ライオンの詩 ~sing's word & diary 2

~永遠に生きるつもりで僕は生きる~by sing 1.26.2012

理学療法士の上村さん。

2014-09-11 22:48:25 | Weblog
初めての外国はオーストラリア。
行ってしまえばなんとかなるさ!と渡った異国の地。英語、話せず。聴けず。
ホテルの部屋が取れない。お腹が減っても注文が出来ない。行きたい場所があっても聞けない。
なんとかなったことなんて一つもない。
赤ん坊に戻されて、街の真ん中に放り出されたような不安を抱えて、滞在予定は一年間。

「生きることから、やり直しじゃないか」とつぶやいた、あの頃の自分。



作業療法士と理学療法士の違いってわかるかな?
おれはね、ちょっとわかってきたよ。

リハはね、あっ、リハビリはね、作業→理学の順で行われる。僕の場合は。

作業療法士の小林さんと投げない輪投げで遊んだ後は、部屋が変わる。

理学の部屋では、理学療法士の上村さんが待っていてくれるのだ。

理学療法士の上村さん。かみむらと読む。かみむらというのは、この地方の読み方らしい。まぁ、普通はうえむら?

この地方にはかみむらさんが殊更多いみたいで。
理学療法士の上村さんではなく、作業療法士の上村さん曰く
「僕の弟の中学生の頃のクラスにはかみむらが8人いたそうです」

わかるかな?日本で一番多い苗字は佐藤。二番目は鈴木。だとして。
僕らの学生時代にどれだけ佐藤と鈴木がいたか。クラスに8人佐藤がいたか?

いないっすよぉ。

理学療法士の上村さん。とてもいい人なのである。
辛いリハビリも、隣で一緒にやってくれる。心強い。
でも、こちらは病人なわけで、色々と痛いわけで、どこも痛くない上村さんが隣で同じことをしてくれても、イーブンじゃないというか、フェアじゃないというか・・・上村さんはもうちょっと負荷をかけたらいいんじゃないですか?と、そんなことを思わないわけでもない。

理学のリハビリ初日の話。

上村さんがストローと風船を持って来て、仰向けに寝転がっている僕に手渡す。

「じゃあ、これを膨らませてください。大丈夫です。膨らみやすいように、しずかちゃんの風船を選んで来ましたから」

何を言ってるんだろう、この人は?

風船を膨らますリハビリとか、聞いたことないし。
そんなのリハビリじゃないし。
そんなの簡単だし。
お茶の子さいさいだし。

ストローの先に風船を差し込み、プーっと息を吹き込む。

あれ?

ぷー!

あれ?

どうしちゃったのかなぁ。

ぷー!

あれ?

特殊な風船をなのかなぁ?全然膨らまない。

すがるように上村さんを見る。

「やっぱり。。。肺の機能が相当弱ってますね。。。さぁ、がんばって、膨らましましょう!」

風船を見ると、しずかちゃんのイラストが描いてある。
しずかちゃんのイラストが描いてある風船は膨らませ易いのかなぁ?

風船も膨らますことが出来なくなってしまったなんて・・・ショックでかくないか?

肺挫傷。血胸。肋骨6本骨折。僕の右胸は、予想よりもだいぶ役立たずになっているようだ。だって、風船も膨らますことが出来ないなんて。

ぷー、ぷー、ぷー。とね。

ぷー。ぷー。ぷー 。とね。

あきらめずに、ゆっくりと、少しずつ。

しずかちゃんのイラストがしっかり見えるくらいまで膨らませて行く。
それを5セット。

ぷー。ぷー。ぷー。とね、右斜め上の小さな窓からのぞく青空を見上げながら、ぷー。ぷー。ぷー。とね、想うんだよね。

「風船を膨らませることこら、やり直しじゃないか」・・・とね。
ちょっと涙ぐみそうになりながらね。
でも、ちょっと笑いながらね。