カボスの季節が到来した。秋刀魚をはじめとした焼き魚、そろそろ涼しくなって囲むなべ物など、季節の香りをふんだんにふりまく。刺身など生魚には欠かせない。
私はこれを、季節のあいさつ代わりに旧来の友に送る。そしてみんなうれしい返事を書いてくれる。メールや手紙が毎日着く。「今夜は焼き秋刀魚だ!」、「周囲の友人を呼んで恒例の鍋だ!」などうれしい文面が続く。私はこの「故郷の産物」で古い友情を温めている。
このカボスを発送してくれるのは高校時代の同級生のOさん。臼杵で青果業を営みカボスの販売を主業とする。
実は彼女のご主人が亡くなったのだ。彼女は悲しみに沈んで、一時は仕事を止めようかと思ったと人づてに聞いた。私は、安易な言葉で慰めても彼女の深い悲しみをいやすことなどできないと心を痛めた。
今年はカボスの発送を頼めるだろうか、と心配していたが、無事カボスは私の友の手元に届いた。そしてOさんからの発送通知の中に「…ただ今、カボスの地方発送を一人で頑張っています」という手紙が添えられていた。
私はすぐに返事を書いた。
「…貴女の悲しみは計り知れないが、貴女の送るカボスで、たくさんの人が秋の香りを嗅ぎ、豊かな食生活を楽しんでいます。私は貴女の手を煩わして、多くの友と旧交を温めています。どうかご主人の分も生きてこの仕事を続けてください」
と。一つ一つの仕事が、いろんなかかわりで人々に幸せを送っているのだ。彼女が悲しみを乗り越えて、この「幸せの配達」を続けてくれることを祈って止まない。