通勤途上で聞いているPodcastで昨年末に紹介されて、ちょっと気になったので手にとってみました。
東京湾に面する土地で暮らす6人の人々を取り上げたライト・ノンフィクション?です。紹介されているそれぞれの主人公はひと捻りある方々で、とても魅力的です。
その中で、特に一人をいえば、「築地のヒール」との別名をもつ築地マグロ仲卸の中島正行さんでしたね。
中島さんの半生も波瀾万丈で引き込まれますが、その生き様は、「一見の客は相手にしない」「ときに『損』しても安値で売る」・・・、築地でも数少なくなってきている仲卸の仕事の興味深い側面も教えてくれます。
(p23より引用) 仲卸は顧客の経営を維持するための価格調整機能も果たしているわけだ。異常な高値のときは、損を覚悟で仕入れ値よりも安く品物を渡す。反対に、仕入れ値が安い時は、儲けを厚めに上乗せさせてもらう。そうした価格操作をしながら、一年経って〆たときに利益が出ていればよしとする。それが仲卸の商売なのだという。・・・
築地の仲卸の多くが「素人さんお断り」なのは、必ずしもロットが小さい商いが面倒なわけでなく、彼らが長い付き合いを前提とした商売をしているからなのだ。
このあたりの事情もあり、築地内での取引では金額を「符牒」で表わしているとのこと、まさに閉鎖的で前近代的な世界ですが、そういった玄人集団が、真に質のいい食材の継続的な供給システムを支えているともいえます。ただ、こういったアナログの取引システムも、今後の豊洲移転を機に益々崩れていくのでしょう。
さて、この築地の中島さんのほかに紹介されているのは、横浜の最後の沖仲仕今里貞三さん、馬堀海岸の能面師南波寿好さん、木更津の「悪人」證誠寺前住隆克朗さん、久里浜病院の「とっぽいひと」荒木晴熙さん、羽田の夢見る老漁師伊東俊次さんの5名。見慣れた世間とは一線を画しているような暮らしぶりで、それぞれとても味のある生き方をしている方々です。
著者のペンで浮き彫りにされる姿も面白いのですが、みなさんの生きた軌跡を表すには、粗い粒子の“モノクロ写真”の方がより相応しいような気がします。
東京湾岸畸人伝 | |
山田清機 | |
朝日新聞出版 |