9月14日(土) くもり
21:00頃トイレに立った際にはピーカンの空に満月が輝いていたのに、次に2:00頃テントから
外を覗いて様子を探ったら、空の大部分が雲で覆われていた。これでは撮影どころか、いつ雨が
降り出してもおかしくない状況だ。しかし、トムラウシは見えていて、その上空には薄い雲がかかり、
条件がそろえば朝焼けする可能性はあるかもしれないと思った。
なので朝食をとり、寝袋を片付けるなど撤収準備を進めつつも、撮影体制だけはそのまま解かなかった。
そしたらやはり、朝焼け濃厚な雰囲気になったので、ダメ元で大慌てで近くの撮影ポイントに向かった
ところ、予想以上の全面朝焼け空となった。写真は、戦い済んで夜が明けた場面。
Oさんは律義に板垣新道分岐まで行って草紅葉を撮影したそうだ。この差がすべてを物語る。
そしてテントを撤収、雨に合わないためにも、できるだけ速やかな下山が賢明だろう。最後に
管理人とOさんに挨拶しようと、避難小屋へ立ち寄った際に事件は起こった。6:10~20分頃の
ことだったと思う。
小屋で急病人発生! たまたまOさんと私が第一発見者となり、私は小屋内とテン場で叫んだ、
「皆さんの中に、お医者さんか看護師さんはいませんか!」
このセリフ、ドラマとかマンガで、主に客室乗務員が叫ぶ決まり文句だが、まさかこの私が
口にする機会が人生の中で巡ってこようとは。
残念ながら医者も看護師もいなかったが、緊急医療の講習を受けたことがある方と、山小屋での
勤務経験があり、こうした場合の救助要請の段取りがわかる方が名乗りを上げ、二人を中心に
初期手当、救助要請などが進められた。こうした場合には眠らせないことが肝心とのことで、
小屋の常連客数名が呼びかけ続け、あくびをしてとても眠たそうな病人を眠らせない措置をした。
しかし、本人の意識がどんどん遠のいていく中、緊急搬送しなければらちが明かないのは明白で、
こうした時に下界との連絡が非常につきにくく、意思疎通が難しい、いわばクローズドサークル的な
山小屋での事故は、情報量が少なすぎ、関係者の焦りが募るばかりであった。風がやや強まって
いたせいか、携帯電話が途切れ途切れ、はたして正確にこちらの状況が伝わっているのかも
疑わしく思われ、疑心暗鬼を生ず恐れすらあった。
と、そこへ、屈強な男たち7,8名がドドドっと小屋へなだれ込んできた。北海道警察の方々である。
この時事態発生から一時間半~二時間程度経過していたはずだが、通常そんな短い時間(現場にいた我々
にはものすごく長い時間に感じてはいたのだが)で下から救援部隊が駆けつけられようはずがなく、
たまたま緑岳直下で訓練中だった彼らに救助要請が伝わり、はせ参じてくれたのだ。
実はこの数日前にも緑岳で骨折騒ぎがあり、その時もたまたま訓練中だった警察官数名(その方々とは
私も白雲岳分岐や避難小屋で遭遇していたのだが)が通りかかり、けが人を担いで下山させたと
聞いていた。北海道警察の方々は、できたらシーズン中、実益を兼ね、毎日でも緑岳で訓練して
くださらないものか?
この夏私も浮石でよろけ転倒してしまったが、ガレ場の続く緑岳斜面は事故が起こりやすいのは
確かで、大けがにもつながりかねない。警官が常駐することで、逆に「日本一安全な山」を
売りにしたりして。もち半分冗談だが、でも本当にそれがかなったらどれだけ心強いことだろうか。
ここから先は基本彼らに任せきりで、私は報道カメラマンに早変わり。「眠らせてはいけない」
という判断は正しかったようで、彼らもしきりに話しかけ、少しでも意識を保たせようとしていた。
彼らの無線機で、下との連絡が密になったのも心強かった。「あと数分で丘珠空港からヘリが離陸する」
とか「約40分で現地に到着できる」など、正確な情報が次々とこちらにも伝わってくるのだ。
やがて遠くにプロペラ音が響き、ついにヘリコプターが到着した。これをどれだけ待ちわびたか。