ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

駒花(1)

2017-05-09 21:18:18 | Weblog
  1. 私が初めてあの子と対戦したのは、私が中学2年だったから、2つ年下のあの子はまだ小学生だった。7月も中旬に差し掛かり、梅雨末期特有の強い雨が、地を叩きつけていた。読日新聞主催の読日トーナメント。いわゆるプロアマ戦。当時、すでに私は女流棋士で、予選免除。あの子は女流棋士会の育成部に所属し、アマチュア扱いだったため、予選を勝ち抜き、トーナメント戦の参加資格を得た。

    準々決勝進出をかけた3回戦で、私、北園さおりとあの子、矢沢菜緒は相対した。菜緒が強いことは、間接的な情報から、理解しているつもりだった。しかし、正直、負けることはないと踏んでいた。当時は私も、「未来の女流棋界を背負って立つ逸材」なんて言われて、浮かれているところがあった。それも手伝って、菜緒がどんな将棋を指すのかよく知らなかった。

    対局が始まると、私は苦しんだ。「こんなはずじゃない」という思いと同時に「この子、強い」という気持ちが同居し、それが焦りにつながり、細かなミスを重ねた。彼女はそこを逃さず、攻め込んでくる。その力強さは、午後になっても激しく降り続いている、この日の豪雨に似ていた。

    菜緒が優位のまま、戦いは終盤に入った。投了もよぎり始めていた矢先だった。勝ちを意識したのか、彼女が明らかな悪手を指した。それが痛恨の一手となり、私はかろうじて勝利した。
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