94823.8。
九万四千八百二十三点八キロメートル。
憧れの十万キロを目前にして、マグナちゃんダウン。ノックダウン。あと五千キロちょいだったのにな。
夢を果たすのって、そんなに簡単じゃないんだな。
それでも、地球を二周分、僕とマグナは旅をした。色んな所を旅をした。めまぐるしく旅をした。
マグナは僕を、何処へでも連れて行ってくれた。僕が行きたい場所なら、何処へでも。行ける場所なら、何処へでも。
よく頑張ってくれたな・・・と、心から想う。
暑い日も寒い日も、いつも馬車馬のように走ってくれた。
雨の中も風の中も、時々雪の中も。
事故があって、事故に遭って、マグナちゃんは動かなくなってしまった。ボロボロになって、動かなくなってしまった。
幾人かの人はこう言った。
「バイクが身代わりになってくれたんだよ」
僕も、そう想った。
よくはわからないけど、マグナが僕を跳ねあげて、ガードレールを飛び越えさせた。そして、マグナは逆さになってガードレールに突っ込んでいった。
マグナが僕を助けてくれたような気がしてならなかった。
想うたびに、泣けてくる。
信じられないと想うけど、信じられないくらいの時間を共に過ごして来たからね。
いつもそばにはマグナがいて、同じ景色を見てきたからね。
マグナが僕を助けてくれるようなことがあっても、全然不思議ではない。そんな気がする。
マグナに逢いたいなぁ・・・と、毎日想う。
タンクを撫でてあげなければいけない。
旅が終わると、いつも「ありがとう」とタンクを撫でた。
タンクを撫でてあげなければいけない。
「助けてくれて、ありがとう」と「たくさん、ありがとう」と、撫でてあげたい。
マグナに逢いたい・・・と、毎日、想う。
傷だらけだけど、元気だろうか?
僕と同じくらいに。
おわり。