1か月前にその道を通り、利根川堤防へ向かった時だった。
カラオケ仲間であった秋さんの家の門は、チエーンロックによって固く閉ざされていた。
彼女の旦那さんは風呂場で急死してから、秋さんは意気消沈して、家にこもることが増えていく。
2年前に当方は、「元気ですか?」と、彼女の旦那さんが急死したことを知らずに、声をかける。
「全然、元気でない!あなたに、何がわかるの!」秋さんの口調は心外にも投げやりで、語気に棘があった。
彼女は歩道に視線を落として、深く首を垂れて、うつむいたまま行き過ぎる。
カラオケの場では、あんなに陽気で、皆の心を和ませていたのに・・・
当方は、秋さんに「何があったのだろうか?」と想ってみた。
秋さんがカラオケ大会で歌うと、旦那さんは、数人の応援仲間とともに、ぼんぼりやレイを掲げてひょうきんな姿で踊っていた。
秋さんが深く愛する旦那さんの突然の急死は、当方には想像も及ばなかった。
その秋さんが、入院前に、以前のよな満面の笑顔で「あなたは、元気なの? あなたの幸せを私は心で思っているのよ」とバス停前で当方に笑顔で声かけてきた。
「あ~あ、嬉しい!」と彼女の思いやりに心で感嘆する。
好意を寄せていた秋さんが、「以前のように、屈託がなく元気なって本当によかった」私はバスに乗り込む秋さんを笑顔で見送った。
だが、皮肉にもそんな秋さんがうつ病で入院したことを、別のカラオケ仲間から聞くことになる。