昨年(2020年)2月に亡くなった、名将・野村克也氏。
著者は元サンケイ・スポーツの記者で、ヤクルト時代に野村監督を担当。その縁で交流が続き、沙知代夫人が亡くなった後のおよそ1年間、野村氏の〝最後の話し相手〟となった。
ノムさん晩年の語録──
「沙知代には『オレより先に逝くなよ』と言い過ぎたのかな……」
「長嶋より先には死ねん! これまでずっと長嶋には負けたくないと思って生きてきたんだから。やっぱり最期も、長嶋より後がいい」
「銀座のクラブで一緒に飲んだとき『王に抜かれる』と思った」
「監督になるなんて、思ったこともなかった。おふくろに連絡を入れたら、“おまえ、引き受けちゃダメだよ。そんな大役、おまえにできるわけがない”って止められた。身内からも期待されていなかったんだ。大学出じゃない。派閥もない。人望もないしな」
「父親を早くに亡くしたから、どういう父親になればいいか、さっぱり分からなくて、不安やった。いつも自信がなかった。“ふつうの父親というのはこういうものだ”ということが、心でわからんのや。やってもらったことがないから。自分の中に“父親とはこうあるべき”という柱がない。克則にとっていい父親だったか、わからんな。いまでも」
「東京五輪の監督は、ワシではダメなのか?」
「克則監督の胴上げを見て、ぽっくり死にたい」
長嶋との久々の、そして最後の握手、
伊藤智仁、川崎憲次郎ら〝教え子〟との同窓会、
そして野村は、死のおよそ1年前、前妻との間の息子と克則のを引き合わせていた……。
野村克也が、他の誰にも語らなかった「本音」であり、「遺言」である――。
昨年(2020年)2月に亡くなった、名将・野村克也氏。
著者は元サンケイ・スポーツの記者で、ヤクルト時代に野村監督を担当。その縁で交流が続き、沙知代夫人が亡くなった後のおよそ1年間、野村氏の〝最後の話し相手〟となった。
ノムさん晩年の語録──
「沙知代には『オレより先に逝くなよ』と言い過ぎたのかな……」
「長嶋より先には死ねん! これまでずっと長嶋には負けたくないと思って生きてきたんだから。やっぱり最期も、長嶋より後がいい」
「銀座のクラブで一緒に飲んだとき『王に抜かれる』と思った」
「監督になるなんて、思ったこともなかった。おふくろに連絡を入れたら、“おまえ、引き受けちゃダメだよ。そんな大役、おまえにできるわけがない”って止められた。身内からも期待されていなかったんだ。大学出じゃない。派閥もない。人望もないしな」
「父親を早くに亡くしたから、どういう父親になればいいか、さっぱり分からなくて、不安やった。いつも自信がなかった。“ふつうの父親というのはこういうものだ”ということが、心でわからんのや。やってもらったことがないから。自分の中に“父親とはこうあるべき”という柱がない。克則にとっていい父親だったか、わからんな。いまでも」
「東京五輪の監督は、ワシではダメなのか?」
「克則監督の胴上げを見て、ぽっくり死にたい」
長嶋との久々の、そして最後の握手、
伊藤智仁、川崎憲次郎ら〝教え子〟との同窓会、
そして野村は、死のおよそ1年前、前妻との間の息子と克則のを引き合わせていた……。
野村克也が、他の誰にも語らなかった「本音」であり、「遺言」である――。
▼野村と20年の交流を持つ女性番記者。野村の最晩年、月一回約4時間の会食を続けてきた。そのやりとりの記録。
▼「自分には人望が無い」と呟く野村の誤解を解くために著者は奔走。かつての教え子や部下達と野村が再開する場面をセットした。感涙する野村。その場面に感動した。
▼人々の心を表す名文が多い。また野村の感情の目まぐるしい動きはドラマを見ていようだった。
▼野村は著者の配慮のおかげで数々の幸せを感じたに違いない。ノンフィクションはこんなに素晴らしいのかと思える名著だ。著者は、末永く野村克也の語り部となるであろう。
筆者の文章力も明快で情景がありありと浮かんできて、終始感情移入してしまった。一気に読み進められました。野村監督ご自身の著書は多数拝読したが、他者目線での野村監督を描写した作品は初めてであった。
新聞報道などや語り尽くされた話ではなく、まさに野村監督ご自身と長年接せられたからこそ書けるシーンが多かった。
それと同時にやはり野村監督が遺したものの多さにただただ感嘆した。
生き方、終活の参考にもなる貴重なエピソードの数々。
Reviewed in Japan on August 10, 2021
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名選手にして名監督であった野村克也氏を
長年にわたり取材してきたスポーツ記者、
飯田絵美さんの最新作。
監督時代から晩年にかけてのエピソードが沢山描かれていますが、
特に最期の1年は、著者でなければ書けない極めて貴重な内容となっています。
「ID野球」など野村監督の優れた野球理論は知られるところで、
勝利に導く数々の名言は経営者の道しるべとしても、
今なお多くの学びを与えてくれます。
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」など、時々に思い起こす金言があります。
私が30年来通っていた、建て替え前のキャピトル東急ホテルのカフェレストラン「オリガミ」の"指定席"で、
野村夫妻を何度かお見かけしたことがあります。
目が合うと沙知代夫人に睨まれたのは良い思い出です。(^^)
飯田さんは、いま現在、東京オリンピック・東京パラリンピックのメディアマネージャーとして大活躍されています。
世界のアスリートにも飯田さんの引き出し力で、
全力のパフォーマンスを発揮してもらえそうです。
むしろ野球を知らない中年女性に読んで欲しい本
2020年に亡くなった野村克也監督自身の本は何冊も読んできた。
この本はヤクルト黄金期と呼ばれた1990年代にサンケイスポーツヤクルト番記者だった著者と野球界一の理論派で苦労人である野村克也との魂の相克というような本だ。
30年という月日は文字で語れるほど短くないし、人の浮き沈みも激しい。野村克也の30年も沙知代との不倫婚で古巣・南海を追われ、選手として現役を続けるも引退。
その後は球界から「干される」がヤクルト相馬球団社長が周囲の反対を押し切り「外様」の野村を監督招聘する。
そして、ヤクルト黄金時代の栄光、若松政権禅譲での屈辱、三顧の礼による阪神監督就任、失敗と孤独そして沙知代夫人の脱税逮捕、社会人野球シダックスでの監督就任、球界再編問題から産まれた新球団「東北楽天イーグルス」テコ入れの為の監督招聘と目まぐるしく変わり続けた。そして2018年に最愛の沙知代夫人を喪う。
野村克也の晩年は筆舌に尽くしがたい「孤独」と「虚脱」だった。
もう一人の主人公たる筆者は20代から50代まで野村に接した。
記者として最初の年、監督から一年間無視され続けた。ヤクルト優勝で華やかな時期、各局の美人花形女性キャスターたちと比較され、「お前みたいなブスが」と想像を絶する暴言を吐かれた。
だが、野村の「暴言」や「無視」はその実、若い女性記者を期待を寄せる選手たち同様に「認めていた証」だった。その後知る指揮官の「孤独」。
しかし、側に居たいときに多忙で居られない、自身の精神を病む、沙知代夫人は夫との関係を疑い嫉妬し、二人を遠ざける。
やがては本当の実の親子同然の繋がりを持ち、沙知代夫人の死に憔悴する野村克也を励まそうとかつてのヤクルト番記者たちに声を掛け「同窓会」を実施する。
自身をソクラテスと対話する凡人と位置付け、老賢者と物知らずと揶揄する。
世間は野村克也が自身の名言である「人を遺すは上」を実践したものと認識している。
だが、野村克也本人は決してそう思っていなかったことを筆者は知っていた。
皮肉にも愛息たる克則も含め、野村の弟子たちは野球界に必要とされ、それぞれの職場で多忙を極め、恩師の孤独と衰えを知らなかった。
共に老い、かつてのスーパースターは介助が必要な「老兵」となっていた。
鉄腕・金田正一を偲ぶ会での長嶋茂雄との邂逅と、その長嶋よりも先に逝ってたまるかという意地。
しかし、現実は野村克也が沙知代を彷彿とさせ、同い年かつ片やベッドで、片や浴室で極めてあっさりとした最期を迎える。
コロナ渦で葬儀もままならぬが、所属6球団が合同により神宮球場において「偲ぶ会」を実施し、そこには悲願の五輪金メダルを獲得した稲葉篤紀、リーグ最下位から日本一の頂点に上り詰めた高津臣吾。
その高津とシーズン終盤まで優勝争いした矢野燿大。日ハム立て直しを任されたビッグボスこと新庄剛志といった錚々たる面々が教え子として集い、一番弟子と目される古田敦也が弔辞を読んだ。
ヤクルトOB戦で打席に立つ野村克也を支えたのは監督経験者も含めた教え子5人。
12球団の来季監督が5人。だが、それすら「遺した人のほんの一部」に過ぎない。コーチは数えきれず、アマチュア野球の指導者も数多。そして、文筆家として野村の至言により人生を豊かな者にした者も多数。
筆者はその代表として難しい野球専門用語や高度な理論でなく、誰にでも共感出来る言葉で人間野村克也について語っている。
この本は今を生きる社会人女性に対してもバイブルとなる。
特に屈辱や挫折で心折れそうなとき、自ら命を絶とうと思い詰めたとき、その実、人間として尊敬を集めた野村克也自身、入団一年目の19歳にして退路なく、自ら命を絶とうと考えた過去があった。
それを乗り越える力とはなんなのか?その事へのヒントとして本書を読んでみて頂きたい。
筆者と野村さんとの距離感アピール、みたいなのが随所で気になる。
コレは、女性特有なのだろうか、、それとも自分の見方が捻くれているのだろうか
それは、自分にはわからないけど、ちょっと「そのくだり、いらないな」と思ってしまう。
でも、内容自体は「お金出して買って、読んで良かった」と思える本で
すこし、泣けるようなところもあったり、いろいろと勉強になりました。
泣けました。
今までに野村監督の本を沢山購入しましたが、これは唯一、第三者視点から描かれた最高の本です。
あれほど成功し、多くの人に影響を及ぼし、愛されていた人が、実は本人は人から愛されていないと思っていたことに本当に驚きました。でもこの本の筆者のお陰で最後にその誤解が解かれたことにほっとしました。
惜しむらくは、この本の内容とは別に、成長過程にあった楽天の監督を続けて欲しかった。続けていればきっと多くの優勝を勝ち取れる球団になったでしょう。楽天ファンのみならず、野球ファン全員の夢をぶち壊した三木谷氏に本当にがっかりしています。
野村監督のご冥福を心よりお祈り申し上げます。