私はパソコンの画面で、矢沢菜緒の棋譜を眺めている。彼女のこれまでの将棋は、すべてこのパソコンに保存してある。しばらく彼女の手筋を見たり、あるいは癖を探したりした後、ベッドに横になった。目をつぶっても、電子的な光が目に残り、眩しさが収まらない。それ以上に心が騒々しい。菜緒の将棋を見れば見るほど、私の不安は増大していく。このままでは、平常心で将棋が指せなくなりそうだ。混迷の中、ひとつの考えがぽかんと浮かんだ。
渋谷にある将棋館で菜緒とすれ違った時、私は彼女に「研究会を作らない?」と提案した。菜緒は「はあ」と一応、肯定しているが、明らかに戸惑っていた。
「勿論2人だけでなく、4人ぐらいで。私の後輩の平田さんは参加したいみたい。矢沢さんも仲のいい子を誘って、どうかな?」
菜緒はしばらく難しい顔をしていたが、それが笑顔に変わり「ぜひ参加させてください」との返事だった。月に2回ほど、私の師匠である森村九段宅に集まる事に決まった。森村先生にはすでに了解を取ってある。
このタイミングしかなかった。じきに菜緒はタイトル戦など、重要な棋戦に登場してくる。当然、私とも戦うことになるだろう。そうなってからでは遅い。もはや同格である。しかし、今はまだ、将棋界の常識は、私と菜緒をライバルとは見なしていない。天女というタイトルを保持し、段位でもキャリアでも先行している私を格上に置いている。だから、私が菜緒を研究会に誘っても、何ら不自然ではない。これで、矢沢菜緒の将棋の正体が分かるかもしれない。私は少し興奮していた。
渋谷にある将棋館で菜緒とすれ違った時、私は彼女に「研究会を作らない?」と提案した。菜緒は「はあ」と一応、肯定しているが、明らかに戸惑っていた。
「勿論2人だけでなく、4人ぐらいで。私の後輩の平田さんは参加したいみたい。矢沢さんも仲のいい子を誘って、どうかな?」
菜緒はしばらく難しい顔をしていたが、それが笑顔に変わり「ぜひ参加させてください」との返事だった。月に2回ほど、私の師匠である森村九段宅に集まる事に決まった。森村先生にはすでに了解を取ってある。
このタイミングしかなかった。じきに菜緒はタイトル戦など、重要な棋戦に登場してくる。当然、私とも戦うことになるだろう。そうなってからでは遅い。もはや同格である。しかし、今はまだ、将棋界の常識は、私と菜緒をライバルとは見なしていない。天女というタイトルを保持し、段位でもキャリアでも先行している私を格上に置いている。だから、私が菜緒を研究会に誘っても、何ら不自然ではない。これで、矢沢菜緒の将棋の正体が分かるかもしれない。私は少し興奮していた。