なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

脂肪肝炎?

2023年06月20日 | Weblog

 土曜日の日直の時に、クリニックから心窩部痛の62歳女性が紹介されてきた。

 前日の夜から嘔気(嘔吐1回)があり、その日の朝から心窩部痛・背部痛が出現した。クリニックでブスコパンを注射したが、治まらないということだった。

 心窩部から右季肋部かけて圧痛がある。胸痛はないが、高血圧症で通院している肥満の女性だったので、まず心電図をとった。異常はなかった。

 クリニックで腹部エコーを行って胆石はないといっていた。当院でも確認したが、胆嚢壁肥厚・胆嚢結石・debrisはなかった(水分だけで絶食状態)。総胆管拡張もなかった。脂肪肝は目立つ。

 AST 151・ALT 79・γ-GTP 271と、脂肪肝として矛盾しない。飲酒はないが、アルコール性のようなパターンだった。血清アミラーゼは68と正常域。白血球10900・CRP0.5と超急性期の形だった。(時間外は試験紙を用いた簡易検査のみ)

 27歳時に急性膵炎の入院歴(2か月)がある。高校生の時に急性虫垂炎で手術しているが、(多分虫垂破裂による)腹膜炎もあり2回の手術になった。

 造影CTで確認したが、脂肪肝が目立つだけで、胆道系に異常はなく、膵炎の所見はなかった。脾腫はあるか。消化管には異常がない。大動脈も問題ない。

 検査しているうちに38℃も発熱もみられるようになった。原因不明だが、点滴と抗菌薬(セフメタゾール)で経過をみることにした。

 月曜日に病棟にいって、経過を確認した。入院後は解熱して、腹部症状は軽快して、食事摂取もできるようになった。患者さんは受診時に比べると、すっきりした顔をしていた。

 ところが、月曜日の検査は検査室から異常値の報告がきた。 AST 285・ALT 459・γ-GTP 485・ALP 128・総ビリルビン3.8と随分な上昇だった。白血球は6900と下がって、CRPは11.6と上昇していた(軽快後初期像?)。

 腹部エコーを再検すると、やはり脂肪肝以外は所見がなかった。セフメタゾールによる薬剤性肝障害も疑われるので、中止とした。

 消化器科医に相談すると、肝炎(HB抗原・HCV抗体は陰性なのでHAVなど)の検査と自己免疫性肝疾患の検査をしてみてはという。

 とりあえず、強力ミノファーゲンシー(のジェネリック)で経過をみることにした。非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の急性増悪というのはあるのだろうか。

 

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急性腹膜炎・十二指腸潰瘍穿孔

2023年06月19日 | Weblog

 先週の月曜日に、地域の基幹病院外科から79歳女性がリハビリ目的で転院してきた。診療科は透析患者さんということで腎臓内科になっていた。糖尿病腎症からの血液透析導入だった。

 3月14日に左大腿骨転子部骨折で先方の整形外科に入院した。3月22日に手術を受けた。ところが3月29日に急性腹膜炎を発症した。十二指腸潰瘍穿孔による腹膜炎で、緊急手術(腹腔内洗浄ドレナージ・大網充填術)が行われた。(CTで腹腔内遊離ガス・腹水貯留)

 もともと重度大動脈弁狭窄症もあり、CO2ナルコーシス(肺胞低換気?)になってNIPPVを装着したりしていた。循環器内科・糖尿病内科・透析科(泌尿器科)も併診してとあり、集学的な治療が行われたのだった。

 ピロリ菌陽性で病状が落ち着いたら除菌をお願いします、とあった。そういば、昔と比べると胃十二指腸潰瘍は相当減っているのだろう。潰瘍穿孔による急性腹膜炎もほとんど診ていない。

 

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自宅で仰臥位のままで

2023年06月18日 | Weblog

 火曜日の午前中に(救急当番だった)、自宅で動けなくなっていたという67歳女性が救急搬入された。

 訪問したヘルパーさんが、呼んでも返答がないので、自宅内に入って発見したのだった。仰臥位のままで過ごしていたらしい。仙骨部に褥瘡ができていた。

 この患者さんは一人暮らしで、統合失調症で市内の精神科病院に通院していた。薬剤性パーキンソン症候群で当院の脳神経内科外来に通院していた既往がある。

 そのころは県庁所在地にある精神科病院に通院していた。2年前に通院困難となり、市内の病院に替わったそうだ。前にの病院とうまくいかなくてと、来院した姉が言っていた。

 両親はすでに亡くなっているが、そのまま実家で生活していた。二人の姉がいて、長女は県内の遠方に、二女は北海道にすんでいる。連絡を受けて長女がタクシーで病院に来ていた(相当なタクシー代になる)。

 

 開眼して簡単な会話はできる。薬の管理は自分でやるしかないが、内服すると印をつけることにしていたそうだ。その印は1週間前が最後だった。数日から最長で一週間、そのままになっていたと推定された。

 ADLは杖歩行だった。病院受診時はヘルパーさんが付きそってタクシーで行っていた。簡単な家事はできていたようだ。

 精神科病院からの抗精神薬は長年オランザピン(ジプレキサ)を内服していた。印のついた最後の日の前日に受診して、オランザピンを減量して、別の抗精神薬(アセナピン=シクレスト)が追加されていた。

 胸部CTは脳委縮だけで、胸腹部CTでも肺炎はなく、それ以外の(動けなくなるような)異常もなかった。追加された抗精神薬の影響なのだろうか。

 炎症反応が上昇していたが、褥瘡や筋挫滅(CK上昇)を反映しているのかもしれない。脱水症としての血液濃縮・腎障害・高カリウム血症がある。点滴で脱水症の治療をすることにした。

 追加された抗精神薬の影響かもしれない(当院にない薬)、抗精神薬はオランザピンだけ継続して経過をみることにした。(それ以外にパーキンソン薬・安定剤・睡眠薬などもある)

 

 姉の話では、そろそろ施設入所をさせたいと考えていたが、すぐに入れるところもなくて、ということだった。いったんこういうエピソードがあると、リハビリをしてもADLは低下したところで固まってしまう。

 社会的な精神科病院入院や施設入所としなければ、退院のあてがないかもしれない。通院している精神科病院は数か月から半年待ちになる。当院向きの患者さんではある。

 

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低カリウム血症

2023年06月17日 | Weblog

 火曜日は腎臓内科の若い先生が当直だった。翌水曜日の朝方に41歳男性が救急搬入された。

 症状は低カリウム血症による脱力だった。血清カリウム1.6と極端に低い。心電図はT波平低はあるが、洞調律で不整脈はない。何度か同じ症状で短期間入院したことがあり、昨年同じ先生が担当して入院治療をしている。

 入院治療を勧めたが拒否したため、外来で点滴をしてカリウムを補充した。動けるようになったので、カリウム製剤内服が処方されて、1週間後の外来予約となった。

 

 そもそもの一番最初の受診は2011年で、当方が担当している。市内のクリニックからの紹介だった。血清カリウム1.9と低下していた。入院して点滴でのカリウム補充と内服での補充を行った。

 学生時代から家庭内暴力があり、パトカーが駆けつけることも何度かあったと親から聞いた。体型は肥満だったが、その後無理なダイエット(下剤の大量服用、自分で嘔吐)をきっかけに拒食となったそうだ。入院した時は体重が30kgまで低下していた。

 話かけても「うるさい」という。殴ろうとして拳を突き出して来るが、ないしろ筋力低下が著しく、スローモーションになってしまうし、こちらまで拳がとどかない。(両親が入院希望で連れてきたが、本人は入院する気はなかった)

 血清カリウムが2.5になって動けるようになったところで、病院として入院継続も難しいし、本人も退院すると主張した。拒食症としての専門的な治療を要するが、家族が精神科病院に相談することにしていた。

 2016年の入院時は内科の別の先生が担当した。血清カリウムが1.7から3.1になったところで希望で退院していた。昨年の腎臓内科入院時は血清カリウム2.0で入院して、2.7で退院している。外来には通院して来なかった。 

 

 現在は一人暮らしをしているが、入院すると仕事に行けなくなるのを気にしていたそうだ。その点では以前より立派になられた?のだった。仕事を続けるためにも、外来通院を継続してほしい。

 腎臓内科で入院した時に、尿中にはカリウムが(異常に)排出されないことを確かめていた。純粋に摂取不足なのだろう。低カリウムが続いたことから尿細管障害を来して(腎臓内科医の診断)、腎機能低下がある。

 

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急性膵炎・IPMN

2023年06月16日 | Weblog

 月曜日に地域の基幹病院消化器内科から94歳男性が転院してきた。担当は別の先生だが、COPDの肺炎による増悪で何度も当院に入院していて、当方も2回担当したことがあった。

 最後に肺炎で入院したのは2021年3月で、内科の若い先生が担当していたが、その後は肺炎の入院はなかった。しばらく名前をみなかったが、先方の病院に急性膵炎で入院を繰り返していた。(肺炎も併発して併せて治療されていた)

 診療情報提供書には「膵管内乳頭粘液性腫瘍IPMNによる繰り返す膵炎で当科かかりつけ」とある。

 

 2021年当院に肺炎で入院した際に、CTで膵尾部に嚢胞性病変を認めたことから、MRCPを行っていた。放射線科の読影レポートは「膵嚢胞」となっていた。壁在結節(腫瘤)はなかった。

 

 総胆管や主膵管には問題がないようだ。急性膵炎発症時(2か月前)の造影CTを見ると、膵頭部の腫脹と周囲脂肪組織の浸出液を認める。

 総胆管は問題ないようだが、主膵管はびまん性に拡張している。膵尾部の嚢胞性腫瘤は同じようだ。主膵管の拡張があるので、IPMNは膵尾部以外に膵頭部にあるのだろうか?。(CTで読めない)

 

 5月末からカテーテル関連血流感染症でCVカテーテル抜去・PICC挿入を行い、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MSCNS)に対する治療が行われていた(肺炎にも効果があるようにABPC/SBTと記載していた)。さらに心不全の悪化で循環器内科に相談して利尿薬を投与して・・・ともある。

 病状悪化時はできる範囲で治療して、反応しない場合はDNARとはなっているが、難しい患者さんだった。

 

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徐脈からの回復

2023年06月15日 | Weblog

 先週外来(内科再来)を診ていると、脳神経内科医から連絡が来た。GI療法のやり方はどうするのか、という。

 GI療法を行うことはあまりないが、知らないわけではないと思う。緊急事態で確認して安心したい、ということだろう。無難な10%グルコール500ml+速効型インスリン(ヒューマリンR)10単位でどうでしょうか、と答えた。

 外来が終わって病棟(回復期リハビリ病棟)に行ってみたが、すでに一般病棟に転棟になっていた。徐脈(心拍数20~30/分)だが、血圧・呼吸は安定して、会話可能だった。(臥床していればめまい・ふらつきはない)

 それまであったP波が確認できなくなっている。QSR波の形は以前と同じだった。一瞬心室頻拍になって、心臓マッサージ(胸骨圧迫)をしたそうだ。

 心電図ではもともと50/分くらいの洞徐脈(1度房室ブロックあり)で、QSRは心室内伝導障害だった。陳旧性下壁梗塞を疑う所見がある。

 処方は前医の処方をそのまま継続していたようだ。βブロッカー(ビソプロロール5mg)と抗不整脈薬(ピルジカイニド50mgを朝夕)が入っていた。βブロッカーは減量か休止でもよかったようだ。ピルジカイニドも必要なのかどうかだが、中止する根拠もないか。

 数日前から下痢があったそうで、血液検査では血清クレアチンが1.80mg/dl(それまでは0.58mg/dl)に上昇して、血清カリウムが6.4(それまでは4.5)に上昇していた。下痢→脱水症→腎前性腎不全ということだった。

 GI療法の効果もあるだろうが、補液が効いたようで、その日のうちに血清カリウムは5台に下がった。ただ徐脈は続いている。

 βブロッカーと抗不整脈薬は中止しても、おそらく上昇した血中濃度が下がってくるまで時間がかかる。一時的ペーシングが必要になるかもしれないので、循環器内科に相談することを勧めた。

 脳神経内科医は、当院から地域の基幹病院循環器内科に転勤になった先生といっしょだった時期がある。直接その先生に連絡すると、徐脈ではあるがそれ以外は安定していることと、その日は忙しくて対応困難ということで、1日経過を見て相談ということになった。

 幸い翌日には心拍数が40~50/分となって、転院の必要はなくなった。β刺激薬のツロブテロールを貼付するようにとアドバイスがあった。

 

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前立腺炎・前立腺癌

2023年06月14日 | Weblog

 6月8日に前立腺炎の症例にコメントをいただいたが、3年前の症例(2020年4月11日記載)なので覚えていない。電子カルテで確認した。

 

 前立腺肥大症があり、排尿障害の症状もあった。尿検査で尿路感染症の所見があったので、「急性腎盂腎炎で前立腺炎を併発した」とすることもできる。

 入院治療は内科の若い先生(自治医大の義務年限、卒後3年目)にお願いした。前立腺炎の治療を開始して、順調に解熱して、炎症反応も軽快した。抗菌薬は、前立腺に移行性の良好なセフトリアキソンを使用した。
 

 血液培養と尿培養から大腸菌が検出され、菌血症を呈していた。血清PSA値は前立腺炎の治療で順調に12まで低下した。外来治療に移行して、泌尿器科外来に紹介した。

 前立腺MRI検査が行われたが、明らかな前立腺癌の所見は認めなかった。炎症の影響がまだ残っているものと判断された。

 3か月後(入院してから6か月後)に血清PSA値は6.9まで低下した。さらに3か月おきのフォローとなり、12か月後も血清PSA値は4.7~5.1と軽度上昇のままだった。

 前立腺MRI検査の再検で、右葉辺縁域に前立腺癌を疑う所見があった(結節状のT2高信号域)。

 泌尿器科の先生(非常勤)は、血清PSA検査と前立腺MRI検査を行って、前立腺癌が疑わる時は、基本的にがんセンターに紹介されている(生検での診断確定と治療目的)。高齢者で家族が連れて行くことになるような場合は、より近い地域の基幹病院に紹介する方針と伺った。

 この患者さんは住所が基幹病院のすぐ近くだったので、そちらを希望されたようだ。診療情報提供書の返事が来ていて、前立腺の生検で癌と診断されて、stagingの検査を行ってから治療を行う予定と記載されていた。

 その後当院受診はないので詳細は不明だが、おそらく周囲への浸潤・転移はないだろう。根治的治療(手術か放射線治療)が行われて、治療後のフォロー中だと思われる。

 

 

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過活動膀胱

2023年06月13日 | Weblog

 過活動膀胱

 「我慢しがたい急に起こる尿意切迫感があって、そのために起こる頻尿な状態

 半数以上は、トイレが間に合わなくて尿を漏らす切迫性尿失禁を合併している。

 過活動膀胱は除外診断。過活動膀胱の症状に類似する症状をもつ器質的な疾患(細菌性膀胱、間質性膀胱炎、膀胱結石、膀胱癌)などを除外して、ほかに原因が考えられない」時に過活動膀胱と診断する。

 1000万人以上が過活動膀胱に該当する。医療機関で診察を受けている人はせいぜい1~2割。女性の受診が少ない。男性は受診が比較的多い(前立腺肥大症の約50%は過活動膀胱を合併)。

 診断のポイントは、尿意切迫感の有無。尿意切迫感は「我慢していてだんだん強くなる尿意とは異なる、病的な感覚」。特徴は「突然起こる」「予測困難」「実際に漏らしてしまうぐらい我慢できない」。(尿意があっても我慢できる人は過活動膀胱ではない)

 症状の聞き取りから過活動膀胱は診断できる。過活動膀胱症状スコア(OABSS)を用いる。

 エコーで残尿測定をしておく。残尿が50mlを超えれば有意な残尿がある。100mlを超えたら無視できない残尿がある。残尿が100ml以上ある場合には抗コリン薬の使用は控えた方がよい(尿閉になる)。

 

 過活動膀胱の薬物治療

 第一選択は抗コリン薬とβ3作動薬。

 抗コリン薬 

 膀胱の収縮を止めることで排尿を止める。対象疾患は頻尿、尿失禁、過活動膀胱。7割は頻尿、尿失禁、過活動膀胱が改善。

 副作用は、口内乾燥便秘認知機能への影響。口内乾燥の影響でアドヒアランスが悪い。1年にわたって抗コリン薬を飲み続けられる人は1割。すでに認知機能が低下している高齢者では、眠気・記憶力の低下・判断力の低下など認知機能の低下が加速する。緑内障では禁忌。

 ベシケア5mg1錠分1、トビエース4mg1錠分1、ウリトスまたはステーブラ0.1mg2錠分2など。

 β3作動薬 

 膀胱を弛緩させることで尿を溜められるようにして排尿を止める。対象疾患は過活動膀胱。

 副作用は稀に頻脈が起こる。抗コリン薬と違って、口内乾燥と便秘が起こりにくい。理論的には認知機能へ影響しないと言われている。

 ベタニス(ミラベグロン)50mg1錠分1、ベオーバ(ビべグロン)50mg1錠分1がある。

 

以上、「ねころんで読める排尿障害高橋悟著MCメディカ出版)による。非専門医としては、男性では前立腺肥大症があるので、排尿を改善するα1遮断薬に併用する。男性でも女性でも、抗コリン薬は使用せず、β3作動薬を使用する。

 

過活動膀胱症状スコア(overactive bladder symptom score:OABSS)

  過活動膀胱の診断基準 尿意切迫感スコア(質問3)が2点以上かつOABSS合計スコアが3点以上

  軽症:5点以下 中等症:6~11点 重症:12点以上

 

排尿チェックシート 過活動膀胱 | ~笑顔でスッキリ~ おしっこ ...

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非代償性肝硬変の治療内容

2023年06月12日 | Weblog

 6月7日に記載した非代償性肝硬変の70歳男性は、地域の基幹病院消化器内科(肝臓外来)に通院している。担当している肝臓専門医から、「この度の御加療ありがとうございます」とこれまでの経過報告が来ていた。

 「非B非C肝硬変として加療している」とあり、アルコール性ではないらしい。特に記載はないが、自己免疫性(AIH)でも、原発性胆汁性胆管炎(PBC)でも、脂肪肝炎(NASH)からの肝硬変でもないのだろう。(少なくとも確定はできないということ)

 「これまで食道静脈瘤破裂などで何度か入院して、PSEやBRTOなどを行っていますが、門脈血栓症特発性細菌性腹膜炎難治性腹水肝腎症候群などを生じ、門脈圧亢進症の制御ができておらず、徐々に病状は厳しい状態」ということだった。DOACは門脈血栓症に対しての処方だった。

 PSEはpartial splenic embolization(部分脾動脈塞栓術)で、BRTOはballoon occluded retrograde obliteration(バルーン下逆行性経静脈的塞栓術)。PSEというのは知らなかった。

 

 肝臓専門医には、肝炎専門に診ている先生と、肝疾患に関するインターベンションも併せて行う先生といらっしゃるようだ。こちらの先生は後者で、大変な診療を担っているのだった。

 当院としては利尿薬静注(増量)で胸腹水を何とか減らして、先方の外来に戻せればいい。入院後は幸い胸腹水は軽快してきた。

 

 古い文献に肝性胸水の例が記載されていた。肝硬変患者で心肺疾患がないにも関わらず胸水を認めた場合に「肝性胸水」と定義される。非代償性肝硬変患者の4~10%に見られる。胸水貯留部位は右側が67~85%、左側と両側がそれぞれ17%。(ざっくりだと右側70%、左側と両側が15%)

 コメントいただいたように、肝性胸水は、「先天的に漸弱な横隔膜接合部が腹腔内圧上昇時に破綻して小孔が形成され、胸腔内の陰圧により、この小孔を介して腹水が胸腔内に移行する」、そうだ。

 患者さんが床に落ちたものを屈んで取った時や、灯油缶を運んだ時に(いずれも腹圧がかかった時)、急激に肝性胸水が生じた例が記載されていて、興味深かった。

 

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低活動型せん妄

2023年06月11日 | Weblog

 整形外科に多発性骨折で入院した 歳女性は糖尿病で治療していた。整形外科医から糖尿病の血糖コントロールを依頼された。

 DPP4阻害薬とSU薬少量(グリクラジド20mg)の内服に、BOTとして持効型インスリン(トレシーバ)が4単位になっていた。それ自体は特に大した問題ではない。問題は別にあった。

 入院後から食事摂取ができなかった、というかしなかった。嘔気を訴えたりもするので身体的な問題かと思われたが、そうではないようだ。

 整形外科医は、糖尿病ということでグルコースを含まないリンゲル液2本を点滴していた。4~5日以上そうなっていたので、グルコース入りの点滴に切り替えて、インスリンを混合とした(血糖測定によるインスリン皮下注の補正は継続)。

 

 ほとんど発語がなく、ぼんやりして周囲に無関心な様子だった。食欲不振とも合わせて、病棟の看護師さんは心因性の問題、うつ状態ととらえていたようだ。

 リハビリのオーダーもあったが、日中ぼんやりして、動かそうとするといやがるので理学療法士も手を出しかねていた。

 症状を訊くと、急に痛い痛いと訴えて、過呼吸になる。難聴もあって、耳元で大声で言わないと聞こえないという問題もあった。夜間に大声を出すというのではないが、頻回にナースコールを押して来るそうだ。看護師さんとしては不眠というより、頻回コールの困った患者さんという捉え方だった。

 看護師さんからの、抗精神薬を定期的に出してほしい、という依頼がきた。糖尿病があるので、リスペリドン0.5mgを夕に内服とした。

 これはうつ状態ではなく、「低活動性せん妄」のようだ。デジレル(トラゾドン)25mgとロゼレム(ラメルテオン)8mg1錠を夕に入れた。リスペリゾンは当面継続とした。

 今のところは、前よりはいいかな、というくらいだ。これまで「低活動性せん妄」としては認識していいなかった。下記の良書の記載を参考に治療を継続することにした。

 低活動性せん妄はうつ病と似たような症状がたくさんあるが、せん妄としての意識障害(変動)・見当識障害・注意障害もある。

 治療の目標は、「睡眠・覚醒リズムを確立すること」、すなわち「夜は深く寝て、日中はしっかり起こすこと」ということだ。

 

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