これから日本で起こること 雇用・賃金・消費はどうなるか?
中原圭介著 東洋経済新報社 1500円+税
アベノミクス、リフレ派、経済学者を思いっきり叩いた一冊。
マスコミ報道とは、真逆のアプローチには、なかなかの説得力があります。
著者の中原さんは、経営・金融コンサルティング会社「アセットベストパートナー株式会社」の経営アドバイザー、経済アナリストとして活動されています。
米国、特にウォール街の意向をくみ取りながら、経済政策を進めるアベノミクスに真っ向から異議を唱えています。
これまで、著者が主張し続けてきたのが、次の3点。
1. 実質賃金は下がる可能性が高い。
2. 格差が拡大する可能性が高い。
3. 輸出は思うようには増えない。
同書では、アベノミクスにより日本の社会は米国型の経済社会に移行していく・・・格差は拡大し、貧富の差も大きくなっていくということを述べています。さらに、第3の矢・成長戦略が不発に終われば、日本経済はどんどん悪い方向に向かうと予測します。
目次
第1章 アベノミクスの失敗は最初からわかっていた
第2章 アメリカ型資本主義が国民生活を疲弊させる理由
第3章 インフレ経済が日本の中間層と地方経済を苦しめる
第4章 なぜ円安でも日本経済は復活しないのか
第5章 これから何が起こるのか 2017年、日本の試練がやってくる
・円相場が120円の水準では、消費の低迷は終わらない
・いまの経済政策のままでは、日本経済の低迷は終わらない
・安倍首相はとても運のいい人だ 原油の急落がアベノミクスを延命させる
・円安はどこまで進むのか 日本経済の最大のリスクは黒田日銀の暴走だ
そういえば、昨年、消費税が8%になったとき、日本を代表するシンクタンクが経済予測をし、それらが揃って大ハズレになったことがありました。
かなりの驚きだったのですが、著者によると、円安になれば輸出が増えるというJカーブ理論がほとんど働かなかったこと、机上の経済学の過信からの予測だったことなどを理由としてあげています。なるほど・・・。
経済は生き物であり、企業経営の現場や市場という現実の中から日々変化していくもの・・・経済学のような静態的、理論的には経済は動かないということを主張します。
同書の中で、思わず膝を叩いたのが、次のフレーズ。
日本の失われた20年は企業が雇用を守った結果である。
労働分配率を下げる、成果主義人事制度の導入により賃金原資を増加させない、非正規雇用などで固定費の変動費化を行うなどなど、経営のセオリーと言われたものを鵜呑みにしていたことに対して、インパクトを与えてくれました。
そういえば、米国では経済成長は続いているものの一般庶民の生活は年々厳しくなっています。
経済学者の言うトリクルダウンも起こらず、富裕層との格差は大きく開いていきつつあります。
賃金上昇率を物価上昇率を上回っていく継続的な状況は、一般市民の生活を直撃しているのです。
持つものと持たざる者の差は人の生き方さえも変えつつあります。
大規模なリストラやレイオフもなく、極端な円高、原油高の時もサバイバルしてきた日本企業・・・。
日本型雇用の3種の神器と呼ばれる終身雇用、年功序列、企業内組合・・・崩れつつとはいえ、まだまだ日本企業のDNAとして残っています。
スペイン、ポルトガル、イタリア、韓国などの雇用の状況を考えると、この国の企業がいかに雇用を守ってきたかがよく分かります。
もちろん解雇を大きく制限する日本の労働法制もあるのですが・・・。
著者の言う「経済は、誰のためのものか?」という問い。
国家のため?企業のため?富裕層のため?庶民のため?子孫のため?高齢者のため?若者のため?・・・
トマ・ピケティさんの言う資本収益率が経済成長率を上回ることにより引き起こされる格差拡大論も含めて、今一度、問い直さなければならないと考えています。
このまま行くと、日本も米国型経済社会に移行することは、ほぼ間違いないと思います。
経済学者の言う事、マスコミの報道、政府の打ち出す経済政策などを、そのまま受け入れてはいけない・・・同書は主張しています。
近視眼から脱却するために、すべてのビジネスパースンに読んでいただきたい一冊です。