伊藤千尋氏の『反米大陸』(集英社新書)という本がある。反米大陸とは中南米のことである。長年にわたりアメリカの支配下に甘んじてきた中南米諸国が次々と反旗をひるがえしてきた実情に触れ、その原因を解き明かしている。
1998年ベネズエラにチャベス反米政権が生まれて以来、次々と左翼あるいは中道左派勢力が政権を取り、現時点では南米12カ国のうち9カ国が左派政権の国となった。アメリカが支配の道具としてきた米州機構(OAS)にも、米国の影響力の及ばないチリの前内相がつくという異例の事態が起こり、しかも南米諸国は「南米南部共同市場(メルコスール)」を立ち上げて独自、自立の貿易機構を作って、いっそうアメリカから離れようとしているという。
どうしてそのようなことになったのか?
同書はそれを、80年代から90年代にかけて、アメリカが南米諸国に新自由主義を押し付けた結果、その矛盾の帰結するところと明確に指摘している。つまりアメリカは、「規制を緩和し自由な競争による繁栄が、富を貧しい層にももたらしていく」(どこかで聞いたようなセリフ!)と説いたが、それを受け入れた南米諸国の得たものは、格差拡大、中間層の没落、貧困層のいっそうの貧困化、などであった(これまたどこかで見たような現象!)という。
わが国が「小泉、竹中路線」による新自由主義経済でこうむった格差拡大、貧困層の増大などは、すでに南米で試され済みであったのだ。そして賢明にも南米諸国はそれに気づき、その新自由主義と袂を分かとうとしている。
同書は、日本が米国に従うだけなら、米国の餌食になることを南米の歴史は示している、と説いている。
われわれも、そろそろ眼を覚まさなければならないのではないか。