日蓮<出生>の謎を解く!
「まさにコロンブスの卵だ」
本郷和人氏(東京大学史料編纂所教授)が驚愕した日蓮研究の最前線が、これだ。
日蓮は貧しい漁民か役人の子とされる。ならば何故、幕府は一介の僧を二度も流罪にしたのか。政権が恐れたのは政治的影響力で、出生に関係する。論考は、門弟との関係を分析し、日蓮の父母に辿り着く。実は教団は将軍家に近かった。日蓮から見た鎌倉史はスリリングだ。信仰の原形も再現する。
<本郷和人氏推薦!>
なぜ、今まで気付けなかった?「日蓮の出自について」には驚愕し、納得した。「日蓮と将軍家」は解釈は分かれようが、私は大好きだ。日蓮を政治から見てみる。面白い! ――帯より――
【目次】
はじめに
Ⅰ 日蓮の出自について
はじめに
序説
日昭と日朗
両人御中御書
妙一尼
伊東一族
日蓮の居宅
日蓮の出自
母の血筋
安房の日蓮
光日尼
おわりに
追記
Ⅱ 日蓮と将軍家
はじめに
日蓮と将軍家
「上」の再考
将軍家と得宗家
時宗と日蓮
おわりに
Ⅲ 日蓮と政治
はじめに
日蓮教団の政治的立場
日蓮と門下の階層
名越家と教団の立場
二月騒動と日蓮弾圧
安達泰盛と平頼綱の抗争
日蓮仏法の政治性
題目と念仏
寺社利権と弾圧の動機
密教破折の曼陀羅
政権の公認と身延入山
熱原法難と「日蓮一門」の強調
おわりに
Ⅳ 日蓮仏法論
南無妙法蓮華経とは
内村鑑三が選んだ日蓮
南無妙法蓮華経って何?
東国武家に人気がなかった法華経
称名念仏に沸き返る鎌倉
唱題で、法華経の再興を目指す
なぜ、法華経を最上としたのか
唱題を武器に、念仏へ殴り込む
題目は、究極の秘法では?
日蓮を本尊にした曼荼羅
まず為政者に改宗を迫った
当初の目的は、念仏の停止
二度の流罪が、日蓮を変える
日蓮を本尊にした曼荼羅
念仏の次は、密教だ!
三大秘法に触れないのは、なぜ?
日蓮の目標は何だったのか
密教の祈祷をしてはならない
天台僧の日蓮が、天台宗を撃つ
祈祷がなければ仏教ではない
日蓮は国師を目指した
私の祈祷でなければ叶わない
大誓「われ日本の柱とならむ」
一二歳からの夢を追う
あとがき
史料1 「日蓮遷化記」葬送次第
史料2 日蓮遺物配分状
史料3 大仏宣時「虚御教書」
史料4 日蓮赦免状
日蓮関連略年譜
江間浩人(えま・ひろと) 1970年東京生まれ。仏教系大学卒業後、サラリーマン生活の傍ら日蓮を研究。
先哲会会員。本郷和人東京大学史料編纂所教授に師事。
所収論文の初出は「日蓮と政治」(『法然思想』Vol.4 2016)、『日蓮仏法論』は「ミステリーな日蓮」(論創社HP論創通信)を改訂。
〈なぜ、法華経を最上としたのか〉
そもそも日蓮は、なぜ法華経を絶対視するのでしょう。
仏教経典は、八万法蔵と呼ばれるほど、膨大な量におよびます。中国では、インドから伝わったこれらの経典を分析・比較し、それぞれの経典の目的を明らかにして、すべての経典の序列を体系化しようと試みます。
中国の智顗(538-597天台大師)は、それまでの研究成果を踏まえ、法華経を唯一最上の教えとして仏教全体を体系化しました。その後、この解釈は広く受け入れられ、日本でも最澄(767-822伝教大師)によって引き継がれていきます。
日蓮は、この天台と伝教の正統な継承者を自任しているのですが、ではいったい他の教え・経典と比べて法華経の何が勝れているのでしょう。日蓮は法華経の卓越性を2点、挙げています。
1点は、法華経だけが万人の成仏を説いたこと、もう1点は、法華経だけが、仏は久遠の昔からこの娑婆世界において万人の成仏を説き続けてきたと明かしたこと、です。
少し噛み砕きましょう。法華経以外の経典では、女性や小乗など、成仏できないと決定された人々がいました。法華経は教理上からも、その差別を打ち破り、万人を平等に成仏できるとしました。
本当は、人間のみならず、万物の成仏、万物の平等を説いたのですが、難解になるのでここでは踏み込みません。
さらに法華経を説く仏は、娑婆世界に繰り返し現れ、永遠に万人成仏を説き続ける存在であると明かします。
これによってインドの釈迦も、法華経を説く仏の一人に過ぎないと相対化したのです。
ですので、この説法をした仏を、釈迦と区別して「法華経の教主釈尊」と呼びます。
では、阿弥陀仏はどうでしょう。日蓮は、阿弥陀仏は娑婆世界の仏ではない、と批判します。
娑婆世界の我々を仏にしようとした師匠の教主釈尊を捨てて、異世界の仏を信仰するのは不知恩であり、法華経では地獄に堕ちると説かれていると日蓮は痛烈に批判したのです。
しかも、娑婆世界を離れ、異世界の仏を渇仰するから、浄土教の教主たちは自殺するのだ、と過去の記録をもとに弾劾しました。
日蓮の他宗批判は、法華経との比較、信仰する仏の比較、さらに過去の論文や文献 に基づく論理的なものでした。
江間浩人(2016.6.1)
この様な視点から日蓮を解釈した書籍は初めてです。
今までは、日蓮→末法の御本仏、法華経の行者という認識しかなかったですが。
信仰者からしたら、異端視される内容でもありつつ、ある意味、現実主義な日蓮ならば充分にありえる内容とも取れました。
一読をお勧めします。