いささかマニアックな話であるが、
会社経理応急措置法という法律がある(法令データ提供システムができる以前は、条文探しに苦労したものだが、現在は容易である。登記研究の創刊号に解説があるので、興味のある方はそちらもご覧いただきたい。)。
会社経理応急措置法は、戦時補償(戦時中に生じた政府の民間に対する債務の補償)の打ち切りが実施されることになった1946年(昭和21年)8月に公布された法律である。これは、戦時補償打ち切りによって著しい影響を受けることが予想される会社を特別経理会社に指定し、今後の事業活動に必要な資産のみを新勘定に移し、その他の資産を旧勘定として分離することとしたものである。これら特別経理会社は、同年10月に公布された企業再建整備法に基づいて、再建整備計画を立案し、大蔵大臣の認可を受けることとされた。
cf.
富士フィルム「戦後の再建整備」
このような法律がいまだに生きながらえているとは不思議である(いまだに指定が解除されていない会社があるということであろうか。)。戦時補償(政府の軍事産業に対する未払金、陸・海軍人に対する復員手当て、銀行の戦争保険に対する支払い等)の赤字分を、一般国民の銀行預金を一定率で封鎖して、そこから穴埋めさせるために作られた6つ法律の中の「金融機関経理応急措置法」と「会社経理応急措置法」の二つの法律が存続していることによって、「首相の一存の強行突破でも、預金封鎖一部没収は可能」と見る向きもある。
http://blog.goo.ne.jp/chuck_niino/c/ebfea3ea24c577b3efdd11410f81e009
さて、会社経理応急措置法に基づく特別経理会社においては、特別管理人が選任され(第17条第1項)、登記される(同条第3項)。
第17条 特別経理会社は、命令で定める場合を除くの外、取締役その他当該会社の業務を執行する役員のうちから二人、及び当該会社の旧債権を有する者(法人である場合においては、その代表者)のうちから二人の特別管理人を選任しなければならない。
2 前項の特別管理人の選任につき、時期、方法その他必要な事項は、命令の定めるところによる。
3 第一項の規定による最初の特別管理人の全員が選任されたときには、特別経理会社は、本店の所在地においては二週間以内に、支店の所在地においては三週間以内に、特別管理人の住所及び氏名並びに当該会社との関係を登記しなければならない。
4 商法第67条 の規定は、前項の登記にこれを準用する。
5 特別経理会社は、特別管理人の選任があつたときから二週間以内に、前二項の登記をしなければならない事項を、主務大臣に届け出なければならない。
そして、この法律は、会社法制定に伴う整備法により、次のとおり一部改正される。
(会社経理応急措置法の一部改正)
第275条 会社経理応急措置法(昭和21年法律第7号)の一部を次のように改正する。
第17条第4項を次のように改める。
前項の規定により登記した事項に変更を生じたときは、本店の所在地においては二週間以内に、支店の所在地においては三週間以内に、変更の登記をしなければならない。
第23条第2項後段を次のように改める。
会社法(平成17年法律第○○○号)第585条第1項又は第2項の規定によつて持分の譲渡に
ついて承諾をしようとするときも、同様とする。
すなわち、第17条第3項が改正の対象となっていないので、特別管理人の住所、氏名は支店登記の登記事項から外れないことになりそうである。
なぜでしょう。