目出度い婚礼の日に突然、宴席から花婿が居なくなり、結局は花婿の自殺が明らかになった時の、一番の悲劇の主は、花嫁の姫城鶴子であっただろう。
鶴子は姫城家の養女として育った。
姫城家には、子どが居なった。
結局、跡継ぎが欲しくて、両親の意向で父側の息子である従兄と母側の従妹を結ばせたのだ。
実は、両親も従兄と従妹の姻戚関係であった。
だが、皮肉なもので近親結婚の弊害であろうか、跡継ぎに恵まれが、息子も娘も共にろうあ者として生まれる。
次に積まれたのが双子の姉妹であり、その妹の鶴子は養女に出さる。
鶴子は捨て子なのだが、捨て子といっても、姫城家に双子で生まれた鶴子は形だけ、捨てられたに過ぎない。
初夜を迎えるはずの日に、鶴子は夫になるべき伴侶を突然、思いもかけない自殺で失う悲劇に見舞われたのだ。
だが、皮肉にも既に鶴子は牛田家の戸籍上、善兵衛の妻とったなっていた。
そのことが、大きな悲劇の始まりとなるとは、運命のいたずらというほかない。
鶴子は葬儀後に当然、実家に帰させる身であると思っていた、
だが突然、岳父の身である牛田家の当主が「牛田家の嫁は、帰せない」と言い張るのであった。
「鶴子、わしはだな、不詳の息子の償いをせねばなら身となった。お前を、絶対に傷者にばかりさせて置かないぞ!」と鶴子には到底、理解が及ばないことを言うのだ。
そして、夫と迎えるべき初夜は、あろうことか岳父によって忌まわしくも強引に犯される夜となってしまう。
参考
生き別れ、身分違いとなった双子の姉妹――川端康成『古都』
物語の主人公は、京都の由緒正しい呉服屋の美しい一人娘である佐田千重子。
両親に愛されながら育った彼女だが、彼女は実の子ではなかった。
そして自分が捨て子なのではないかと悩んでいた。秀男という青年が彼女に思いを寄せていた。
5月、千重子は自分とそっくりな娘を見かける。それからしばらく経った7月の祇園祭の夜、彼女は八坂神社でその娘を再度見つけた。苗子というその娘は千重子のことを見つめ、「あんたは姉さんや」と言う。
彼女らは互いの身の上を話した。
ふたりは双生児で、姉の千重子だけが生まれて間もなく呉服屋の前に捨てられたのだ。
しかし互いに20歳となった今、苗子は杉林で労働する娘であるのに対し、千重子は呉服屋の教養ある娘。
身分の違いを感じた苗子は、千重子のことをお嬢さんと呼んだ。