。

 だめだ、こっちが先にバテてしまう。

 五六回攻撃したところで息切れがしてきて、空振りが増えてくる。

 ドザザザザザーー!!

 ひときわ大きな枯れ葉のかたまりが上がってきたかとおもうと、それは、くわせものの背後で弾けて、中から大きな剣を構えたデラシネが現れた!

 セイ!

 ビシュッ! ドシュッ!!

 十文字に大剣を振るうとくわせものは大きく口を開けてのけ反った!

 かなり効いてる!

「トドメだ!」

 デラシネは空中で二回転すると、そのままの勢いで大剣を振りかぶった!

 ギャアアア!!

 断末魔の叫びをあげたかと思うと、くわせものは無数のポリゴンぽいものに分解し、消滅していった……。

 そして、消滅するくわせものに目を奪われているうちに、デラシネの姿も消えてしまっていた。

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)049・地区総会・1

2024-06-02 07:41:51 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
049・地区総会・1                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 逃げ水の向こう、蜃気楼のように茶臼山高校が見えてきた。

 今日は高校演劇連盟の地区爽快なんだ。

 ちっとも爽快じゃないけど爽快……顧問の先生が啓介部長に送ったメールが『爽快』になってたからね。

 むろん『総会』の変換ミス、でも、みんなの頭には『爽快』でインプットされてしまった。

 爽快とは程遠いただ今の気温は32度もある。

「こういう逆説めいた表現は昔からあるよ」

 須磨先輩がジト目で言う。

「めっちゃ寒くて岩だらけの島を『グリーンランド』って呼んだり、戦ばっかりで人が大勢死んだり裏切ったりの時代の物語を『太平記』って名付けたり……フフ……」

 演劇なんてちっともしないクラブを『演劇部』……思ったけど口にはしない。先輩の目を見たら笑ってたから、きっと同じことを思っていたんだ。

 そろそろ33度になろうかという気温の中、電動とはいえ車いすはきつい。

 UVカットの帽子に日傘をさしているんだけど、車いすというのは健常者よりも地面が近い。33度というのは百葉箱の中だかアメダスとかの観測値で、照り返しのきついアスファルト道路の温度じゃない。体感気温は40度に近い。


 地区総会のことは昨日言われた。


「地区総会に行ってこいやてえ、顧問命令や」

 不貞腐れたように啓介先輩が言った。

 先輩は一人で行くつもりだったけど「おもしろいかも」という須磨先輩のノリで四人揃って行くことになったんだ。「茶臼山までは車出してもらえるらしい」ということだったんだけど、今日になって学校だか顧問の都合でアウトになり、地下鉄と徒歩で行くことになってしまって、グリーンランドや太平記を思い浮かべてるわけ。

 顧問の先生は用事があるとかで、付き添いは新任の朝倉先生。

 ザックリした先生で「大丈夫?」と二度ほど聞いてくれたけど、あとはほったらかされている。

 昨日今日の車いすじゃないからホッタラカシが気楽でいい。

 歩道なので一列になっている。

 先頭が朝倉先生。続いて小山内先輩、ミリー、わたし、須磨先輩の順序になっている。

 ミリーと啓介先輩は時々入れ替わるけど、須磨先輩とわたしは定位置になっている。
 茶臼山が近くなっても変わらないので、須磨先輩が人知れず介助をかってくれているのだと思った。

「すみません先輩」

「え、え、なにが?」

「介助してくださって」

「あ、え……あ、どういたしまして」

 そう言いながら、先輩は耳元に顔を寄せてきた。

「ちょっと朝倉先生苦手でね」

 え、なにがあったんだろ!?

「ドンマイドンマイ」

 校門を潜ると総会会場までは、要所要所に茶臼山の生徒さんが立っていて迷わないようにしてくれている。

 たった四人なんだけど目立ってしまう。

 四人がそれぞれに個性的なんだ。

 車いすのわたしは一番目立つ。視線が痛い。「がんばってるね!」感で見られるのは収まりが悪い。

 ミリーはブロンドのアメリカ人なのでやっぱ注目される。

 啓介先輩も、こういう場というか他校の生徒と比較できるところに来ると、意外にナイスガイに見える。とても、部室でエロゲばっかりやっているオタには見えない。

 そして、須磨先輩は六回目だったっけ……の三年生なので、アニメに出てくるお姉さまキャラのように魅力的だ。

 遅れてくる学校があるようで、定刻になっても地区総会は始まらない。

「お待たせして申し訳ありません、五分遅らせます」議長の生徒から声が掛かった。

 うん、遅れてもいいよ。

 会場の会議室はギンギンに冷房が効いていて、できたらこのまま昼寝したいぐらいに『爽快』なんだしね(^_^;)。

 すると赤いリボンの女子高の一団がわたしたちのところに寄って来た。 
  


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・102『牧内さんとカンゲキ』

2024-06-01 17:27:04 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
102『牧内さんとカンゲキ』   




「ちょっと緊張しちゃうなぁ」


 チケットと座席の番号を照らし合わせて後ろの方から下っていくと、なんと、その席は、前から五列目の真ん中。横アリとかのライブとかだったら特等席だよ……行ったことないけど。

「労演とかじゃ、学割席しか座ったことないからねぇ(^_^;)」

 緊張と言いながら、なんかワクワクしている牧内さんは可愛い。

「ローエン?」

「えと、勤労者とか学生向けの観劇団体、学生は500円で、たいてい二階席の奥の方」

 そう言って後ろの二階席を指さす牧内さん。


 こないだ直美さんからもらったチケットで大浜市民ホールに来ている。


 東京の劇団Mが『星の牧場』という童話をもとにした新作をやるんだ。

 チケットをもらってからググってみたら、令和の日本でも四年前に宝塚がやっている。時代を超えてもメディアを超えても通用する名作なんだろうね。

 うわぁ……

 アニメの異世界ものって感じの曲(あとで、牧内さんがジプシー音楽だと教えてくれる)が聞こえて幕が開く……と、ホリゾントっていうバックスクリーンに一面の星空、ホリゾントの手前にも電飾みたいな星が煌めいて、その美しさにため息を漏らす牧内さん。

 観劇中に声を出しちゃいけないのを思い出したんだろうね、両手で口を覆って感動し続ける。

 戦争で馬の世話をする兵隊だったモミイチは、ツキスミという馬の面倒をみてきた。激しい移動と戦闘がつづく中、ツキスミを死なせてしまい、自分自身も記憶喪失になる。

 自分の半身を失ったような喪失感。そして、記憶障害による混乱。

 復員したモミイチは、山中の牧場でジプシーたちと出会い、ジプシーたちの音楽に癒されているうちに、ツキスミの蹄の音が聞こえて姿も見えるようになる。

 行方知れずになったモミイチを気遣う人たち、星の牧場、それが交互に描写される。

 そして、モミイチはいつしか、ツキスミといっしょに銀河を駆けていく……そんなファンタジーで切ないお芝居(^_^;)

 
 演劇部じゃないから、きちんと語れないけど、本格的なお芝居なんて初めてのわたしでも分かったし、感動した!

 ツキスミは音だけで表現されてるんだけど、モミイチ役の役者さんがすばらしい! 空を駆けて地上に降りてくるツキスミが、モミイチの動きと表情で、ちゃんとわかるんだよ!

 モミイチの表情もいい! 剥き出しの愛情じゃなくてさ、ツキスミの馬面を撫でてやるとこなんか、ガリボチョでちょっと背中が丸くて不器用そう。スリスリする時もカッコよくなんかない。笑うと目はへの字の線みたいになるし、半開きの口から前歯が剥き出し。

「無対象演技っていうんだよ!」

 帰り道、感激のまま説明してくれる牧内さん。

「実際に馬が居なくても、馬と馬に触れている時の自分の目線や動きをトレースするとね、ほんとうに馬がいるような感じになるんだよ」

「え、実物無しで?」

「うん。それを広げて深くしていけば、舞台の役者さんみたいに、観客にも観えるんだよ!」

「ええ、よく分からないよ(^_^;)」

「あ、たとえばね……」

 そう言うと、牧内さんはカバンをゴソゴソして、何かを握ったような感じで「ちょっと、バッグ持ってて」と預ける。

 え?

「いくよ」

 牧内さんは、両手でグリップを持って後ろから前にまわすと何かを跳んだ。

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」

「おお、縄跳びだ!」

 手に縄を持っているわけでもないのに、ちゃんと縄跳びしているように見えている。

「これが無対象演技なのよ、フゥフゥ……」

「さすが演劇部!」

「これくらい、誰にでもできるよ」

「いやあ、ムリムリ(^_^;)」

「やってみよ、二人で」

 ズイっと出された見えない縄を受け取る。というか押し付けられる。

「騙されたと思って、いくよ、ホレ!」

 牧内さんの熱意に圧されてやってみる……というより、体が動いてしまう。

「「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」」

 すると……不思議不思議、本当に縄跳びしてるような気になってきた!

「そうか、これが無対象演技ってやつなんだね!」

「うん、そうだよ!」

 パチパチパチパチパチパチ

 気が付いたらホールから出てきた人たちや、向こうの搬出口に出てきた劇団の人たちが拍手している。

「「ああ、どうも……(#*´ω`*#)」」

 二人、真っ赤になって大浜の駅に急ぐ。

 途中、パトカーだか救急車だかの音がしたけど、野次馬根性発揮する気持ちにもなれなくて、そのまま帰ったよ(^〇^;)。
 

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)048・エリ-ゼのために・3

2024-06-01 08:36:47 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
048・エリ-ゼのために・3                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです
 




 平気な顔をしているけど気にはなっている。六回目の三年生をやっているわたし松井須磨は23歳、来年は24歳だ。

 当たり前なら大学を出て仕事をしている。同期には結婚して子持ちの子もいるらしい。
 
 こないだ久々に職員室に行った。

「失礼します……( ゚Д゚)」

 一礼のあと顔を上げてビックリした。

 惣堀高校は古い学校で、有形無形の因習が残っている。

 その一つが職員室の席次。教頭が一番奥に席を占め、その前に三つの島。それぞれの島の奥が学年主任で、以下は年齢と着任の順番。担任なんだからクラス順に並べばいいのにと思うんだけど、そうはしない。
 で、一番ドアに近いのが非担任学年係という名のパシリ席。つまり、最若年の新任教師の席。


 その席に座っていたのが、最初の三年生のクラスメート朝倉さんだ!


 わたしは直ぐに気づいたが、朝倉さんは気づかないのか「どの先生に用事?」と小首をかしげる。

「演劇部の松井です、〇〇先生に部活の用件です」

 そう返事して一礼したが「はいどうぞ」としか返ってこなかった。

 忘れられているか、23歳の制服姿が痛々しくて知らんぷりを決められたのかは分からない。

 こりゃ、もう卒業しなくっちゃなあ……とだけは思った。


 それよりビックリしたのが薬局のオジサンだ。


 ミイラ美少女人形のいきさつを昔語りされて、しみじみビックリ。

 六十過ぎのオジサンが、四十三年前に当時の部長の谷口さんといっしょに作った創作劇が『エリ-ゼのために』なんだ。

 谷口さんが本を書き、オジサンは人形を作った。

 脚本、人形ともに難渋している時、転校してきたのが日独のハーフで、その名も三宅エリ-ゼ。

 創作劇はポシャッタけれど、谷口さんとエリ-ゼさんは、本書きが縁で付き合うことになった。

 それだけでも十分に青春ドラマなんだけど、もっとビックリした。

 傘を持ってきた奥さんにおじさんは「あ、すまんエリーゼ」と返事していた。

「それから色々あってね……結局は俺のカミさんになりよった。名前は22歳で帰化したときに絵里世て漢字を当てて、読み方も『えりよ』にしよったんや」

 そう言って、オジサンは雨の中、夫婦で商店街に帰っていった。

 結局はオジサンの奥さんになって、どう見ても空堀商店街の薬局のオバチャン。
 そこに落ち着くためにはいろんなドラマがあったんだろう……久々に感動した。

 43年ぶりに『エリ-ゼのために』を完成させてお芝居にしてみたいと、演劇部らしい衝動が湧いてきた。


 帰り道、商店街を通って駅に向かう。

 前を朝倉さ……先生が歩いている。

 ちょっと足を速めて朝倉さんと並んでみる。

「あ……」

「ども」

 間の抜けた返事をしてしまう。

「あ……演劇部の」

 生温く反応してくれるけど、反応は先日の記憶で、6年前の同級生のそれではない。
 
 一礼して朝倉さんを追い越す。

 薬局の前に来ると自然と目が行く。

 オジサンとオバサンが詰まらなさそうに店番をしている。

 どう見ても、レトロ商店街におあつらえ向きの景色というかたたずまいで、ちょっと想像力を働かせれば、朝の連ドラができてしまいそう。

 でも、そんな注目のされ方は――堪忍してぇなぁ――という感じ。オジサンも部活のことは話してくれたけど、結婚に至るストーリーと、その奥さんが、完ぺきな、そうと言われなければドイツとのハーフだとは分からないくらいに商店街のオバチャンに変態したお話はしてくれなかった。

 お店のガラスに自分の姿が映る。

 そうと言われなければ六回目の三年生をやっているとは分からないJK。

 もし朝倉さんが、そうと気づいて追いかけてきて「ええ、クラスメートの松井さんだよね!? ええ……どうしてぇ!?」と聞いてきても、きっとわたしははぐらかす。

 やっぱ『エリーゼのために』は衝動に留めておこう。

 富士には月見草が良く似合う……八年前に習った太宰の言葉だ。

 演劇部には日和見草が良く似合う。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


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