旅にしあれば

人生の長い旅、お気に入りの歌でも口ずさみながら、
気ままに歩くとしましょうか…

地雷グリコ

2025-01-14 17:11:55 | 図書館はどこですか



今回図書館でお借りしたのが、「地雷グリコ/青崎有吾著」です。きっかけは
朝日新聞のミステリー小説ランキング記事で紹介されていたことで、2024年度の
主だったランキングで4冠達成、2位に大差をつけて1位を独占したという内容
でした。これは待たされるかなと覚悟して予約すると、意外にも皆さんノーマーク
だったのか、数人の順番待ちで回ってきたのはラッキーでした。

推理小説ではなく、センセーショナルな連続殺人事件が起こるわけでもない、
高校生がゲームでバトルを繰り返すというシチュエーションは、本来私の興味の
対象外、読む前は正直あまり気乗りしませんでした。しかし、『グリコ』や
『だるまさんがころんだ』『ジャンケン』、『神経衰弱』などの子供でも知って
いるような手軽なゲーム(お遊び)が、少しひねりを加えることで、こんなにも
論理的で緻密な頭脳戦、複雑な読み合いが要求される息詰まるバトル競技に
変わるとは及びもつかず、知らず知らずのうちに世界観に引き込まれていました。

主人公である女子高生・射守矢 真兎(いもりや まと)の描き方もうまく、登場時
はルーズそうなどこにでもいるただの平凡な女の子だと思わせておいて(それは
相手を油断させるための逆ブラフであるわけですが)、実のところ頭脳明晰、
機知に富んだ才女(勝負師)であることがやがてわかり、「赤いブラを制服から
透けて見せて」「端正な顔立ちで」「脚がきれい」等々、加えてルックスも
コケティッシュな魅力があることを親友・鉱田(こうだ)に物語が進むにつれ
きれぎれに語らせ、徐々につまびらかにしていく手法なども心憎いです。

最終局面では、真兎の中学時代の友人であり、過去に因縁ある少女が登場、彼女
との一騎打ちでバトルは最高潮に盛り上がり決着を迎えます。終わり方も心地
よいし、エピローグで後日談的に語られる締めくくりも小気味よく、最後の最後
まで余韻を楽しめます。私同様「ゲームで対戦のお話なんて…」と尻込みして
いるあなたも、手に取ってみてはいかがでしょうか?

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シャーロックホームズ全集第7巻

2025-01-09 17:29:00 | 図書館はどこですか




図書館でお借りしたのは、ホームズ読書シリーズ第七弾、「シャーロック・ホームズ全集
7・恐怖の谷/アーサー・コナン・ドイル著」です。

恐怖の谷はホームズもの最後の長編となるようで、シリーズ第一作の「緋色の習作」
などと同じく二部構成、後半は舞台を開拓時代を彷彿させるような、当時イギリスと比べ
野蛮な国とみなしているアメリカへ移し、事件の遠因を描いている点で、似かよったつくり
となっています。二部構成スタイルを読むのはこれが三作目にあたり、さすがに当初ほどの
違和感はなくなりつつあるとはいえ、近年の推理小説でここまで極端なつくりの作品に
巡り合うことはまずないので、やっぱり戸惑いはあります。

書かれた順番はあとでも、ホームズの歴史としては年代を少し遡っていて、「最後の事件」
で(事件ファイル的には)すでに決着している終生のライバル・モリアーティ教授が今回の
事件の背景にいることをちらつかせ、悪の根源とされながらも、シリーズの中ではあまり
活躍する場を与えられておらず、唐突に登場しあっけなく散ったモリアーティを、再び
表舞台に引っ張り出すことで読者に印象を植え付けています。ただし後付であれこれ話を
盛ったため、つぎはぎからほころびが生じ、年代の錯誤など諸々矛盾は指摘されている
ようですが。

秋アニメで第二期が放映された「鴨乃橋ロンの禁断推理」の主人公ロンは、ホームズ家
とモリアーティ家の両方の血を引く人物として描かれ、抜群の推理力を持つ天才だが、
モリアーティ一族の陰謀により推理後、犯人を自殺に追い込んでしまう体質(欠陥)を
持ったため、謎解きすることを禁止されている…という筋書き。著作権が切れていて
自由に描けるのか、ホームズ、モリアーティ関連の派生作品が、マンガ、アニメなどで
数多く見受けられ、現在に至るまで我々を刺激し、楽しませてくれていますね。

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蒼海館の殺人

2025-01-08 17:12:30 | 図書館はどこですか



「蒼海館の殺人(あおみかんのさつじん)/阿津川辰海著」を図書館でお借りして
読みました。阿津川さんの「館」シリーズの第二弾、前に読んだ「黄土館の殺人
のひとつ前の作品になります。

推理小説のシリーズものを遡って読むのはリスクを伴い、登場人物が重なる場合、
誰が生き残るのか、誰が犯人でないのか等々、ズバリ犯人が名指しされては
いなくても、ある程度ネタがバレる事象は避けられないのが玉に瑕(その点では
以前読んだ辻真先さんのシリーズもの、前作で脇役でしかなかった人物が、続編
で犯人となっていたのは、けっこう斬新だったのかも。これも順序逆に読んで、
この人が次作では殺人を犯すことが、頭にちらついて困った覚えがありますが)。
今回の蒼海館~の場合は、主人公の名探偵(男子高校生)が前作での出来事を
引きずって引きこもりのような状態で、立ち直らせようとするワトソン的友人が、
回想するように繰り返し前作(紅蓮館の殺人)の話題に触れるので、犯人の
名前や動機が出てこないかとヒヤヒヤしました。やっぱり続きものは、本来
順番通り読むのが無難なのかもしれませんよねえ。

次作の黄土館~よりは、こちらのほうが面白く読めたと思います。早い段階で
犯人がわかってしまう黄土館に比べると、二重三重の仕掛けでミスリードを
誘い、真犯人を隠すことには成功しています。しかし、トリックが巧妙で複雑
なだけに、犯人が実際問題現場でそこまでうまく立ち回れるのか、あるいは、
行動真理を読み切って他人の動きまで犯行(カムフラージュ)に取り込んで
みたり、自然災害(今回の場合、台風の接近、それに伴う川の氾濫など)を
見越して、それを利用することで手口をよりわかりづらくし隠匿を謀るなど
していて、そんなことが本当に実現可能なんだろうかと、ちょっと腑に
落ちないような首をかしげたくなる場面も散見します。

謎解きを複雑にしようとすればするほど仕掛けが大掛かりになり(そのためか
ページ数も無駄に多いのも気になります、もう少し簡潔にできそうな気も)、
芝居がかり過ぎるのが難ではあるけれど、個人的にはこうしたスペクタクルな
展開が嫌いではないんですよねえ。壮大なパニック・サスペンスが堪能できる
館シリーズ、もうひとつ前まで追いかけてみましょうか。

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バーニング・ダンサー

2024-12-21 19:06:00 | 図書館はどこですか




図書館で順番が回ってきたのは、「バーニング・ダンサー/阿津川辰海著」、
少し前に同じ著者の長編作「黄土館の殺人」を読んですぐのタイミング、
これだけ立て続けに大作を発表されているところを見るにつけ、阿津川さんは
筆が乗っている旬の作家のひとりなのでしょう。

黄土館~が本格推理もの「静」だったのに対して、こちらはハードボイルド調
アクション編「動」と趣きはかなり異なっていて、警察小説もの、あるいは
超能力バトルものなどのジャンルにも含まれそうなミステリーです。やや硬質な
阿津川さんの語り口からすると、前作よりもこちらのほうがよりハマっている
ように思われ、引き込まれて一気読みに近いような勢いで完読しました。

ただ、各々異なった特殊能力を持つ者が正義(この作品の場合警察組織)と悪
(テロリスト)とに分かれ対峙する設定は、アニメ作品などでもよく見かける
構図で、どれが大元かは存じませんが、たとえば人気作「TIGER & BUNNY」
などでも特殊能力者同士のバトルが描かれていて、バーニング~の根幹を成す
メイン設定は既視感があるもので、正直目新しさには欠けます。また唐突に
「ロカールの原則」が語られるなど、おそらく阿津川さんがこれまで影響を
受けてきた先達らの引用がランダムに散りばめられ、それが作品全体を通して
の統一感を少し阻害しているような気がするのが惜しいところでしょうか。

そして、これは誉め言葉になるかどうかはわかりませんが、このままアニメ化
されてもおかしくないような視覚に訴えてくる作品でもあります。どんでん
返しの連続で、「巨悪」はまだ眠ったまま、続編にも期待したいところです。

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あなたが誰かを殺した

2024-12-15 18:55:55 | 図書館はどこですか




忘れた頃…ようやく順番が回ってきたのが、「あなたが誰かを殺した/東野圭吾著」
です。たしか朝日新聞で紹介されていたのが白井智之さんの「エレファントヘッド」
と同じタイミングでしたから、手元に届くまで、一年半以上待たされたと思います。
東野さんがベストセラー作家であることは存じ上げていて、しかも前評判上々の
人気作品、これは致し方ないかもしれません。

あまりの売れっ子作家は逆に敬遠してしまいがちなわたくし、東野さんの名前は
当然見聞きしてはいても、これまで読む機会がなかったし、進んで読んでみたいと
思ったこともありませんでした。しかし新聞で取り上げられていたのをきっかけに、
いい機会かもと予約しておいたのでした。

なるほどこれは幅広い人気があるはずだとすぐに気がつきましたよ。まず、文章が
わかりやすく平易、難解な専門用語が羅列されることなく理解が容易だし、また、
設定もあまりに複雑すぎず、敷居が低いので誰でも取っつきやすいのが、絶大な
支持を集めるひとつの要因なのでしょう。そのくせ、導入部、淡々と話が進んで
いると思いきや、突如大量殺戮事件が発生、事態は一気に暗転し、その場面転換の
手際が鮮やかで、そこからは読む手が止まらなくなります。しかも事態は二転三転、
最後に驚愕の事実が明るみにされるなど、読み終わるまで興味が尽きることが
ありません。

これぞ人気作家の神髄を垣間見たことで、今まで出版されている膨大な作品群を
改めて読んでみたい気持ちが生まれる一方、新刊書にも目を向けたくなりました。
それでさっそく最新刊「架空犯」を予約してみると、遥か彼方向こうの予約順です。
そのうち館内の蔵書数が増やされて、少しはペースアップが期待され、待機期間は
徐々に縮小されていくでしょうが、それでも今回も、一年以上待たされるのは
間違いないようです。忘れた頃また、順番が回るでしょう。

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ぼくは化け物 きみは怪物

2024-11-16 18:27:30 | 図書館はどこですか




続けて読んだのが、「ぼくは化け物 きみは怪物/白井智之著」です。奇才、
白井智之さんの最新刊ですね。雑誌記載の中短編4編に書き下ろしをくわえた
全5編の推理小説です。

ジョブナイル風、任侠物、SF風とジャンルが多岐にわたり、一見脈絡なく
物語が並べられてはいますが、一貫しているのは、時代、舞台がどこであろうと
殺人事件が起こり、探偵役が登場し推理、謎を解き明かします。その意味では、
パッと見変格的ではあるものの、あくまでもジャンルは純然たる本格推理小説
だと言い切っていいと思います。

しかもその推理の筋道、犯人が幾通りも用意されているのも特徴で、突拍子
もないストーリーを考えつくだけでもすごい上に、いともたやすくトリックを
複数並び立てているのに毎度感心するしかありません。こんな複雑な謎解きが、
頭をひねることなく、すらすらッと浮かんでくるのでしょうかね?

前にも書きましたが、白井作品はけっして上品でなく、下ネタ、お下劣な内容の
オンパレードと言っても過言ないでしょう。しかしあまり不快感を感じさせない
のは、軽妙洒脱な文面と、はるか彼方から距離をとって物語を俯瞰しているかの
ような、第三者的な冷めた描写の賜物かもしれません。主人公サイドに感情移入
しながら読み進めることが多い私のような読書スタイルだと、突き放したような
客観的な語り口にやや物足りなさを覚えつつも、逆に頭を冷やしながら淡々と
読むことができるので、それが白井作品に惹きつけられる最大要因なのでしょう。

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鬼神の檻

2024-11-15 18:37:00 | 図書館はどこですか



長旅から帰宅早々、図書館に予約してあった本の順番が続けざまに回ってきて、
慌ただしく二冊読み終えました。まずは「鬼神の檻(きじんのおり)/西式 豊著」、
朝日新聞で紹介されていた長編ミステリーです。

第一章は大正時代、大量殺戮事件が勃発しますが犯人は人知を超えた存在で、
この本はミステリーの分野としては限りなく怪奇ホラーに近い作品だと悟り、
私向けではなさそうだと思っていると、第二章は50年後の昭和48年へ飛び、
数え歌見立て連続殺人が発生、マスク姿の麗人の登場など横溝作品を彷彿させる
趣向も手伝い、一気に伝奇的要素を加味した本格推理ものへと変貌を遂げ、魅力
を増します。さらに50年経過して、第三章の舞台は令和5年、物語はSF風に
発展、飛躍し、決着を迎えます。

章ごとに時代が変わり、テイストが微妙に異なるので、正直戸惑いはあります。
しかし、常に怪奇ロマン的なエッセンスがベースにはあふれ出ているなどして、
一貫性、整合性はブレずに貫かれており、違和感は最小限度、読み進められます。
広げた風呂敷を仕舞うために、SF的な解釈をくわえることで伏線をすべて
きれいに回収する展開にはまずもって納得できるし、三種類の違う分野を一冊で
楽しめると考えると、お得感もあります。

全般主役は女性。一章でヒーロー然としたカッコいい軍人が登場し、ヒロイン=
姫を助け出そうとするものの、あっけなく敗れ、殺害されて以降は、もっぱら敵
に抵抗し、活躍するのはほとんどが女性陣(姫と呼ばれ、鬼神への貢物とされる
宿命の女たち)です。三世代に渡り敵を追い詰め、謎に迫り、事件を解決へ
と導く、女性たちの活躍をハラハラしながら見守りましょう。

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今回の旅で読んだ本

2024-11-14 17:13:30 | 図書館はどこですか



今回旅先で読んだ本は、「夜の黒豹/横溝正史著」です。長編の推理小説を
往きと帰りの船内で半分ずつ読めました。~黒豹は雑誌掲載時は短編だった
ものを、のちに書き改めて長編作品として刊行されたようです。

金田一ものとしては、この作品も大衆向け寄りな作風で、犯人はトリックを
使い犯行を企て、自身への追及を免れようとし、物語は犯人探しに重きを
おかれている一方で、センセーショナルな犯行現場、街娼が次々手にかかる
エログロ趣味的な殺害手法などに目を奪われがちです。

それでも金田一耕助はコツコツと推理を組み立て、犯人の正体に迫るものの
物的証拠に乏しく、最後はおとり捜査の力技で犯人が尻尾を出すのを待ち
構えます。確かに、横溝さんの他の傑作群と比べれば物足りなさは覚えますが、
なんだかんだで体裁を整え、最後まで読み切らせるのはさすがです。

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先の旅で読んだ本

2024-09-30 17:07:07 | 図書館はどこですか




先の北海道への旅の道中読み終えたのが、「悪魔の寵児/横溝正史著」です。
行き帰りの船内で半分ずつ読みました。帰宅後外していたカバーを取り付けた際、
「こんな登場人物いたっけかな?」と思ったのが、外国人風(南方系、あるいは
アフリカ系?)に見える男です。これが人形師・猿丸だと気づくまでだいぶかかり
ましたよ。絵を担当した杉本一文さんの目には、猿丸の姿は、こんな筋骨隆々の
外国人っぽい容貌に映ったのでしょうか。

~寵児は当時、名作「悪魔の手毬唄」と並行して雑誌連載されていたことに
まず驚きます。~手毬唄は、戦後すぐに発表され好評を博した一連の本格推理
もの(本陣殺人事件、獄門島などなど)のテイストを久々復活させた傑作で、
対して~寵児は、その頃横溝さんが多数発表していた大衆向けの怪奇ロマン色
の強い作品です。両作品の振り幅があまりに多きすぎて、それらが同時期の作品
とは、なかなか理解が追いつきません。格調高い文章にトリックを散りばめた
完成度の高い~手毬唄に対し、~寵児は一応推理小説の範疇を保ち、死体喪失
など異彩を放つ展開を見せつつも、エログロ専行気味なのは否めません。
それでも食傷させず読ませるのは、横溝さんのお手並みの鮮やかさでしょう。

金田一耕助は早くから登場するもあまり目立った活躍はできず、関係者が
容赦なく次々血祭りに。犯人以外ほとんど誰もいなくなる展開は、さすがに
どうかと思いますよ、金田一さん。

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黄土館の殺人

2024-08-24 18:59:00 | 図書館はどこですか



今回図書館でお借りしたのが、「黄土館(こうどかん)の殺人/阿津川 辰海
(あつかわ たつみ)著」です。朝日新聞紙上で紹介されていたのを、早い
タイミングで予約できたためか、早期に手にすることができました。

地震により閉じこめられた空間(芸術一家の大きな館)で起こる連続殺人事件。
大仕掛けで繰り広げられる殺人手法など、スケール感たっぷりな大長編作品で、
とても面白く拝読しました。しかし、細々とした点がいくつか気になりました。

まず、内(館内)と外(館近郊の温泉旅館)で同時進行で物語が展開するさまが、
綾辻行人さんのとある作品を連想させます。この作品が阿津川さんの「館四重奏」
の三作目にあたるらしくて、「館」をテーマにしているところなど、明らかに
綾辻作品を意識しているのはいいとして、既視感を覚える展開にはやや興醒め
しました。ところで、物語の舞台となる大邸宅は荒土館(こうどかん)のはずが、
なぜタイトルのみ黄土館なのでしょうか? 過去作品が「紅蓮館=炎」「蒼海館
=水」と色付けされていたので、「黄土館=土」でそろえたのでしょうけど、文中
特に説明がなされておらず(私が読み飛ばしていなければ)、唐突なんですよね。
館名は、最初から黄土館で良かったのではないでしょうか?

さらに、館の大掛かりな仕掛けはスペクタクルであるものの、あんな大きなものが
動くとなると、振動とか音とか半端なくて、誰もがすぐにからくりに気がつくと
思うのです。犯人や一部の人しかその秘密を知らないというのは、ちょっと無理が
ないでしょうか?

しかも、細々したトリックまでは解読できなくとも、犯人らしき人物は、かなり
早い段階でうすうすわかってしまいました。かなりフェアに経緯などを説明して
くれている裏返しともいえるけど、さすがにこれではいくらなんでもミスリードに
引っかかりません。

シリーズ第三作で、この作品は第一作の「続編」的な位置づけでもあり、遡って
それを読んでみたいと考えている身には、ネタバレがないかヒヤヒヤしましたよ。
さすがに「犯人」の名前をズバッと記載される場面はなかったけど、修羅場を
乗り越え、誰が生き残ったのかはわかっちゃいますよね。でもそれは、シリーズ
ものを逆算して楽しもうとすると、避けては通れない宿命なのです。

大掛かりなエンターテイメントとしては面白く楽しめたし、力作であることは
確かで、細かなマイナス点(上記の理由のほか、登場人物の性格付け不足とか、
霧がいつまでも晴れない等の都合のいいやや強引な設定など)が足を引っ張った
のが惜しいです。でもやはりそこは乗り掛かった舟、シリーズ第一作を読んでみる
しかなさそうです。そちらが、いい意味で期待を裏切る完成度の高い作品だったら
と思います。

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