この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

べらぼうに面白かった高野和明著『ジェノサイド』。

2014-01-23 20:25:13 | 読書
 図書館から借りた『ジェノサイド』をよーやく読み終わりました。べらぼうに面白かったです。
 図書館から借りて読み、なお手元に置いておきたいと思えるような本はそう多くはないのですが、この『ジェノサイド』は稀有な一冊となりそうです。

 アフリカのコンゴで誕生した超人類を巡る物語です。SF的な側面も持つ、優れたエンターティメント小説でした。

 自分はべらぼうに面白かったのですが、アマゾンでの評価はそこまで高くはありません。
 なぜかというと、星一つ、星二つの評価をつけた人が結構いるからです。

 ただ、その人たちも必ずしもストーリーそのものを否定しているわけではないんですよね。彼らが否定しているのは作者の反日思想であり、不愉快に思ったのは日本人が劣った人種として描かれているからのようです。
 自らが受け入れがたい思想を否定したい気持ちはわからないではないですが、そんな捻くれた見方をしなくてもいいのでは、というレビューも多かったですね。

 例えば本作の主人公である古賀研人は、薬学部に在籍するぐらいですからそれなりに頭はいいのですが、他人とコミュニケーションを取るのが不得手で、好意を持つ女の子ともろくに話が出来ない、一言で言うと「へたれ」です。
 一方その研人の協力者となる韓国人留学生李正勳は、容姿に関しての描写こそないものの(たぶんイケメン)、ずば抜けて優秀な頭脳の持ち主で、性格もよく、行動力もあるという、ある意味完璧超人なんですよね。
 日本人がヘタレで、韓国人が優秀に描かれているのは、作者の持つ、日本人が劣等であるという意識の現れだ、みたいなことがこの作品を低く評価している人のレビューには見られます。

 いやいや、それは違うよ。
 だいたい主人公が不出来であったり、不完全であることは物語においてまったく珍しくありません。そして主人公の親友やライバルが主人公に比べてはるかに優れている、ということも同様です。
 よくありがちな図式でしかないのに、主人公の友人が韓国人だというだけで、日本人が劣等であると作者は思っていると考えるのは間違いだと思います。それはただ、物語的に必然だからそうだというだけのことです。

 もし主人公の研人が李正勳のような完璧超人だったら、自分は主人公に感情移入できず、物語を面白いと思うこともなかったでしょう。
 ヘタレである主人公が、なけなしの勇気を振り絞って、自らが正しいと思う道を進む、だからこそ自分はこの物語を面白く読めたのだと思います。

 また、このお話には四人の傭兵が登場するのですが、そのうちの一人が日本人で、殺人嗜好症であるという設定です。
 そのことも作者が日本人を劣っているように描こうとしているからだ、と解釈している人がいます。
 自分はそうは思いませんでしたけどね。
 確かに超人類によって選ばれた四人の傭兵の中の一人にそのような異常者がいること自体はおかしいと思います。異常者を選ぶことで超人類に何かしらのメリットがあるとは思えないので。
 でもその異常者が日本人であるのはおかしい、というふうには思いませんでした。
 だって、日本人にだって異常者はいくらでもいますからね。
 であれば映画や小説の中に精神異常の日本人が出てきてもおかしくも何ともない。
 もし、映画や小説の中に日本人の精神異常者が出てきたからといって、日本人は全員精神異常者である、と考える人がいたら、その人こそ精神異常者でしょうね。

 まぁそんな感じで、読み終わった後、単純に「面白い」というだけでなく、いろいろ考えさせられたりもしました。
 週末にでもブックオフで中古本を購入し、手元に置いてまた読み直してみたいと思います(新刊を買えよ!)。
コメント (2)
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