イーロン・リーヴ・マスク(英語: Elon Reeve Musk, 1971年6月28日 - )は、南アフリカ共和国の起業家[4][5]である。南アフリカ共和国、カナダ、米国の国籍を持つ。
PayPal[注 1]、スペースX、テスラ[注 2]、ボーリング・カンパニー、OpenAI、xAI等を共同設立[6][7]。
スペースX、テスラのCEO、X社(旧:Twitter[8])の執行会長兼CTOを務め[9][10]、2025年1月に第47代米大統領に就任したドナルド・トランプが設置した政府効率化省(DOGE)の共同委員長を務めている[11][12]。
1998年にPayPalを創り、現在は当たり前となっている電子決済という新たな決済サービスを作り出した。また、電気自動車、宇宙開発、太陽光発電などのビジネスで成功を収め、当時没落していたそれらの業界を再興させた[13][14]。
ピーター・ティールやYouTube創業者のチャド・ハーリーなどと共にペイパルマフィアの一人としても語られる[15][16][17]。
2012年にはスペースXが国際宇宙ステーションに宇宙船を打ち上げ、テスラはEV 「モデルS」 を発売した。これによってマスクは宇宙と自動車というまったく別の業界で偉業を成し遂げ、スティーブ・ジョブズに例えられる存在になった[18]。映画アイアンマンのモデルでもある[19]。
マスクは世界で最も裕福な人物であり、2024年11月現在Forbesは純資産を3040億米ドル(約50兆円)と見積もっている[20]。
フォーブスの長者番付によると2021年時点で3200億ドル (約41兆円) の資産を有する[21]。
また、人類史上初めて資産が4000億ドル (約61兆円) を超えた人物でもある[22]。(詳細は資産を参照)
2019年にフォーブスが発表した「アメリカ合衆国で最も革新的なリーダー」ランキングではAmazon.com(アマゾン)CEOのジェフ・ベゾスと並び、第1位の評価を受けた[23]。
また、自身の弟が起業したテスラの子会社ソーラーシティの会長を務めている[24]。
来歴
生い立ち
→「マスク家」も参照
イギリス人とアメリカ人(ペンシルベニアダッチやミネソタ州出身の白人)をルーツに持つ南アフリカ人の技術者・実業家・政治家[25]の父親エロール・マスク(Errol Musk)と、モデル・栄養士の母親メイ(英語版)との間に南アフリカで生まれる[26]。
マスクが育った当時の南アフリカでは、アパルトヘイト(人種隔離政策)を推進する政府のプロパガンダが氾濫していた[27]。
マスクが暮らしたのは経済の中心地ヨハネスブルク、首都プレトリア、東部の沿岸都市ダーバンであり、彼が暮らした郊外のコミュニティは、虚報(フェイクニュース)にほぼ埋め尽くされていた[27]。
政府によるプロパガンダが氾濫するなかで白人の立場で育ったマスクにはトラウマになった過去があるとマスクの父親は語っており、マスクが求める言論の自由にはその過去の体験の影響があるとしている[27]。なお、当時父親のエロールはアパルトヘイトに反対する進歩連邦党(英語版)から選挙に出馬したこともあった[25]。
マスクが南アフリカ時代の出来事をあまり語りたがらない理由として、1988年にマスクと共にプレトリア男子高校(英語版)を卒業した同級生のテレンス・ベニーは「それ(語らないこと)自体が物語っている。
白人の子供たちは(アパルトヘイトの)厳しい現実と無縁でいられたから」としており、マスクが2年間通ったブライアンストン高校で同級生だったメラニー・チアリーは「私たちは南アフリカの白人のティーンエージャーとして、本当に何もわかっていませんでした。本当に何も。」と当時を語っている[27]。
幼少期からものづくりに興味を持ち、ロケットを使った実験を繰り返していた[28]。父親曰く「内向的で思慮深かった」 といい、集団の中に溶け込むよりも一人本を読むことを好んだ[29]。
記憶力が高く、読破した百科事典の内容を完全に記憶していたという[30]。
1日に2冊の本を読み、ファンタジー小説やSF小説を多読していた事が「世界を救う」という夢につながっているかもしれないと語っている[31]。
9歳の時に両親が離婚、マスクは弟のキンバルと共に父親のもとに身を寄せた[29]。
10歳のときにコンピュータを買い、プログラミングを独学した。
12歳のときには最初の商業ソフトウェアであるBlasterを販売する[32]。自作の対戦ゲームソフトを売り、500ドルを手にした[31]。
学生時代はいじめに遇い、階段から落とされたり、気絶するまで殴られたりした[29]。父親は厳しく、学校でも居場所がなかったことから、ひとりの世界にこもっていた[33]。
再建手術が必要になるほどのいじめを受けた直後、ブライアンストン高校からプレトリア男子高校に転校した[34]。
カナダ、アメリカ合衆国への移住
アメリカ合衆国の「やる気さえあれば何でもできる」という精神と、最新のテクノロジーへの憧れからアメリカ合衆国への移住を試みるが、資金が無かったため、そう簡単では無かった[31]。
母親はカナダのサスカチュワン州レジャイナの生まれで[26]、多くの親戚がカナダ西部に住んでいた[31]。そこでカナダ国籍を持つマスクは1989年6月にカナダに移住し、サスカチュワンのスウィフトカレントにあるいとこの小麦農場で穀物貯蔵所の清掃をしたり野菜畑で働いた。
また、ブリティッシュコロンビアの製材所でのボイラーの清掃やチェーンソーで丸木を切る過酷な労働の日々を送った[31]。
その後、オンタリオ州へ引っ越して、1989年に19歳でカナダのクイーンズ大学に入学[31]。クイーンズ大学に在学中、弟のキンバル・マスク(英語版)とともに始めた、会ってみたい実業家に電話をかけてランチに誘うという方法で、ノヴァ・スコシア銀行でインターンをする機会を得た[35]。彼はアメリカへの移住を希望した。彼は「アメリカは、すごいことを可能にする国だ」と述べている[36]。
1991年にはアメリカ合衆国のペンシルベニア大学ウォートン校へ進むための奨学金を受け、同大学で経済学と物理学の学士を取得する。
大学時代は家の家賃を稼ぐため寮でナイトクラブを開いていた[31][29][37]。彼の後の言葉によると、当時、彼は人類の進歩に貢献する分野は「インターネット」「クリーン・エネルギー」「宇宙」だと考えていた[38]。
1995年に高エネルギー物理学を学ぶためスタンフォード大学の大学院へ進学する[38]。電気自動車用のバッテリーを作るためだったが、インターネットの勃興によって方針を転換する[28]。
インターネットの世界でやっていきたいとブラウザを世界で初めて開発したネットスケープに応募したが、返事はなかった。そのため履歴書を持って本社まで足を運ぶも、恥ずかしさと恐怖のあまり人に話しかけることができず入社を断念する[28][38]。
最初の起業
1995年、マスクは大学院を休学して弟のキンバルとグレッグ・クーリの3人でZip2を設立した[39][40]。
同社は、地図や道案内、イエローページなどを備えたインターネット上のシティガイドを開発し、新聞社に売り込んだ[41]。
パロアルトにある小さなレンタルオフィス[42]で、マスクは毎晩のようにウェブサイトのコーディングに励んだ[43]。
やがてZip2は、ニューヨーク・タイムズ、シカゴ・トリビューンと契約を結んだ[44]。
兄弟はシティサーチ社との合併を断念するよう取締役会を説得した[45]が、マスクのCEO就任の試みは頓挫した[46]。
1999年2月、コンパックがZip2を現金3億700万ドルで買収し[47] [48]、マスクは7パーセントの株式で2200万ドルを受け取った[49]。
ペイパルの成功
その後1999年、マスクはオンライン金融サービスと電子メール決済の会社であるX.comを共同設立した[50]。X.comは連邦政府が保証する最初のオンライン銀行の1つであり、設立後数カ月で20万人以上の顧客が加入した[51]。
マスクは創業者でありながら、投資家から経験不足とみなされ、年末にはCEOをインテュイット社のビル・ハリスに交代した[52]。
2000年、X.comは、オンライン銀行コンフィニティ社の送金サービス「PayPal」がX.comのサービスよりも人気があったため[53]、競争を避けるためにコンフィニテイ社と合併した[54][55][56]。
その後、マスクは合併した会社のCEOとして復帰した。しかし、マスクはUnix系ソフトよりもMicrosoft系ソフトを好んでいたため、従業員の間に溝ができ、コンフィニティの創業者であるピーター・ティールが辞任することになった[57]。
2000年9月、技術的な問題が重なり、ビジネスモデルもまとまらないことから、取締役会はマスクを更迭し、ティールに交代させた[58]。ティールの下、同社は送金サービスに注力し、2001年にPayPalと改名した[59]。
2002年、ペイパルはeBayに15億ドルの株式で買収され、ペイパルの株式の11.72%を持つ筆頭株主であるマスクは1億7580万ドル(約200億円)を受け取っている[60][61]。
それから15年以上経った2017年、マスクはペイパルからX.comのドメインを個人的な思い入れから購入した[62][63]。
2022年10月5日、「Twitterの買収は万能アプリ『X』の開発を加速する」とツイート。別の投稿で「Twitterがおそらく『X』を3─5年早めるだろう[64]。ただ、私の予想が外れる可能性もある」とした[64]。
マスクはペイパル売却で得た約200億円を元手にテスラへの出資やスペースXの起業などに着手した[28]。
宇宙開発企業の立ち上げ
→詳細は「スペースX」を参照
スペースXとNASAの記者会見のようす(2020年1月撮影)
2002年に3つ目の会社として、宇宙輸送を可能にするロケットを製造開発するスペースX社を起業し、CEOならびにCTOに就任している。
マスクは巨大な再利用ロケットを建造して人々を火星に移住させ、人類を多惑星種(Multiplanetary Species)にすることを目指している[65]。多惑星種であれば地球が何らかの理由で滅亡したとしても人類は他の惑星で生き残り続けることができる。
また、BFR(現:スターシップ)を旅客用に使用して地球上を1時間以内で結ぶ高速二地点間輸送という新たな移動手段の開発も手掛けている[66][67]。
2012年、宇宙船ドラゴンは国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングし、商業宇宙船としては初の快挙を成し遂げた。マスクは、マイク・グリフィンがNASA長官として最後に行った行動の1つであるNASA賞が、同社を救ってくれたと信じている[68]。
2015年12月には人工衛星打ち上げ後、ファルコン9の第1段を再着陸させることに成功、衛星を打ち上げた後のロケットを再着陸させたのは世界初の偉業だった[69][70]。
2019年以降[71]、スペースXはファルコン9とファルコンヘビーを置き換えるための完全再利用可能な超重量級ロケット、スターシップの開発を進めている[72]。2020年、スペースXは初の有人宇宙船であるDemo-2を打ち上げ、民間企業として初めて有人宇宙船をISSにドッキングさせることに成功した[73]。
スターリンク
→詳細は「スターリンク」を参照
2015年、スペースXは衛星インターネットアクセスを提供する低地球軌道衛星のスターリンクコンステレーションの開発を開始し[74]、2018年2月に最初のプロトタイプ衛星2基が打ち上げられた。スターリンクは数万基の小型人工衛星で地球を覆うことで世界中の僻地やインターネット不通地域でのネット利用を可能にする[75]。
2022年のロシアによるウクライナ侵攻の際、マスクはスターリンク端末をウクライナに送り、インターネット接続と通信を提供し[76]、この行動はウクライナの大統領であるウォロディミル・ゼレンスキーによって賞賛された[77][78]。しかし、マスクはスターリンクでロシアの国営メディアを遮断することを拒否し、自らを「言論の自由絶対主義者」であると宣言している[79][80]。
スペースXはまた、地球低軌道における新しいミサイル防衛システムの一部として、宇宙開発庁のためにカスタム軍事衛星を設計し、打ち上げている[81]。
このシステムにより、米国は地球上のどこからでも発射される核ミサイルや極超音速兵器を感知し、照準を合わせ、潜在的に迎撃する新たな能力を獲得することになる[82]。中国とロシアはこのプログラムについて国連に懸念を表明[83]し、様々な機関がこれが世界を不安定化し、宇宙での軍拡競争の引き金になりかねないと警告している[84] [85]。
自動車業界への参入
→詳細は「テスラ (会社)」を参照
2008年のテスラ会長時代、メンローパークにて。
テスラ社は、2003年にマーティン・エバーハートとマーク・ターペニングによって創業された電気自動車(EV)開発企業で、マスクは2004年2月のシリーズAラウンドの出資を主導し、650万ドルを出資して大株主となり、会長としてテスラの取締役会に参加した[86]。2009年のエバーハードとの訴訟和解により、マスクはターペニングと他の2人とともにテスラの共同創業者に認定された[87][88]。
2019年時点で、マスクは世界の自動車メーカーで最も長く在職しているCEOである[89]。2021年、マスクはCEOの地位を維持したまま、名目上「テクノキング」に肩書きを変更した[90]。
テスラは2008年に電気スポーツカー「ロードスター」を初めて製造した。販売台数は約2,500台で、リチウムイオン電池を使用した初の量産型電気自動車であった[91]。
2012年には4ドアセダン「モデルS」の納車を開始[92]。2015年にはクロスオーバーの「モデルX」を発売[93]。2017年に量販セダン「モデル3」が発売された[94]。モデル3は、プラグイン電気自動車として世界で歴代ベストセラーとなり、2021年6月には電気自動車として初めて世界販売台数100万台を達成した[95] [96]。2020年には5車種目となるクロスオーバー「モデルY」を発売[97]。2019年には全電動のピックアップトラック「テスラ・サイバートラック」を発表した[98]。また、マスクのもと、テスラはギガファクトリーと名付けられたリチウムイオン電池の製造工場を建設している[99]。
テスラは完全自動運転車の開発も行っており、自動運転ソフトウェアのFSDや自動運転化された自家用車を使ったロボタクシー(英語版)の構想などがある[100]。
2010年の株式公開以来[101]、テスラの株価は大きく上昇し、2020年夏には最も価値のある自動車メーカーとなり[102] [103]、同年末にはS&P500に入った[104] [105]。2021年10月には、米国史上6社目となる時価総額1兆ドルに到達した[106]。
2022年、マスクはテスラが開発した人型ロボット「オプティマス」を発表した[107]。
ソーラーシティの買収
→詳細は「ソーラーシティ(英語版)」および「テスラエナジー(英語版)」を参照
マスクはテスラで持続可能な移動手段の構築に取り組んでいるが、エネルギーの生産においても持続可能性を追及しており、太陽光発電にその可能性を見出だしている。マスクは太陽を自然の核融合炉に例えて、地球に降り注ぐ太陽光を人類が利用できれば地球全体を賄うだけの持続可能なエネルギー源になると考えている[108][109]。
太陽光発電会社ソーラーシティは、マスクの従兄弟であるリンドンとピーター・リヴが2006年に設立した会社で、マスクは最初のコンセプトと資金を提供した[110]。2013年には、ソーラーシティは米国で2番目に大きな太陽光発電システムの提供会社となった[111]。2014年、マスクはソーラーシティがニューヨーク州バッファローに、米国最大の太陽光発電所の3倍の広さの生産施設を築くという構想を推進した。工場は2014年に着工し、2017年に完成した。2020年初頭までパナソニックとの合弁会社として運営された[112][113]。
2016年、テスラはソーラーシティを20億ドル超で買収し、自社のバッテリー部門と統合してテスラエナジーを設立した。この取引の発表により、テスラの株価は10%以上下落した。当時、ソーラーシティは流動性の問題に直面していた[114]。複数の株主グループが、ソーラーシティの買収はマスクの利益のためだけに行われ、テスラとその株主を犠牲にしたと主張し、マスクとテスラの取締役を相手に訴訟を起こした[115] [116]。テスラの取締役は2020年1月に訴訟を和解させ、残る被告はマスクのみとなった[117] [118]。その2年後、裁判所はマスクに有利な判決を下した[119]。
真空チューブ交通の提唱
→詳細は「ハイパーループ」を参照
2013年には真空チューブ列車のハイパーループのアイデアを提唱している。ハイパーループは減圧チューブ内を乗用ポッドが浮上して走行することで、旅客機や日本のリニアモーターカーを越える時速1223kmで移動することができ、サンフランシスコとLAを30分で結ぶことができる[120][121]。
マスクはハイパーループを自動車や航空機に次ぐ 「第5の移動手段」 と呼んだ[122]。マスク自身は開発を行ってないが、ハイパーループのアイデア自体をオープンソース化して、名乗りを上げた企業が開発を進めている[122]。
超音速eVTOLジェット機の構想
2015年10月、マスクは電動で垂直離着陸できる超音速ジェット機のアイデアがあると明かした[123]。2016年のHyperloop Pod Award Ceremonyでもこの構想について話した[124]。2010年に公開された映画「アイアンマン2」にマスクがカメオ出演した際にもこの構想に言及している[125]。
マスクは、この構想の実現について積極的な態度を見せているが、多忙のため開発に着手できずにいる[126]。
ニューラリンクの設立
→詳細は「ニューラリンク」を参照
BMI埋め込み手術ロボットとマスク
2016年、マスクは1億ドルを出資してニューロテクノロジーのベンチャー企業であるニューラリンクを共同設立した[127][128]。
ニューラリンクは、脳に埋め込む装置ブレイン・マシン・インタフェース(BMI)を作ることで、人間の脳と人工知能(AI)を統合し、機械との融合を促進することを目指している(人間拡張)。このような技術は、記憶を強化したり、デバイスがソフトウェアと通信することを可能にしたりする[129][130]。
また、アルツハイマー病や認知症、脊髄損傷などの神経疾患の治療用デバイスの開発も目指している[131]。
地下トンネル輸送
→詳細は「ボーリング・カンパニー」を参照
2017年、マスクは地下トンネルを建設するボーリング・カンパニーを設立した[132]。社が想定する地下輸送システム 「ループ」 はトンネル内を自動運転のEVが時速150マイル(時速240km)で走行することで大都市の交通渋滞を回避できるというものである[133][134]。将来的にはマスクが提唱したハイパーループとの接続も想定されている[134]。
2017年初頭、同社は規制機関との協議を開始し、スペースX社のオフィスの敷地内に幅30フィート(9.1m)、長さ50フィート(15m)、深さ15フィート(4.6m)の「テストトレンチ」の建設を開始した。全長2マイル(3.2km)足らずのロサンゼルス・トンネルは、2018年にジャーナリスト向けにデビューした。テスラ・モデルXを使用し、最適な速度以下で走行しながら、荒々しい走行をすることが報告された[135]。
2018年に発表されたシカゴと西ロサンゼルスの2つのトンネルプロジェクトは中止となった[136][137]。しかし、ラスベガス・コンベンション・センターの下にあるトンネルは、2021年初頭に完成した[138]。地元当局は、トンネルのさらなる拡張を承認している[139]。2021年、フロリダ州フォートローダーデールでのトンネル建設が承認された[140]。
Twitterの買収とXへの変更
→詳細は「Twitter (企業)」、「イーロン・マスクによるTwitterの買収」、および「X (2023年創業の企業)」を参照
TED2022でTwitter買収について話すマスク(2022年春撮影)。
マスクは2017年の段階でTwitterの買収に興味を示していた[141]。2022年4月には実際にTwitter買収提案を行い、同年10月に買収が完了した。
マスクはTwitterは社会のデジタル広場であり、合法な言論であれば民主主義の維持のために投稿の制限などを受けるべきではないとの持論を持っていた[142][143]。また、1つのアプリであらゆることが可能な 「スーパーアプリ(英語版)」 の開発に興味を示しており、Twitterをスーパーアプリ化するというのが彼の考えの1つだった[144]。
ウォール・ストリート・ジャーナル氏の報道によれば、マスクがTwitterを買収することを決めたきっかけは、トランスジェンダー女性を「今年の男だ」などと言って嫌がらせをしていたアカウントが規約違反で凍結されたことである[145]。また、先妻タルラ・ライリーは、「ウォーキズム」に歯止めをかけるためにTwitterを買収するようマスクを促したという[146]。
マスクはTwitter買収後すぐに、前任CEOのパラグ・アグラワル[147][148]を含むTwitterのトップ役員を解雇した[149]。また、月額8ドルの「ブルーチェックマーク」を導入し[150][151][152]、同社の従業員を大量にレイオフした[153][154]。
同年11月20日、2021年に永久凍結された米元大統領のドナルド・トランプのアカウントを復活させるかの趣旨で、自身のTwitter上で賛否の投票を実施[155]。24時間の投票で投票総数は1500万票を超え、トランプの復帰に賛成が51.8%、反対は48.2%となりアカウントの凍結を解除した[155][156]。
同年11月18日には2012年に米コネティカット州の小学校で起きた銃乱射事件を「でっち上げ」と主張して遺族への賠償を命じられた陰謀論者、アレックス・ジョーンズについては復活はないと宣言した[157]。トランプの凍結解除後の夜のツイートでは聖書の引用に加え、自身が経験した第1子の突然死を挙げて、「子どもの死を政治や名声の手段にするような人物は容赦しない」と書き込んだ[157]。
同年12月15日、個人情報の共有を禁止するルールに違反したとしてCNN、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストなどに所属する記者のアカウントが凍結された[158]。CNNはマスクのこの行為を批判したほか[158]、EUや国連からも非難された[159]。17日には投票によって凍結が解除された[160]。
2023年3月9日、X Holdings Corp.とX Corp.をネバダ州に登録し、同日に人工知能(AI)企業としてxAIの設立を計画していることが報じられた[161][162]。xAIは同年7月12日に設立したことを発表したが、X Corp.とxAIは別会社としている[163]。
同年4月4日、Twitterを自身が保有するX社に統合した[164]。
同年5月12日、X社のCEOを退き、同社会長兼CTOに就任することを発表した[165]。同年6月5日、後任のCEOにNBCユニバーサル広告部門責任者を務めたリンダ・ヤッカリーノが就任した[166]。マスクは2022年12月にTwitterのCEOを辞任すべきかを自身のツイート上で投票を行い、回答者の57.5%が賛成したことから、マスクは「TwitterのCEOを引き受けるほど愚かな人を見つけたらすぐにCEOを退任する。その後は、ソフトウェアとサーバーのチームの運営に専念する」と述べていた[165]。マスクはその言葉通り、同社の執行会長兼CTOに転任した[10]。
同年7月24日、サービス名としてのTwitterもXに切り替えた[167]。前述したX.comのドメインもtwitter.comへのリダイレクトに変更した[167]。マスクはXを決済サービスなどの様々な機能を搭載するスーパーアプリ化を目指すと述べた[168]。
見解・物議
→詳細は「イーロン・マスクの見解(英語版)」を参照
人工知能に対する見解、およびOpenAIへの関与
マスクは長期主義の支持者であり、未来人のニーズを強調している[169]。マスクは人工知能は人類にとって最大の脅威となるとの見解を示し[170][171]、「ターミネーターのような」AIによる大災害を警告し、政府がその安全な開発を規制すべきだと示唆した[172][173]。 2015年、マスクはスティーブン・ホーキングらと共に、自律型致死兵器の禁止を求める人工知能に関する公開書簡(英語版)の共同署名者となった[174]。
2015年12月、マスクは人類にとって安全で有益な汎用人工知能の開発を目的とした非営利の人工知能研究企業であるOpenAIを共同設立した[175]。当初同社の目的は政府や企業に対抗して超知能を民主化することであった[176]。マスクはOpenAIに10億ドルの資金提供を約束した[177]。 2023年、マスク氏は最終的にOpenAIに総額1億ドルを寄付したとツイートした。しかし、TechCrunchの調査によると、OpenAIの資金のうちマスクの貢献が明らかに特定できるのは「1500万ドルだけ」だと言う。その後マスクは約5000万ドルを寄付したと述べた[178]。
2018年、テスラがテスラ・オートパイロットを通じてAIへの関与を強めたため、マスクは将来起こり得るテスラのCEOとしての利益相反を避けるためにOpenAI取締役会を去った[179]。それ以来、OpenAIは機械学習で大幅な進歩を遂げ、GPT-3などの大規模言語モデル[180] や画像生成AIのDALL-Eなどのモデルを公開した[181]。
2023年7月12日、マスクはxAIと呼ばれる人工知能企業を立ち上げた。xAIは、ChatGPTなどの既存のサービスと競合する生成AIの開発を目的としている。同社はGoogleとOpenAIからエンジニアを採用したと言われる[182]。ネバダ州に設立されたこの会社は、10000台のGPUを購入した。マスクはスペースXとテスラの投資家から資金を得ていたと言われる[183]。
2024年2月29日、マスクはOpenAIとサム・アルトマンを提訴した。「人類に利益をもたらす人工知能の開発」という、OpenAI創設期の使命を放棄して事実上の親会社であるマイクロソフトの利益を最大化する組織に変貌したことを訴訟の理由とした[184]。
リーダーシップのあり方
マスクは、資本主義の権化とあだ名されたハワード・ヒューズやアップルのスティーブ・ジョブズなどの高名な起業家と比較され、発明家であり起業家であるという点ではトーマス・エジソンに近いと評される[185]。
マスクはマイクロマネジャーと言われることが多く、自らを「ナノマネジャー」と呼んでいる[186]。ニューヨーク・タイムズ紙は、彼のアプローチを絶対主義的と特徴づけている。マスクは正式な事業計画を立てず[187]、代わりに反復設計の方法論と失敗に対する寛容さでエンジニアリングの問題にアプローチすることを好む[188]。
また、テスラ・オートパイロットの前方レーダーを取り外すなど、顧問の勧告に反し、社員に独自の専門用語の使用を強要したり、リスクが高く、費用のかかる野心的なプロジェクトを立ち上げたりしている。また、垂直統合にこだわるあまり、ほとんどの生産を社内で行っている。その結果、スペースX社のロケットはコスト削減に成功した[188]が、テスラ社のソフトウェアでは垂直統合により使い勝手に多くの問題が発生した[189]。