スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

複数の派生感情&スピノザの考え

2020-01-31 19:09:27 | 哲学
 第三部定理一八の帰結として,安堵securitasと絶望desperatioは希望と不安からの派生感情でなければなりません。ですから歓喜gaudiumと落胆conscientiae morsusだけが希望spesと不安metusからの派生感情であるわけではないのです。このことは畠中が,安堵と落胆は希望からの派生感情で,絶望と歓喜は不安からの派生感情であると主張していることから,不自然ではありません。ある感情affectusからの派生感情はひとつであるとは限らず,複数の感情がある感情からの派生感情であるという場合があるのです。僕は畠中説そのものには同意しませんが,ある感情からは複数の感情が派生し得るという点については畠中と一致します。
                                   
 これで考えれば,これとは逆のこともあり得る筈です。すなわちある感情Aが別の感情Bから派生するとき,AはBからの派生感情ですが,Bからの派生感情はAだけであるとは限りません。これとは逆に,Aを派生させる感情はBだけであるとは限らず,AはBからの派生感情ではあるけれども,それとは別のCという感情からも派生し得るという場合がある筈なのです。
 僕は,歓喜と落胆は不安と希望からの派生感情でなければならないと考えますが,安堵や絶望からも派生し得ると考えています。ただし,僕がいう派生感情というのは,ある感情が発生するためには,その感情が前もって存在していなければならない場合のことです。歓喜も落胆も,希望と不安が前もって存在していなければ発生し得ないので,それらは希望と不安の派生感情です。一方,安堵や絶望から歓喜や落胆が派生する場合もあると僕はみているのですが,これは安堵や絶望が前もって存在していなければ歓喜や絶望は発生し得ないという意味ではありません。なので僕は歓喜や落胆が安堵や絶望からの派生感情であるとはいいません。ただ安堵および絶望から歓喜や落胆が発生する場合でも,安堵と絶望が不安と希望からの派生感情なのですから,歓喜と落胆が希望と不安からの派生感情であることには変わりありません。

 ふたつの永遠の相species aeternitatisがあるのではないかという疑問については,僕はここでは確たる解答を与えません。ひとつだけ確かなことは,スピノザは永遠の相はひとつ,すなわち理性ratioの本性naturaに属する永遠の相と,第三種の認識cognitio tertii generisの本性に属するであろう永遠の相は同一の永遠の相とみていて,ふたつの永遠の相があるとは考えていないということです。
 スピノザは第五部定理二九備考で,ものは,一定の時間tempusおよび場所に関係して存在すると把握されるか,神Deusの中に含まれて存在すると把握されるかのどちらかであるという主旨のことをいっています。このうち前者はものが持続するdurareものとして把握される場合であり,後者がものが永遠なaeternusものとして把握される場合であることは,説明するまでもなく明らかでしょう。したがって,ものの認識cognitioのされ仕方は,持続するものとして認識されるか,永遠の相の下に認識されるかのどちらかでなければなりません。他面からいえばそれ以外の仕方で認識されることはありません。よってふたつの仕方で永遠の相の下にものが認識されることはないのです。
 ただしこの備考Scholiumは,ものが現実的なものとして把握される場合について言及されています。つまり,第三種の認識とだけ関連していわれているのであって,理性による認識については除外されていると解することは不可能ではありません。つまりここでは第一種の認識cognitio primi generisと第三種の認識についてだけいわれているのであって,理性による認識すなわち第二種の認識cognitio secundi generisについては何も言及されていないと解することもできるにはできるのであり,これだけで第二種の認識の本性に属する永遠の相と,第三種の認識の本性に属するであろう永遠の相を,同一の永遠の相であるとスピノザがいっていると解するための根拠としてはやや弱いかもしれません。
 第五部定理二八は,第三種の認識への欲望cupiditasが,第一種の認識からは生じ得ないけれども,第二種の認識からは生じ得るといっています。こちらの方はより強い根拠になるのではないかと僕は考えています。というのはこの定理Propositioのスピノザによる証明Demonstratioは,永遠の相については言及していないものの,それと無関係であることはできないと思われるからです。
コメント
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