ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

駒花(4)

2017-05-11 21:37:38 | Weblog
翌日、学校から森村宅へ帰り、私は奥さんの問いかけに、生返事を返していた。普段のように自室にはこもらなかった。先生の帰りを待っていたのだ。

私の実家は静岡にある。父は開業医。母は専業主婦で、兄と私を育てた。兄は優秀で、医学部に入り、いずれは、父の病院を継ぐ予定なのだろう。私はといえば、クラスでは真ん中よりは上だったのだが、父に言わせれば、「お前は馬鹿だから、医者は無理。病院の職員にでもなって、医者と結婚しろ」というようなことをよく言われた。

その父に、兄と私は将棋を教わったのだが、兄は将棋が下手だったのに対し、私は覚えが良かった。アマ初段の父より強くなるのも、時間がかからなかった。父は「これはモノになるかもしれない」と期待した。優秀な人と出会える道具として将棋が役に立つという意味だった。

私が、女流の育成部に入るのも、またそこで成績を上げ、女流棋士に昇格したことも父は喜んだ。しかし私が「東京へ出たい」と言い出した時、父は猛反対した。母は基本的に父の言いなりで、その主張をなぞるだけだった。父を説得するため、師匠である森村先生が静岡まで出向いた。父は渋々、了承し、いま私は東京の森村宅に身を寄せているのだ。
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