旅のプラズマ

これまで歩いてきた各地の、思い出深き街、懐かしき人々、心に残る言葉を書き綴る。その地の酒と食と人情に触れながら…。

歌いつがれた日本の心・美しい言葉③ ・・・ 『どじょっこふなっこ』 

2012-03-14 18:16:05 | 文化(音楽、絵画、映画)

 

 (昨年、表題のテーマで『早春賦』と『春よ来い』の2曲を書いたところでブログを中断した。ブログ再開を契機に、一年を経てこのテーマを続けることとしたい)

   はるになれば しがこもとけて
   どじょっこだのふなっこだの
   よるがあけたとおもうべな

 東北に古く伝わるわらべ歌で、言葉の後に「こ」をつけるのは秋田の言いまわしである。ブログ「なまはげの独り言」によれば、「昭和11(1936)年、東京の玉川学園芸能隊が東北公演旅行で秋田を訪れた際の歓迎会で、秋田市の金足西小学校の教員中道松之助が披露したのが始まりです。これを聞いた玉川学園講師の岡本敏明が詩を書き取り、編曲し合唱曲に仕立て、唱歌として広く親しまれるようになったのです」とあるので、立派な歴史を持っている。
 私はこの曲を戦後の「うたごえ運動」の中で知った。全国のうたごえ運動を指導した中央合唱団が昭和23(1948)年に発行した『青年歌集』(その後昭和28年改訂発行、以降10集発行)の第一集に収録され、この歌は全国で合唱曲として歌われた。それだけでも半世紀以上を経て、この歌も立派な古典となった。
 この歌は、このあと夏、秋、冬と続くので四季をうたった歌であるが、私には春の歌に思える。それは、一番の「夜が明けた」という言葉が印象強く残ったからだ。氷(しがこも)は戦前を覆った軍国主義の帳(とばり)で、それが解けて自由を手にした民衆には正に「夜が明けた思い」であったのだ。日本の夜明け、日本の春を、皆んな誰でも歌える合唱で歌ったのであった。特に九州生まれの私には、東北の言葉、中でも下に「こ」のつく響きが何とも美しく響いた。二番、三番に出てくるわらしこ(童)、ふねっこ(舟)、このはこ(木の葉)などの言葉が、戦災で荒れ果てた日本に美しい山河が残っているだけでなく、美しい日本の心・日本の言葉が残っていることを示してくれた。

 うたごえ運動は、関艦子、関忠亮、井上頼豊等の錚錚たる音楽家に指導され、日本のうたごえ祭典には芥川也寸志や五十嵐喜芳などもも登場した。その中から作曲家いずみたくや歌手の上条恒彦なども育った。当時の日本は、まさに「しがこもとけて」「よるがあけた」時期であった。
 その中で生まれた音楽喫茶「灯」は、いまも「ともしび」と名を変え新宿靖国通りの一角で盛況を博している。

    

   


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