9/19(土) 6:01配信
現代ビジネス
どんなに反対しても来るものは来る
菅義偉が第99代内閣総理大臣に就任し、菅政権が誕生した。
政権の発足とともに、衆議院を解散し、総選挙が実施されるのではないかという声が高まってきた。
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発足直後の世論調査の内閣支持率は、安倍政権に批判的だった朝日新聞でも65%と高水準の結果が出た。政権発足当初の支持率は高くなる傾向がある。大臣も留任が多く、失言によって早々に失職する可能性も低い。来年には任期も訪れる。前回の総選挙は、2017年10月のことだった。
ところが、安倍晋三元首相が辞任する前から、早期の解散に反対を表明していたのが、連立のパートナーである公明党だった。7月22日には、山口那津男代表が日本記者クラブで会見し、「野党が弱いから今のうちに解散してしまえというのでは国民は歓迎しない。国民が納得する大義名分が必要だ」と述べた。
山口代表は、安倍元首相が辞任を表明した後にも、重ねて早期の解散、総選挙に反対した。新型コロナ・ウイルスの感染は終熄しておらず、政治に空白を作ることを国民は望んでいないというのだ。
従来なら、自民党の方も、こうした公明党の主張に、少しは耳を傾けたであろう。少なくともそのポーズは示したに違いない。しかし、今回はその気配はない。公明党がいくら反対しても、新政権に高い支持が集まれば、早期の解散に打って出ることだろう。
選挙の力が落ちてきている
それにしても、なぜ公明党は、これほど強固に早期解散、総選挙に反対するのだろうか。
公明党のもっとも強力な支持母体と言えば、日本で最大の新宗教教団、創価学会である。創価学会が、選挙活動に積極的であることはよく知られている。
国政に限らず、選挙が近づくと、創価学会の会員は、投票を依頼するために知人友人の元を訪れる。たしかに高校の同窓生だが、卒業後会ってもいなかったという創価学会員が不意にやってきて、投票依頼するということも各所で見られた。
こうしたことから、創価学会は宗教団体ではなく政治団体ではないかという批判の声も上がってきた。政教分離の原則に違反するのではないかという批判もある。
にもかかわらず、最近の公明党、創価学会は、できるだけ総選挙を遅らせようとしてきた。
他の選挙は、国でだろうと地方でだろうと、任期は決まっている。そうした選挙を遅らせることはできないが、衆議院には解散という選択肢がある。総選挙はなるべく遅くしてほしい。それが、公明党、創価学会の今の考え方なのである
「3密」ができない宗教活動なんて
総選挙を望まない1つの理由としては、コロナ・ウイルスの流行ということがある。
感染の拡大を防ぐためには、密な状態を避けなければならない。そのため、これは創価学会に限られないことだが、宗教団体はどこでも、多くの信者を集めて集会を開くことができなくなった。たとえ人数が少なくとも、会合さえ開けなくなった。
さらに、他の会員を訪れることも難しくなった。まして、勧誘のために会員でない人間の元を訪れることもできない。選挙だからといって、投票依頼に行くことなど到底不可能な状勢である。
創価学会の活動の中心には、地域の会員が定期的に集まって開く「座談会」というものがある。座談会では、布教活動の成果を発表するとともに、会員同士が励まし合う。その座談会を開くことがままならなくなったのだ。
それは、創価学会の活動が停止されたことを意味する。機関誌である聖教新聞を見ていると、オンラインの活用が日本だけではなく、世界各国の会員のあいだで実践されていることが報告されている。
また、直接会いに行けないので、日に3回は電話をかけ、それで励ますことが強く奨励されている。コロナ禍のもとでも、なんとか会員の絆を維持し、宗教活動を継続させようと必死なのだ。
ただ、それがどの程度効果を上げているかは分からない。
変えざるを得ない学会の選挙
創価学会の会員は、自分の選挙区ではないところで選挙が行われる際には、そこに知り合いがいれば、そこまで出かけていき、投票依頼を行う。
その際、費用は自分で負担する。創価学会の組織から金が出ているわけではない。それだけ会員たちは、組織の発展に寄与しようと懸命なのである。そこに、公明党が選挙に強い究極の原因があった。
ところが、最近の創価学会は、そうした従来の選挙活動のやり方を変えようとしている。
7月8日に信濃町の創価学会本部で開かれた方面長会議において、選挙担当の佐藤浩副会長は、選挙活動のやり方を大きく変えるという方針を発表し、その場に集まった方面長たちを驚かせた。
従来のように、直接会員が訪れて投票依頼を行ったり、電話で公明党への支持を呼びかけるのではなく、各候補者が、他の政党のように個人後援会を作り、会員をその後援会員にしていくというのである(週刊文春、8月6日号)。
創価学会、公明党は、1960年代の終わりに、自分たちの組織を批判する著作の刊行を差し止めようとして「言論出版妨害事件」を起こし、世間から強く批判された。
その際には、創価学会と公明党の政教一致の体制を改め、議員は創価学会の幹部の職をいっせいに退くこととなった。合わせて、公明党は「国民政党」への脱皮を宣言した。
これは選挙活動を創価学会の会員に全面的に依存する体制を改めるということだが、現実には、それに成功しなかった。いつの間にか、選挙活動は創価学会任せというところに立ち戻ってしまい、それが今日に至っている。
今回は、改めてそれを根本から変えようというわけである。
一時代が終わったのか、深刻な高齢化問題
なぜ急に、そんなことになってしまったのだろうか。
そこには、これまで選挙活動を中心になって担ってきた婦人部の会員が高齢化したり、亡くなりつつあることが深く関係している。
創価学会には、「四部」と呼ばれるものがある。それが、壮年男性の所属する壮年部、壮年女性の婦人部、未婚、ないし年齢の若い男性の男子部、同じく女性の女子部である。
このうち、数が多く、もっとも活動に熱心なのが婦人部の会員たちである。彼女たちは、第3代の会長だった池田大作氏を敬愛し、心酔してきた。
そうした婦人部の会員のなかには、自分で入会した「1世会員」もいれば、親から信仰を伝えられた「2世」以下の会員たちがいる。ただし、活動に熱心なのは1世会員である。
1世会員の多くは、創価学会が急速に拡大していた1950年代半ばから70年代はじめにかけて入会している。その時代のニュース映像などを見ると、会員たちが相当に若かったことが分かる。
仮に彼女たちが20歳で入会したのだとすれば、生まれは1930年代半ばから50年代のはじめということになる。今では皆、高齢者だし、後期高齢者も多い。となれば、いくら熱意があっても、活動は難しくなるし、活動意欲も衰えていく。すでに亡くなっている人たちも少なくないはずだ。
公明党の代表が、早期解散、総選挙を望まないという発言をくり返し、創価学会の幹部が、従来の選挙のやり方を根本から変えるという発言を行ったのも、これが深く関係する。従来のやり方でやろうにも、その担い手が消滅しつつあるのだ。
しかも、コロナ禍では、従来の直接訪問による投票依頼が難しい。となれば、総選挙を行ったとき、公明党の集票能力が大きく落ち込む可能性がある。
12年前に比べ集票能力20%以上減少
すでにその兆しは見えている。
21世紀なってからの総選挙の比例代表において、公明党がもっとも多くの票数を獲得したのは2005年のことで、約899万票だった。900万票に限りなく近づいたのである。
ところが、それからは次第に票は減るようになり、2017年には約698万票にまで低下した。05年に比べて、200万票以上減少したのだ。
次の総選挙では、さらに公明党の票が減少する可能性が高い。そうなれば、当選者の数も減ることになろう。
1999年に、自民党と公明党の連立が成立したとき、自民党の候補者のなかには、公明党の支援がなければ当選がおぼつかない者が少なくないと指摘された。自民党が、それまで対立していた公明党に歩み寄ったのも、創価学会の集票能力をあてにしてのことである。
しかし、もしそれがあてにならないとしたらどうなるだろうか。公明党と選挙協力を行っている自民党の議員が、肌感覚として、創価学会の集票能力に翳りが見られると感じるようになる可能性は十分にある。
これまでの創価学会なら、選挙が危ないとなれば、会員に檄を飛ばし、投票依頼に奔走するよう求めることができた。
次の総選挙では、それができない。
歴史的な結果に終わるかもしれない
都市下層に支持基盤を見出そうとする点では、公明党、創価学会は、共産党と似ている。共産党の組織も衰退が著しいが、状況によって浮動票を集める力はある。公明党にはそれがない。
公明党の歴史的大敗によって、自民党との関係がごたごたし、連立から離脱したとしても、それは驚くべきことではない。
戦後に拡大した新宗教は、軒並み大きく衰退している。創価学会は、信仰を子どもや孫に継承することに成功はしたものの、熱意までは伝えられなかった。
長年宗教団体の信者数も調査している大阪商業大学の世論調査によれば、2018年の時点で、創価学会の会員数がかなり減少している兆しが見えてきた。
創価学会、公明党にとって、次の総選挙は重大な正念場である。もしそれが連立の枠組みに影響するならば、国民全体が無関心ではいられなくなるはずだ。
島田 裕巳(宗教学者)