先生が帰ってきた。奥さんの後ろから、私も玄関へ向かう。「おかえりなさい」と出迎える奥さんの後ろで、私は軽く会釈した。
「おお、さおり。珍しいな」
「対局はどうでした?」
「いや、負けちゃったよ。いい感じだと思ったんだけど、俺も年かな」
先生は苦笑いを浮かべていた。
森村先生が私を可愛がってくれるのは、先生夫妻には息子二人で、その息子たちもすでに独立している。だから娘という疑似体験を楽しんでいるのだと思う。それと、やはり私の将棋の才能を認めてくれているのだ。「さおりなら、女流棋士の頂点に立てる」と何度言われたことか。しかし、その才能を私自身が疑い始めていた。
夕食後、先生が「さおり、一局やるか」と言ったので、私は「はい」と即答した。先生は角落ちで、ビール片手に教えてくれる。対局、いや指導中、私は気持ちの揺れの核心を口にした。
「先生、矢沢菜緒って知ってる?」
「おお、さおり。珍しいな」
「対局はどうでした?」
「いや、負けちゃったよ。いい感じだと思ったんだけど、俺も年かな」
先生は苦笑いを浮かべていた。
森村先生が私を可愛がってくれるのは、先生夫妻には息子二人で、その息子たちもすでに独立している。だから娘という疑似体験を楽しんでいるのだと思う。それと、やはり私の将棋の才能を認めてくれているのだ。「さおりなら、女流棋士の頂点に立てる」と何度言われたことか。しかし、その才能を私自身が疑い始めていた。
夕食後、先生が「さおり、一局やるか」と言ったので、私は「はい」と即答した。先生は角落ちで、ビール片手に教えてくれる。対局、いや指導中、私は気持ちの揺れの核心を口にした。
「先生、矢沢菜緒って知ってる?」