今日は再び冬のような寒さがぶり返し雨のしのつく悪天候となったが、岩本町のトナカイまでオペラ「秘密の結婚」を観に行った。娘のミャゴラトーリが7月公演に準備中の演目で、その演出・主演を担当する大澤恒夫氏(バス)が、時を同じくしてトナカイから公演の演出を頼まれたという。娘も7月公演のこともあり、大澤氏の演出助手として関わってきたので、応援も加えてワイフと観に行った次第。
私はこのオペラの名前を初めて聞いた。娘に聞いても、あまり演じられないいわばマイナーなオペラだという。ところがドッコイ! これは大変美しい曲に全編彩られた素晴らしいオペラであった。作曲者のチマローザ(この名前も今回初めて知った)は別名“ナポリのモーツアルト”といわれるそうで、その呼び名のとおり、モーツアルトに決して負けないような美しい曲が全編を貫いた。
しかもほとんどが重唱曲でつながれている。普通のオペラはアリアでつながれながら重唱が入ってくるが、このオペラは二重唱、三重唱、四重唱でつなぎながら、ところどころにアリアや語りが入ってくるという感じであった。しかもそのいずれの重唱も、清流をアユが潜り抜けるようなさわやかな透明感にあふれていた。1792年2月の初演(ウィーン、ブルク劇場)というから18世紀末のオペラであるが、もしかして、これが本来のオペラというものではないか…と思ったりした。内容はかなりのドタバタ喜劇であるが、美しい曲に流されて気が付いてみれば終わっていた…という感じだった。
反面、歴史に残るような名アリアがないところに、マイナーなオペラの地位に甘んじている原因があるのではないか、というのがワイフの見解であった。確かに、「誰も寝てはならぬ」(トゥーランドット)、「星はきらめき」(トスカ)、「人知れぬ涙」(愛の妙薬)、「プロヴァンスの海と陸」や「パリを離れて」(椿姫)など、アリアの名前で演目が記憶されているのがオペラの世界かもしれない。しかし、重唱の美しさがこれほど音楽に力を与えるものかということも改めて思い知った。
それを示してくれたのはほかならぬ出演歌手たちであった。ソプラノ西本真子、沼生沙織、メゾソプラノ磯地美樹、テノール中嶋克彦、バリトン井上雅人、バスバリトン大澤恒夫の各氏は、いずれ劣らぬ実力の持ち主で、その力に改めて敬意を表したい。
出演歌手の面々 ブラボー!
最近見た中では数段違うものだった。わらび劇場初演記念ということで、中尊寺貫主の記念講演の後の公演であったが、思いが伝わるものであった。わらび座も捨てたもんじゃない。