高倉健さんの著作は、以前「旅の途中で」というエッセイを読んだことがあります。
本書は、高倉健さんとその所縁の方々へのインタビューをまとめたもの、高倉さんの様々な顔を覗い知ることができます。
高倉さんの“人に接する姿勢”を伝えるエピソードは数々あります。
本書のあとがきにも、ある上場企業の経営者の方が学生時代、アルバイトで高倉さんが出演するテレビのドキュメンタリー番組のADしていた時の想い出が紹介されています。
その方が、ホテルに高倉さんを迎えに行ったときの1シーン。
(p187より引用) ドアが開いたら、あの大スターの高倉健がたったひとりでエレベーターに乗っていたんです。
呆然としていたら、私のそばに来て、「高倉です。よろしくお願いします」。直角です。90度の角度ですよ。あわてて、私がごにょごにょ言いながら、なんとなく頭を下げたら、高倉さんは不動の姿勢で下を向いていました。びっくりしました。
「こういう人が本当の大人だ」と感じました。・・・
衝撃でしたねぇ。世の中には立派な大人がいるんだと思った。だって、はたちかそこらの何もわからないガキに対して、最敬礼して、ちゃんと尊重してくれる。そんな人いないですよ。そりゃ、僕らバイトは死ぬ気で働きました。・・・いつの日か、立派な大人になるんだ、と。
そして、俳優としての「高倉健」の凄さを語る言葉。
高倉さんの映画を撮り続けたカメラマン木村大作さんは、『鉄道員ぽっぽや』の予告編を示してこう語っています。
(p52より引用) 今度の特報(予告編)を見た?
健さんの後ろ姿がスクリーンに大写しになるんだ。そこにスーパーが入る。「この人がまたあなたを熱くする」って。
そして健さんが振り返る・・・。
後ろ姿にそんなスーパーが打てる俳優が他にいるかい。いないよ。絶対。雪のなかのホームを歩いて笛を吹いただけでぐっとくるなんて・・・。
もうひとつ、「単騎、千里を走る。」のチャン・イーモウ監督。
(p112より引用) 私が思うに高倉さんがいちばん大切にしているのは、人の心の美しさを観客に届けることではないでしょうか。
だからこそ、高倉さんは、自分自身の心の在り様を大切にしたのだと思います。
高倉さんと10年以上の付き合いの広告プロデューサー風間克二氏の言葉はとても印象的です。
(p131より引用) 高倉さんって、きっと高倉健という役割を演じてないんですよ。実は自然体で普通の人なんです。だから、どんな人に対しても同じように接することができる。
いえいえ、やはり、高倉さんは“普通の人”ではないですね。
普通の人は、知らず知らずのうちに自分を基準に自分の立ち位置を定め、相手との距離を測ってしまうものです。そして、自分との関係性の中で相手への接し方を変えるのですから。
高倉健インタヴューズ | |
野地 秩嘉 | |
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