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Q 募集新株予約権の発行による変更の登記における「新株予約権の行使の条件」について,「その他の行使条件については当社と新株予約権の付与対象者との間で締結する新株予約権割当契約に定めるところによる」旨の定めの登記をすることができるか。
「新株予約権の行使の条件」は,「新株予約権の内容」について定める会社法第236条第1項各号においては,列挙されていないが,同項各号は例示に過ぎず,「新株予約権の行使の条件」を定めたときは,当該「行使の条件」は,「新株予約権の内容」にほかならない,と解されている。
そのため,新株予約権につき,「行使の条件」を定めるときは,株主総会の決議においてこれを定めることを要し,その決定を取締役会に委任することはできない,と解されている。
cf. 相澤哲編著「Q&A会社法の実務論点20講」(金融財政事情研究会)2009年12月刊 ※ 25頁
http://store.kinzai.jp/book/11545.html
拙編著・尾方宏行著「商業登記全書第4巻『新株予約権,計算』」(中央経済社)2008年10月刊 ※ 39頁,50頁
https://shop2.genesis-ec.com/search/item.asp?shopcd=17262&item=978-4-502-96140-3
相澤哲編著「論点解説 新・会社法 千問の道標」(商事法務)226頁
松井信憲著「商業登記ハンドブック〔第2版〕」(商事法務)317頁
以上に鑑みると,「新株予約権の行使の条件」について,「その他の行使条件については当社と新株予約権の付与対象者との間で締結する新株予約権割当契約に定めるところによる」旨の定めは,認められないことになる。
とはいえ,株主総会の決議において定める「新株予約権の行使の条件」以外に,新株予約権割当契約において,債権契約としての「行使の条件」を定めることが否定されるわけではない。
株主総会の決議において定める「新株予約権の行使の条件」について,「その他の行使条件については当社と新株予約権の付与対象者との間で締結する新株予約権割当契約に定めるところによる」旨を定めなければよいだけである。
株主総会の議案中に記載され,株主総会議事録に記載されていたとしても・・・余事記載(無益的記載)として,登記はしない扱いとせざるを得ないであろう。
【追記】
本論点については,民事月報平成21年8月号掲載の「商業・法人登記実務の諸問題(1)」において取り上げられている。筆者は,吉野太人民事局付と産田実代商事課商業法人登記第一係員。登記研究平成21年9月号にも同内容の解説あり。