司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

会社法及び商業登記に関する話題を中心に,消費者問題,司法書士,京都に関する話題等々を取り上げています。

遺贈の登記の単独申請と所有権登記名義人表示変更登記の要否

2023-06-24 14:19:54 | 不動産登記法その他
 本年4月1日から遺贈の登記の単独申請(受遺者が相続人である場合に限る。)が認められている(不動産登記法第63条第3項)ところであるが,この場合の前提としての所有権登記名義人表示変更登記の要否については,通達(「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(民法改正関係)」(令和5年3月28日付け法務省民二第538号通達))においても明らかにされていない。

「現時点で明らかとされていない課題として、特定財産承継遺言による相続登記申請と同様に、ア 被相続人の住所氏名に変更がある場合でも、住所氏名の変更登記を申請することなく、所有権移転登記申請をすることの可否」(後掲中谷論文)

cf. 中谷耕策「民法・不動産登記法等の一部を改正する法律の施行が司法書士の実務に与える影響」(月報司法書士2022年11月号37頁)
https://www.shiho-shoshi.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/202211_609_06.pdf

 ところが,法務省「登記手続ハンドブック」(遺贈による所有権移転登記/相続人に対する遺贈編)19頁には,次のとおりの解説があり,どうやら前提としての所有権登記名義人表示変更登記は不要という取扱いとされているようである。

「なお、遺贈者の最後の住所及び氏名が登記記録上の住所及び氏名と異なる場合や、遺贈者の本籍が登記記録上の住所と異なる場合には、遺贈者が登記記録上の所有者であることを証明するため、次のいずれかの書類を添付します。
① 住民票の写し(遺贈者の本籍及び登記記録上の住所と同じ住所が記載されているもの)
② 住民票の除票の写し(遺贈者の本籍及び登記記録上の住所と同じ住所が記載されているもの)
③ 戸籍の附票の写し(戸籍の表示及び登記記録上の住所と同じ住所が記載されているもの)」

cf. 相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ(登記手続ハンドブック)
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000001_00014.html

 相続人以外の者に対する遺贈の場合には,従来どおり,遺言者に関する所有権登記名義人表示変更登記は省略することはできず,相続人が受遺者である遺贈の場合には,遺言者に関する所有権登記名義人表示変更登記は省略することができるということであるようである。

 なぜ通達に記載されなかったのかが不可解であるが,御留意を。
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法制審議会家族法制部会第28回会議(令和5年6月20日開催)

2023-06-24 12:30:59 | 民法改正
法制審議会家族法制部会第28回会議(令和5年6月20日開催)
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00337.html

「裁判上の離婚の際の親権者の定めに関する規律等」「父母の離婚後等の親権者に関する規律」「未成年者を養子とする普通養子縁組に関する規律等」について議論がされたようである。
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役員選任の件で,会社提案と株主提案で定員超え?

2023-06-24 07:23:23 | 会社法(改正商法等)
日経記事(有料会員限定)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1580T0V10C23A6000000/

「東洋建設が6月27日に開く定時株主総会で、会社提案と株主提案合わせて20人の取締役候補の選任を諮る。取締役の上限は15人となっており、過半の賛成を得た候補でも選任されない可能性もでてきている。」(上掲記事)

cf. 同社「株主総会」
https://www.toyo-const.co.jp/ir/shareholder/meeting

 会社提案は「取締役11名選任の件」であり,株主提案は「取締役9名選任の件」である。

 定款で取締役の員数の上限規定を設けておかないと,例えば,株式の過半数を取得した株主が臨時株主総会を招集して,自らが立てた取締役候補者を大量に選任して送り込んで,株式会社の握るようなことができてしまうので,上限規定を設けるのは上場企業においては常識である(過去には,国際航業事件のようなケースがある。)。

 また,「取締役選任の件」(候補者は11名)と「取締役11名選任の件」の違いであるが,「○名」を入れておかないと,修正動議による議案の修正で,上限規定までの候補者の追加選任を提案されるおそれがあるので,「○名」を入れるのも常識の類である。

 本件においては,議案の修正ではなく,あくまで株主提案である。そして,会社提案の11名と株主提案の9名は,候補者が重なっておらず,定款の員数規定の範囲内で並立し得る。よって,全ての候補者についてその可否を図り,得票数の上位者から15名を選任する,というのが妥当であろう。

 同様の事案として,株式会社宮入バルブ製作所事件では,

「平成26年6月27日に開催された定時株主総会において,会社提案議案として「取締役5名選任の件」,株主提案議案として「取締役2名選任の件」が上程され,いずれの候補者も過半数の賛成を得たものの,定款では「当会社の取締役は,5名以内とする」と定められていたことから,得票上位の5名が選任され,結果として,会社提案の候補者5名が選任されたものである。」(後掲記事)

という取扱いがされた。といっても,このように単純に整理してよいかは明確ではなく,いわゆる「モリテックス事件」の隠れ論点でもあった。

cf. 平成26年7月7日付け「取締役の選任に関する議案の会社提案と株主提案の競合」

 どのような結末となるであろうか。
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