和夫は、尚子との深い交情が、大きな悩みに発展するとは思いもよらなかった。
「遊びの時の方が燃えるな」と尚子は心外なことを呟く。
浅草のホテルでのことだった。
「私が日曜日、何をしているか、あなたには、わからないでしょうね」和夫を睨み据えるような視線が謎めていた。
和夫は、それを知りたいとも思わなかったが、尚子に対して言い知れぬ魔性を感じ始めていた。
尚子は六本木や渋谷界隈で男漁りをしていたのだ。
相手は彼女の父親と同世代の50台前後の男たちで、身を委ねてから小遣いをねだっていた。
化粧も段々と濃くなってゆくのだ。
尚子が少女のようにか細く泣いた京都の宿のことが、遠い記憶のように想えてきた。
あれから1年余の歳月が流れ、二人は思い出をたどる桜のように咲くハナミズキの街路樹を散策した。
二条通、三条通、七条通、竹屋町、そして高瀬川沿いの街路沿いを行く
「私が女になった宿ね。悪い男のあなたが全部いけないの」尚子は宿の門前で2階を見上げて立ち止まり冷笑を浮かべた。
「あなたを憎んでも、逢うと波長が合ってしまうのだがら、私もいけないのよ」尚子は背後から和夫を抱きしめた。