一昨年話題になったのが本書、宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』である。いまの3回生の人達が、2回生の終わりに読みたいと言っていたので買っていた。宮口さんには、以前の大学でコグトレの研修でお世話になったことがある。精神科医の中には文学畑の人が多いと思っていたが、このひとは違う。もともと、工学部出身で、その後、医学部にいって、精神科医となった。公立の精神病院から医療少年院の医官へ、それから大学に移ったということだった。もともとの出自が工学部ということもあるのか、わかりやすい文章を書く人だ、ねじれがない。精神科の医者のなかには、おもいっきり文学的な人もおったりするので、そのような人たちとは対照的だ。
要するに、軽度知的障害の逸脱行動、非行・犯罪を中心にその矯正プログラムから出発して、逸脱行動にいたる前に、コグニション(認知の前提)のところから訓練するという提案である。曰く
認知行動療法は「認知機能という能力に問題がないこと」を前提に考えられた手法です。認知機能に問題がある場合、効果ははっきりとは証明されていないのです。では認知機能に問題があるというのはどんな子どもたちか。それが発達障害や知的障害を持った子供たちなのです。つまり発達障害や知的障害を持った子どもたちには、認知行動療法がベースとなったプログラムは効果が期待できない可能性があるのです。でも実際に現場で困っているのは、そういった子どもたちなのです。(p.6)
要するに、軽度知的障害と境界知能の人達に焦点をあてて、教科学習とは異なった別の学習・訓練法の開発こそが課題なのである。端的に、いまの世の中は、IQ100ないと生活していくうえで困難が付きまとうとはっきり言ったりもする。また、「ほめる」ことが強調されていることに対してもはっきりと批判もしている。わかりやすいですね。1年間で、23刷となったのは、カズレーザー絶賛したこともあるかもしれないが、さらりとした語り口、でも問題をはっきりいうことでの読みやすさもあろう。深みや癖のようなものはないけど、学生さんや現場の先生にはちょうどいいかもしれない。
はじめに/第一章 「反省以前」の子どもたち/第二章 「僕はやさしい人間です」と答える殺人少年/第三章 非行少年に共通する特徴/第四章 気づかれない子どもたち/第五章 忘れられた人々/第六章 褒める教育だけでは問題は解決しない/第七章 ではどうすれば? 1日5分で日本を変える/おわりに
なお、宮口のきょうだいは、OTらしく、その教材は多く出されている。公文のプリントによく似ているかもしれないが、その使用の方法は、公文が勝手に一人でやっていくのに対して、人との関係を重視したプログラムになっている点が大きく違っているようだ。これらのプログラムと教材の研究をしてみないといけないが・・・、学生さんだれかやってみないか。ぼくらに商売は、このようなプログラムに付き合うこともその一つなのだが、もうそんな力は残っていない。
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