[あらまし] 10月の初旬、保護団体から犬を一頭引き取った。
4歳の去勢オス。柴系の雑種、体重約15㎏。鼻黒。
名前をウーゴと付けた。
おとなしい。
臆病である。
家では、部屋の真ん中に置いたマットの上で一日中過ごす。
ずっと寝ている。
部屋の隅のほうには行かない。
物が置いてあるのが怖いらしい。
つながった部屋にある食卓の席に私はいつもいる。
そこへも、滅多に近寄らない。
※
外に出ると、車が怖い。原付が怖い。自転車が怖い。
ジョギングの人が怖い。
子どもが怖い。
子どもの声が怖い。
自転車に乗って下校する中学生男子の群れ、なんて、最悪に怖い。
※
物音が怖い。
地響きが怖い。
足音が怖い。
風が怖い。
自分が踏んだ側溝の蓋が響くと尻尾を巻いて逃げる。
※
吠えない。
そろそろウチに来て4週間になるが、まだ吠えたのを聞いたことが無い。
何か言いたいことが有る時は、「うああん」とかなんとか、
ほんのちょっと鳴く。
しつこく鳴き続けることも無い。
少し要求しても私が別の事をする様子なら、すぐに諦めてマットで横になる。
※
たまにグッスリ眠っていることが有る。
そんな時には、夢を見ている様子だ。
夢で吠えているのを聞いた。
寝言なので、思い切り吠えるほどではないから、「うあん、おん、あん」くらいだった。
数日後、今度は夢で呻っていた。
それも一言二言、数秒呻って終わった。
※
道路の車にだいぶ慣れてきたので、朝の散歩の時間を少し遅くできるようになってきた。
ドッグランで、いろいろな人や犬と会うことが増えてきた。
初めての人には自分から近付いて行かない。
オヤツでつられない。
うまいこと近付くことのできた人は、撫でるのがいい。
撫でられると安心する。
多くの犬は上から手を伸ばして頭を撫でられるのをイヤがるが、
ウーゴは不思議と、上から撫でられることを好む。
多くの犬は正面から近付かれるのを恐れるが、
ウーゴは背後や横に近付かれることのほうが怖い。
若い犬は「遊ぼう遊ぼう」とじゃれ付いてくる。
あまりしつこいと、イヤがる。
「ヤん!」と鳴いたのを一度聞いた。
成犬でもしつこく迫ってくる犬もいる。
あんまり何度もしつこい犬に対しては、低く強く呻っていた。
※
遊びを知らない。
知らないのか、まだドッグランに場慣れしていないせいか分からないが、
ボールを投げてもまったく興味を示さなかった。
他の犬が遊んでいるのを見て覚える、という例も有る。
先代犬ジーロは、出会ったある大型犬が、土の中の石ころを掘り出してかじるのを見て、
その場で早速真似して遊んでいた。
近所のある臆病な保護犬は、何をするのも怖いので、芸を覚えなかったが、
同居している犬がおすわりをするのを見ていて、自然とおすわりを覚えたそうだ。
※
猫にも見向きもしない。
保護施設にずっといたので、猫が近付くことが無かったのだろう。
今朝など、雀がウーゴのほんの近くにいて、
チョンチョンと跳ねる雀の動きに、ウーゴのほうがビビって後ずさっていた。
※
その、ウーゴが。
ある時、突然、マットからすっと立ち、じっと勝手口のほうを見る。
耳が立ち、尾が立ち、背中の毛が逆立っている。
こんな姿勢のウーゴを見るのは初めてだ。
私はちょうど台所から立って、洗面所への扉を開けたところだった。
犬の動き、珍しい急な動きに気付き、驚いたので立ち止まって様子を見た。
こっちのほうを見て警戒している。
こっちへ来ようかどうしようか、そわそわと前足を動かす。
なんだというのだろう。
私には聞こえない何かが聞こえているのかもしれない。
ウーゴが呻り始めた。
前肢を前に出して、頭を低くして、警戒の姿勢を取っている。
あんまり珍しいので驚いて「どうしたウ…」と言いかけたとき、
ついにウーゴが前へ飛び出た。
そして、勝手口の横の壁に向かって吠えかかっている。
ウーゴ・・・
それは・・・
私が作った漆喰の虎だよ。
猫にも吠えないおまえが向かって行くとは。
最大の評価だよ。
ありがとう。
でも、
落ち着いてくれ・・・
※
鏝絵の虎↓
https://blog.goo.ne.jp/su-san43/e/dc58855eda73cb2498936ff6f52be2cb
※
興奮して目の色が変わってしまった犬を落ち着けることはかなわず、
勝手口の前を板で塞いでも、そのまま20分くらいは吠えかかりっぱなし、
その後も何時間も落ち着かない。
板をどかしたらまた吠えだす始末。
しかたないので、何日もかけて作った漆喰の虎を、
泣く泣く壁から剥がした。
泣くわ。
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