レビュープラスというブックレビューサイトから献本されたので読んでみました。
本書の第2章は、稲盛氏が取り組んだ「JALの経営再建」における”アメーバ経営”の実践の紹介です。
経営破綻したJALの経営は、稲盛氏から見ると(正直なところ、ここに書かれている状況が事実だとすると、極々普通の企業から見ても、)全くマネジメント不在の状況でした。
(p84より引用) 月次の損益計算書は2ヶ月遅れで出ていたし、100社ある関連会社では月次貸借対照表も作成されていなかったのです。また、経営幹部の誰が利益責任を負っているのかもまったくわからない状態でした。
その中で、経費のみは「予算消化」的に確実な支出を続けていたといいます。
稲盛氏が社長に就任して以来、JAL幹部による毎月の業績報告会は別世界のように厳しいものになりました。利益計画を達成していない場合はもちろん、利益計画を達成していても大きく計画から乖離されていると、責任者はそのマネジメントの不十分さを叱責されました。
そういった会議でのJAL幹部の発言の中で、森田氏が違和感を感じたものです。
(p97より引用) それは彼らが「トレードオフ」という言葉をよく口にしていたということです。「Aをやるのはいいと思いますが、その代わりにBが犠牲になります」という意味で使うわけです。おそらく、以前のJALでは、何か新しいことをやろうという案が出ても、トレードオフという言葉を持ち出せばやらずに済む理由になるし、会議の出席者をそれで説得していたのだと思います。・・・
もし、京セラグループの社員がトレードオフという言葉を口にしたら、周囲から「両方ともやるに決まっているだろ」と一蹴されて終わりです。AとBの両方を実現する方法を考え、実行に移す。これで改革が大きく前進するのです。
事業を遂行していく上で「トレードオフ」の状況に直面するケースは極々普通にあります。決して京セラの反応が特殊なのではなく、JALの姿勢が余りにもプリミティブだと言わざるを得ないでしょう。
たとえば、よくトレードオフの関係にあると言われる「品質とコスト」も、じっくり考えてみると決してトレードオフの関係ではないですね。プロセスを適正化することにより、従来より低コストで品質を高めることは可能ですし、そういう実現例は世の中に山ほどあります。
私は、「選択と集中」という言葉はあまり好きではありません。
もちろん戦略としては否定するものではありませんが、余りに使われ方が安易だとの印象を持っているからです。とことん「二兎」を追ったあと、最後の決断として、「ひとつを選択し、それに集中する」ということはあり得ます。
そこまで突き詰めないと、選ばれなかった選択肢、これに関わっている人に対して「あなたの仕事はなくなりました」との非情な通告をすることなどできません。
そして、捨てる事業を、上手く幕引きすることはとても難しく、それこそプロフェッショナルな仕事だと思います。
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