「マネキン人形の空しい不動の上を、
そのまなざしの偽りの明るさの上を、
ぼくはスリップした。
今ぼくは炎の上を滑っている。
火傷することなしにぼくは炎を横切る。」
・・・ベルナール・フォコンの文章だ。
何も語っていない表情のマネキンは、亡霊のような存在に見えて恐い。その大きめの眼は、何ものにも焦点の合っていない。金髪で身長170cmの立居の全裸マネキンが、至近距離でこちらを見続けている。・・・というのは、ただでさえ女に慣れていないぼくらを、一層、居心地悪くした。
友人はマネキンが全裸であることが、その居心地の悪さの原因と考えたようだ。そして、何とか若い女性の服を手に入れようと・・・。不幸は、服を譲ってくれそうな異性の友だちが周りにいなかったことだ。実家に妹や姉がいる友人たちに、頼みまくった。だが、「何を考えているんだ」と諭されて終わり。姉妹からその衣服を入手するというのは、彼女を作ってその彼女の着ていた服をもらうという以上に困難を伴う道のりらしい。彼は友人からの入手を諦めて、通販で”匂いつき”なる下着を購入した。ブルセラショップなどまだなかった時代の話だ。・・・芸術を志すと、なにぶん苦労が絶えない。
その後、彼の部屋に遊びに行って、「美子」の胸におさわりでもしたならひどく怒られた。そう、彼はマネキンに「美子」と名付けていた。あの宮崎美子のブルーのジーンズとグレーのサマーニットを着せて・・・。
が、彼と「美子」の蜜月にも終わりが訪れる。彼に本物の女友達ができた。
その女友だちと付き合いだして、マネキンの「美子」は、また全裸でゴミ捨て場に捨てられたのだった。
***そして、半年が経ったある夜のことだった。
やつれた表情で、友人がぼくの部屋を訪ねて来た。
部屋に上がるや、彼は
「彼女にフラれた」
そう言って、肩を落とした。
なんでも、彼が写す彼女をモデルとした写真には、ジーンズとサマーニット姿の女らしき人影がたびたび写ってたらしい。
そして決定的なのは、いろんな光の中で撮った”美子”のネガを、彼女に見られてしまったこと。
・・・芸術は、理解されないものなのだ。
ひと時の情愛をかけると、モノにも魂がこもるんだろうか・・・。
そして、縁をとりもどそうと、「美子」は健気にも思ったのだろうか。
2度もゴミ捨て場に捨てられた「美子」がかわいそうでならなかった。。
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