しかし、結果は先生の予測が外れた。勝者が天女戦の挑戦者となる一戦で、菜緒は百戦錬磨の早田さんの術中にはまり、敗れた。
私は少し、気が抜けた。勿論、早田さんの実力は一流だ。対戦成績でも負け越している。それでも、彼女から天女のタイトルを奪って以降、精神的に、自分が優位に立ったという感触があるのは確かだった。やはり、菜緒と比較すれば、組みし易しとの思いは抑えようがなかった。それを見透かして、「今のままじゃ、おまえは負ける。よって卒業後もここで暮らすことになる。親御さんも安心するだろう」と先生は私を叱咤したい気分だったのだろう。当然、私も気を引き締めて天女戦に挑んだつもりだった。
しかし、フタを開けてみれば、初戦こそ、勝利したものの、2局目、3局目と連敗。私は土俵際に追い込まれた。王手をかけられたその日、先生の部屋に呼ばれた。そして「さおり。いったん、菜緒ちゃんの事は忘れて、早田さんの将棋と向き合わないと駄目だよ。まあ、負けるのもいい薬になるけどな」と突き放された。菜緒の才能を恐れるあまり、他の棋士と戦っている時でも、どこかで彼女のことを考えているという悪い癖がついてしまっていた。先生はそれを見透かしていた。
私は少し、気が抜けた。勿論、早田さんの実力は一流だ。対戦成績でも負け越している。それでも、彼女から天女のタイトルを奪って以降、精神的に、自分が優位に立ったという感触があるのは確かだった。やはり、菜緒と比較すれば、組みし易しとの思いは抑えようがなかった。それを見透かして、「今のままじゃ、おまえは負ける。よって卒業後もここで暮らすことになる。親御さんも安心するだろう」と先生は私を叱咤したい気分だったのだろう。当然、私も気を引き締めて天女戦に挑んだつもりだった。
しかし、フタを開けてみれば、初戦こそ、勝利したものの、2局目、3局目と連敗。私は土俵際に追い込まれた。王手をかけられたその日、先生の部屋に呼ばれた。そして「さおり。いったん、菜緒ちゃんの事は忘れて、早田さんの将棋と向き合わないと駄目だよ。まあ、負けるのもいい薬になるけどな」と突き放された。菜緒の才能を恐れるあまり、他の棋士と戦っている時でも、どこかで彼女のことを考えているという悪い癖がついてしまっていた。先生はそれを見透かしていた。