著者の清水潔氏は、現在日本テレビの事件記者です。
本書は、清水氏が真相を追った5つの事件の実態、特に、捜査・公判の過程における警察・司法の隠蔽体質を世に問うたものです。
中心は「足利事件」。最高裁で死刑判決を受けた菅家利和さんの再審開始と釈放を勝ち取った著者の取材活動の描写は、もちろん本人の筆であるが故の緊迫感が圧倒的です。
被疑者の人権を蹂躙し、盲目的な逮捕・検挙至上主義に染められた警察・検察の実態は、本書を読むまでもなくある程度想像していたのですが、やはりこのドキュメンタリが示すリアリティの中では、その理不尽さは倍化されて迫ってきます。
菅家さんよりも前、同じく冤罪で釈放された免田栄さんの言葉は途轍もなく重いものです。
(p102より引用) 免田さんは収監された福岡拘置所で、70名以上の死刑囚を見送ったと言った。・・・
「あん中には、無罪の人もおったとですよ。私と同じように法律なんて知らんばってん、騙されて自供させられた人もいたとです」やるせない顔でそうつぶやいた。
本書は、まさにその蓋然性の追求でもあります。
所轄警察・警察庁・検察庁・裁判所・科学警察研究所・・・、そしてマスコミ。もちろん、これらの組織に従事する人々すべてがそうだとは言いませんが、清水氏が接した関係者の姿は、私たちを悲観的観測に導く以外何ものでもありませんでした。
そして最後に、本書を読んで一言。
本文の引用を憚られるほどに深く私の心に突き刺さったのは、足利事件の被害者4歳の松田真美ちゃんの母ひとみさんと姉を知らない2人の妹弟が、事件が起こった渡良瀬川の現場を訪れた場面でした。
清水氏ならずとも、このご遺族たちの姿と言葉に触れて心動かない人はいないでしょう。
殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件 価格:¥ 1,728(税込) 発売日:2013-12-18 |