沢村峰子に若い警官が、職務質問をする。
「君は、9月8日、午後2時ごろどこに居たんだ?!」
「9月8日? よく覚えていません」警官の言動に完全に威圧された峰子は頭が真っ白となり、記憶が完全に飛んだ。
「9月8日ですか、彼女は 部活でしたよ」大野健太は即座に答えた。
「お前に聞いているんじゃないよ。黙れ!」警官は、健太を睨み据えた。
「そうでした。思い出したわ。私、部活でした」峰子は涙声になっていた。
若い警官は、何を思ったのか、「分かった、もういいよ」と職務質問を止めて立ち去って行く。
涙ぐむ峰子は如何にも、可憐な様相であったのだろう。
そして、教室の扉を静かに開けた健太は思わず息を飲む。
教室内にはセーラー服姿の女の子が居て、驚愕したように振り向く。
紛れもなく、相手は島田幸恵であったのだ。
彼女は家庭の事情から4月に夜間中学に転校していた。
幸恵は明らかに、元の学友の鞄の中をまさぐっていて、健太の突然の出現に青ざめる。
健太は、元クラスメートの幸恵の身を憐憫していた。
幸恵は沢村峰子の大の親友でもあった。
幸恵は覚悟したのだろう、床にうずくまる。
「俺は、何も見なかったことにするよ。急いで立ち去れ」健太は幸恵を促す。
幸恵は号泣しながら、教室を後にする。
参考:職務質問
犯罪を犯していると疑うに足りる理由がある場合
仮に何らかの犯罪を犯していると疑うに足りる相当な理由のある者と警察官から判断されたとしても、職務質問は、任意捜査に過ぎません。
したがって、法律の条文を素直に読めば、協力を拒否することができそうです。
しかし、刑事裁判では、「強制に至らない有形力の行使」であれば、適法と判断される傾向です。
犯罪の疑いの程度にもよりますが、歩き出すのを腕で止める行為や、ズボンのポケットを外から触れる行為などは適法とされてしまうことが多いと考えられます。
判例 東京高等裁判所昭和49年9月30日付判決
「警察官職務執行法二条一項の警察官の質問はもつぱら犯罪予防または鎮圧のために認められる任意手段であり、同条項にいう「停止させる」行為も質問のため本人を静止状態におく手段であつて、口頭で呼びかけ若しくは説得的に立ち止まることを求め或いは口頭の要求に添えて本人に注意を促す程度の有形的動作に止まるべきで、威嚇的に呼び止め或いは本人に静止を余儀なくさせるような有形的動作等の強制にわたる行為は許されない」