ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

駒花(38)

2017-05-29 21:30:15 | Weblog
互いに矢倉の堅陣を組み上げ、先手の菜緒が、歩を突いて仕掛けた。私は受けてたった。奇策は用意していない。過去の直接の対局、菜緒の最近の棋譜はよく調べたが、奇策で勝てる相手ではない。ただし、俗手を積み重ねていても、勝ちは見えてこないだろう。この一局のどこかで、菜緒が青ざめるような一手を指せるかどうかが、勝負を決すると考えている。

駒がぶつかり合ってから、互いの考慮時間が長くなる。私が36手目を指し、現在、菜緒が長考に沈んでいる。この先、10手ほどが勝負の行方を左右する可能性が高い。菜緒が駒音を響かせた。この数手、主導権を奪い合っていたが、菜緒が受けの手を指した。だから自分が有利になったとは限らないが、やはり気分は悪くなかった。私は攻めの手を続ける。当面、菜緒は守勢に回る気配だ。彼女の顔を見た。ヒリヒリしていた。普段のあどけなさを残す表情が見当たらない。それだけ、局面は緊迫していた。もうすぐ昼食休憩というタイミングで、私は高く駒音を響かせた。感触は良かった。もう一度、菜緒の表情を伺う。さっきよりも苦しそうな顔を浮かべていた。私は優勢を意識した。
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駒花(37)

2017-05-29 07:47:08 | Weblog
2勝2敗で迎えた桜花戦最終局。私にとって、この一局はただの一局ではない。史上3人目の女流3冠がかかっているし、菜緒とのタイトル戦での初対局でもある。今後の自分の将棋人生を左右する大一番といっても、過言ではなかった。

先生とは、昨夜電話で話した。
「3戦で終われば、菜緒ちゃんの勝ちだと思っていたが、最終局までもつれた。菜緒ちゃんは将棋が強いが、さおりは勝負に強い」
耳慣れた言葉だった。先生は私に自信を持たせたかったのだろう。確かに自分自身も、決着を先に延ばして、菜緒の焦りを誘う展開に持ち込みたかったのだから、申し分のない展開になったとも言える。

しかし、私が勝負強く、菜緒が勝負弱いなどというのは幻想なのだ。菜緒は大一番でも堂々と普段どおりの力を発揮するのだから。ただ、私のこれまでの足跡を振り返った時、漠然とではあるが、ここ一番という勝負はものにしてきたような気がする。そうした根拠のない自信が、矢沢菜緒という稀代の天才棋士を前にしても、萎縮することなく戦わせているのは確かだろう。

これまでの4局は、振り飛車対居飛車穴熊、一手損角代わり、横歩取り、相振り飛車と続いたが、最終局は矢倉での進行となった。菜緒との力比べとなる。望むところだった。
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