[あらすじ] 静岡生まれの亡父に連れられ、長期休暇には安倍川上流の
梅ヶ島温泉に行ったものだ。
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ピンチの時に父は冷静だった。
冷静過ぎて、「大丈夫ですか?手伝いましょうか?」と言ってくれる
通りがかりの車の人の申し出を断ってしまったことも有った。
母はそういう時に父を責めるところが有った。
困っている時に助力を申し出てくれる人がいたら、
自分だったらどう答えるだろうか。
さて、私が25歳くらいの時。
当時好きだった女性を連れて、車で梅ヶ島温泉に行った。
翌日、北にある八紘嶺に登るつもりだった。
車かテントで寝るつもりで、夜、大谷崩れの近くへ向かった。
大谷崩れは「日本三大崩れ」の一つである。
日本三大崩れ?
そんなもんが有るのか。
ま、とにかく、すごく、崩れている。
梅ヶ島温泉へ向かう県道から左折して、山間の道へ向かった。
集落を抜けて、周囲には建物は無くなってきた。
二又に差し掛かった。
大谷崩れへ行くほうと、山伏岳へ行くほうの分かれ道だろうか。
ちょいと道を確認するために、地図を見ようと思い、
車を道のわきに寄せた。
途端、
左前輪が落ちた。
舗装道路と脇の土地とでは、ずいぶん段差が有ったのだ。
車の左前が茶畑に突っ込んだ形だ。
これはいかん。
周囲は茶畑しか無い。嗚呼静岡。
集落を抜けて奥まで来たところであり、車が通る気配も無い。
とほほ。
携帯電話が普及する前の話である。
どうしようどうしようと言っていてもどうしようも無いのだがどうしよう。
二人でなんだかんだ言い合う。
街に戻れば公衆電話が有るだろう。
歩いて数十分はかかるだろう。
二人で行くか。
いや車をここに放置するのはナンだ。
じゃ二人で行くか。
往復する間、一人を車に残すのも不安だし、
一人で夜道を行くのも不安だ。
※
「怒ってる?」と聞いてみた。
すると、
「起きてしまったことはしかたない。
怒ってないよ。
むしろ、どうするか考えたほうがいい。」と言う。
その前に付き合っていた人の助手席に乗った時、
地図を読み違えて、遠回りになってしまったことが有る。
その時、なんだかひどく責められた。
そういう事がイヤだったので、
この人のこの返事は、私にとってとても良い印象を与えた。
安心して、もう少し好きになった。
そして、この「今どうするのが良いか考える」というのは
後々、自分の思考パターンになっていった。
まあ、茶畑の側溝に落ちたこの時には、双方、恋愛感情で相手への不満など起きない
割引サービスフェア期間に入っていたのだろう。
のんきなもんだ。
※
どれくらい経ってか忘れたが、
軽自動車が通りかかり、止まってくれた。
二十代の女性が3人乗っていた。
電話のある所まで乗せて行ってくれると言う。
ありがたい!
電話をする間、待っていて、また車まで乗せて戻ってくれると言う。
ありがたいったら!
車だとほんの数分で県道に出られ、公衆電話でJAFを呼んだ。
女性たちの車のカーステレオではとてもステキな曲が流れていた。
私たち、ソウルやファンクのバンドやってるんですよ。これはなんですか?
「『天使にラブソングを』ですよ。」
ブラックミュージックが好きだというつもりで言ったのだが、
そんなバンドをやっているくせにこの映画を見ていなかったのだから
今思えば私は相当にアホであった。
※
車に戻り、今度はJAFが来るのを待った。
どれくらい経った時か忘れたが、また一台の車が止まって声を掛けてくれた。
「大丈夫ですか?」
ああ、ありがとうございます。
さっき、通りがかりの車に乗せてもらって電話をかけに行き、
今、JAFを待っているところです。大丈夫です。
「出しましょうよ。こっちは男二人いるし。いけるよ。」
夫婦と小学生の子供一人と、夫の友達という四人連れだった。
いえいえ、もうすぐJAFも来るし、大丈夫です。
「そうですかあ?」
断ってしまった。
車が去ってから、
同行の女性が言い始めた。
「なんで断っちゃったの?」
※
「JAFが来るよりも早く車が出せたかもしれないじゃない。
家族連れだから怖いことも無いし。
きっとこの奥の別荘に行くところだったんだよ。
二人の上司の持ってる別荘でさ。
一緒に飲んだり食べたりしてさ。
いろんな話もできたのに。
泊めてくれたかもしれないよ?
あーあ。楽しかったかもしれないのになー!」
ええええ????
さきほど育ったばかりの信頼感が崩れていく音がガラガラと聞こえる心地がした。
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