戦後の復興期から高度成長期にかけては、日本企業を支えたのは「会社人間」でした。バブル崩壊のころからでしょうか、成長の行き詰まりから日本企業は西欧のマネジメント思想に傾倒し始めました。そこで登場するのが「個性人間」です。
本書での著者の主張は、安易な「個性重視」の否定です。
(p33より引用) 「個性を大切にしろ」
「自分らしく生きろ」
「自分で考えろ」
「会社の歯車になるな」
・・・本書で私はこの四つの言葉をサラリーマンの「四大タブー」と呼ぶことにします。つまり、サラリーマンの正しい姿とは、個性を捨て、自分らしさにこだわらず、自分の脳を過信せず、歯車になることを厭わない存在となることである。そう確信しているのです。
著者は、「自分らしさの追求」が、転職難民を生み出し、組織力を低下させ、かえって個人に対する精神的プレッシャーを高めるといった弊害を生起させたと考えています。
ただ、著者はずっと歯車のままでよしとしているわけではありません。世阿弥の「守破離」を引用し、歯車(守)のステップを踏むことにより、次なる応用(破)・創造(離)のフェーズに進むことができると指摘しているのです。「応用」や「創造」のレベルで初めて「自分らしさ」「個性」が顕れることになりますから、守の段階で「個性」を抑えることが、結果的には「個性」を開花させることができるという主張です。
本書での著者の主張は、多くのビジネス書に書かれているものと(表層的には)「正反対」のものが多く見られます。この点について、著者はこう語っています。
(p97より引用) 天才型のアドバイスは凡人には毒にもなりえます。・・・
・・・ビジネス書の著者は、世の中で成功者と言われているようなタイプが圧倒的に多数です。・・・
しかし、まったく違うレベルの人のアドバイスにばかり耳を傾けても仕方がありません。
著者の立ち位置を明確に示したフレーズですね。本書のタイトルは、「『能動的な』社畜のすすめ」なのでしょう。
そして、最後にひとつ、本書の「あとがき」から、なるほどと思ったフレーズを。
(p189より引用) プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社では、「ワーク・ライフ・バランス」の代わりに「ベターワーク・ベターライフ」という言葉を使っています。仕事と生活はバランスを取るものではなく、相互に影響して高めあう存在である。そんな考えに基づいているそうです。
P&Gらしい、静的ではなく動的な思想ですね。
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