ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

駒花(10)

2017-05-15 22:03:49 | Weblog
私はパソコンの画面で、矢沢菜緒の棋譜を眺めている。彼女のこれまでの将棋は、すべてこのパソコンに保存してある。しばらく彼女の手筋を見たり、あるいは癖を探したりした後、ベッドに横になった。目をつぶっても、電子的な光が目に残り、眩しさが収まらない。それ以上に心が騒々しい。菜緒の将棋を見れば見るほど、私の不安は増大していく。このままでは、平常心で将棋が指せなくなりそうだ。混迷の中、ひとつの考えがぽかんと浮かんだ。

渋谷にある将棋館で菜緒とすれ違った時、私は彼女に「研究会を作らない?」と提案した。菜緒は「はあ」と一応、肯定しているが、明らかに戸惑っていた。
「勿論2人だけでなく、4人ぐらいで。私の後輩の平田さんは参加したいみたい。矢沢さんも仲のいい子を誘って、どうかな?」

菜緒はしばらく難しい顔をしていたが、それが笑顔に変わり「ぜひ参加させてください」との返事だった。月に2回ほど、私の師匠である森村九段宅に集まる事に決まった。森村先生にはすでに了解を取ってある。

このタイミングしかなかった。じきに菜緒はタイトル戦など、重要な棋戦に登場してくる。当然、私とも戦うことになるだろう。そうなってからでは遅い。もはや同格である。しかし、今はまだ、将棋界の常識は、私と菜緒をライバルとは見なしていない。天女というタイトルを保持し、段位でもキャリアでも先行している私を格上に置いている。だから、私が菜緒を研究会に誘っても、何ら不自然ではない。これで、矢沢菜緒の将棋の正体が分かるかもしれない。私は少し興奮していた。








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駒花(9)

2017-05-15 08:19:20 | Weblog
天女というタイトルを取り、しばらくは気分よく日々を過ごした。しかし、次第に問題が解決していないことに気付かされるのだ。矢沢菜緒。彼女より強くなる方法はないのか。現在の地位で言えば、私が上だ。天女と女流2級。しかし、16歳の天女は14歳の女流2級に勝てる自信がない。将来ではなく、今ですら。

確かに矢沢菜緒の将来性に対する評価は高い。しかし、棋士、将棋関係者、ファンの間では、私の評価の方が上なのだ。それは天女のタイトルを取る前から変わらない。では、私が謙虚なのかといえば、決してそうではない。自分の力には自信を持っている。天女戦でも、早田さんに負ける気はしなかった。そんな小生意気な私が、菜緒の才能にはかなわないと思うのだ。

菜緒はどう思っているのだろう?私は作り笑い、愛想笑いが苦手だ。しかし、菜緒は笑う事が、苦ではないようだ。だから、彼女の将棋そのものよりも、アイドル棋士としてみる向きもある。その笑顔の裏で、菜緒は何を考えているのだろう?自身の、そして私の実力や才能について、どう評価しているのだろう?
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