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常磐線中心主義(ジョーバンセントリズム) 五十嵐泰正・開沼博 責任編集

2016-07-10 14:59:54 | 雑感
 本屋に積んであったこの本、常磐線沿線を社会学的視点から分析している。上野東京ラインが開通する前に書かれたものだ。

  
   


 上野駅から富岡駅まで、駅とその周辺の歴史、カルチャーなどが論じられている。

 常磐線と言えば、上野東京ラインが開通するまでは、スーパーひたちは16番線、17番線から発着していた。今も、一部発着している。これも、東北・上越新幹線が東京まで開通以降の話である。新幹線開通前は、「L特急ひたち」は、10番線、すなわち、上のホームで発着していた。平発6:00の「急行ときわ」は東京着9:10、直通運転だった。上野駅の地下ホームから新幹線が陸上に再浮上し、秋葉原から東京までの狭軌の路線は排除され、新幹線のルートとなってしまった。
 上野駅10番線から「L特急ひたち」が発着していた頃、平に帰るとき、早めに来て自由席の列に並ぶのだが、あの当時は、新聞紙を敷いて地べたに座って酒を酌み交わしている面々がいた。今では考えられない光景が、あの当時は当たり前であった。そして、列車に乗り込むと、座席を回転させて4人がけのボックス状態にして、やはり、下に新聞紙を敷いて靴を脱いで、宴会が始まる。その少し前には食堂車も連結されており、上野から平までの短い時間で、ハンバーグを食するのが楽しみであったのは小学生の頃である。
 いずれにしても、ある意味、独特の雰囲気を醸し出していた常磐線。それが、東日本大震災後、本となって出版された。

 序章の中で、「この常磐線沿線の地域こそが、東京と日本の近代を支えてきたといっても過言ではないのだ。」とされ、やはり、常磐炭田の役割を重んじている。そして、広野火力、常陸那珂火力、東海、福島第一・第二と最大のエネルギー供給エリアとなり、とりわけ、原発事故後も、広野火力は「地元では使いもしない電気を首都圏に粛々と供給し続けている。」
 そして、「常磐線沿線の地域はその旺盛な供給力で東京と日本を支え続けてきた。・・・こうした事実が首都圏の住民に意識されることは極めて少ない。」として、「常磐線沿線は、『東京の下半身』である。」と結論づけている。「産業地帯としての抜きんでた優秀さと、その供給力を引き寄せる東京の圧倒的な重力の強さ、常にすぐそこにある身近さ、そして、それにもかかわらず、その意識のされなさと語られなさにおいて」。

 常磐線沿線の「それぞれの街の歴史と現在を物語るテーマや産業を切り口として」、「上野」、「柏」、「水戸」、「泉」、「内郷」、「富岡」の各駅と、その間にある5つの駅をコラムとして載せてある。

 終章では、「常磐線の物語を描いたのは、そこに今まで描かれてくることがなかった、新しい日本像が存在する可能性があるからだった。」「常磐線を通して他の路線よりも語りえることがあるのだとすれば、それは、『語られてこなかったこと』だ。・・・東京、日本全体に果たす下半身的な役割に比して、あまりに地味だった。」語り得ない理由を「未来のなさ」としている。そして、「未来を必要としなかった路線」として、未来はないが、「現在と現実」を有している。

 結びに、「ジョーバンセントリズム」について語られている。
 一つは、「常磐線中心主義」。下半身的役割を果たしてきた「常磐線」の価値を再評価し、その重要性を見直すこと。
 二つは、「常磐地方中心主義」、日本の近代化を牽引してきた「常磐地方」、その価値を掘り起こすこと。

 それぞれの駅のコラムでは、駅周辺の歴史、文化が載せられており、それぞれの個性を知ることができる。その個性が、内向きであり、自分のテリトリーを大切にしている、といったエリアなのかもしれない。重要性や価値の再発見、進めていくには様々な知恵と労力が必要かもしれない。
コメント
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