ゲーテの国、しかもその生まれ故郷フランクフルトに行くとあって、旅に先立ち『ファウスト』も読み返した。昔読んだ記憶があるが、読み返してみて以前は第一部しか読んでなかったように思う。そして今回読んで、面白いのは第一部で、第二部(一~五幕)は要らないのではないか、などと思った。ゲーテには申し訳ないが、第二部は面白くなかった。そもそも岩波文庫上下二巻、延べ890ページ(訳註込み)は長い。何とか第一部で纏め得なかったのか、など思うが、詩人にとって結末を得るには、あの長い第二部542ページが必要であったのだろう。何せ60年を要したのであるから…。
ゲーテに一番お世話になった本は『イタリア紀行』だ。これは、三回のイタリア旅行の度にその行き先都市の部分を読んで、「旅のとり組み方」「物の見方」という点で大変参考になった。現地に行ってゲーテの描写の場所に立つたびに、その鋭い観察眼に頭が下がるばかりであった。
その『イタリア紀行』岩波文庫版上巻の口絵写真に、ゲーテが丘陵に横たわっている姿を描いた絵が使われている。ティッシュバイン作の『カンパニアのゲーテ』という絵だ。今回フランクフルトの「シュテーデル美術館」を回っていると、その絵の原画が見つかった。さすが故郷の美術館だけあって、ゲーテについては全て集めてあるのであろう。シュテーデル美術館には、フェルメールの「地理学者」が主目的で行ったのだが、豊富な蒐集品の中には、思わぬ喜びがたくさんあった。
ところが、ゲーテハウスの出口売店で絵葉書などを物色していると、棚にその絵の顔の部分だけを使用したラベルのワインがある。まさに「ゲーテワイン」だ。8ユーロとあるから、弱い円で換算しても1300円前後…どうせ美味しくないだろうと思ったが、ラベルが欲しくなって買い求め、ドイツの友人と飲んだ。
これがなかなか美味しいワインであった。当初は、価格の半分は『カンパニアのゲーテ』を使ったラベル代で、中味は6~7百円のものだろうなどと思って買ったのであるが、よく見ると、当然ながら地元ワインの「ラインガウRHEINGAU」で、2002年ものリースリングカビネットHALBTROCKENであった。日本で飲むワインよりはるかに美味しく、さすがワインの国だと敬服した。
最後はお決まりの酒の話になって恐縮だが、これでゲーテはひとまず終わり。