当初まったく行く計画のなかったミュンヘンに、旅行期間が「オクトーバーフェスト(ビール祭り)」の開催期間と重なったことから行くことになった。フランクフルトを基点にする旅であったが、ライン、パリ、ロンドンと専ら西方に目が向いていた私に、
「滞在中にビール祭りがあるのに、酒仙として行かなくて良いのか?」
という友人のサゼッションがなければ、祭りはもちろん、ミュンヘンというこの素晴らしい街に行く機会を逸していたのだ。今度の私たちの旅を真剣に企画援助してくれた「ドイツの友」の友情に感謝する。
ミュンヘンはドイツの最南部バイエルン州の州都である。南にはアルプスをひかえ、オーストリアのザルツブルグには列車で30分の距離と聞く。
そう。ザルツ(塩)ブルグ(城)が塩に関係あるように、ミュンヘンも塩で栄えた。この南ドイツの塩山で掘り出される塩は、寒い北ヨーロッパの食料保存に欠くことが出来ず、これを北ヨーロッパ各地に送り出す重要な基点となったのがミュンヘンであった。
1180年、神聖ローマ帝国皇帝よりバイエルン大公に任命されたヴィッテルスバッハ家は、爾来800年、塩の交易を中心に発展するミュンヘンの通行料や税の徴収により栄え、ついにバイエルン王国を打ち立てるまでとなる。
その衰退が、歴史に名高い「ルートヴィヒ二世」(あのノイシュバンシュタイン城の建設者)と、その従姉妹「エリザベート」(オーストリアのハプスブルク家に嫁いだ皇妃)の悲劇に始まるのであるが、それはさておき、私たちの訪ねたミュンヘンは明るく、燃え上がり、活力に満ちていた。三日間、ドイツでは珍しいと言われる快晴が続いたこと、そして何よりも、到着したのがオクトーバーフェスト開幕の前夜であったことによるのであろうが。(つづく)