●クローズアップ2012:消費税国会開会 公務員給与カット・議員定数削減、「身を切る改革」が試金石
毎日新聞 2012年1月25日
24日に開会した通常国会は、野田佳彦首相が施政方針演説で呼びかけた消費増税の与野党協議が始まる見通しが立たず、当面は首相が消費増税の前提として「不退転の覚悟」を示した国会議員定数削減などの「身を切る改革」で与野党合意が得られるかが試金石となる。
衆院解散・総選挙をにらむ与野党は国民の批判を浴びまいと互いに積極姿勢を示すが、消費増税をめぐる思惑も絡み、国会冒頭から先行き不透明な神経戦に突入した。
◇譲歩で協議の糸口探る
「まずは定数削減が大きなテーマになる」
24日、国会内であった民主党代議士会で樽床伸二幹事長代行が強調すると、城島光力国対委員長も「社会保障と税の一体改革のためにも、国家公務員給与、国会議員定数の問題、まさしく全力で何が何でも(法案を)成立させる」と続けた。
首相は24日の施政方針演説で国会議員定数削減などの政治・行政改革に取り組む「不退転の覚悟」を訴えた。首相は消費増税の実現へ向け衆院解散・総選挙も辞さない決意を示しているが、環境整備のために「身を切る改革」での目に見える実績は不可欠。消費税の与野党協議はかたくなに拒否している自公両党も、国会議員定数と国家公務員給与の削減に関しては協議に応じる構えをみせる。
しかし、民主党がまとめた衆院の比例定数を80削減する案には公明党が強く反発しており、民主党は大幅譲歩をちらつかせる。
22日に前原誠司政調会長と城島国対委員長が削減幅の圧縮に言及。民主党は「1票の格差」是正で自民党案を丸のみしており、国家公務員給与の削減でも自公両党の主張する人事院勧告の実施受け入れを視野に譲歩を探る。
政府・与党側には、身を切る改革を糸口に野党を政策協議に誘い込み、消費増税協議につなげる思惑がある。
消費増税協議を先送りして早期の衆院解散・総選挙に追い込みたい自公側は警戒を強めており、公明党の山口那津男代表は24日、「国会議員一人一人が身を切る効果を受けるという意味で歳費の削減が重要」と議員歳費の削減を求めて政府・与党側をけん制した。
民主党の輿石東幹事長ら執行部は、選挙基盤の弱い若手議員への配慮などから歳費削減の議論を避ける方針。
首相も施政方針演説で歳費削減には触れず、身を切る改革は与野党の駆け引きばかりが先行して実現の見通しは立っていない。
自民党は国会冒頭の処理が予定される11年度第4次補正予算案の内容にもクレームを付け始めた。谷垣禎一総裁は24日、記者団に「今までの(震災復興のための)補正と今度の補正は性格が違う」と簡単には賛成しない考えを表明。身を切る改革でも協議を長引かせれば、それだけ12年度予算案の審議入りが遅れ予算の年度内成立も危うくなる。野党側は国会冒頭から政権への揺さぶりを強めている。【木下訓明、吉永康朗】
◇自公、増税「共犯」を警戒 主張似てても論議に背
民主、自民、公明各党の税と社会保障政策の比較
一体改革素案の社会保障分野は自民、公明両党の主張と重なる部分が多い。それでも両党が与野党協議に難色を示すのは、早期の衆院解散を念頭に消費増税の「共犯」に仕立てられることを警戒しているからだ。民主党が出しづらいのを承知のうえで同党に新年金制度の具体案を示すよう求め、増税論議に背を向けようとしている。
3党の政策を比べると、介護は「保険料軽減」で足並みがそろう。医療面では、自公は政府の「75歳以上の後期高齢者医療制度廃止」方針に反対してはいるものの、3党が思い描く高齢者医療の将来像は似通っている。
政府案は75歳以上の人を原則として市町村の国民健康保険(国保)に加入させ、将来は国保を都道府県単位に集約するという内容だ。ただし、国保の中でも75歳以上の医療財政は別枠で、現行制度と大きくは変わらない。公明党は国保を都道府県単位化して財政基盤を強化する考えでは政府と一致している。高齢者医療を安定させ、支え手の現役世代の保険料軽減を図るという方向性は、自民党も含めて共通している。
一方、年金も改善策では細部こそ微妙に異なるが、「低所得者の基礎年金に加算」という基本は3党とも同じ。小宮山洋子厚生労働相は24日の記者会見で「(社会保障改革は)前の政権からずっと懸案だった」と指摘し、野党に歩み寄りを求めた。
しかし、ここへ来て自公両党は民主党が09年衆院選マニフェストに掲げた新年金制度の具体化を与野党協議の条件に挙げ始めた。全額税で賄う最低保障年金の創設が柱とあって「消費税率10%」では足らず、さらに数%の増税が必要。野党側は「民主党内をまとめて具体案を示すのは困難」と見透かしている。
3党間の数少ない相違点が政権交代につながった民主党の金看板である新年金制度で、自公側には感情的なわだかまりもある。両党は批判を新年金制度に集中させており、民主党税調幹部は「一見、もっともらしいが、政局的な動きだ」とため息をつく。【鈴木直】
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