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正直者が損をしないために (ネット評判社会(山岸俊男・吉開範章))

2010-01-31 12:22:15 | 本と雑誌

 本書のメインテーマのひとつは、ネット取引における「信頼」のもととなる「評判」の機能についての考察です。
 これを解明するために著者たちはいくつかの実験を試みました。その結果のエッセンスです。

 
(p85より引用) ? 評判の共有が不正な取引の抑止につながるのはマグリブ商人連合のように、集団主義的な秩序が有効に働く閉鎖的市場であり、? ネットオークションに代表される再参入可能な開放的市場では評判の共有が不正取引の抑止に十分な効果をもたないこと、? しかし開放的市場においても、ポジティブな評判はある程度の効果を発揮することが確認された。

 
 さらに、こういう結果も確認されました。

 
(p100より引用) 集団主義的な秩序形成が可能な場合にのみ、正直に行動したほうが不正直に行動するよりも有利な結果を得ることができる、という実験結果である。これに対して、完全な匿名市場や、IDの変更が可能でネガティブな方向でしか評価がなされない場合には、正直者よりも不正直者のほうがより大きな利益を得るという、「正直者は損をする」結果となっていた。

 
 とはいえ「ポジティブな方向での評価」(=ポジティブな評価が累積されていく評判形成方法)は、「正直者」の味方のようです。

 
(p101より引用) 再参入可能な開かれた市場であっても、一度手にしたら手放したくなくなるポジティブな評判が存在していれば、正直者が不正直者よりも不利な立場に置かれるという状態が生れにくくなる・・・

 
 活用の仕方次第でプラスにもマイナスにも働く「評価」ですが、この「評価の質」を高める、すなわち「評価の信頼性」を高めるためのひとつの方法を著者は指摘しています。「メタ評価」の組み込みです。

 
(p127より引用) 適切な評価をつける評価者が高い評価を受けるという、メタ評価の一環としての「評価の評価」を組み込んだ評価システムが必要となる。

 
 この点は非常に難しいですね。
 評価の難しさは、その評価メルクマールが何がしかの「価値観・世界観」と密接に関係があるところに起因します。そもそも多様な「価値観・世界観」が並存している今日、誰もが納得できる「正否」「善悪」等を色分けする基準自体が共有化できないのです。

 まさに本書で取り上げている「信頼できる人か否か」といった「質」に関する内容を、○←→×といった一次元の座標軸で表すことは不可能なのではないでしょうか。
 
 

ネット評判社会 (NTT出版ライブラリーレゾナント057) ネット評判社会 (NTT出版ライブラリーレゾナント057)
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2009-10-07

 
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コメント (1)
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