過払金が生じた後に他の債務が発生した場合の相殺の可否につき、さいたま地裁において、別個独立の旧契約に係る過払金債権であっても、相殺に適した状況が発生する限り、その後の新契約の借入債務と即時対当額で相殺するとの包括的・暗黙の合意があったものと認め、被告の旧契約に係る過払金債権についての消滅時効の抗弁を理由がないとした判決が出ている。
この論点については、下級審レベルで可否の判断が分かれており、実務上極めて重要な判決であるといえよう。
「第一取引と第二取引とが別個独立の契約と評価されるとしても,借り換えや借り増し等の一連の取引をする当事者は,その一連の取引の中に複数の債権債務を発生させるような複雑な権利関係を望んでおらず,むしろ債務をできる限り少なくすることを望んでいることは何人も容易に推測できることである。また,民法508条によれば,時効により消滅した債権であっても,時効消滅前に相殺適状の状態にあれば,債権者は相殺をすることができると定められている。
これらの規定の趣旨や,本件における原告と被告のように借り換えや借り増し等の一連の取引をする当事者の合理的意思を忖度すると,原告と被告との間では,別個独立の旧契約に係る過払金債権であっても,相殺に適した状態が発生する限り,その後の新契約の借入債務と即時対当額で相殺するとの包括的・暗黙の合意があったと認定するのが相当である。」
cf.
H17.12.26 さいたま地方裁判所 平成17年(ワ)第201号 不当利得返還請求事件