徹はいじめっ子の一人であった。
相手は、額に4㎝ほどの古い切り傷があった小柄で痩せている女の子であった。
裕福な子どもたちが比較的多く通っていた小学校であり、いかにもその少女は浮いていた。
運動靴ではなく裸足でゴム草履を履いていた。
名前は白川敬子(キョンジャ)
上目でやぶにらみの印象で、常にいじけて見えた。
その少女は、沼部駅に近い通称<朝鮮>に住んでいた。
徹は敬子と机を並べて座っていた。
「徹君、猫好き」と下校時に問われた。
小学校へ入学して2年間、女の子に声をかけられたのは初めてであった。
多くの女の子から、徹の粗暴さが嫌われていたのである。
「猫?」徹は怪訝な顔で聞く。
「猫、3匹生まれたよ。見においでよ」
敬子はこの時も上目でやぶにらみであった。
好奇心が強い徹はみんなが敬遠していた<朝鮮>に入って見たくなった。
「明日の日曜なら、行くよ」
「何時?」
「10時だね」
「待っているね」敬子は、貿易商の娘の白鳥由美子と仲良しで後を追いかけていく。
徹にとって、由美子への思いが初恋ならそれにあたるのだろう。
だが、由美子と親しくなりたくとも、徹は女の子たちの嫌われ者であったのだ。
心の優し由美子はいじめられている敬子を何時もかばっていた。
「徹君、これ読んでいい子になって」由美子に渡されたのはアンデルセンの童話であった。
徹の恋が芽生えたのはその時であった想われる。
赤い靴を履いていたポニーテールの赤いリボンの女の子であった。
3年生になる3月、由美子は父親の仕事の関係でフランスへ移住して行く。
敬子とともに徹も気落ちした。
形見のようにアンデルセンの童話は徹の部屋に残った。
徹の心にしこりに残ったのは、敬子の誘いを反故にしたことであった。
「徹、朝鮮なんかに、近寄るんじゃないよ」母親に止められたのだ。
徹は3年生になってから「いい子」になろうといじめっ子を止めた。
相手は、額に4㎝ほどの古い切り傷があった小柄で痩せている女の子であった。
裕福な子どもたちが比較的多く通っていた小学校であり、いかにもその少女は浮いていた。
運動靴ではなく裸足でゴム草履を履いていた。
名前は白川敬子(キョンジャ)
上目でやぶにらみの印象で、常にいじけて見えた。
その少女は、沼部駅に近い通称<朝鮮>に住んでいた。
徹は敬子と机を並べて座っていた。
「徹君、猫好き」と下校時に問われた。
小学校へ入学して2年間、女の子に声をかけられたのは初めてであった。
多くの女の子から、徹の粗暴さが嫌われていたのである。
「猫?」徹は怪訝な顔で聞く。
「猫、3匹生まれたよ。見においでよ」
敬子はこの時も上目でやぶにらみであった。
好奇心が強い徹はみんなが敬遠していた<朝鮮>に入って見たくなった。
「明日の日曜なら、行くよ」
「何時?」
「10時だね」
「待っているね」敬子は、貿易商の娘の白鳥由美子と仲良しで後を追いかけていく。
徹にとって、由美子への思いが初恋ならそれにあたるのだろう。
だが、由美子と親しくなりたくとも、徹は女の子たちの嫌われ者であったのだ。
心の優し由美子はいじめられている敬子を何時もかばっていた。
「徹君、これ読んでいい子になって」由美子に渡されたのはアンデルセンの童話であった。
徹の恋が芽生えたのはその時であった想われる。
赤い靴を履いていたポニーテールの赤いリボンの女の子であった。
3年生になる3月、由美子は父親の仕事の関係でフランスへ移住して行く。
敬子とともに徹も気落ちした。
形見のようにアンデルセンの童話は徹の部屋に残った。
徹の心にしこりに残ったのは、敬子の誘いを反故にしたことであった。
「徹、朝鮮なんかに、近寄るんじゃないよ」母親に止められたのだ。
徹は3年生になってから「いい子」になろうといじめっ子を止めた。